ライトマネジメントコンサルタンツジャパンと厚生労働省の雇用支援事業
定年迎える「団塊の世代」700万人のためのキャリア開発
100万世帯突破した「生活保護受給者」のための就労サポート
約700万人に上る「団塊の世代」(1947~49年生れ)の大量定年が間近に迫っています。その一方で、高齢者の増加などで生活保護世帯が100万世帯を超えました。来たるべき高齢社会に向けて、新たな雇用システムの構築が官民を問わず緊急の課題となっています。そうした中、再就職支援サービス大手のライトマネジメントコンサルタンツジャパン(東京都千代田区、http://www.rightjapan.co.jp)は2月末から、団塊の世代の大量退職による労働市場の変化や企業・個人のニーズを踏まえた新商品「『定年』セーフティネット」のサービスを始めました。また、厚生労働省も4月から、生活保護受給者などを対象に就労支援事業を行います。この2つの新たな取り組みを取材しました。
「2007年問題」と「改正高年齢者雇用安定法」
全人口の5%強を占める「団塊の世代」が段階的に60歳定年を迎える2007年以降、日本の産業界は深刻な労働力不足に陥ると予測されています。また、彼らが持つ高度な技術やノウハウをどのように下の世代に伝えていくかも大きな問題です。急速な少子高齢化が進行する中、早急に新たな雇用システムを構築して競争力を維持することが、多くの企業にとって焦眉の急となっています。
おりしも高年齢者雇用安定法の改正によって、2006年から、65歳までの継続雇用が段階的に義務化されて、企業は、(1)定年の引き上げ(2)雇用延長制度の導入(3)定年の廃止のいずれかを選択しなければならなくなりました。
川崎重工業のようにいち早く定年延長に踏み切った企業もありますが、東京商工会議所の昨年の調査によると、(2)の雇用延長制度を導入すると答えた企業が全体の70%以上に上っています。60歳を超えても働き続けられる環境を整備することが、労働力不足の解消につながり、技術やノウハウの継承の面でも有効であるのは言うまでもありませんが、さりとて法改正だけでは高年齢者の雇用を完全に確保するのは困難な情勢です。
「60歳=職業生活のゴール」ではなくなった
1994年設立のライトマネジメントコンサルタンツジャパン(以下ライトジャパン)は、これまで人事リストラを迫られた企業約1500社を対象に、約3万5000名の中高年の再就職支援を手がけてきた実績があります。今回発売した「『定年』セーフティネット」は、その中で築いたノウハウやインフラをベースに、金融機関やNPOなど他分野とも連携して開発されたプログラムで、企業への雇用延長コンサルティングと定年退職前の社員のキャリア開発研修を組み合わせたサービスの提供は業界でも初めてと言います。これについて同社の企画推進部長の浜島和敏さんは次のように話しています。
「2月に行った説明会には東京で約50社、大阪では約60社の人事担当者に参加していただきました。業種も製造業からサービス業、建設業、金融業など幅広く、説明会後のアンケートでも『タイムリーな企画』『導入を検討している』といった声が多く寄せられました。団塊の世代の定年問題に企業が高い関心を持っていることが改めてわかりました」
もともと高年齢者の就労意識は強く、東京都が昨年行った調査では、団塊世代の男性8割、女性6~7割は「5年後も働いていたい」と答えています。背景の一つには、年金の受給年齢が段階的に引き上げられ、60歳を超えても生活のために働かざるを得ないという事情があります。ただし正社員を希望する人は1~3割で、多くは嘱託・パート、自営業開業などを望んでいるという結果も出ています。浜島さんはこう分析しています。
「団塊の世代は多様な働き方に関心があり、『就業に関わる支援の利用希望』では、男女ともに4割以上が『転職や再就職を支援する研修・訓練』『NPOやボランティア活動の情報提供やセミナー』などをあげており、キャリア開発支援へのニーズが高いことがうかがえます。『60歳=職業生活のゴール』という従来の常識が変わりつつあり、団塊の世代の大量退職を契機に『定年を自分で決める時代』がやってきたと言えそうです」
企業と社員に対して「雇用延長」のサポート
同社はこうした状況を踏まえ、企業に対して「個々の組織事情に最も適した高年齢者の雇用確保措置」や「雇用延長制度の適用対象者の選抜方法や能力開発に関わる施策」などを提言。雇用延長に関するコンサルティングをサポートするともに、社員に対しては高年齢者のキャリアを考える際に欠かせない「家族」「経済」「健康」「生きがい」などを視野に入れ、ワークショップやセミナー、カウンセリングなどを通じて、これからの生き方や働き方を考える場を提供すると言います。
「ファイナンシャルプランナーが定年前後のマネープランを、NPO関係者がNPO活動内容と設立方法を担当するなど、幅広い分野の講座をそろえます。それと同時に、豊富な支援実績を持つ当社のキャリアコンサルタントが個別相談に応じ、現在の企業での継続雇用から独立起業、社会貢献まで、個々の社員の進路決定を徹底的にサポートします。現在の職場を離れて就労継続を希望する場合には、応募書類の書き方や面接の受け方など、実戦的なノウハウを提供します。これらのサポートは、個人としてのニーズを満たすだけでなく、会社としても福利厚生施策として、あるいは雇用継続者の意識改革につながるものであり、双方にメリットがあります」(浜島さん)
福祉事務所とハローワークで自立・就労支援
一方、厚生労働省も生活保護受給者に対する就労支援事業に乗り出します。不況に加え高齢化などの影響で生活保護世帯が昨年10月時点で約100万2000世帯となり、10年間で1.68倍に急増。こうした背景から厚労省は、生活保護者に対する自立・就労支援プログラムを導入する方針を打ち出したのです。
具体的には自立支援プログラムを実施する福祉事務所が支援対象者を選定。ハローワークに新たに配置する就労支援コーディネーター(全国に100人)と、福祉事務所の担当者で構成する「就労支援メニュー選定チーム」が、個別に面接を行うなどして、きめ細かな就職支援を実施するとしています。
「面接まで進む人を年間1万7000人と想定、全国のハローワークに設置する67人の就職支援ナビゲーターによる担当者制のマンツーマンで支援します。公共職業訓練の受講斡旋、生業扶助などを活用した民間の教育訓練講座の受講、トライアル雇用などの一般雇用施策の活用などのサポートを行う予定です」(厚生労働省職業安定局)
しかし、就労支援メニュー選定チームが実施する面接の中身は、まだ判然としません。また、個々の受給者の態様に応じて提供するメニューの内容についても「検討中」(厚生労働省職業安定局)と言います。こうしたことから、「縦割り行政に陥りやすい役所に、親身になった就労支援ができるのか疑問。民間に委託するほうが効果があるのではないか」(民間の人事コンサルタント)といった声も出ています。
ともあれ急速に進む少子高齢化で雇用対策の見直しが必至となっている状況下、ライトジャパンが手がける高年齢者の新たな雇用システムの構築や、厚労省が主導する生活保護受給者に対する就労支援が、どのような効果を上げることができるのか、大いに注目されるところです。
取材は1月末から2月中旬にかけて行いました。