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【臭気判定士】
目に見えない「匂い」の元を探せ!QOLを下げる悪臭に向き合う戦士

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人は「匂い」に囲まれて生きている。ぐつぐつと煮立った料理の柔らかで甘い匂い、すれ違った人から運ばれてくる香水の匂い。鼻をつくようなゴミ捨て場の匂いもあれば、野生動物が発する獣の匂いもある。人に幸福感をもたらすこともあれば、不快な気持ちにさせることもあるだろう。嗅覚は人の記憶や感受性と深いつながりのある感覚で、味覚と並び化学性感覚と呼ばれる。そんな匂いをかぎ分け、課題解決につなげる職業が、臭気判定士だ。

悪臭による苦情は、全国的に減少傾向

悪臭による苦情は、全国で12,000件以上。原因として最も多かったのが、「野外焼却」。次いで、「サービス業・その他」と続く。苦情のピークは、平成15年度の約24,000件。そこから年々減少し、13年連続で苦情は減り続けている。その一端を担っているのが、臭気判定士の活躍だ。

臭気判定士は、平成8年に始まった新しい資格で、環境保全の観点からみた臭気分野において初めての国家資格だ。臭気測定を監督する公認オペレーターで、悪臭の発生源となっている事業者に対し、市町村とともに改善勧告・命令を行うことができる。この職業が誕生するきっかけになったのが、「悪臭防止法」だ。悪臭防止法は環境省が管轄する法律で、事業活動によって発生する悪臭に対して必要な規制を行うことを目的とするもの。ある匂いを規制の対象とするか否かを判断するための存在として、国家資格「臭気判定士」は誕生した。匂いを測るための指標には、「臭気指数」あるいは「臭気濃度」が用いられる。方法は2種類。分析機器による測定法と、人の嗅覚を用いる嗅覚測定法だ。臭気判定士は、後者の嗅覚測定法を公式に行うための資格だ。

創設されて20年あまり、現在は全国で約3,300名の臭気判定士が活躍している。平成28年度のデータでは、悪臭防止法の規制地域における苦情は、4,870件だった。うち1,762件で立ち入り検査を行い、報告の徴収は 347 件、測定は 68 件。測定の結果、規制基準を超えていたものは 31 件だったが、1,374件の行政指導が行われているという。

悪臭による苦情は13年連続減少している

環境省は自治体と連携し、悪臭を抑えることを事業者の義務の一つであることを啓蒙してきた。たとえば、脱臭装置の導入、原料などの搬入や保管方法の改善、焼却の中止、営業・操業時間の変更など。ピーク時と比べて約半数となっている悪臭に関する苦情は、行政とともに臭気判定士が一つひとつの調査を積み上げた成果だ。

苦情対策から、シャンプーの商品開発まで

臭気判定士のキャリアには、大きく分けて三つの選択肢がある。「事業会社に入ってインハウスのアドバイザーとして分析を行う」「ゼネコンなどの技術研究所に属して、第三者の立場から臭気分析を行う」「臭気専門会社を立ち上げたり、フリーランスとして活動したりする」の三つだ。多くの場合が行政や事業者からの依頼だが、個人から依頼されることもある。

匂いが起こるのは、工場だけではない。今日もいたる所で、いろいろな立場の人が匂いと戦っている。たとえば、ホテル。「この一室だけ変な匂いがするので、調査してほしい」といった依頼が来ると、判定士はまず部屋を調べ、次に空調設備や排水処理設備を調べる。そのため、匂いの知識に加えて、建物の構造に関する知識も必要だ。さらに原因を突き止めるだけではなく、解消するためには何が必要で、事業者は何を心得ておくべきなのか、対策まできちんと提示しなければならない。

匂いに関する商品開発のシーンでも、臭気判定士は力を発揮する。シャンプーやデオドラント商品の開発などだ。頭皮の匂いをかいで日本人特有の頭皮の匂いの原因をつきとめたり、脇から出る臭気を防ぐための実証実験に協力をしたり。匂いのスペシャリストである臭気判定士は、仕事で嗅ぐ匂いの良し悪しは感情とは結び付かないそうだ。臭気は味覚と同じで、化学物質による反応。そこに良し悪しをつけようとするのは、人間の感覚と記憶なのだという。

生まれつき“鼻が利く”必要はなし。試験では「嗅盲」をチェック

「嗅覚が人より優れていること」が臭気判定士になるための条件かというと、実はそうではない。嗅覚が鋭敏だから臭気判定士を目指したという人は少なく、臭気判定士になってから経験を積み、嗅覚が研ぎ澄まされていったという人がほとんどだ。注意深く嗅ぎ続けることによって、嗅覚も筋肉のように鍛えることができる。

臭気判定士になるためには、国家試験を受けなければならない。合格率は20%台。平成29年度の試験では、受験者563名に対し、135名が合格した(合格率24.0%)。満18歳以上であれば、誰でも受けることができる。1次試験は筆記試験。嗅覚概論(匂いを感じる仕組み)、悪臭防止行政(悪臭に対する法律や脱臭装置の原理)、悪臭測定概論(実際の臭気測定業務)、分析統計概論(臭気指数を割り出すための統計学)、そして臭気指数などの測定実務という五つの分野から出題される。

2次試験は嗅覚試験だ。5本の試験紙が渡され、その中から匂いの付いている2本を当てる。「嗅盲」と呼ばれる、匂いを感じない障害の有無を確かめるために行われるもので、“鼻が利く”ことを示す試験ではない。匂いの感じ方は人それぞれで、障害とまではいかなくとも、個人差はかなり大きい。「嗅盲」で最も多いのは、「イソブチルアルデヒド」(チョコなどの甘酸っぱいコゲ臭)と呼ばれるタイプの匂いで、約36%がそれを感じない。つまり、三人に一人は部分嗅盲ということになる。臭気判定士はすべての匂いを正常に嗅ぐ能力がある必要があるので、2次試験ではその能力を確認する。

嗅覚は鍛えれば研ぎ澄まされていく

目に見えない匂いに向き合う仕事なので、臭気判定士には根気強さや探求心、集中力が求められる。臭気を数値化して、規定の範囲内か否かを割り出すだけではない。発生源が分からない場合には一つずつ可能性をつぶしていかなければならない。異変を見逃さない集中力や、新たな知識を取り入れる探求心も、人から選ばれる臭気判定士になるための大切な要素だ。

臭気判定士の給与はどの組織に属するかによって異なるが、大金を稼げる職ではないようだ。事業会社や分析会社の場合、年収は300万円から400万円ほど。個人事務所を設けて独立した人や、メディア露出の多いフリーランスなどはこの限りではない。しかし、悪臭苦情は全国的に減少傾向にあり、個人依頼もリピートされる性質のものではないため、限りある案件を取り合う形になっているのが実状。潜在的な顧客を顕在化させていくためにも、業界全体でまだまだ世に知られていない「臭気判定士」の認知度を上げるための努力が必要だろう。

この仕事のポイント

やりがい目に見えない匂いの原因をつきとめ、解決に導くことができたとき。臭気問題は裁判沙汰になることもあり、被害を被った人たちから感謝されることの多い仕事。
就く方法臭気判定士は国家資格なので、年に一度行われる試験に合格する必要がある。18歳以上なら誰でも受験することができ、筆記試験と嗅覚試験が合格点に達すれば、臭気判定士として認定される。
必要な適性・能力嗅覚は鍛えることができるため、受験の時点ではもともとの鋭敏さは求められない。実際の案件となると、匂いの原因がわからないこともあるため、根気強さや探求心、集中力が必要とされる。
収入所属している組織の給与規定によるが、300万円から400万円ほど。事務所を立ち上げたり、フリーランスとして活動したりという選択肢もあるが、臭気対策の案件数自体が減少傾向にあるため、臭気判定士としてのレベルアップや広報活動が必須。

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