株式会社ハブ:
内定時から「英国研修」を実施。
現場で働く人の自律性を引き出し、強い店長を作る
“ハブ流”人財育成術
総務人事部 マネジャー
余田 佳子さん
内定者に対する「英国研修」で経営理念を体感させる
なるほど。人財育成に対する基本的な考え方が理解できました。次に、具体的な取り組みについてうかがいます。まず、内定期間中にはどのような研修を行っていますか。
内定時期の11月上旬に1週間かけて「英国研修」を行います。これは、現在のハブが創設された1998年から実施しているものです。この時期に、PUB発祥の地・英国で本場・本物に接することで、当社の経営理念を体感することができます。そうすることで、入社する4月1日の段階で「自分たちは何をしたらいいのですか?」ではなく、「自分たちはこうしたい。例えば、自分たちが見てきた英国のPUBではこんなことをしていました」といった会話ができるようになります。入社時点でこれができていることで、その後の成長は大きく変わっていきます。
この「英国研修」には、在職中の社員も同行します。成績優秀者へのインセンティブとして、参加資格が付与されるものです。内定者と先輩社員が同じ研修に参加することで、お互いにコミュニケーションをとることができますし、内定者は入社前に組織や人間関係に対する理解を深めることもできます。
余田さん自身は英国研修に、どのような感想を持たれましたか。
英国でのPUB巡りには、新たな発見が多かったですね。特に、現地の方々がとてもフレンドリーだったことが、強く印象に残っています。雰囲気もさることながら、その盛り上がり方に、大変驚いたものです。会社説明会で社長が強調していた英国PUB文化を、まさに体感することができました。
このような体験は、入社後の働く動機づけに大きな影響を与えるのではないでしょうか。
内定者には事前にそれぞれのテーマを持たせて参加してもらっています。そして帰国後は、そこでの体験をレポートとして提出してもらいます。これには、個人とグループの2種類があります。例えば、「メニューの黒板の書き方」「店内の照明」「家具」など、皆が好きなテーマを出し、それに関するレポートを、個人とグループとに分けて提出してもらいます。内定者は単にPUBでお酒を飲むだけではなく、写真などを撮影したり、他のグループと情報交換をして、行ってみたいPUBをチェックしたりします。このような強い関心を持って、現地に行くわけです。そして、そこでの知見をハブではどのようにして活かしていくかを発表してもらいます。
単に英国PUBを知るというだけではなく、そこで経験したことを、ハブでいかに活かしていくか。そこまで踏み込んだ形の実地研修となっているわけですね。
その通りです。発表は入社式の前日に、社長をはじめとした経営陣や各部門長の前で行います。資料はパワーポイントで作成し、発表時間は個人・グループとも1回あたり10分程度。全ての発表を2時間くらいかけて行ないます。最優秀賞として個人とグループそれぞれに、インセンティブとして賞金が与えられます。
入社後、早い段階で店舗マネジメントに関する手厚い研修を実施
内定時期の研修では、「英国研修」の果たす役割がとても大きなものとなっていますね。では、入社後は、どのような研修を用意されているのですか。
まず、入社前の1月に2日間かけてレシピの読み合わせや、キッチン・カウンターツアーを実施するなど、店舗で必要とされる知識を学ぶ「オペレーション研修」を行います。そして、入社後の4月に1ヵ月間をかけて、エリアマネジャー指導のもと、実際にオペレーションを行いながら、スキルをきちんと身につけてもらいます。店舗に配属された後は、「新入社員1ヵ月フォロー研修」「新入社員6ヵ月フォロー研修」を行っています。
教育体系図を見ると、2年目の店長代行時期の内容が非常に手厚くなっています。入社してからの1~2年目の時期が、教育を行う上で重要だとお考えなのでしょうか。
2年目からは、対象が店長代行になり、研修メニューも増えていきます。この時期、特に注力しているのが、リーダーシップとコミュニケーションに関する研修です。店長は、店舗にいるアルバイトのクルーをまとめていかなければなりません。そこで求められるのが、リーダーシップとコミュニケーションのスキルなのです。
実際の店舗では、店長と店長代行の下、10人から20人ものクルーがいるわけです。これだけの人数をまとめていくのは、かなりのマネジメント力を必要とします。加えて、弊社では週休2日制ということもあって、1週間のうち店長、店長代行の両者がいるのは金土日の3日くらい。後の4日間は、どちらか1人がクルー全員をまとめていかなくてはなりません。だからこそ、早い段階で店舗マネジメントに関する手厚い研修を行うわけです。
これらの研修は、基本的にoff-JTの「座学」ですか。
店舗を離れた全く違う環境の下、1日1テーマで6時間、外部講師を招いて密度の濃い内容で行っています。頻度は、店舗経営に負担がかからないよう、月に1回くらいとしています。重要なのは、ここで学んだ内容を店舗でいかに活かしていくかということ。そして、店舗で経験したことを次は研修で理論づけていくなど、現場と研修とが連動した形での教育を目指しています。実際、研修での課題も、店舗の中で問題となっていることを扱うケースが多くなっています。
具体的には、どのようなことを行っていますか。
例えば、あるクルーを半年間かけてどういう風に育てていくかというテーマの場合、事前に育成の計画書を作成し、その進捗状況を追いながら研修で発表していく、というスタイルをとっています。そこでは店長に指導も仰ぐわけで、まさに、現場の問題を研修で解決していくという、非常に有機的な関係となっています。飲食業の場合、現場が非常に大切であり、研修で学んだことが実践として使えないと意味がありません。
店長に求められるスキルの中で、最も重要であるもののひとつとして「人財育成」が挙げられます。実際に、店舗で指揮をとっていくためにはリーダーシップとコミュニケーションが非常に重要なファクターとなるわけですが、それはそのまま「人財育成」にもあてはまります。そのため、店長になる前の教育に力を入れる必要があるのです。仮に、メンタル面でそれほど強くない人の場合、何の準備もなしでは、いろいろな人間関係の中で精神的にダメージを受けてしまうことも考えられます。そうしたメンタル不全に陥らないよう、早い段階から店舗管理に必要なさまざまなスキルを身に付けてもらうようにしています。
人とコミュニケーションが取れ、リーダーシップを発揮し率先して店舗運営を行うことができる強い店長を育成していくために、内定時期から時間をかけて、研修を行っているわけですね。ところで、教育体系図にもあるように、一般的には4年目で店長へと着任することになるのでしょうか。
そうですね。私の場合は1年間で店長になりましたが、その頃はまだ研修制度が現在ほど整備されていなかったので、毎日が試行錯誤の日々でした。ただ、これでは計画的に人を育てていくことは難しい。そこで、以前からあった多くの研修プログラムを体系化し、ハブ大学として社内外に分かりやすい教育体系を確立していったわけです。その結果、店長になる前段階での準備期間としては、一般的には3年程度が必要ということになりました。
企業理念の部分は変わらないが、それを実現するための人づくりに関しては、10年近くという相当の年月が必要だったということですね。
その通りです。
外から見ていても、飲食業の現場の仕事は非常に大変です。だからこそ、内定の段階から「英国研修」という本場、原点を体感する経験と入社前のオペレーション研修を経て、現場と座学の両方で人財を計画的かつ早期に育てていくわけですね。