若手の“適応”と“進化”。
「コロナショック」をデータで見る
リクルートワークス研究所 古屋星斗氏
新型コロナウイルスの影響により、経済社会のあり方が世界規模で変わろうとしているが、さしあたって私たちの身の回りでは、仕事の仕方の変化が進んでいる。オンライン・ミーティングやリモートワークをメインに仕事を行っている人も多くいるだろう。
人々の「働く」に大きな変化が表れ始めている現在。こうした変化が社会人にどのような影響を与えているのか。
筆者は特に、この中で若手社会人への影響の大きさを感じている。就業年数が少ない、在社年数が短いこともあり、仕事観・会社観が新しく作り替えられるような気持ちを話す若手も多い。
こういった状況を検証するべく、リクルートワークス研究所と大学等研究者の有志グループが実施した最新の調査がある(「新型コロナウイルス感染症の流行への対応が、就労者の心理・行動に与える影響」(※1)、2020年4月実施。サンプルサイズ4363)。
今回はこの調査データを用いることで、若手社会人(本稿では20~29歳の社会人を指す)におけるコロナショックの現段階での影響を検証しよう(※2)。
職場との関わり―適応する若手社会人
コロナショックによる急激な変化の中で、まず若手について初めに触れる必要があるのが、若手の中である種の「適応」が進展していることである。
その「適応」は、会社の中で起こっているものと、会社の外で起こっているものがある。順に見ていこう。まずは会社の中について、勤務先のメンバーとの関わりの変化について聴取した質問の回答を、図表1にまとめた。
図表1では、特に年齢が若い世代になればなるほど、職場でのコミュニケーションについてポジティブな変化があったことがわかる。
例えば、「業務を遂行する上での助言」については20~29歳(以下、20歳台)では31.0%が「増えた」と答え、20.9%が「減った」と答えている。なお、他の年齢層では、50~59歳では「増えた」は16.6%、「減った」は25.4%である。
プライベートの相談についても同様の傾向があり、20歳台では「増えた」が20.1%、「減った」は31.4%、この「増えた」者の割合は他のどの世代よりも高く、「減った」はどの世代よりも低い。
この傾向を見れば、シンプルに、「年齢が若くなるほど、コロナショックで職場との関わりが活発化しやすい」と理解することが可能だろう。
急激な職場環境の変化に対して若手が「適応」しようとしている像が浮かび上がっている。
社外での活動にも変化
コロナショックによる影響は勤務先に閉じるものではない。オンラインで行うものを中心として、勉強会や趣味のイベント、オンライン飲み会などはメディアでも盛んに取り上げられた。しかし、実際にはたくさんの活動が、頻度が減少し開催されなくなってしまっている。この社外での活動の現状を見るべく、この1ヵ月で社外活動を停止・開始をした者の割合を整理した(図表2)。
興味深い結果が見て取れる。20歳台は、この1ヵ月で社外活動を「停止した者」と「開始した者」の両方が、全年齢層で最も多い(※5)。
20歳台において、やめた活動がある者の方が開始した活動がある者よりも多く、おおよそ倍である。「何かをやめて何かを開始した」者も勘案し、この点を考えれば、イメージとしては、「単に社外活動の量を減らした若手と、(既存の活動を減らしたかどうかは問わず)新たな活動を始めた若手」は、ほぼ半々であると考えられる。
ここでポイントなのは、この情勢にも拘らず「新たに活動を開始した若手」が相当数いることである。社外活動の対応面でも、若手に柔軟で素早い変化が起こっていることがわかる。
コロナショックによる若手の二極化
こうした社内と社外の状況に注目して、以下の整理が可能である(図表3)。
このグループによって、現在の仕事への姿勢や職場への気持ちの面で大きな差ができていることがわかってきた(図表4)。
総じてA群はコロナショックによって「仕事に対してポジティブな影響を受けている」。A群とD群は大きな差異があるし、また、B群やC群とでも有意な差が生じていることがわかるだろう。こうして分析すると、特にA群とD群の差は著しく、若手において社内外の状況に基づく、ある種の“二極化”が進んでいる可能性がある。
A群(職場との関係性が良くなり、社外活動も始めた若手)は、仕事上のやるべきことも会社への愛着も職場の一体感も強くなったと回答している。
何が正解かわからず、社会全体が右往左往する状況。同僚や上司という身近な人たちとのコミュニケーションを増やし、加えて社外の活動を通じて職場に閉じない見方に接したことが、危機に際しての自社の強さの再発見に繋がり、仕事への向き合い方を違った視点から整理することが可能となった、という可能性を示唆している。
「不安」をエネルギーにして
最後に、この4つの群について気になるデータがあった。読者諸氏にもぜひ、その意味を考えていただきたいと思う。
それは、「職場との関係性が良くなり、社外活動も始めた若手(A群)」の“不安感”(※7)が、相対的に大きかったことだ(図表5)。
A群は社内外でアクションを起こし、自身の仕事や、会社への愛着、そして職場環境についてもポジティブな状態にあった。しかし、不安感は大きい。これは何を意味しているのだろうか。
今回の調査は一時点のものであり、因果関係は推測に頼るほかない。一つには、「社内外でこれまでとは異なる行動をとっているから、それによりたくさんの不安感を抱えている」という理由が推測できる。
しかし、これと逆の可能性もある。つまり、「不安を糧にして一歩踏み出した」という仮説である。不安感は心理的に安定しない状況を生み出し、負荷を生む。同時に、それが適当な水準の不安・負荷であれば成長を促す役割も果たす(チクセントミハイ「ポジティブ心理学」)。
今回のコロナショックという危機によって、社会には多くの不安が生まれた。その不安を自分のものとして主体的に捉え、新たなアクションへ繋げている。そんな「不安をエネルギーに変換した」若手こそが、コロナショック後の世界に“環境適応”するのかもしれない。
もちろん、やはり因果関係はその逆(新たな行動により、不安感が高まっている)かもしれない。しかし、そうだとしても、その不安は新たなステージにつながるシグナルであり、不安を感じている若手は、胸を張ってコロナショック下で新たに始めた取り組みを進めていただきたい。
社会や会社は、そうした若手を励まし支えることで、大きな不安を感じつつも変わろうとしている若手の“進化”を促すことができるだろう。
※本稿は筆者の個人的な見解であり、所属する組織・研究会の見解を示すものではありません。
(※1)報告書「新型コロナウイルス感染症の流行への対応が、就労者の心理・行動に与える影響」
(※2)なお、本稿のデータ分析においては、経済・心理状況の差異を考慮し、回答時点での雇用形態が「正規の社員・従業員」の者に限定している
(※3)「あなたの主たる勤め先における上司や同僚など社内のメンバーとの関係性において、現状を昨年の状態と比べた場合に、以下のようなことはどの程度あてはまりますか」設問に対する回答。5件法での回答のうち、「そう思う」「ややそう思う」を「そう思う」に、「そう思わない」「ややそう思わない」を「そう思わない」に分類した
(※4)「昨年、定期的に(年に数度以上)従事・参加していた活動(所属する企業や職場の内部での活動は含まない)」が1つ以上あった者の数を母数として、それぞれ(1)「最近1ヵ月でその頻度が減少したりやめてしまった」活動がある者の割合、(2)「最近1ヵ月で新たに開始したり、頻度が増えたりした」活動がある者の割合
なお、聴取している活動は、「スポーツ・運動」「業務につながる学習」「社会や自然に対する貢献活動」等
(※5)なお、20歳台のうち、停止しかつ開始をした者は30.7%(昨年活動していた者比率)いた
(※6)「職場との関係性」については、図表1で用いた二つの設問に加えて、“職場のメンバーに助言を与える”ことに関する2つの設問の合計4設問の回答をスコア化。すべての設問で「変わらない(3点)」を選んだスコア(20点満点中の12点。スコアの中央値でもあった)よりも大きいスコアを持つ者を「職場との関係性が濃くなった」としている
また、「新たに開始・頻度が増加した社外活動がある」か否かについては図表2と同じ設問で整理している
(※7)調査全体における「不安感」については、上記報告書P.82~に詳細な分析がある。年齢とは負の相関が表れており、若手の方が不安感を持ちやすいことが明らかになっている
(※8)「この社会で生きていくことについて、不安がある」「所属する組織との今後しばらくの関係性について、不安がある」「家族との今後しばらくの関係性について、不安がある」「自分自身の今後について、不安がある」の4つの設問への回答結果(5件法)を合成した因子の因子得点。最尤法、プロマックス回転による
リクルートワークス研究所は、「一人ひとりが生き生きと働ける次世代社会の創造」を使命に掲げる(株)リクルート内の研究機関です。労働市場・組織人事・個人のキャリア・労働政策等について、独自の調査・研究を行っています。
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