「即戦力」より「長期育成」を企業は重要視。いま直面している課題は「管理職の力不足」
最近の「人材開発」の中身は、ひところ当然のように叫ばれた「即戦力化」だけでなく、企業の将来に資する人材の「長期的育成」が重要視されてきている──社団法人日本経営協会(NOMA、本部・東京都渋谷区、茂木友三郎会長、http://www.noma.or.jp/)が発行する『人材白書2005』で、こんな注目すべき分析がなされています。『人材白書』の最新の調査から浮かび上がった最近の人材開発の主なトレンドを紹介するとともに、人事・労務担当者が抑えておきたいポイントについて、NOMA総務本部主幹・広報担当の成田本行さんにお聞きしました。
(取材=編集部)
大きくポイントを下げた「即戦力の育成」
NOMAは1949年に通商産業省(現経済産業省)所管の公益法人として創立されました。有識者や学識経験者の協力の下、経営効率化に沿ったさまざまな研究、事業を行っており、企業、行政・自治体、私学、病院、農協など約1500団体が会員となっています。最近では、とくに人材育成分野に力を注ぎ、毎年12月、独自に「NOMA人材開発調査」を実施しています。昨年は全国の企業や団体へ2800通のアンケート用紙を送付、252通の有効回答がありました(回答率9%、このうち「民間」と「行政・自治体」の割合は約6:4)。『人材白書2005』はその結果をまとめ、分析したものです。
まず注目したいのが「人材開発についての組織の目的」(表1)の調査結果です。一番多かったのは68.3%の「長期的人材の育成」で、前回(2004年)の調査より少し比率を下げたもののトップを守りました。次いで初めて選択肢を設定した「若手社員の能力向上」が67.1%。以下「管理職層の充実強化」66.3%、「プロフェッショナル人材の育成」38.1%、「即戦力の育成」32.9%、「ゼネラリスト人材の育成」22.2%の順でした。
この結果から、企業現場における人材育成に拍車がかかっていることがわかります。反対に、これまで比率が高かった「即戦力の育成」は、前回の46.2%から大きくポイントを下げ、やや色あせてしまった印象は否めません。人材白書は「ひところ当然のように叫ばれた『即戦力化』だけでなく、企業の将来に資する人材の『長期的育成』が重要視されてきている」と分析しています。団塊世代の大量定年が間近に迫り、少子化が急速に進む中、若い社員を有効に使わなければ深刻な人材不足に陥ってしまう──そんな企業の危機意識の現れと見ることができます。
直面する最重要課題は「管理職の力不足」
次に「人材開発の年間予算」(表2)を見てみましょう。トップは「2001万円以上」で33.3%。次いで「1000~1500万円」11.9%、「701~1000万円」11.1%、「1501~2000万円」7.5%、「501~700万円」6.0%、「51~100万円」5.2%の順でした。全体として眺めると「1000万円以上」が52.7%で「以下」の41.9%を大幅に上回り、「2001万円以上」が3年前に比べると4ポイント増えました。人材開発の年間予算は着実に増加していると言えそうです。
「人材開発の上で直面している課題」(表3)の項目では、前回と同様「管理職の力不足」がトップで47.6%、以下「組織全体に活力がない」37.7%、「中堅層が力不足」29.0%、「若手社員が育ちにくい」28.2%、「職場のチーム力が弱い」25.8%、「女性社員が育ちにくい」17.9%となっています。ただ、民間と行政・自治体では回答の中身に違いがあり、前者が経営幹部や管理職、中堅層といった具体的階層を人材開発の重要課題としているのに対し、後者は職場の活力、チーム力といった組織自体のあり方を問題視する傾向があるようです。
重点的に開発したい「中堅社員」「中間管理職」
「今後重点的に人材開発を計画している階層」(表4)では、トップは「中堅社員」で59.9%。次いで「中間管理職」58.7%、「若手社員」52.8%、「経営幹部」26.6%、「女性社員」13.9%、「営業職」12.3%の順でした。
50%超の3つの選択肢は、いずれも前回の調査より比率を高めていますが、中でも「若手社員」は11ポイント以上も増えているのが目を引きます。このことは「長期的人材の育成」の対象として、とりわけ「若手社員」への注目度が高まってきたと推察できます。
これらの結果について、白書の作成に携わったNOMA総務本部主幹・広報担当の成田さんは次のように話しています。
「通常、仕事は社員が単独でするのではなく、チームになって行います。その中で若手社員を育てつつ、チーム全体を統括する管理職の役割は極めて重要です。その仕事ぶりが企業の業績を左右するだけに期待も大きく、まだまだ『力不足』と見られているようですね。また、バブル期に大量採用した社員が第一線の管理者になる時代が到来しました。即戦力として期待したいところですが、スキルはそこまで達しているとは言えません。『今後の重点的な人材開発対象』の上位を、中間管理職や中堅社員が占めている背景には、こうした事情があるものと思われます」
社員の「マネジメント能力」を強化したい
「人材開発の内容・手法について」(表5)では、「業務時間内研修」が83.7%でトップ。次いで「外部機関派遣研修」63.9%、「通信教育」60.3%、「OJT研修」49.6%、「合宿研修」41.3%、「業務時間外研修」32.1%という順位です。全体にどの項目も比率が下降気味ですが、その中で唯一「eラーニング」は3年前から倍増して21.4%になりました。近年、デジタル化が進み、IT環境が飛躍的に整ってきたためでしょう。
最後に「人材開発で社員に習得・強化を求める能力・技能・意識」(表6)の項目では、「マネジメント能力」が79.0%の圧倒的比率でトップを独走。次いで「業務に関する専門能力」59.5%、「課題達成能力」45.2%、「コーチング能力」39.7%、「プレゼンテーション能力」37.7%、「交渉能力」34.9%の順でした。前回選択肢のなかった「コーチング能力」を除いて、いずれも比率は減少傾向にあります。
今回の調査で明らかになった傾向や意味合いについて、『人材白書2005』は「人材開発こそが現在急務であるという共通認識のもとに、そこから先に一歩進んで、自社の特性や長短、課題などを詳細に把握した上で、具体的対応を踏み出しつつあるように思われる」と、かなり踏み込んだ分析をしています。
グローバル化による競争の激化や価値観の多様化、団塊世代の大量定年問題、さらには急速に進む少子高齢化など、企業を取り巻く経営環境は大きく変化しています。そうした状況の中で、人材開発の重要性が今後さらに増していくのは言うまでもありません。自社の将来を担う優秀な人材を育てるにはどうすればいいのか、人事・労務担当者の手腕が問われています。
表(1)(2)(3)(4)(5)は、『人材白書2005』の調査結果をもとに「日本の人事部」編集部が作成しました。
また表(6)は『人材白書2005』作成のものを転載させていただきました。