これから求められるチームエンゲージメント
マーサージャパン 組織・人事変革コンサルティング シニアマネージャー 渡部 優一氏
現在、さまざまな企業で従業員のエンゲージメントを高めるような施策への取り組みが加速している。人事部という名称を改称しエンプロイーサクセスという名称を使い始め、従業員の成功を後押しするというミッションの下、いかに働きやすく働きがいのある職場にするかに尽力する事例が増えてきている。企業によっては、Great Place To Work®の調査ランキングで上位に選ばれることを一つのミッションとする組織が人事部内に置かれているケースも見聞きしている。
背景として、人材版伊藤レポートにあるように人的資本を含む無形資産が企業価値の源泉となる中、経営における人材や人材戦略の重要性がこれまで以上に増していくという認識の高まりが挙げられる。また、昨今ではジョブ型雇用の議論が活発化する中で、会社と従業員の対等な関係性を理解し従業員のエンゲージメントを高め、優秀人材に選ばれる組織に変革することがより重要になるという認識が強まってきた。
筆者は、こうした会社と従業員との間でのエンゲージメントを高めるための施策が整備され運用がなされていくと共に、その焦点は会社と従業員という大きな単位ではなくチーム単位に移っていくのではと考える。
日々の仕事は組織を形成する最小単位としての「チーム」で行われるものであり、各チームにおけるエンゲージメントが高まらないことには、せっかく会社全体として働きやすさ、働きがいを感じさせる仕組みを整えたとしても不発に終わってしまう可能性がある。
※本稿におけるチームとは、ある特定の目的を持った二人以上のメンバーが存在する単位を指す(〇〇課、〇〇係、〇〇プロジェクトチームなど)
筆者の考える、「エンゲージメントが高いチーム」とは、リーダーの指示・命令がなくともメンバーが各々の役割を主体的に果たし、あうんの呼吸で動いて、三遊間にこぼれてしまいそうなボールも自律的に拾いに行くような、チームがあたかも一つの生き物のように動けるチームを指す。
チームを預かるミドルマネジャーの方々からは、「また仕事が増えるのか~」という声が漏れ聞こえてくる気がするが、筆者からの提言は、ミドルマネジャーの方が意気込んで腕まくりをしてあれもこれもとやってしまうのは逆効果ということだ。むしろ、「何をしないか」を明確にし、実践することにチャレンジしてほしい。
1. 管理しない
サイモン・シネック氏が提唱するゴールデンサークル理論*によれば、優れたリーダーは、Why→How→Whatの順で伝えることで人を動かすといわれており、Whyから始めることが重要であると主張している。
リーダーは、何から何まで管理し自分の思い通りにメンバーを動かすことを企図するのではなく、メンバーを大人として扱い、Whyを伝えHowとWhatの部分は委ねてみてはどうだろう。メンバーが目的(Why)の範ちゅうにおいて選択肢を持ち、そこから自己選択・自己決定したという納得の上で積極的に行動する、という効果が期待できる。
2. 教えない・アドバイスしない
経験豊富で成果志向やリスク感度が高すぎる人ほど、「そういう時はこうすればいい」「それをやるとこうなるから早めに対処した方がいい」とついつい転ばぬ先の杖を渡したくなってしまうかもしれない。
短期的に成果を得るためにはやむを得ない部分もあるし、メンバーからアドバイスや教えを求めた時には応えてあげたりしても良いが、求められていない時点でのアドバイスは、メンバーが自ら試行錯誤する、あるいは体験から学ぶ機会を奪ってしまう。
一方的な指示・アドバイスに慣れてしまったメンバーはその後のさまざまな事態が起きた場合にも「どうしたらいいですか?」と他者依存の状況に陥ってしまうのではないか。リーダーは、「それで、あなたはどうしたらいいと思っているの?」と問いかけてメンバーに自分で考えることを求め続けてみてはどうだろう。
3. 1対1の関係性に終始しない
前提として、リーダーとメンバーとの間での1対1での関係性を構築しないでいい、というわけではない。まず基本になるのはリーダーとメンバーとの間での信頼関係を構築することであるが、1対1の関係に留まらずにいかにメンバーとメンバーとの間での関係構築、コミュニケーション経路を作るかということに意識を向け、リーダーが介在しなくても動き出す状態を作ることが求められる。
リーダーは、メンバーが相互理解を深め特長を知り補完関係を見出せるような仕掛けや場づくりを行うことで、自律的な協働が生まれることに力を注いでみてはどうだろう。
マーサーの調査並びにギャラップ社の調査でも、エンゲージメントの高い組織はパフォーマンスも高いという相関結果**が出ている。組織の最小単位であるチームにおけるエンゲージメントを高めることはチームリーダーの責務であるが、そのプレッシャーから自分一人でどうにかしなければいけない、と気負う必要はない。
リーダーは、「一人で必死に頑張る」ことを手放し、メンバーの可能性や能力を信頼してメンバーを「開放・支援・促進」することでエンゲージメントを高めることができれば、結果的に最高のパフォーマンスを発揮するチームを生み出すことができるだろう。
**出典: 2020年 マーサーグローバル人材動向調査、米ギャラップ社従業員エンゲージメント調査結果
組織・人事、福利厚生、年金、資産運用分野でサービスを提供するグローバル・コンサルティング・ファーム。全世界約25,000名のスタッフが130ヵ国以上にわたるクライアント企業に対し総合的なソリューションを展開している。
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