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【ヨミ】ネンシュウノカベ

年収の壁

年収の壁とは?

年収の壁とは、世帯主の扶養範囲で働くパートタイムやアルバイトの労働者の年収基準を指す用語です。「106万円」「130万円」のようにいくつかのラインがあり、年収が一定額を超えると、世帯主の扶養範囲から外れ、社会保険料などの負担が発生し、反対に手取りが減少する逆転現象が発生することがあります。そのため、パートタイムやアルバイトで働く労働者が、働きたくても年収の壁を超えないように「働き控え」を検討するラインといえます。
 
たとえば、多くの人に意識されている「130万円の壁」は、配偶者が社会保険の扶養から外れる年収のラインです。年収が130万円以上になると、健康保険料と厚生年金保険料を本人が支払うことになり、年間で20万円前後手取りが減少することがあります。
 
さらに、2022年10月から、パートタイムやアルバイトのような短時間労働者に対する社会保険の適用範囲が拡大され、「106万円の壁」の影響も大きくなっています。被保険者数が101人以上の適用事業所に勤める短時間労働者は、一定の条件を満たし、年収が106万円以上(正確には賃金月額8.8万円以上)となると、健康保険と厚生年金保険の加入義務が発生します。106万円の壁も、手取りの逆転現象を発生させるラインとして、労働者の頭を悩ませるものとなっています。
 
手取りの減少は、家計に大きな影響を与えます。「106万円」「130万円」という社会保険上の年収の壁だけではなく、住民税や所得税における配偶者控除など、税制上の年収の壁も複数存在します。
 
たとえば、年収100万円を超えると住民税の支払いが発生する可能性があります。100万円の壁は、アルバイトで働く学生にとって注意したいラインといえます。また、年収が103万円を超えると、住民税に加えて所得税の支払いが発生する可能性もあります。さらに配偶者がいる場合、103万円を超えることで配偶者控除から配偶者特別控除へと切り替わります。扶養者である配偶者の納税額に影響するラインとしては、「150万円の壁」と「201万円の壁」があります。

更新日:2024/05/31

年収の壁の一覧

  被扶養者(扶養される側) 扶養者(扶養する側)
被扶養者の年収 住民税 所得税 社会保険料 配偶者控除 配偶者特別控除
100万円以下 不要 不要  不要   対象  なし 
100万円超 発生
103万円超 発生 配偶者特別控除に切り替わる 対象  
106万円以上 条件を満たす場合は発生  
130万円以上 発生(60歳以上や障害者の場合は180万円以上)
150万円超 控除額の縮小
201万円超 なし

年収100万円と103万円をわずかに超える程度なら、住民税・所得税の納税額が発生したとしても年間数千円の範囲なので、家計への影響はそれほど大きくありません。ただし、配偶者手当の支給基準は、企業によって異なります。年収の壁を超えることで、配偶者手当そのものがなくなる可能性があり、年収のアップが家計全体の手取り減少を引き起こすことがあります。特に年収103万円~201万円の間は、年収がアップしても税金や保険料で家計全体の手取りは思うように増えていかず、結果として働き控えを引き起こすことがあります。

年収の壁が問題となる背景

年収の壁は、パートタイム労働者の労働意欲を低下させ、社会的にも労働力供給の妨げになると言われてきました。東京都産業労働局が2022年3月に行った「パートタイマーに関する実態調査」でも、パートタイマーの約4割の年収が130万円以下となっています。また、6割近くが家計の主な担い手を「配偶者」と回答しており、年収の壁を超えることが家計に影響を与える層は少なくありません。

年収106万円を超え、パートタイム労働者が社会保険に加入した場合、年間15万円~20万円の手取りが減少します。配偶者がいて配偶者手当などがなくなることがあれば、家計の手取りの減少はさらに大きくなるでしょう。世帯収入を維持するためには、パートタイム労働者の年収が106万円を大幅に超える働き方をしなければなりません。

パートタイム労働者の中には、育児や介護など、なんらかの事情から短時間の労働時間を選択している人もいます。東京都産業労働局の「パートタイマーに関する実態調査」によれば、6割以上が労働時間数について「満足」「やや満足」と回答しています。しかし、賃金水準となると「満足」「やや満足」は3割台にまで下がり、労働時間という制約の中で満足のいく収入が得られていない実態がうかがえます。

パートタイム労働者の扱いについては、長年就業して仕事の内容や責任が正社員と変わらないにもかかわらず、賃金が少ないという不均等な待遇も、企業が改善すべき課題の一つです。こうしたパートタイム労働者の不均等な待遇を是正するには、企業内での制度改革が必要なことはもちろん、「収入が一定ラインを超えても手取りが減少してしまう」という年収の壁の解消も求められます。

最低賃金の上昇に伴い、パートタイム労働者の時給も上昇しています。しかし、年収100万円や年収103万円の壁を超えないように就業を続けるのであれば、パートタイム労働者の就業時間は短縮せざるを得ない状況です。また、働きながら子どもを保育所に預けている場合、労働時間を短縮させることで、保育所の利用が可能となる就労時間を下回ってしまう可能性もあります。労働時間の調整を行わず、年収が増え、結果として家計の増収につなげることが、労働者の満足だけではなく、企業の労働力確保や経済の好循環のために必要不可欠です。

年収の壁による働き控え解消のため、政府では見直しの議論が始まっています。2023年6月、政府は「こども未来戦略方針」を取りまとめ、社会保険の加入対象となる「106万円の壁」および「130万円の壁」の解消に対して、支援強化パッケージを年内に決定し、実行すると表明。9月には「従業員一人当たり最大50万円を支給する制度を設ける」と発表し、10月からこの支援強化パッケージを開始しました。

国内の最低賃金が上がったとしても、助成金の支給があれば、パートタイム労働者が年収の壁を気にせず働けるようになります。配偶者の扶養から外れても、家計への影響がプラスになるのであれば、年収の壁を気にせずキャリアを積むことが可能です。社会保険への加入は、何かあった際の傷病手当金の受給や、将来的に受け取れる年金額の増加というメリットがあるため、本人の安心感にもつながります。

年収の壁の種類

年収の壁は、住民税・所得税に関わる「100万円」「103万円」「150万円」「201万円」の壁と、社会保険の加入に関わる「106万円」「130万円」の壁の合計6種類があります。ここでは、年収の壁の種類とその影響について解説します。

住民税や所得税に関わる4種類の年収の壁

税金の増加に関わる年収の壁は、以下の4種類あります。

100万円の壁

100万円の壁は、住民税が発生するボーダーラインといわれます。住民税額は所得金額に加え、住んでいる自治体によって異なり、給与のみの場合、年収100万円をわずかに超える程度であれば、年間で1万円ほどが目安です。

103万円の壁

103万円の壁は、住民税に加えて所得税が課税されるボーダーラインです。所得税は、年収から各種控除を差し引いた額に税率をかけて計算されます。103万円までは、基礎控除48万円+給与所得控除55万円を差し引くと0円となり、所得税が発生しませんが、103万円を超えると所得税が発生する可能性があります。

また、103万円を超えると、扶養者である配偶者に対して適用される配偶者控除が、配偶者特別控除に切り替わります。配偶者控除とは、控除の対象となる配偶者の合計所得金額が48万円以下(給与のみの年収で103万円以下)の場合、最大で38万円の所得控除が受けられるというものです。ただし、2023年現在は配偶者特別控除の控除額が拡大されているため、年収103万円〜150万円であれば、103万円の壁を超過したとしても、扶養者である配偶者の所得税や住民税は増加しません。

150万円の壁

150万円の壁とは、配偶者特別控除を満額受けられなくなるラインです。被扶養者の年収が150万円を超過すると、扶養者である配偶者が適用できる配偶者特別控除額は段階的に縮小するため、年収が増えるほど配偶者の所得税や住民税も増加します。

201万円の壁

201万円の壁とは、扶養者である配偶者の所得税や住民税を計算する際の配偶者特別控除額がゼロになるラインです。厳密には、201.6万円を超えると配偶者特別控除が受けられなくなります。

社会保険に関わる壁

社会保険への加入により、保険料の支払いが発生することは、給与の手取りに大きな影響を与えます。パートタイム労働者の壁となるのは、「106万円」と「130万円」の2種類です。

106万円の壁

社会保険の適用範囲が2022年10月に拡大されたことで、106万円の壁はより一層意識されるようになりました。それまではパートタイムのような短時間労働者の社会保険加入義務が生じるのは、被保険者数が501人以上の事業所に勤めているケースでしたが、拡大以降、被保険者数が101人以上の事業所に勤めている短時間労働者に社会保険の加入義務が発生します。
具体的には、以下の条件の全てに当てはまる短時間労働者です。

  • 週の所定労働時間が20時間以上
  • 月額賃金が8万8千円以上
  • 学生ではない

保険料の金額は、事業所が加入している健康保険組合によって異なります。たとえば、標準報酬月額9万8千円で東京都の協会けんぽに加入した場合、健康保険と厚生年金保険とを合わせて、合計で1万3,867円(介護保険料がない場合)の保険料支払いが月々発生します。年間で15万円以上の支出となり、社会保険に加入することで発生した保険料の金額を上回る給与の昇給がなければ手取りの減少が発生します。

130万円の壁

130万円の壁は、配偶者(世帯主)の社会保険の扶養から外れるボーダーラインです。親や配偶者の扶養に入っていた場合、自身で健康保険・厚生年金保険に加入する必要があります。これは本人の年収が130万円以上になると、勤務先が社会保険の適用事業所かどうかに限らず、配偶者や親の扶養に入れなくなるからです。

「こども未来戦略方針」の方針

政府が発表した「こども未来戦略方針」では、家計への手取り減少の影響が大きい、社会保険における「106万円」「130万円」の壁の解消について焦点が当てられています。たとえば労働者の賃金上昇や環境整備に取り組む企業としては、必要な費用を補助する支援強化パッケージを実施するとしています。

あわせて週の所定労働時間が20時間未満で雇用保険に加入できない短時間労働者でも、失業等給付や育児休業給付などを受給できるよう、2028年度までをめどに、雇用保険の適用拡大について検討・実行するとされています。年収の壁を意識せずに働けるよう、制度と環境を整備することは、人手不足に悩む企業にとっても重要な課題です。パートタイム労働者や他の労働者にとって、公平な制度の構築が期待されています。

企画・編集:『日本の人事部』編集部

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東京都 商社(総合) 2023/09/19

 

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