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【ヨミ】テアテホジョ

手当・補助

手当・補助とは?


「手当」と「補助」の定義として、法的に明確な区分はありませんが、それぞれ性質が異なります。「手当」とは、会社が従業員に基本給などとは別に与える金銭的報酬のことを指します。一方「補助」は、「家賃補助」などのように、本人が負担すべき費用の軽減といった観点から支給されるものです。

更新日:2023/05/19

手当・補助とは

手当と補助は似ていますが、税金や社会保険料の面で取り扱いに差異があります。新たに手当を新設する際は、関連する法案も確認し、慎重に検討する必要があります。

また、手当や補助に、従業員にとって不利益が生じるような変更を加える場合、法に則った対応と従業員への誠実な態度が求められます。一方的な不利益変更とならないよう、注意が必要です。

万が一、不利益変更に伴って、従業員との紛争が生じた場合には、個別労働紛争解決制度も利用可能です。

手当と補助の違い

手当は、基本給を補う意味もあり、従業員の生計維持のために支給されるものです。労働基準法では労働の対償として支払われるものや、就業規則や労働協約などに支給条件の定めがあり、労働条件の内容となっているものは「賃金」とみなされます。税法上は現金で支給する手当は「給与」とみなされ、原則として所得税の対象となります。通勤手当は例外の一つです。また、社会保険料を算出する時は、見舞金や慶弔費など労働の対象とならないものを除き「報酬」に該当します。

支給要件などによりますが、補助は福利厚生とみなされることもあります。福利厚生とみなされた場合、条件を満たせば、課税されないこともあります。

たとえば、従業員の生活支援的な意味で支給する「住宅手当」は課税対象であり、社会保険上の報酬とみなされます。一方、従業員の家賃負担の軽減を目的とした「家賃補助」については、会社が賃貸契約を締結し、家賃のうち一定割合を従業員が負担している場合などは福利厚生とみなされ、所得税や社会保険の報酬の対象外となるケースもあります。

現物給与の場合

家賃補助や食事補助などを現物給与として支給している場合、社会保険を算定するときに注意が必要です。社会保険の算定時は、家賃補助や食事補助の現物給与額も含めます。また、食事代の現物給与額のうち、一部分を従業員が負担している場合、食事の負担額によって、対応が異なります。

  • 現物給与価額の3分の2未満の価額を食事代として負担している場合:現物給与価額=(現物給与の価額)―(負担額)
  • 現物給与価額の3分の2以上の価額を食事代として負担している場合:現物による食事の供与はないもの(0円)として取り扱います。

住宅の家賃などを負担している場合は、以下の式で現物給与価額を計算します。
現物給与価額=(現物給与の価額)―(負担額)

現物給与価額のうち、食事代や住宅の家賃に関する報酬を計算する基準となる価額は、厚生労働大臣が都道府県ごとに定めています。それ以外の報酬額は、時価で計算します。

所得税法では、以下の二つの要件を満たす場合、給与として課税されることはありません。この条件を満たさない場合、食事価額から従業員負担額を控除した金額が現物給与の価額になり、給与として課税の対象になります。

  • 食事価額から従業員負担額を控除した金額が、1ヵ月当たり3,500円(税抜き価額)以下
  • 従業員の負担した金額が、食事価額の半分以上

従業員に住宅や寮を貸与し、従業員から賃貸料相当額より低い家賃を受領している場合は、国税庁で定めた一定の計算式(所得税法、所得税法施行令や所得税基本通達をもとにした計算式)で算出した賃貸料相当額と、受領した金額の差額が給与として課税されます。この場合も、賃貸料相当額の50%以上を従業員から受領していれば、受領した家賃と賃貸料相当額との差額が給与として課税されることはありません。ただし、無償で貸与する場合や家賃などを現金で支給する場合は、すべて給与として課税されるので注意が必要です。

手当の種類

手当は2種類あります。法律上支給が義務付けられているものと、会社が任意で支給するものです。それぞれの手当の特徴と、社会保険料に影響するかどうかを解説します。

法律上、支給が義務付けられている「手当」の種類

労働基準法37条により、法定時間外労働・休日労働・深夜労働が発生した場合、事業主はそれぞれの労働に対する手当を支払うよう定められています。また、事業主の都合で従業員を休ませた場合、労働基準法第26条に基づき、休業手当を支払わなければいけません。

法定時間外労働・休日労働・深夜労働の割増賃金率について

法定時間外労働・休日労働・深夜労働の割増賃金率は、以下の通りです。

法定時間外労働 25%以上。1ヵ月60時間を越える労働時間については50%以上
(現在、60時間を越える労働時間の割増賃金率は大企業
のみ適用。2023年4月より、中小企業にも適用)
休日労働 35%以上
深夜労働 25%以上

また、割増賃金の計算方法は、下記の通りです。
割増賃金額=(1時間あたりの賃金額)×(法定時間外労働・休日労働または、深夜労働を行わせた時間数)×(割増賃金率)

たとえば、月給制の場合、1時間あたりの賃金額は、割増賃金の対象となる1ヵ月の所定賃金額を1ヵ月の(平均)所定労働時間数で割って計算するのが原則です。その金額に法定時間外労働・休日労働・深夜労働の時間数と割増賃金率をかけて、それぞれ手当額を算出します。

休業手当について

2023年現在、新型コロナウイルス感染症やまん延防止の措置の影響で、従業員を休業させるケースが増えています。事業主の都合で、従業員を休業させた場合、平均賃金の60%以上を休業手当として支給します。(労働基準法第26条)

新型コロナウイルス感染症の影響による休業は、事業主の都合とはいえないケースもあり、休業手当の支払い義務の有無に賛否が分かれます。しかし、休業期間中の賃金については労使間で十分に話し合い、労使の協力のもと、従業員が安心して休める体制を整えるのが望ましいでしょう。また、従業員がより安心して休めるようにするため、労働基準法で定められた支給率を超える休業手当を支払えるよう、就業規則で定めることが望ましいです。

休業手当支給の注意点

休業手当の支給は「事業主の都合」が条件のため、疾病(従業員本人の感染や発熱時の自主休業を含む)、育児、介護など従業員本人の事情による休みや年次有給休暇は、休業手当の対象外です。また、雇用形態に関わらず、パートやアルバイトなどであっても、休業手当の支給対象になります。

会社が任意で支給する手当の種類

法律で定められている手当のほか、各企業が任意で支給する手当もあります。会社独自の手当は就業規則やその各規定などで、ルールを定めなければなりません。

【会社独自の手当の例】

  • 通勤手当:自宅から会社への移動費用として支給される手当のことです。
  • 在宅勤務手当:在宅勤務のための備品購入や環境整備、従業員が負担する電気代などの諸経費が発生することから、在宅勤務者へ支給される手当のことです。
  • インフレ手当:急激な物価上昇を受けて支給する、従業員の生活費の補助を目的とした手当のことです。従業員の生活上の不安を軽減し、仕事へのモチベーション向上などが見込めます。
  • ハードシップ手当:海外赴任者に対して支給される手当のことです。電気やガスなどのライフラインの供給や食品の安全性、治安や衛生面などが日本国内と異なる水準の国へ赴任する際、生活の困難さに合わせて支給されます。

社会保険料の算定に関わる手当の種類

各手当が社会保険料算定時の標準報酬月額の「報酬」に該当する場合、社会保険料の算定に影響します。また、「報酬」は労働の対象として支給されるものを指します。(健康保険法第3条第5項および第6項または厚生年金保険法第3条第1項第3号および第4号)

社会保険料の「報酬」とみなされる主な手当

以下の手当は、社会保険料の算定に影響します。

  • 時間外労働手当
  • 休日労働手当
  • 深夜労働手当
  • 通勤手当
  • 在宅勤務手当(※)
  • 休業手当
  • ハードシップ手当
  • 年4回以上支払われる賞与

現実に提供された労働に対する対価であり、給与規程等に基づき、事業者が経常的あるいは定期的に従業員へ支払うものは、「報酬」に該当します。上記は、社会保険料の算定の際に「報酬」に含める手当の一例です。上記以外にも対象となる手当がありますので注意が必要です。

また、インフレ手当は「毎月支払うもの」ならば「報酬」に該当します。支給原因や条件等により判断されるため、自社の支給要件を確認してから判断します。

※在宅勤務手当については、手当の内容が会社毎に異なるため、支給要件や支給実態などを踏まえて、個別に判断する必要があります。

  1. 「報酬」に含まれるパターン
    在宅勤務手当が実費弁償(在宅勤務に必要な費用を従業員が立て替え、支給を受けること)に当たらず、労働の対償として支払われる場合は「報酬」に含まれます。たとえば、事業主が従業員へ毎月10,000円を支給し、従業員が「在宅勤務に必要な費用」として使用しなかった場合であっても、返金する必要がないような場合です。
  2. 「報酬」に含まれないパターン
    事業主が、在宅勤務を実施する上で必要なパソコン購入費用や通信費などを支払うような場合、算定基礎届の提出先である日本年金機構などによって「業務遂行に必要な費用の実費に相当する」と認められると、在宅勤務手当は実費弁償に当たるとして、「報酬」に含まれません。

補助の種類

会社が任意で設定できる補助の例を挙げます。

【会社独自の補助の例】

  • 運動施設、フィットネスクラブの利用補助:対象の運動施設やフィットネス施設の会費や利用料の一部や全額を、会社が補助する制度です。
  • 図書購入費用の補助:業務に関する知識や技術を習得するため、スキルアップにつながる書籍の購入費用を、一部もしくは全額補助する制度です。
  • 健康診断・人間ドックの補助:健康診断や人間ドックの受診費用の一部もしくは全額を補助する制度のことです。
  • 社内親睦会等の補助:従業員が参加する親睦会やレクリエーション、社員旅行などの費用について、一定の金額もしくは全額を会社が補助する制度です。

手当を減額・不利益変更をする場合の注意点

労働条件を変更するには従業員の合意を得るのが原則です。手当を減額したり、廃止したりする場合、労働条件の不利益変更に該当する可能性があります。不利益変更について解説します。

不利益変更とは何か

就業規則の変更について、労働契約法では以下のように定められています。

第9条 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。

第10条 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。
ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。

つまり、不利益変更とは、事業者が一方的に従業員にとって不利益な労働条件の変更を行うことです。たとえば、事業者が一方的に従業員の給与を引き下げたり、年間休日を減らしたりすると不利益変更に該当します。従業員の合意なしに労働条件を不利益に変更することはできませんので注意しなければいけません。

不利益変更をする際のステップと注意点

例外的に就業規則の変更によって労働条件を変更できるケースがあります。この場合には労働契約法9条で規定する労働条件の不利益変更よりも合理性が厳密に判断されるため、慎重に取り組む必要があります。

就業規則の不利益変更を行う際は、以下の2点に注意します。(労働契約法第10条)

  1. 就業規則の変更に合理性がある
  2. 変更後の就業規則を周知する

就業規則の変更に合理性がある

就業規則の変更に合理性があることが第一の条件です。非合理的な不利益変更は認められません。

また、「合理性」の判断は、以下の事情に照らし合わせて、総合的に判断されます。

  • 従業員が受ける不利益の程度:不利益の程度を勘案し、緩和したり、経過措置を取ったり、適切な救済措置を取ることも併せて検討することが望ましいです。
  • 労働条件の変更の必要性:不利益変更を行う必要性の程度が問われます。たとえば、現行の就業規則のままでは企業経営に悪影響が出る場合などは、変更の必要性が高いと判断されます。
  • 変更後の就業規則の内容の相当性:現実的な就業規則の変更であることが大切です。同業他社の就業規則などを参考にし、妥当かどうか検討する必要があります。
  • 労働組合などとの交渉の状況:従業員との合意を形成するため、労使間での協議が必要です。労使間の協議をおざなりにするとトラブルを招きかねないため、慎重に協議を進めます。

たとえば、住宅手当の変更をする場合、従業員が被る不利益の程度(金額など)や変更を行う理由(経営状況の悪化など)、変更後の住宅手当の妥当性を勘案し、変更が合理的であるかを判断します。
また、住宅手当を変更するときは、変更を行う理由、変更後の手当や金額シミュレーションなど、従業員への丁寧な説明が必要です。トラブルに発展しないよう、従業員との合意形成ステップは慎重に進めます。

変更後の就業規則を周知する

変更後の就業規則は従業員に周知しなければいけません。労働基準法106条によると、「常時作業場の見やすい場所へ掲示や備え付ける」「書面で交付」などの方法で、従業員が就業規則の内容をいつでも把握できる状態であることが必要とされています。

補助の減額は不利益変更にあたるのか

補助が雇用契約書や就業規則に規定されており労働条件として提示されている場合、補助の減額は不利益変更と見なされます。たとえば、家賃補助や食事補助などが労働条件の一つならば、減額や廃止は不利益変更に該当します。
一方、労働条件ではなく、福利厚生的な意味合いの強い補助の場合、広義の不利益変更には含まれるものの、労働条件の変更ほどの厳格な手続きを求められる可能性は低いでしょう。ただし、一方的な補助減額や従業員への影響が大きい場合には会社への不信感にもつながる恐れがあるため、従業員へ合理性のある説明を行い、慎重に進めることが望ましいです。

個別労働紛争解決制度について

就業規則の不利益変更でのトラブルも含め、事業者と従業員の間でトラブルが生じた場合、裁判とは別の立場で適切な解決を図る制度があります。都道府県労働局にある「個別労働紛争解決制度」です。個別労働紛争解決制度は、「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律」に基づく制度です。労使双方が歩みよることで自主的な解決を促し、労使間の個々のトラブルを迅速に解決することが目的です。

個別労働紛争解決制度は、事業主、従業員どちらからでも無料で利用できます。また、従業員がこれらの制度を利用したことを理由として、事業主が従業員に対して不利益な取扱いをすることは法律で禁止されています。(個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律 第4条3)

個別労働紛争解決制度には、「総合労働相談」「助言・指導」「あっせん」の三つの制度があります。

総合労働相談について

都道府県労働局の総合労働相談コーナーでは、労働問題に関する情報提供や個別相談を行っています。関連する法令・裁判例などの情報提供、助言・指導制度及びあっせん制度について説明します。個別労働紛争の中には、法令や判例を知らなかったり誤解したりして発生したトラブルも散見されます。このような場合は、労働問題に関する情報収集や専門家へ相談することで、紛争の未然防止や早期解決が期待できます。

助言・指導について

「助言・指導」は、都道府県労働局長が、紛争当事者に対し、個別労働紛争の問題点を指摘し、解決の方向を示すことで、紛争当事者の自主的な紛争解決を促す制度です。あくまで紛争当事者同士の話し合いによる解決を促すものであり、措置を講じることを強制するものではないため、行政指導とは異なります。
対象となる紛争の範囲は、労働条件その他労働関係に関する事項についての個別労働紛争です。

対象となる紛争の例

  • 労働条件に関する紛争(解雇、雇止め、労働条件の不利益変更など)
  • 職場環境に関する紛争(いじめ・嫌がらせなど)
  • 労働契約に関する紛争(会社分割による労働契約の承継、同業他社への就業禁止など)
  • 募集・採用に関する紛争
  • 損害賠償をめぐる紛争(退職に伴う研修費用の返還、営業車など会社所有物の破損についてなど)

ただし、労働組合と事業者の紛争や従業員同士の個人的な紛争などは、対象外です。

あっせんについて

紛争当事者の間で、紛争調整委員が双方の主張の要点を確かめ、調整し、話し合いを促すことにより、紛争の解決を図ります。紛争調整委員は、弁護士、大学教授、社会保険労務士などの労働問題の専門家が担当します。あっせんの特徴は七つあります。

  1. 対象となる紛争:労働条件その他労働関係に関する事項についての個別労働紛争が対象(募集・採用に関するものは対象外)
  2. 裁判に比べ、手続きが簡便・迅速
  3. 専門家が担当する
  4. 利用は無料
  5. 合意の効力:紛争当事者があっせん案に合意した場合、民事上の和解契約の効力を持つ
  6. 非公開(秘密厳守)
  7. 不利益取扱いの禁止:従業員があっせんの申請をしたことを理由に、従業員に対して不利益な取り扱いをしてはならない

まとめ

手当や補助は従業員のワークエンゲージメントやモチベーションにも影響します。自社のニーズや状況などをも鑑みた制度の構築が求められます。

企画・編集:『日本の人事部』編集部

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