なぜテレワークは日本で普及しなかったのか?
-経済、働き方、消費への影響と今後の課題
ニッセイ基礎研究所 生活研究部
主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金明中氏
1――テレワークや在宅勤務の現状
新型コロナウイルスの感染拡大防止のために政府により緊急事態宣言が発令されて以降日本企業にテレワークが少しずつ導入されはじめている。新型コロナウイルスが発生する前にも政府によりテレワークの実施は推奨されたものの、実施率は低い水準に止まっていた。
テレワークは「離れた場所」という意味の「tele」と働くという意味の「work」を組み合わせた言葉で、総務省は「ICTを活用した時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方」として定義している。日本ではテレワークと在宅勤務がほぼ同じ意味で使われているものの、厳密に区分すると在宅勤務はテレワークの一つだと言える。つまり、テレワークは、在宅勤務、サテライトオフィス勤務、モバイルワークに区分することができる。
総務省の調査結果によると、日本企業におけるテレワークの導入率は2017年の13.9%から2018年には19.1%へと5.2ポイントも上昇した。また、パーソル総合研究所の調査結果によると、正社員のテレワーク実施率は2020年3月の13.2%から、最初の緊急事態宣言(2020年4~5月)を発令した4月以降は27.9%へと2倍以上も上昇した。一方、楽天インサイト株式会社の調査では、回答者の34.3%が「勤務先で在宅勤務の制度が導入されている」と答えた。
しかしながら、新型コロナウイルスが長期化するとともにテレワークの実施率は減少傾向にある。ニッセイ景況アンケート(2020年調査)によると、2020年9月から10月の間にテレワークを実施している企業の割合は25.3%に止まっていた。また、日本生産性本部の調査(調査期間:2021年1月12日~13日)ではテレワークの実施率が22.0%まで低下したことがわかった。
また、ニッセイ景況アンケート(2020年調査)によると、テレワークの実施率は地域別に大きな差があることが明らかになった。特に、東京のテレワーク実施率は62.3%で最も高く、実施率が最も低い鹿児島の2.6%を大きく上回った。クロス集計の分析結果などによるとテレワークの実施率が高い地域は大企業の割合が高く、売上が増加している企業が多かった。また、テレワークの実施率が高い情報サービス業の割合が相対的に高いと結果が得られた。
2――なぜ今までテレワークは普及しなかったのか?
上述したように、日本のテレワーク実施率は、過去に比べて上昇しているものの、いぜんとして多くの労働者がオフィス勤務を中心に業務を進めている状況である。欧米と比較して、なぜ日本のテレワーク普及率は今まで低かったのだろうか? その理由について考えてみた。
1)メンバーシップ型雇用が主流
まず、欧米諸国ではジョブ型の雇用制度を実施している会社が多いことに比べて、日本の場合はメンバーシップ型の雇用制度を実施している会社が多く、会社に対する帰属意識が欧米諸国に比べて強い点が挙げられる。ジョブ型雇用が職務を明確にした上で最適な人材を配置することに対して、メンバーシップ型雇用は職務を限定せず広く人材を採用し、OJTや社内研修で教育を行い、職務に必要な知識と経験を積ませるのが特徴である。つまり、ある特定の職務が担当できる人を採用するのではなく、採用した後に職場内の多様な職務を担当させる。入社と同時に組織のメンバーとして扱われ、担当していた業務がなくなっても配置転換され、定年まで雇用が保証される。その代わりにサービス残業の発生問題や、転勤や配置転換などの業務命令に従わざるを得ないケースが多い。また、業務を一人で担当せず、チームなどのグループで担当するため、メンバー同士の頻繁なコミュニケーションを必要とする。
2)ハンコや紙書類中心の企業文化の残存
二つ目の理由として、ハンコ(印鑑)文化と紙書類中心の企業文化が強く残っていることが挙げられる。緊急事態宣言以降、不要不急の外出自制が要求され、多くの企業がテレワークを実施していたにも関わらず、FAXや紙の契約書類などに押印をするために出社する人が一定数いたことがマスコミの報道で明らかになった。自宅のパソコンで作業をしても最終的には紙に印刷をし、上司のハンコをもらって契約先などに送付しないと業務が完結しないため、出社するケースが多かったそうだ。また、取引先などから送られてきた郵送物を確認するために出社している人もいる。
一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)の調査によると、電子契約を採用している企業の割合(「複数の部門、取引先との間で電子契約を採用している(N対N型)」と「一部の取引先との間で電子契約を採用している(1対N型)」の合計)は、2017年から2019年にかけて、42.4%から44.2%へと少し上昇したものの、大きな変化はみられないのが現状である。
特に、大企業に比べて業務の電子化作業が遅れている中小企業の場合は、紙書類に押印をして決済をすることが多い。PDF変換ソフトのアクロバットリーダーで知られているアドビシステムズが、2019年9月に従業員数300人以下の企業を対象に、一般的な契約書の署名方法を聞いたところ、回答者の89.8%が「紙の書類にペン等で署名する」と回答した。電子サインソリューションを使用しているという回答は3.9%にとどまり、中小企業における電子サインソリューションの普及はこれからという結果となった。
また、会計ソフトを開発・提供する「freee株式会社」が、2020年4月に1~300名規模のスモールビジネス従事者1146人に対して実施したアンケート調査によると、テレワーク中でも出社が必要な主な理由として、「取引先から送られてくる書類の確認・整理作業」(38.3%)、「請求書など取引先関係の書類の郵送業務」(22.5%)、「契約書の押印作業」(22.2%)などが挙げられており、ハンコや紙書類文化の残存が原因で多くの人が出社していたことがわかる。
3)セキュリティに対する不安と財政負担の増加
三つ目の理由は、セキュリティへの不安や、システムの構築および装備の導入に伴うコストの増加とそれに対する財政負担が大きいことである。テレワークでは、会社以外に労働者の自宅やサテライトオフィスなどで業務を行うため、セキュリティ対策が必須である。しかしながら、セキュリティを強化するためには、システムを補完する必要がある。さらに、オフィス以外の場所での勤務を可能にするためには、レンタル用のノートパソコンや無線wifiを提供したり、サテライトオフィスやシェアオフィスを用意する必要があり、そのためには企業の財政的な負担が増加することになる。
第一生命経済研究所は2020年4月、在宅勤務を導入する企業の負担額が年間1兆3千億円に上るという推計結果を発表した。在宅での遠隔会議の初期費用は、1社平均で年間490万円に至る。政府や自治体からの助成制度があったとは言え、中小企業にとっては大きな負担であることに違いない。
4)設備や機器の不足
四つ目の理由は、テレワークを実施するための設備や機器が不足している点である。政府が緊急事態宣言を発令して以降、多くの企業が一度にテレワークを実施または拡大しようとした結果、供給が需要の伸びに追いつかずボトルネックが発生している。需要が急増することにより、通信を暗号化して情報の漏洩を防止するVPN(仮想専用線)の増設作業が間に合っていない。その主な理由としては、テレワークで使用する専用機器の供給が需要に追いついていないこと、ネットワーク技術者が不足していること、コンピュータの需要が供給を大きく上回っていることなどが挙げられる。
5)テレワークに適していない業務の存在
五つ目の理由は、テレワークに適していない業務が存在していることである。テレワークは、女性と高齢者、そして障がいを抱えている労働者の継続雇用を可能にするとともに、生産性の向上、企業のイメージ向上、オフィス関連支出の削減、ワーク・ライフ・バランスの実現、感染症リスクの回避など、多くのメリットがあるものの、すべての業務に適しているわけではない。特に、設備及び機械を必要とする製造業や、現場での作業が多い建設業、高齢者介護施設や医療施設、運送業、サービス業などの場合は、テレワークを実施することがなかなか難しい。総務省の調査によると、2019年時点でのテレワークを導入していない最大の理由は、「テレワークに適した業務がないから」が71.3%で、2番目の「情報漏洩が心配だから」の22.3%を大きく上回った。
3――テレワークで変わる経済、働き方、消費
新型コロナウイルスとの闘いが長期化するなかで、政府は、労使団体や業種別事業主団体などの経済団体に対し、「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」に基づき、まん延防止のために外出の自粛、イベントなどの開催制限、施設の使用制限とともにテレワークや時差出勤などの実施を要求した。
では、テレワークの普及は経済にどのような影響を与えるのだろうか。日本におけるテレワークの経済効果に対する分析は、主に通勤時間の削減に注目して行われている。第一経済研究所は2018年の報告書で、東京に約262万人が通勤することによる機会損失※1は、8.6兆円に達するとの分析結果を発表した。また、262万人の中で、テレワークを利用する人が増えていくと、その分機会損失は減少し、経済にプラスの効果を与えることや、テレワークにより通勤などが減って自宅で仕事ができるようになると、少子化に歯止めをかける効果が期待できることを提案した。
みずほ総合研究所は、2018年の調査で、テレワークをすることで通勤時間を削減すれば、GDPを約4,300億円押し上げる効果があると推計した。また、女性や高齢者が労働市場に参加し、個人とチームの生産性が向上すれば、経済効果はさらに大きくなる可能性があると分析した。
実際に、テレワークの普及は、現在日本が直面している労働力不足の問題を解消するのに効果があると考えられる。日本における15~64 歳の生産年齢人口の減少は著しく、2019 年 10 月1 日現在の生産年齢人口は7507万2千人で、前年に比べ37万9千人も減少した。生産年齢人口が全人口に占める割合は 59.5%と、ピーク時の 1993 年の69.8%以降、一貫して低下しており、今後もさらに低下することが予想されている。
今後、テレワークが普及し、ワーク・ライフ・バランスが実現しやすくなると、今まで、家事や育児、そして介護が原因で労働市場に参加することを躊躇していたり、パートやアルバイトなどの短時間労働者として労働市場に参加していた女性が、より積極的に労働市場に参加できるようになるだろう。また、テレワークの普及は、高齢者がより長く労働市場に滞在することも可能にし、女性の労働供給とともに労働力不足解決にプラスの影響を与えると考えられる。
一方、テレワークの普及は、年功序列や終身雇用を前提としていた日本の「メンバーシップ型雇用」を、個人の仕事と責任の範囲が明確になる「ジョブ型雇用」に変える要因にもなりえる。そうなると、現在、政府が働き方改革の一環として実施している「同一労働同一賃金」がより実現しやすくなり、非正規労働者の処遇水準は今より改善されると予想される。
但し、一部の企業では処遇水準が改善された非正規労働者を雇用する代わりに、人件費の負担が少ないフリーランスやギグワーカー(gig worker)、そして外部委託を増やす可能性もあろう。また、新型コロナウイルスを機に書類の電子化が進むこともそういった業務の外注化を促進する要因になると考えられる。
ここで、ギグワーカーとは、クラウドワーカーとも呼ばれ、インターネットのプラットフォームを通じて単発の仕事を請け負う人である。彼らの場合は、労働基準法などが適用されず法的に保護されていない。そのため、彼らをこのまま放置しておくと、新しいワーキングプアが生まれ、貧困や格差がより拡大する恐れがある。テレワークの普及がもたらすプラスの面だけではなく、マイナスの面も考慮し今後の対策を推進していく必要がある。
新型コロナウイルスの影響による景気の低迷とテレワークの普及は消費者の消費行動にも影響を与えた。総務省が2021年5月11日に発表した、2020年度の2人以上世帯帯(平均世帯人員2.95人,世帯主の平均年齢59.7歳)に対する家計調査によると、1世帯当たりの月平均消費支出は27万6167円で、物価変動を除く実質で前年度に比べて4.9%減少したことが明らかになった。
テレワークが現在より普及すると、家で過ごす時間が長くなることにより、ネットショッピングを中心とする非対面の消費行動が普遍化するだろう。通勤のために必要なスーツや化粧品、バックや靴などの消費は減少し、関連市場は縮小される可能性が高い。一方、自宅でより楽に仕事をしたり過ごすための消費は増え、外食よりはフード デリバリーや中食、そして内食の割合が増加すると予想される。また、しばらくの間は、リスクのある映画館に行くより、NetflixやU-NEXTのようなサブスクリプションを利用して映画などを鑑賞しようとする傾向が強くなると考えられる。
さらに、テレワークの普及は、企業に対して、都心に集中しているオフィスなどの需要を減らす代わりに、従業員の住まいに近い郊外のオフィスの需要を増やす選択肢を提供した。企業は、地代や賃貸料が高い都心のオフィスを売却・縮小し、都心から離れた郊外にサテライトオフィスを設けたり、シェアオフィスを借りることで経費を節約することができる上に、従業員の利便性を高めることができる。実際、このような動きは海外の企業を中心に広がっている。カナダのウォータールーに本社を置いているITプロバイダーのオープンテキストは、2020年4月に、世界に120あるオフィスの半分以上を再開しないことを決めた。日本でも、東京千代田区に本社があるベンチャー企業「エネチェンジ」が、テレワークの実施により従業員の業務効率が上がったと判断し、2020年5月にオフィスの一部を解約すると発表した。また、人材派遣大手のパソナグループも、2020年9月から段階的に東京にある本社機能の一部を兵庫県の淡路島に移している。今後、コロナでテレワークが定着すれば地方移転にも弾みがつく可能性がある。
4――今後の課題
現在、日本では、新型コロナウイルスという誰も予想しなかったウイルスの感染拡大の影響で、テレワークが急速に普及している。テレワークの普及は、日本政府が推進している働き方改革を推進するためにも望ましいことである。但し、今後テレワークをより普及させるためには、解決すべき課題も多い。その主な内容は次の通りである。
1)業務の電子化の推進
ハンコや紙書類中心の業務を電子化する必要があるが、その牽引役は行政機関が担当すべきである。行政機関の電子化が進むと、行政機関へ出向くための移動時間や待ち時間を節約でき、24時間365日いつでも申請や届出ができるので、企業の生産性向上につながる。また、行政機関の業務の電子化は民間企業側の業務の電子化も求めることとなり、これを契機として民間企業の業務の電子化も加速していくであろう。
政府と経団連、経済同友会、日本商工会議所、IT(情報技術)やサービス業で構成する新経済連盟は、2020年7月8日に内閣府で開かれた会合で、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために、今後、書面、押印、対面作業の削減を目指していくことを主な内容とする共同宣言を発表した。政府は、各省庁が行政手続きのデジタル化が実現できるように、制度の見直しを検討しながら法令の改正などを行う方針である。民間企業に対してもテレワーク推進などの観点から、押印の廃止や書面の電子化を推進する。
2)通信環境を改善するためのインフラの整備と社員の出費増加に対する支援制度の拡充
会社で勤務することと同じ成果が出せるように、VPNの増設や通信ソフトウェアの購入・更新など、通信環境を改善するためのインフラ整備を急ぐことが望ましい。また、テレワークへの移行で発生する社員の出費、例えば、携帯電話やWi-Fiの利用料、光熱費の増加、モニターやウェブカメラなどパソコンの周辺機器と椅子などの購入費などを企業が支援することを考える必要がある。
株式会社アイ・グリッド・ソリューションズが2020年5月に実施した調査によると、テレワークを始めた人の2020年3月15日から30日間の電気使用量は、前年同期比で平均36%(料金に換算すると1700円)増加したことが明らかになった。政府による緊急事態宣言により、半強制的にテレワークを実施した現時点で社員の出費を負担する企業はまだ少ないものの、今後、テレワークが継続的な勤務形態として定着して、オフィスにおける勤務と同じ成果を求められると、テレワークにより発生する社員の経済的負担の一部を企業が負担せざるを得ないかも知れない。
加えて、自宅で仕事をする期間が子供の休暇期間と重なって仕事に集中することができない点などを考慮して、サテライトオフィスやシェアオフィスを提供するなど、オフィスでの勤務と同じ成果が出せるように多様なサポートをする必要もある。
3)セキュリティ対策の徹底と、人を信じる企業風土の構築
テレワークの最も大きな問題点として挙げられているのが、情報漏洩のリスクである。企業としては、機密情報が漏洩しないようにセキュリティ対策を徹底すると共に、会社と社員の信頼関係の崩壊により情報漏洩が発生しないように、何よりも人を大事にする経営方針や企業風土を構築・維持することが重要である。
4)評価システムの整備と評価者に対する教育の徹底
テレワークは、対面でのコミュニケーションの量が減り業務プロセスが見えにくいので、評価が難しいという問題を抱えている。欧米の会社は、職務給を基本にしているので、働く場所に関係なく職務に対する成果を評価すればいいが、日本の場合はそれが難しい。さらに、テレワークに対する評価基準もない会社が多く、その結果、テレワークを実施したことが評価に不利に作用するケースも少なくない。今後テレワークが普及し、より多くの人がテレワークを行うことを考慮すると、テレワークに対する評価基準を設けることが重要である。また、評価を行う評価者が客観的な基準により公正な評価ができるように、評価基準を理解・熟知させるための教育も行わなければならない。
5)長時間労働防止対策の実施
長時間労働を防止するための対策を講じることも重要である。テレワークの最も大きな問題の一つが長時間勤務につながりやすいことである。自分は家でさぼっていないことを証明することを、また会社にいた時と同じ成果を出すことを意識しすぎると、長時間労働や深夜労働を頻繁に行うことになる。そのまま放置すると過労死などの問題につながる恐れがある。
従って、会社としては、働いている状況を可視化するための工夫が必要である。一部の会社では、始業時間と終業時間をメールで上司に報告する、クラウド型の勤怠管理サービスを利用して打刻時間を把握する、メールやメッセージの送信時間を制限するなどの対策を実施しているものの、「隠れ残業」まで把握することは不可能である。時間の使い方に対する社内教育を、管理者及び従業員の双方に徹底するなど、無意識のコンプライアンス違反を防止するための対策を綿密に行う必要がある。
6)中小企業に対する支援拡大や雇用形態による働き方の格差の解消
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、テレワークや在宅勤務制度を実施しようとする企業が増加しているものの、大企業に比べて情報共有ツールや通信機器が整備されず、他のオフィスや施設を利用することが難しい中小企業にとって、テレワークは「高嶺の花」である可能性が高い。厚生労働省や自治体の助成金を使えば、初期投資を大幅に抑えられるものの、助成金が提供されてもなかなか手が届かない中小企業が多いのが現状である。
さらに、正規労働者に比べて、パートやアルバイトのような非正規労働者のテレワークの利用率は低く、雇用形態による働き方の格差も発生している。大企業と中小企業の間に、また、正規労働者と非正規労働者の間に、働き方の格差という新たな格差が生まれないように、慎重な議論と対策を考える必要があろう。
損害保険ジャパンが2020年6月初に全国の20歳以上の男女を対象に実施したアンケート調査によると、在宅勤務を実施した人の約7割弱が、今後の働き方を変えたいと回答した(在宅勤務を積極的に活用する(40.9%)、時差出勤する(26.6%))。日立製作所は、2020年4月から在宅勤務を標準的な働き方にした。同社は2020年6月から全従業員に対して、在宅勤務に必要な費用や出社する場合のマスク・消毒液など感染予防対策に必要な費用に対する補助として、1人当たり月3,000円支給している。
テレワークの実施は、感染拡大防止のための半強制的な措置ではあったが、結果的には、テレワークに関する企業や労働者の意識を大きく変えたといえるだろう。労働者は、通勤時間を節約し、家族と過ごす時間を増やしたり、自己学習の時間を充実させることができたので、テレワークに対する満足度が上昇した。このような満足は、実際にテレワークを実施して、初めて経験できたのであるだろう。テレワークの実施が、労働者の生産性向上につながるとともに企業の利益を増加させ、また、女性や高齢者の労働市場参加へのインセンティブになり、労働力不足問題を解消させるとするならば、企業は従来の働き方に拘る理由はないと考えられる。これからは、テレワークがニューノーマルになる可能性が高い。テレワークの普及により、経済、働き方、消費がどのように変わるのか今後の動向に注目したい※2。
※1 「機会損失」とは、ある取引きにおいて、もっとも儲けの出る選択をしなかったために、得ることのできなかった利益、つまり「儲けそこなった利益」のこと。
※2 金 明中「徹底解説 テレワーク導入率が上昇基調の日本 ワーク・ライフ・バランス向上に期待も働き方改革を交えた対策が必須に」『ファンドマーケティング』2020年7月号を一部引用。
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参考文献
- 株式会社アイ・グリッド・ソリューションズ(2020)「新型コロナ対策によるテレワークと電気代の関係性に関する調査」2020年5月15日
- 金 明中(2020)「新型コロナウイルスで働き方の格差が広がる?-テレワークの導入可否がポイントか-」研究員の眼、2020年3月13日
- 金 明中(2020)「徹底解説 テレワーク導入率が上昇基調の日本 ワーク・ライフ・バランス向上に期待も働き方改革を交えた対策が必須に」『ファンドマーケティング』2020年7月号
- 金 明中・藤原 光汰(2020)「ニッセイ景況アンケート調査結果-2020年度調査」
- 損保ジャパン(2020)「働き方に関する意識調査」2020年6月5日
- 総務省(2018)『情報通信白書平成30年版』
- 総務省(2020)「令和元年通信利用動向調査」
- 総務省(2021)「家計調査報告-2021年(令和3年)3月分及び1~3月期平均-」2021年5月11日
- 第一生命経済研究所(2018)「テレワークの経済効果~通勤時間の損失を減らせ~」2018年4月26日
- 第一生命経済研究所(2020)「テーマ:テレワークのマクロインパクト」2020年4月27日
- 内閣府「令和2年5月実施調査結果」2020年5月29日
- 日本生産性本部(2021)「第4回 働く人の意識に関する調査」
- パーソル総合研究所(2020)「新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査:第二回調査」
- freee(2020)「テレワークに関するアンケート調査」2020年4月13日
- みずほ総合研究所(2018)「テレワークの経済効果:普及のカギは業務の見える化とテレワークの権利化」
- 楽天インサイト株式会社(2020)「在宅勤務に関する調査(2020年4月30日)」
ニッセイ基礎研究所は、年金・介護等の社会保障、ヘルスケア、ジェロントロジー、国内外の経済・金融問題等を、中立公正な立場で基礎的かつ問題解決型の調査・研究を実施しているシンクタンクです。現在をとりまく問題を解明し、未来のあるべき姿を探求しています。
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