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【ヨミ】トウキュウセイド

等級制度

等級制度とは?

「等級制度」とは、従業員をその能力・職務・役割などによって区分・序列化し、業務を遂行する際の権限や責任、さらには処遇などの根拠となる制度です。また、その組織がどのような人材を必要としているのかというモデルにもなります。いわば人事制度の骨組みともいえるでしょう。

掲載日:2021/03/31

1. 等級制度の三つの軸「能力」「職務」「役割」

等級制度によって、従業員は「会社がどのような人材を求めているのか」を明確に知ることができます。評価制度・報酬制度とともに、従業員が業務を行う上での目標となり、モチベーションを高める役割も果たします。

等級制度において従業員を序列化する基軸には、大きく「能力」「職務」「役割」の三つの軸があります。(複数の等級制度を併用するケースもある)

ここからは3種類の等級制度をそれぞれ分析、比較していきます。

2. 能力軸:「職能資格制度」

「職能資格制度」は、従業員が持つ能力に応じて等級を定める制度です。その特徴は以下のようにまとめることができます。

  1. この場合の「能力」とは、業務を遂行するために、これまで蓄積された能力(潜在+顕在)である。
  2. 能力は、特定の職務に関するものではなく、すべての職務に共通する形で表される。
  3. 職能資格によって決定される等級は、組織上の役職(部長、課長といった「職位」)と一致するとは限らない。
  4. 「人(能力)」ベースの等級制度である。

職能資格制度は、日本企業に固有の人事制度といわれ、日本企業の繁栄を支えてきたシステムです。等級が職務(職種)を超えて設定されていることから、特に、ジョブローテーションなどを通じて、ゼネラリストを育成してきた大企業に向いています。また、熟練工の「長年の経験と勘」が重要視された製造業にも適しています。

しかし、あらゆる職務に共通する能力考課を行うとなると、その基準はかなり抽象的なものにならざるをえません。そのためどうしても年功序列的な運用になるケースが多く、等級が上がるにしたがって、役職の数が不足する現象が生じ、人件費の高騰などの問題が表面化しました。

現在でも職能資格制度を採用している企業は少なくないですが、報酬制度で職務や業績などを大きく反映するなど、従来の職能資格制度から、少しずつ変化しています。

職能資格制度の一例

職能資格制度のメリット/デメリット

メリット デメリット
  • 人事異動や職務変更に向いている
  • 組織の柔軟性を保てる
  • ゼネラリスト育成に適する
  • 従業員にとって安心感がある
  • コアスキル習得に長い時間がかかり、そのコアスキルが企業競争力となる場合に向いている。
  • 資格等級と職務内容にずれが生じやすい
  • 年功序列的運用になりやすい
  • 中高年者が多い企業では組織がいびつになる
  • 総人件費が高めになる

3. 職務軸:「職務等級制度」

「職務等級制度」は、職務一つひとつの中身や難易度を明確化し、それぞれに対応する給与テーブルを用意する等級制度です。その特徴は以下のようになります。

  1. あらゆる職務(職種)について詳細な「職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)」を作成する。
  2. 職務記述書に明示された職務を遂行できれば、誰でも賃金は同じ。
  3. 「同一労働・同一賃金」が原則なので、学歴・年齢・勤続年数のような属人的な要素は考慮しない。
  4. ジョブサイズと呼ばれる職務価値により、賃金が決定される。
  5. 職務記述書には担当する業務すべてを網羅し、詳細に記述する。
  6. 仕事ベースの等級制度である。

もともとこの「職務等級制度」は、海外、特にアメリカにおいて発達したものです。属人的な要素が一切入らず、仕事のみで評価できる人事制度は、人種差別などで企業側が訴えられるリスクを減らすのに効果的でした。

職務等級制度導入のためには、まずすべての職務について職務記述書(職務基準書、職務明細書、ジョブディスクリプション、とも呼ばれる)を作成する必要があります。業務を遂行するために必要な知識、資格、熟練度、権限・責任、危険度、身体的・精神的負荷などをポイント化し、そのポイントによって給与テーブルを決めていきます。

この作業は非常に煩雑であり、多くの時間と労力がかかるほか、それぞれの仕事を理解する必要があります。どの職務にどの程度の給与を対応させるか、公平で納得性のある判断を行うのも難しく、運用には一定のノウハウが不可欠です。さらに、新しい部門や職務ができた場合には、その都度、職務記述書を作成する必要があり、頻繁に組織や業務が変化する企業には向いていません。配置転換が難しく、職務が変わらない限り、給与の上限が限られるため、向上心やモチベーションを維持できないといった問題も指摘されています。

日本でも1990年代以降、多くの企業で導入が検討されたが、職務記述書作成の煩雑さ、給与との関連づけの難しさは解決できませんでした。また、職務等級制度には、もともと「自分の仕事」と「他人の仕事」をくっきりと区分する性質があります。そのため、これを人事制度の根幹とすると、チームワークでお互いに助け合って業務を遂行する日本企業の良さが失われるといった見方も根強かったのです。そのため、外資系企業、もしくは日本企業においては一部のスペシャリスト職種のみを対象にするなど、職務等級制度の採用は大きく広がっていません。

職務等級制度導入の一例

職務記述書の一例

職務等級制度のメリット/デメリット

メリット デメリット
  • 職務と給与が合理的に対応
  • 求められる人材像がわかりやすい
  • スペシャリスト育成に効果的
  • 不必要な職務は圧縮される
  • 総人件費を抑制できる
  • 評価しやすい
  • 職務記述書の作成が煩雑
  • 組織や職務が固定化しやすい
  • 職務と給与の対応にはノウハウが必要
  • 職務が変わらない限り、給与も上がらない
  • 職務記述書の見直しが難しい
  • 生活給への配慮が難しい

4. 役割軸での区分:「役割等級制度(ミッショングレード制)」

「役割等級制度(ミッショングレード制)」は、「役職×職務=役割」と考え、その「役割」に応じて等級を設定する制度です。ただし、役割等級制度に統一的な仕組みはなく、導入される制度の形は企業によってさまざまとなっています。

役割等級制度(ミッショングレード制)イメージ

その特徴をまとめると以下のようになります。

  1. 「役割(ミッション)」基準の等級制度である。
  2. 「役割」とは職責を果たすために、期待される行動を、簡素化し、大くくりにしたもの。
  3. 定型化・細分化された職務内容だけでなく、管理職などのポジションに応じて期待される非定型な業務も含むことができる。
  4. たとえ能力があってもその役割を果たしていなければ、その等級の評価は受けられない。
  5. 役割(ミッション)ペースの等級制度である。

役割等級制度(ミッショングレード制)は、職務等級制度と同様に「仕事」を基軸とした等級制度ですが、その「果たすべき役割」の記述は比較的簡潔であり、職務等級制度における全職務の職務記述書作成ほど煩雑な作業は必要ありません。従業員一人ひとりが会社の経営目標達成のために「何をすべきなのか」をダイレクトに設定することができ、その役割に応じて給与テーブルが決まるわかりやすさも備えています。また、役割をある程度大くくりにしたことで、途中で組織や職務が変更された場合の対応力もあります。

「職能資格制度」「職務等級制度」がもつメリットを享受した等級制度が「役割等級制度」であり、比較的簡潔で導入しやすいため、現代の日本企業で急速に導入が進んでいます。しかし、企業により「役割等級制度」はさまざまな形で導入されており、定型的なフォーマットは存在しません。各企業が模索しているのが現状です。

役割等級制度(ミッショングレード制)の一例

職務評価の役割区分 職位 役割基準
M3 部長 全ての営業チームの最高責任者として、広範で総合的な判断を行い、取引先などステークホルダーとの交渉なども担当。企業利益を生み出す。
M2 課長 10名程度の部下を持ち、経営層や部長の方針を踏まえて、戦略を立案し、計画に落とし込んでいく。計画にそって、メンバーの行動へとブレークダウンし、課全体で業務を遂行する。メンバーのモチベーション向上に配慮したマネジメントを行う。
M1 係長 課長を補佐しながら、自己の営業目標、およびチームの任務を遂行し、また部下への指導・監督を行う。課長不在時には、課長の役割も担う。
E4 主任 自らの経験・裁量・創意工夫により、新規開拓、既存顧客への営業において、効果的な提案ができる。またチームのリーダーとして、2、3名の後輩の指導や営業同行を積極的に行い、後輩の営業数字にも貢献する。
E3 一般 新規営業先の自己判断ができ、商談では的確な提案をすることができる。また、社内ではチームにおいて、後輩への助言や相談対応ができる。
E2 上司や先輩の指示に従って、新規アポイントを取得しながら、企業へ伺い、課題をヒアリングし、提案することができる。また、獲得した顧客を2ヵ月に1度以上接触し、新たなニーズをつかむことができる。
E1 上司や先輩の指示に従って、電話で企業へのアポイントを取得し、上司・先輩同行の上商談を進める。日々、上司への適切な報告ができる。

役割等級制度(ミッショングレード制)のメリット/デメリット

メリット デメリット
  • 役割の大きさと給与がマッチしている
  • 従業員それぞれの役割が明確になる
  • 組織や職務の変化に対応できる
  • 役割評価が比較的容易
  • 総人件費はやや低めになる
  • 制度導入時から役割等級の信頼性を確保するには一定のノウハウが必要
  • 外部環境の変化に応じた役割の見直しなど運用力が求められる

役割等級制度(ミッショングレード制)とビジネスプロセス改革

役割等級制度(ミッショングレード制)は、もともと1980年代後半のアメリカで考案・導入されたのが始まりとされます。従来、アメリカでは職務等級制度が一般的でしたが、この制度ではどうしても個々人が決められた仕事だけをするようになり、組織も縦割り的となって、企業の競争力が削がれているという指摘がありました。 そのため、それまで縦割りだった業務に、部門間の壁を取り払って横串を刺すように柔軟性を持たせたものを「役割(ミッション)」だとし、「ビジネスプロセスの改革」(リエンジニアリング)を行いました。従って、役割等級制度(ミッショングレード制)の「役割」は、職務等級制度の職務記述書を単に簡素化したものではなく、そこに必ず「ビジネスプロセスの改革」を伴っていなくてはなりません。 ただ、現状の日本企業で導入されている役割等級制度(ミッショングレード制)には、部長や課長といった職位とその職務を「役割」と言い換えているだけのものも多く見られます。これは本来の役割等級制度(ミッショングレード制)ではないと指摘する意見もあります。

5. 等級制度に関連する人事管理

1)コース別人事

等級制度に関連する人事制度として「コース別人事」があります。本来は業務の専門化・高度化に対応するために、担当する職務や位置づけごとに人材を区分して処遇する制度ですが、日本企業でもっとも一般的な事例としては「総合職」「一般職」「専門職」に区分するコース別人事が知られています。

「総合職」は、基幹業務を担当し、将来は管理職となることを期待されるコースで、「一般職」はその総合職を補佐し、主に定型的な業務に従事するコースです。また、「専門職」は専門的な知識・技能などを持つ人材を育成するコースとされます。

こうしたコース別人事は、人件費や人材開発費を、企業にとって重要な部分に集中投下するために考えられたものですが、男女差別や学歴差別でしかないと批判する声も多いです。また、専門職に関しても、職能資格制度によって、「等級は上がったもののポストがない」中高年層従業員のための処遇職となっている事例が散見されます。そのため、大企業ではこうした形式だけになったコース別人事を廃止するケースが増えています。

その一方で、グローバル外資系企業などでは、幹部候補となるエリート的な人材(有名大学のMBA取得者など)を一般の従業員とはまったく違うコースで採用し、育成していく事例もよく知られています。こうしたいわば「選抜人事」を何らかの形で導入する例は、日本企業でも大手を中心に増加しているといわれています。

2)昇格・昇進

似たような意味あいで使われることが多い「昇格」「昇進」ですが、人事上は厳密な使い分けが必要です。

昇格 等級制度における資格等級が上がること
昇進 組織上の職位(部長、課長など)が上がること

昇格は、そのための基準などを定めた「昇格制度」によって運用されるのが一般的です。昇格基準(要件)は、以下の各項目が一般的です。もちろんすべてが必須ではなく、各企業で適切に組み合わせて昇格審査の材料とします。

  1. 業務遂行能力(人事考課)
  2. 同一等級での滞留年数
  3. 筆記試験、論文
  4. 面接
  5. 研修
  6. 上司による推薦

論文や面接では経営への理解度、クレドの理解度などを確認することも重要です。
一方、昇進は組織に欠員が生じた場合に、もっとも適任と思われる人材を任命するのが一般的です。方法としては、経営会議による選考・指名、上司による推薦、立候補者の中からの選抜など、さまざまな形態が考えられます。

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