政省令・告示等を踏まえた
「改正労働者派遣法」求められる実務対応
弁護士
藤田 進太郎(弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士)
平成27年9月11日、改正労働者派遣法が成立し、同月18日に公布されて同月30日に施行されました。関係政省令・告示についても、同月29日に公布され、同月30日から施行されています。さらに、平成24年改正で創設された労働契約申込みみなし制度についても、適用対象となる期間制限違反の内容が変更されたうえで平成27年10月1日から施行されており、重大な関心事となっています。
本稿では、政省令・告示、附帯決議等を踏まえつつ、改正労働者派遣法および労働契約申込みみなし制度のポイントについて解説します。
1. 改正労働者派遣法の主な内容
改正労働者派遣法の主な内容には、以下のようなものがあります。いずれも重要な改正ですが、派遣先にとっては、[2]労働者派遣の期間制限の見直しと労働契約申込みみなし制度施行の影響が特に大きいと考えられます。
[1]労働者派遣事業の許可制への一本化
[2]労働者派遣の期間制限の見直し
[3]雇用安定措置
[4]均衡待遇の推進
[5]キャリアアップ措置
2. 労働者派遣事業の許可制への一本化
(1)概要
平成26年6月1日の時点において、労働者派遣事業は、届出制の特定労働者派遣事業が約76%、許可制の一般労働者派遣事業が約24%を占めていましたが、改正労働者派遣法は、派遣業界全体の健全化等の観点から、特定労働者派遣事業と一般労働者派遣事業の区別を廃止し、すべての労働者派遣事業を許可制とすることにしました。
(2)新たな許可基準
以下の[1][2]が新たに許可基準として追加されました。派遣労働者のキャリアアップ、雇用の安定等を、許可基準を通じて実現しようとする立法者の意思をうかがい知ることができます。
[1]派遣労働者のキャリアの形成を支援する制度(厚生労働大臣が定める基準を満たすものに限る)を有すること。
[2]派遣労働者に係る雇用管理を適正に行うための体制が整備されていること。
[1]に関しては、派遣労働者のキャリア形成を念頭に置いた段階的かつ体系的な教育訓練の実施計画を定めていること、キャリア・コンサルティングの相談窓口を設置していること、キャリア形成を念頭に置いた派遣先の提供を行う手続きが規定されていること等が必要となります。
[2]に関しては、派遣労働者の保護および雇用の安定を図るため、以下の事項についても判断されます。
- 無期雇用派遣労働者を労働者派遣契約の終了のみを理由として解雇できる旨の規定がないこと。また、有期雇用派遣労働者についても、労働者派遣契約終了時に労働契約が存続している派遣労働者については、労働者派遣契約の終了のみを理由として解雇できる旨の規定がないこと。
- 無期雇用派遣労働者または有期雇用派遣労働者であるが労働契約期間内に労働者派遣契約が終了した派遣労働者について、次の派遣先を見付けられない等、使用者の責に帰すべき事由により休業させた場合には、労働基準法26条に基づく手当を支払う旨の規定があること。
- 派遣労働者に対して、労働安全衛生法59条に基づき実施が義務付けられている安全衛生教育の実施体制を整備していること。
- すでに事業を行っている者であって、雇用安定措置の義務を免れることを目的とした行為を行っており、労働局から指導され、それを是正していない者ではないこと。
(3)経過措置・小規模派遣元事業主に対する暫定的な配慮措置
施行日時点で特定労働者派遣事業を行っている事業主は、施行日から3年間(平成30年9月29日まで)は現在の特定労働者派遣事業を行うことができます。3年以内に許可の申請をすれば、判断が出るまでの間も許可を得たのと同じ扱いになります。
また、従来は資産要件のない届出制で済んでいたのが、許可制となると一定の資産要件が課されることになります。従前の資産要件だと厳しくて3年の経過措置では対応できない小規模派遣元事業主もありますので、施行日後に新たに許可を受けようとする小規模派遣元事業主に対しては、新たな許可要件のうち資産要件について以下のような軽減を行う暫定的な配慮措置がなされています。
(原則)
基準資産額(資産-負債)≧2,000万円×事業所数
現金・預金額≧1,500万円×事業所数
(1つの事業所のみを有し、常時雇用している派遣労働者が10人以下である中小企業事業主)
当分の間、
基準資産額(資産-負債)≧1,000万円
現金・預金額≧800万円
(1つの事業所のみを有し、常時雇用している派遣労働者が5人以下である中小企業事業主)
平成30年9月29日までの間、
基準資産額(資産-負債)≧500万円
現金・預金額≧400万円
他方、施行日時点で一般労働者派遣事業を行っている事業主は、施行日に改正法の労働者派遣事業の許可を受けたものとみなされます。有効期間は従来の許可の残存期間です。
施行日前にした許可・更新の申請で、施行日時点でまだ決定がなされていないものは、改正法に基づく申請として扱われます。
人事の専門メディアやシンクタンクが発表した調査・研究の中から、いま人事として知っておきたい情報をピックアップしました。