入社3年以内の社員における離職率が10.5%から1%台まで低下
大成建設の「孤独」を「活躍」に変える人財育成改革
田中 康夫さん(大成建設株式会社 管理本部人事部 人財研修センター センター長)
榎木 雄一さん(大成建設株式会社 管理本部人事部 人財研修センター 課長代理)
山﨑 涼香さん(大成建設株式会社 管理本部人事部 人財研修センター)

かつて入社3年以内の社員における離職率が10.5%であった大成建設株式会社は、約300人の若手社員と面談して浮かび上がった「孤独」を解消するため、人財育成改革に取り組みました。2025年度には入社3年以内の社員の離職率が1%台まで下がり、事務系社員においては「入社3年以内の離職者0人」を実現。離職率が高い建設業界で、どのように若手社員の退職を防ぎ、自律的な成長を後押ししているのでしょうか。同社管理本部 人事部 人財研修センターの田中康夫さん、榎木雄一さん、山﨑涼香さんにうかがいました。

- 田中 康夫さん
- 大成建設株式会社 管理本部人事部 人財研修センター センター長
たなか・やすお/2000年 大成建設に入社し、国内外の建設現場の事務業務や本社機構での各種プロジェクト推進を経験。2023年7月より、全社的な人財育成制度や研修改革の推進責任者として、TAISEI VISION 2030の実現に向けて、各種人財育成施策の企画と具現化を担当する。

- 榎木 雄一さん
- 大成建設株式会社 管理本部人事部 人財研修センター 課長代理
えのき・ゆういち/2013年 大成建設へ入社し、国内の大型プロジェクトはじめ建設現場の事務マネジメント業務に従事。2024年からは人事部人財研修センターに所属し、若手社員離職防止施策や全社育成指針のマスタープラン推進など、全社的な人財育成に取り組んでいる。

- 山﨑 涼香さん
- 大成建設株式会社 管理本部人事部 人財研修センター
やまざき・すずか/2019年 大成建設へ入社し、国内の建設現場にて業績・リスク管理などの事務業務に従事。2024年からは人事部人財研修センターに所属し、キャリア形成支援に関する新規施策の立案・実施をはじめ、情報発信、イノベーション人財育成の推進を担当している。
若手社員300人との面談から始まった人財育成改革
人財育成改革に取り組んだ経緯を教えてください。
田中:私は2023年に人事部人財研修センターのセンター長に就任したのですが、当時は若手社員の早期離職が大きな課題となっていました。人事部門の経験がなかったので、まずは現場の本音を知ろうと考え、若手社員約300人との面談を実施。すると、配属先に同世代の仲間がいない若手社員の多くが「孤独」を感じていることが分かったのです。また、「今後のキャリアを描けない」「仕事を通じて成長している実感がない」「今の仕事で専門性が身につくのかが分からない」といったキャリアに対する不安やフィードバックの不足を感じていることも明らかになりました。
集めた若手社員の声や当社が中長期的に目指す姿「TAISEI VISION 2030」の内容を反映し、目指すべき人財像や教育体系を再構築。2024年に「人財育成マスタープラン(基本計画)」を策定しました。マスタープランは、当社が掲げる「人々が豊かで文化的に暮らせるレジリエントな社会づくりに貢献する先駆的な企業グループ」というビジョンを実現するため、「専門性」「人間力」「リベラルアーツ」を兼ね備えた人財の育成を目指しています。

「人財育成マスタープラン」策定後、どのようなことに取り組まれたのでしょうか。
田中:まず、人財育成マスタープランを強力にけん引するため、人財研修センターの在り方を抜本的に変革しました。従来の「階層研修の運営事務局」という位置付けから、「全社における育成施策の立案・キャリア形成支援、そして、生成AIを使いこなす人財の育成により経営課題の解決をけん引していくチーム」へと再定義したのです。2023年当時はわずか4人のメンバーでしたが、2026年現在は21人が在籍し、体制を強化しています。
榎木:以前は各事業部で「現場での実務を通じて先輩社員から学ぶOJT」を基本としていたため、若手社員が孤独を感じやすいという課題がありました。また、事業部ごとに教育の質にばらつきがあり、将来のキャリアを描きづらい点も問題でした。そこで、2024年度から人財研修センターがOJTを主導する形へとシフトしました。また、若手社員同士のつながりや自律的なキャリア形成を後押しするために、原則入社1年目の新入社員を対象とした「メンター制度」と、グループワークによる「振り返り型のマネジメント」を採り入れました。
メンター制度はどのように運用しているのでしょうか。
榎木:週に1回、オンラインでのグループワークを実施しています。新入社員を支えるメンターは部署や年次、社員区分を問わず公募により選任しており、意欲のある社員がその役割を担っています。一人のメンターと四~五人の若手社員でチームを編成。メンバーが所属する事業部や職種はあえてばらばらにしており、各事業部との横のつながりを作ることができるのが特徴です。業務負担を軽減するため、メンターは3〜4ヵ月ごとに交代しています。
グループワークでは、「自律自転」できる人財を育成するために、四つのサイクルを回しています。まず「目標設定」。次に、目標達成のための「事前準備」を行い、自身でやると決めたことを列記します。そして決めたことを「実行・修正」し、最後に「振り返り」をするというものです。目標を意識し、その実現のためにどう行動すべきかを若手社員が主体的に考えます。四つのサイクルと次のアクションをシートに記入し、週1回のグループワークの場で共有するのです。
目標は「人生をかけて」「今期」「今月」など複数の時間軸で設定します。その上で、目標実現に向けて「今週できたこと・できなかったこと」を振り返り、「作業の時間をうまく確保できなかった」「目標を意識した行動ができなかった」など、「できなかった要因」を洗い出していくことを繰り返します。
グループワークを運用する中で、大切にされていることを教えてください。
榎木:「自分自身の言葉で言語化すること」を大切にしています。メンターがすぐに答えを教えてしまうと、自発的に考える習慣が身につきません。メンターへの事前研修では、新入社員の話に耳を傾け、自ら答えに気づけるよう伴走する姿勢の大切さを伝えています。また、チーム内では「仲間の発言を否定せず、まずは受け入れる」というルールを徹底しています。この安心感があるからこそ、新入社員は萎縮することなく自分の言葉で話すことができるようになるのです。成果を出す人は振り返りの質が高い。若手のうちから「内省の習慣」を身につけさせることが重要だと考えています。
田中:グループワークの冒頭には、アイスブレイクとして「24時間以内に感謝したことを共有する」時間を設けています。これを継続すると、日常の中で自然と感謝の種を見つけられるようになり、社員のエンゲージメント向上につながります。また、ワーク中はお互いを積極的に褒め合うことも大切です。単なる「新人育成のワーク」ではなく、より良い組織風土の醸成につながる場にすることを目指しています。
グループワークによって、どのような変化が生まれましたか。
榎木:新入社員は、「目標を意識する」「振り返る」という自律自転の型が身につくと同時に、回を重ねるごとに発言の内容が濃くなっていきました。「周りの社員が真剣に取り組んでいるから自分も頑張ろう」という、相互尊重と切磋琢磨(せっさたくま)の風土が生まれたのです。さらに、異なる事業部や職種のメンバーと交わることで視野が広がっているようです。一方、メンターにとっても、若手社員の声に耳を傾け、共に課題を解決するプロセスは大きな学びになっています。リーダーの在り方や今後のキャリアを考える良い機会になっているようです。

それまで事業部にあったOJTの主導権を人財研修センターに集約することに対して、現場から反発はありませんでしたか。
田中:現場からはメンター制度やグループワークに対して、「本当に効果があるのか」「現場の負担になるだけだ」という声が上がりました。そのため、「小さく始める」ことを意識しました。全社に導入する前に、まずは事務系社員に絞って導入したのです。その後、「事務系社員の離職率が改善した」という実績を示すことで、各本部の納得感を得ました。「自部署でも導入したい」という声が上がり、現在は土木や建築に携わる社員もメンター制度やグループワークに参加しています。
公募研修の参加者が4倍に増加
新たに構築した研修体系についてお聞かせください。
榎木:以前は、各事業部が独自に研修を実施していたため、教育の質に差があることが課題でした。2024年度に人財育成マスタープランに沿う形で、「基礎」「共通」「専門」の3分野からなる全社統一の研修体系を構築しました。まず「基礎」分野では、社会人マナーに関する研修や、新入社員に向けたオンボーディングを実施しています。「共通」分野には階層別研修や、スキル習得を目指す公募・選抜型の研修などが含まれます。具体的には、「DX」「SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)」などのカリキュラムを用意しています。最後に、「専門」分野。研修を通して、コスト管理や技術研修など実業務にかかわる専門知識を身につけることができます。専門性を鑑みて研修の運営は各本部に一任しています。
「基礎」と「共通」の研修は、全社員が自由に受講することができます。受講形式はリアルタイムでのオンライン配信やアーカイブ配信など、さまざまな選択肢を用意しており、全国どこにいても、いつでも受講可能です。
また、3分野の研修体系に加えて、全管理職および希望者を対象にリベラルアーツ学習プログラムを導入しました。新卒の社員も任意で受講できます。大成建設が目指す人財像において、豊かな感性や物事の本質を見抜く力を養うリベラルアーツは「人間力」や「専門性」と並んで不可欠な要素で、お客さまの想像を超える提案を生み出す原動力となります。例えば、「歴史上の人物のマネジメント手法」をテーマに語り合うセッションを行いました。日常業務では得られない視点に触れることで、激しい社会変化に対応できる「自由な発想力」を培うことが狙いです。
どのくらいの社員が受講していますか。
山﨑:公募型研修の参加者数は、2024年から2025年にかけて4倍に増加しました。人財研修センターによる地道な認知拡大のアプローチが実を結んでいます。研修のレポートや受講者の声をまとめた記事・動画を、社内SNSで積極的に発信し続けてきました。広報のタイミングを評価面談の時期に合わせるなど工夫し、「上司へのアピール材料にしたい」「自身の成長を面談で伝えたい」という社員のモチベーションと合致するため、この時期は特に応募が増える傾向にあります。
参加者3200人超の「社内キャリアイベント」
若手社員のキャリア自律を促すために社内イベントを実施しているとうかがいました。
山﨑:全事業部・全職種の社員が参加できる「社内キャリアイベント」を、オンラインとオフラインのハイブリッド形式で開催しています。社員が登壇し、現在の仕事内容や、やりがい、過去にどのような壁にぶつかってどう乗り越えたのかという「生の体験談」を届けることを重視しています。「あの人の話を聞きたい」という社員の声から企画が形になることもあれば、「自部署の魅力を知ってほしい」と事業部のマネジャーが持ち込むケースもあります。
2025年に開催した社内キャリアイベントでは、約100部署の代表者が登壇。2026年6月には2週間にわたる「キャリアWEEK」を開催しました。人財研修センターの田中がホストを務め、退職した社員を迎えて「外部から見た大成建設の魅力」を語ってもらう、「やすこの部屋」というセッションが大人気でした。社内キャリアイベントは、1回あたりの延べ参加者数が3200人を超える大規模イベントへと成長しています。
また、イベントの動画や記事は「キャリア図鑑」として社内ポータルでいつでも閲覧できます。社員がキャリアに悩んだときに、アーカイブを見てヒントを得てもらうためです。将来的には、社員のキャリアに対する悩みに合致した動画をAIがサジェストする仕組みを取り入れたいと考えています。
イベントの参加者からはどのような反響がありましたか。
山﨑:アンケートでは「キャリアについて考えるきっかけになった」「他事業部や他職種について知ることができた」「向上心が芽生えた」といった声がありました。また、「希望する部署に必要な資格を取得した」「上司や周囲の社員にキャリアの相談をした」など、意識の変化だけでなく具体的な行動変容につながったという回答もありました。2024年は45%だったキャリアイベントの認知度は、2025年には70%まで向上しました。

「モチベーション低下」のサインをパルスサーベイで早期発見
若手社員のモチベーションを維持するために取り組んでいる施策はありますか。
榎木:3~5問の簡単なアンケートを毎月実施することで、若手社員の心理状態を観測し、分析しています。質問は「担当業務をうまく遂行できているか」「上司と話しやすい環境か」など、社員の在籍年数に応じて変更しています。回答方法は5段階の選択式で、自由記述による入力も可能です。集約したデータに基づき、各社員のコンディションを「晴れ」「曇り」「雨」の3段階のマークで可視化。回答結果や自由記述の内容から、わずかな変化をシステムがキャッチするので、モチベーション低下の兆候を早期に発見できるようになりました。
パルスサーベイの結果を受けて、人財研修センターはどのように対応しているのでしょうか。
榎木:コメントを入力した社員には、人財研修センターの担当者が個別に返信しています。AIが過去のやり取りを分析し、社員の状況や性格に合わせた最適な文面をサジェストする仕組みを導入。もちろん、最終的な文章の確認や面談は、担当者が責任を持って行います。
また、相談内容は原則として人事部長、人事室長、人財研修センターのセンター長とサーベイ対応担当者でのみ共有します。現場の上長を経由させないことで、本音を打ち明けやすくしているのです。パルスサーベイを導入した結果、ハラスメントやメンタル不調など、若手社員が抱える潜在的なリスクを察知し、未然に防ぐことができるようになりました。
事務系社員の「入社3年以内の離職者数」が0人に
人財育成改革の施策はどのように企画、検討しているのでしょうか。
田中:8000人以上の社員から寄せられる「キャリア形成支援策に関するアンケート」の回答を分析し、ニーズに合致した打ち手を考えています。現場の要望を形にする上で、人財研修センターに与えられた予算を超える施策が必要な場合は、経営層に対してニーズを示し予算計上を交渉することもあります。
山﨑:アンケートは施策の認知拡大ツールとしても機能しています。「キャリアイベントを知っていますか」といった質問を入れることで、回答する社員に「会社がどのようなキャリア支援策を導入しているか」を周知できるようにしているのです。
数々の取り組みによる具体的な成果を教えてください。
田中:最も大きな成果は、若手社員の孤独感が解消され、離職率が劇的に低下していることです。事務系社員の「入社3年以内の離職者数」は0人になりました。また、全社の入社3年以内の社員における離職率も2022年度の10.5%から2025年度には1%台へと大幅に低下しています。アンケート調査でも、「一人で抱え込まなくていいんだ」「会社が真剣に人を育てようとしている熱意が伝わる」「会社の未来に希望が持てるようになった」といった前向きな回答が多く寄せられました。自律的なキャリア形成を応援する風土が、会社全体のエンゲージメント向上にもつながっていると実感しています。
今後解決すべき新たな課題や、現在注力している取り組みはありますか。
田中:公募研修に関して、社員の間に学習機会の格差が生じている点が課題です。現場勤務など、繁忙を極める部署の社員は、なかなか研修を受講できません。短時間で受けられる研修カリキュラムの作成や、地方での研修を企画する必要があると考えています。また、「AIと共創できる人財」の育成に注力しています。2025年度は生成AIを活用できる人財育成の対象を250名から5000名に拡大しました。今後はこの輪を全社そして全グループ会社へさらに広げていく予定です。
最後に、若手社員の早期離職や人財育成に悩む人事パーソンに向けてメッセージをお願いします。
田中:組織の改革は決して簡単ではなく、地道な努力が不可欠です。目の前の社員の声に耳を傾けて、それを必ず実行する。私は約300人の若手社員と対話することから始めました。大きな組織では、改革に対して批判の声を耳にすることが多く、つい「できない理由」を探してしまいがちです。しかし、重要なのは「できること」に目を向けること。最初の一歩を踏み出せば、組織の歯車は必ず動き出します。あきらめずに試行錯誤を続ける。覚悟を持って、共に良い組織を作っていきましょう。

(取材日:2026年6月22日)
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