労使および専門家の計425人に聞く2021年賃上げの見通し
~定昇込みで5524円・1.73%と予測。8年ぶりに2%を下回る~
民間調査機関の労務行政研究所(理事長:猪股 宏)では、1974年から毎年、来る賃金交渉の動向を把握するための参考資料として、労・使の当事者および労働経済分野の専門家を対象に、「賃上げ等に関するアンケート調査」を実施している。このほど、2021年の調査結果がまとまった。
(1)2021年の賃上げ見通し(東証1部・2部上場クラス)
全答者425人の平均で「5524円・1.73%」(定期昇給分を含む)となった。賃上げ率は13年以来、8年ぶりに2を下回るとの予測となっている。労使別に見た平均値は、労働側5789円・1.82%、経営側5476円・1.72%で、両者の見通しにやや開きが生じている。
(2)自社における2021年定昇・ベアの実施
21年の定期昇給(定昇については、労使とも「実施すべき」「実施する予定」が8割台と大半である。ベースアップ(ベアについて、労働側は「実施すべきではない(実施は難しい)」が46.9%と、「実施すべき」の41.7%を上回る。経営側は「実施しない予定」が61.9%と6割超で、「実施する予定」は4.8%にとどまる。また、調査回答時点では「検討中」が27.6%と3割弱を占めた。
1.2021年の賃上げ見通し(東証1部・2部上場クラス)
回答・集計に関する留意点
- 賃上げ額・率は東証1部・2部上場クラスの一般的な水準を目安に回答いただいたもので、定期昇給込みのものである
- 賃上げ率は小数第1位まで回答いただき、平均値の算出は小数第2位までとしている
-
賃上げ額・率を回答する際の目安として、調査票上に以下のデータを示している
(1)厚生労働省調査による主要企業の20年賃上げ実績は6286円・2.00%
(2)上記から推測される大企業の賃上げ前ベースは32万1000円程度
(3)定期昇給のみの場合は1.8%(5780円)程度
額・率の見通し[図表1]
21年の賃上げ見通しは、全回答者の平均で5524円・1.73%となった[図表1]。厚生労働省調査における主要企業の20年賃上げ実績(6286円・2.00から、762円・0.27ポイントのマイナスとなった。
推移を見ると、いわゆる“官製春闘”が始まる前の13年以来、8年ぶりに2%を下回るとの予測である(<調査結果のポイント>参照)。
賃上げ率の分布は、労使とも「1.8~1.9%」(労働側25.6%、経営側29.5%)と「2.0~2.1%」(労働側27.0%、経営側22.9%)に集中している。
労使別の額・率の平均は、労働側が5789円・1.82%、経営側が5476円・1.72%。労使の見通しの差を見ると、労働側が経営側を313円・0.10ポイント上回っている。
2.自社における2021年の定昇・ベアの実施
定昇の実施[図表2]
労働側と経営側の回答者に対し、自社における賃金制度上の定期昇給(定昇。賃金カーブ維持分を含む)およびベースアップ(ベア。賃金改善分を含む)の21年の実施について、意向・検討状況を尋ねた[図表2]。なお、労働側・経営側の回答者は、それぞれ異なる企業に属しているケースが多い点に留意いただきたい。
21年の定昇については、労働側で86.7%が「実施すべき」、経営側で84.8%が「実施する予定」と回答。経営側の「実施しない予定」は1.9%にとどまった。参考として、「もともと(定昇)制度がない」と「無回答」を除外して集計すると、経営側の「実施する予定」は92.7%に上る。
このように、実質的な賃金制度維持分に当たる定昇については、労使とも大半が実施に前向きな意向を示している。
ベアの実施[図表2~3]
21年のベアに関して、労働側では「実施すべきではない(実施は難しい)」が46.9%で最も多く、「実施すべき」の41.7%を上回った[図表2]。経営側では「実施しない予定」が61.9%で、「実施する予定」は4.8%にとどまる。なお、「検討中」は27.6%となった。
各年において、ベアを「実施すべき」(労働側)、「実施する予定」(経営側)と回答した割合の推移を[図表3]に示している。
経営側を見ると、11年以降、低迷する経済・経営環境から、ベアの実施に否定的な傾向が続いていたが、14年は16.1%、15年には35.7%と「実施する予定」の割合が増加。16年以降は2030%台で推移していたが、20年は「実施する予定」が16.9%と2割を下回り、21年は4.8%と、さらに低下している。
なお、20年調査から経営側の設問項目に「検討中」を追加しており、19年以前とは回答傾向が異なる可能性があるため、比較の際は留意いただきたい。
ベアの20年実績と21年の予定(経営側)[図表4]
経営側 について、自社におけるベアの“20年の実績”と“21年の予定”を示したのが[図表4]である。20年の実績を見ると、「実施しなかった」が63.8%と、「実施した」の29.5%を34.3ポイント上回っている。
20年の実績と21年の予定を併せて見ると、両年とも“実施しない”が51.4と半数を占め、両年とも“実施”は3.8にとどまっている。
3.2021年夏季賞与・一時金の見通し
20年夏季からの増加・減少の傾向[図表5]
21年の夏季賞与・一時金は、コロナ禍による企業業績の変動が本格的に影響し始めると予想される。そこで、労働側と経営側には自社における見通しを、専門家には世間水準の見通しを、それぞれ「20年夏季の水準との比較」で尋ねた[図表5]。
労働側では、“同程度”が50.6%で過半数に達したが、“減少する”も41.3%と4割を超える。経営側では、“同程度”が60.4%と6割超、“減少する”が33.8%と約3割である(労働側と経営側で集計対象は異なる)。なお、専門家は“減少する”が62.1%と最も多い。
20年夏季と比べた増減率[図表6]
自社の21年夏季賞与・一時金について、労働側・経営側で「増加する」または「減少する」と回答した場合に、20年夏季と比較した際の増減率(対前年同期比)の予想を尋ねた[図表6]。
労働側で「減少する」と回答した人の減少率(集計対象86人)は、「10~20%未満」が37.2%と最も多く、「5~10%未満」が17.4%で続く。
経営側の減少率(同36人)も、「10~20%未満」が25.0%で最も多く、「5~10%未満」が22.2%で続く。
1. 調査時期:2020年12月1日~2021年1月18日
2. 調査対象:調査対象8549人。内訳は下記のとおり。
(1)労働側
東証1部および2部上場企業の労働組合委員長等2026人(労働組合がない企業は除く)
(2)経営側
全国証券市場の上場企業と上場企業に匹敵する非上場企業の人事・労務担当部長4950人
(3)労働経済分野の専門家
主要報道機関の論説委員・解説委員、大学教授、労働経済関係の専門家、コンサルタン
トなど1573人
3.回答者数および集計対象
労働側211人、経営側105人、専門家109人の合計425人。ただし、3.については、労働側249人、経営側139人、専門家125人の合計513人。
※本調査の詳細は、当研究所編集の『労政時報』第4008号(2021年2月12日発行)に掲載されています。
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