「スキルマネジメント」ですべての人に活躍の機会を
目の前の仕事で結果を出し、縁を大切にしてきた
株式会社ワン・オー・ワン 代表取締役社長
矢野 茂樹さん
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従来のタレントマネジメントをさらに深掘りし、スキルを軸とした人材データベースの活用を進める「スキルマネジメント」が注目されています。特に製造業の現場では、生産性向上や技術継承に欠かせない考え方となってきました。このスキルマネジメントを効率的に実現するソリューションとして注目されているのが、株式会社ワン・オー・ワンが開発・提供するスキルマネジメントシステム「スキルナビ」。2022年より同社の代表取締役社長を務める矢野茂樹さんに、スキルマネジメントに出合うまでのキャリア、「スキルナビ」の特長や強み、ビジョンとミッションに込めた思い、日本企業におけるスキルマネジメントの現状や課題について幅広くうかがいました。
- 矢野 茂樹さん
- 株式会社ワン・オー・ワン 代表取締役社長
やの・しげき/大学卒業後、エルメスジャポン株式会社、株式会社ワークスアプリケーションズを経て、2008年デジタルマーケティング領域でサービス展開をする株式会社オムニバスに参画。2016年より同社代表取締役。2017年M&Aによる株式会社クレディセゾンのグループに入り、後にオムニバスの代表取締役、クレディセゾンのデジタル事業部、セゾンベンチャーズの投資委員を兼任。2022年より株式会社ワン・オー・ワンの代表取締役に就任。
ラグジュアリーブランドからIT業界へ
どのような学生時代を過ごしていましたか。
関西外国語大学で英語と中国語を勉強していました。印象に残っているのは北京の大学に約1年間留学したこと。中国に興味があったというより、とにかく外国で学んでみたいという動機が大きかったんです。もちろん外大生なので、卒業後は何らかの形で海外に関わる仕事に就きたいとは考えていました。
新卒で就職されたのは、有名ブランドのエルメスジャポンですね。
ファッションも好きだったので、ラグジュアリーブランドや繊維商社などを中心に就職活動をしました。その中で最初に内定をもらったのがエルメス。私はいわゆる就職氷河期世代ですが、スムーズに決まったほうだと思います。
京都の百貨店の店舗に配属され、販売員として働き始めました。役員など幹部の人たちが同席する食事会で、いきなり「社長になりたい」と宣言するような生意気な新人でした。最初は漠然と「社長になれたらいいな」と考えているだけでしたが、エルメスの顧客には会社を経営しているような人も多く、いろいろな話を聞くうちに、自分で事業をつくれたら面白いと思ったんです。当時は2000年代半ばで、「起業といえばIT分野」というイメージ。安易かもしれませんが、まずはIT業界の成長企業でスキルアップしようと考え、社会人3年目にワークスアプリケーションズへ転職しました。
初めてのIT業界での手応えはいかがだったでしょうか。
仕事は関西エリア担当の営業。ワークスアプリケーションズはそのころ、国産ERPの代表格と言われた「COMPANY」を主力製品として急速に業績を伸ばしていたため、今では考えられないくらいのハードワークをしていました。若手にも仕事をどんどんまかせてくれる社風だったので、国立大学や大手企業向けの数億円単位のプロジェクトを一人で担当することも珍しくなかったですね。
今考えると、とても良いチャレンジをさせてもらった期間でしたね。在籍時には周囲に高い成果を出している仲間がたくさんいたので、自分がどのくらい成長しているのかはよくわかりませんでしたが、のちに起業して会社を運営したときに、「あのころに身に付けた力が今に生きている」と感じました。
転職から4年後に起業されています。どんな経緯だったのでしょうか。
2008年に大学時代の友人と二人で「オムニバス」という会社を立ち上げました。友人とは、学生のときから「将来は一緒に事業を手がけよう」といった話をよくしていて、卒業後も定期的に連絡を取り合っていました。その彼が「面白い事業のネタがある。東京で一緒にやらないか」と声をかけてくれたのです。
友人は当時、インターネット広告を扱う会社にいて、ネット広告事業のアイデアを提案してくれました。私にとっては未体験の分野でしたが、好奇心やチャレンジ精神を強く刺激されました。チャンスだと思ったので、迷うことなくその話に乗って上京することにしました。
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まだ20代のときに創業されたわけですね。
はい。会社で事務所として借りたメゾネットタイプの物件の2階部分を昼間は打ち合わせスペースとして、夜はそこで寝るというように使う形でスタートしました。そこにパソコンと電話を置いて、最初は二人でひたすらテレアポです。絵に描いたようなベンチャー企業でした。
創業した2009年は、ネット広告業界に参入するには良いタイミングでした。私たちが手がけたのは「アドテクノロジー」を活用した事業です。複数のサイトにまとめて広告を出す「アドネットワーク」や、個人のネット閲覧履歴をデータベース化して、個人に合わせて興味を持ちそうな広告を表示する「ターゲティング広告」などの仕組みです。当時は、それらがアメリカから日本に上陸し、注目されはじめた時期でした。
私も友人も外大出身で英語が話せたので、アメリカで最先端のサービスを開発している企業と交渉して、日本での事業化を任せてもらう契約を次々に獲得していきました。大手のネット広告代理店がまだ本格的に手がけていないサービスをいち早く提案できたので、初年度から大きな手応えがありましたね。友人は本場のテクノロジーの動向に明るく、私は営業や顧客管理に強かったので、うまく役割を分担できていました。
高い技術力を持つワン・オー・ワンとの出合い
創業後はオムニバス社をどう伸ばしていったのでしょうか。
営業が順調だったので社員を採用しはじめ、翌年にはオフィスビルの事務所に移転しました。2010年代中盤で売上高が約20億円、従業員数50~60人だったので、規模的には大手ではありません。ただ、アドテクノロジーに強く、特色のあるサービスを提供する存在として、業界では知られるようになっていました。オラクルや博報堂グループなどの大手企業と組んで新しいサービスを立ち上げたり、海外の動画配信プラットフォームを国内で展開するプロジェクトに加わったりするなど、事業の幅を広げていきました。
2017年にクレディセゾングループに入り、矢野さん自身も代表取締役社長に就任されます。
オムニバスの得意分野の一つが、個人データを活用したデジタルマーケティングでした。アメリカではクレジットカードの購買情報を分析・活用して大きな収益を上げるビジネスが伸びていて、日本でもその分野に取り組みたいと考えたクレディセゾンに声をかけてもらいました。協業の話を進めていく中で最終的にM&Aを受け入れて完全なグループ会社になるわけですが、その後一緒に創業した友人が社長を退任し、代わりに共同代表であった私がオムニバスの社長を引き継ぐことになりました。
2016年から共同代表の形で経営してきたので、肩書が社長になっても基本的な会社との向き合い方は変わりませんでした。むしろ会社を買収してくれたクレディセゾンへの責任、またオムニバスを選んで入社してくれた従業員への責任があると思ったので、グループへの融合がしっかりと進むまでは自分の仕事としてやり切りたいという思いがありました。この時期はオムニバスの経営を見ながら、同時並行でクレディセゾンのデジタル事業部でのマーケティング、セゾンベンチャーズの投資委員としての仕事なども担当させてもらえたので、個人のキャリアの面でも広がりを持てたと感じています。
2022年に現職のワン・オー・ワン代表取締役社長に就任されます。
オムニバスがクレディセゾングループ入りして約5年。権限委譲を進めてオムニバスは私がいなくても問題ない体制ができあがり、私自身もちょうど40歳の節目を前に「そろそろ新しいことにチャレンジしたい」という気持ちが高まっていました。特に経営者としてまだ経験がなかった、株式上場に挑戦してみたいと考えるようになっていたのです。そんなとき、以前からの知り合いだったOrchestra Holdingsの代表から、「M&Aをしたワン・オー・ワンという会社を成長させて将来的には上場も実現したい。社長を引き受けてくれないか」と声をかけてもらいました。いろいろなタイミングがぴったりと合ったことで、現在に至っています。
外部から入って、いきなり社長を務めることにプレッシャーはありませんでしたか。
ワン・オー・ワンは歴史のある会社で、取締役には自分より年上の人しかいませんでした。そこに入っていくプレッシャーは当然ありました。しかし、この話を受ける決め手の一つとなった、ワン・オー・ワンの創業者・二階堂隆の存在が大きかったですね。二階堂はオラクル出身。データベースをはじめITに関する深い知見と会社への熱い思いを持った人です。一緒に仕事をしてみたいと心から思いました。
もともと営業や会社運営をその方面に強い人に任せて、開発に集中したいというのが二階堂をはじめとする創業メンバーの意向だったので、やりにくさはまったくありませんでした。今も製品開発などの技術分野は二階堂、それ以外の営業や組織マネジメントは私、という役割分担で会社を運営しています。
生産性向上を実現する「スキルナビ」
貴社では「すべての人に活躍の機会を」というビジョン、「進化し続けるテクノロジーで、不文律の言語化を実現し、世界の人材データベースをデザインする」というミッションを掲げています。どんな思いを込めていますか。
ビジョンとミッションは、ワン・オー・ワンの主力製品「スキルナビ」をどんな戦略で伸ばしていくかを考え、私と主要メンバーの話し合いの中で決めました。スキルナビは、スキルをわかりやすく可視化して人材マネジメントに生かせるソリューションです。それによって従業員のスキルアップや働き方の改善が進めば、エンゲージメントも向上します。日本でスキルマネジメントが十分に実現できている企業は、まだ少数派でしょう。スキルナビを活用してもらうことで、働く人たちがより活躍できる環境が整備されていくことが理想です。
今、「スキルマネジメント」という言葉が出てきましたが、一般的な「タレントマネジメント」とは何が違うのでしょうか。
ほぼ同じ意味で使われることも多いのですが、当社では明確に使い分けています。タレントマネジメントは、人事評価を中心にさまざまな人材情報を管理する考え方ですが、スキルマネジメントは、あくまでもスキルを切り口に人材データベースを活用する手法です。スキル特化型のタレントマネジメントとも言えますが、私たちとしてはむしろ、スキルを軸とした管理のほうが本来のタレントマネジメントだと考えているくらいです。
この発想は、特に製造業で工場管理などを担当している方ならすぐにわかると思います。現在、日本企業の現場では従業員の高齢化が進み、技術の継承が喫緊の課題です。若手の離職を防ぐためにも、具体的なキャリアマップを示して育成に本気で取り組むことが求められています。
そこで重要になるのが、誰が何をできるのかを可視化し、誰に何を習得させてステップアップさせていくのかといった情報を体系化した見取り図です。そのためには、細分化されたスキルを管理するシステムが欠かせません。スキルナビはこのスキルマネジメントのための専用ソリューションです。エクセルなどのシートでも一定の管理はできますが、永続的に更新しながら運用していくのは難しいですからね。
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あらためて貴社の「スキルナビ」の特徴や強みをお聞かせください。
高度なデータベース技術によって、スキルマネジメントを簡単に実現できるツールです。クラウドなので導入が容易で、特定の部門だけで運用する、といったテスト導入も可能です。スキルマネジメントに必要な項目はほぼ網羅しているので、特殊な運用をしているケースでも標準機能だけで対応でき、カスタマイズの必要がありません。初期設定をすべて当社が行うので、導入時の負担が少ないのも特色です。
どのような企業で導入されているのでしょうか。
大手企業がほとんどです。テスト導入でも数百人単位、本格的な場合は数千人の規模です。業種としては、工場を持つ製造業。国内だけでなく海外工場でも利用したいという声をよくいただくようになりました。人事からではなく、実際に工場管理を担当している部署からの引き合いをいただくことが増えてきたように思います。
今後は、製造業以外でもスキルマネジメントが注目されると考えています。どの業界でもリスキリングなどが重要なテーマになっており、生産性を上げるにはスキル管理に取り組まなければなりません。「これまでエクセルなどで管理してきたが、システムで管理したい」と考えている場合、スキルナビは有力な選択肢となるはずです。
スキルマネジメント分野の代表的存在に
日本企業における「スキルマネジメント」「タレントマネジメント」などの現状をどう捉えていますか。
近年、HRテクノロジーのソリューションが増えて人事領域のデジタル化が急速に進んでいます。ただ、スキルに限れば、データを活用してうまく可視化を進めている例はまだ少ないのではないでしょうか。従来はOJTなどを通して必要なスキルを伝えてきたわけですが、今後はITを活用してそれを可視化していくことが欠かせません。今の日本企業は、そうした技術継承や人材育成のアップデートが実現できていないため、生産性が低く、賃金も上がらないといった状況に陥っています。逆にいえば、当社にとっては大きな市場があると考えています。
貴社を含むHRソリューション業界の現状や動向についての認識をお聞かせください。
参入企業が増えるとともに市場が拡大しています。全体的にはとてもポジティブな状況でしょう。現在は一つのソリューションに特化した企業が多いのですが、今後は水平にサービスのラインアップを増やす方向でのM&Aが予想されます。特に大手はM&Aでプロダクトを増やしていくはずです。その一方で、当社のようにニッチな分野に強いタイプの企業も残り、総合型と特化型に二極化していくのではないでしょうか。
貴社は今後の展開をどのように考えていますか。
直近の目標は、スキル分野での圧倒的なナンバーワン企業になること。技術面では生成AIの活用を考えています。それによってスキルナビ本体の機能をさらに強化していきます。営業面では、国内と並行して海外工場のニーズに本格的に向き合っていきます。すでに前期から海外向けの取り組みはスタートしていて、今期はより本腰を入れていきます。
ご自身が若いころは、どのようなことをビジネスパーソンとし心がけていましたか。HRソリューション業界で働く若手の皆さんのヒントになるようなことがあれば、お聞かせください。
私のキャリアを振り返ると、広い意味でのIT関連の業務に従事してきた期間が長かったとはいえ、特定の業種にこだわってきたわけではありません。私が大事にしてきたのは「目の前の仕事で結果を出す」ことです。そのためには現場を理解する、顧客の声を聞くことが欠かせません。ワン・オー・ワンで働きはじめたときも、半年ほど社長であることを伏せて新規営業をやってみました。自分で汗をかいてスキルナビの市場での立ち位置、顧客からの見え方などを理解したことで、以前からいるメンバーにも納得してもらえる経営戦略を打ち出せたと思います。
もう一つは「縁を大切にする」こと。思えば、起業したのも学生時代からの友人との付き合いがきっかけですし、ワン・オー・ワンに関わることになったのも、たまたま知り合ったOrchestra Holdingsの代表との交流があったからです。目先の損得ではなく誠実にお付き合いしていると、意外な縁が運ばれてくることがあるのです。特に社外の人との交流は、新しいチャレンジにつながっていくと思います。
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(取材:2025年1月21日)
社名 | 株式会社ワン・オー・ワン |
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本社所在地 | 東京都渋谷区恵比寿4丁目20番3号 恵比寿ガーデンプレイスタワー8階 |
事業内容 | クラウドサービスおよびパッケージ製品開発販売事業/コンサルティング・サービス事業/システム開発受託事業 |
設立 | 2002年12月25日 |
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日本を代表するHRソリューション業界の経営者に、企業理念、現在の取り組みや業界で働く後輩へのメッセージについてインタビューしました。
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