転職する前に知りたい「企業の本当の姿」
人材紹介会社の持つ情報はどこまでが真実か?
貴重な情報ではあるけれど… 転職者が語る社内事情は信頼できるのか
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今では世界的な有力企業に成長
「分かりました。日本の大手関連企業にお世話になりたいと思います」
こうして転職したAさんだったが、2年ほど経った頃に再度、転職相談でお目にかかることになった。
「会社全体が親会社に吸収されることになりましてね。事業自体も、撤退の方向で動くようです」
転職した企業のビジネスは、あまり順調に展開していかなかったようだ。日系の大手企業なので関連会社の従業員をすぐには解雇しないようだが、Aさんとしてはやりたい仕事ができなくなるので、もう一度転職を考えているとのことだった。
その頃から、外資系ネット企業の方は日本で、そして世界で業績を伸ばし始めていた。インターネットビジネス全体の急成長という追い風も影響したのだろう。10年経った現在では大手企業へと成長している。日本でもインターネット利用者で知らない人はいないほどの浸透ぶりだ。
それ以来、「私がAさんに提供した内部情報とは何だったのだろう」という気がしてしまうのだ。
「もしあの時、Aさんが外資系ネット企業に転職していたら…」
仮定の話には意味がないのかもしれない。情報自体はその企業の在職者からダイレクトに聞いた話で、嘘ではなかった。しかし、私が「おすすめしなかった」企業の方が今は圧倒的に成功しているのが事実なのだ。
人材紹介会社のコンサルタントが会うのは、転職希望者だ。在職している会社に未来を見出している人は、そもそも転職など考えないだろう。人材紹介会社で集めることができる内部情報、裏情報は、ネガティブなバイアスがかかったものだとあらかじめ考えておいた方がいいのかもしれない。
もちろん、その情報には真実が隠されていることもある。ある上場企業で「粉飾決算をしているらしい。自分はその粉飾に関わりたくない」といって転職を希望される方がいた。事が重大なので誰にでも情報提供できる話ではなかったが、数年後にその企業には当局の捜査の手が入り、その後、他社に買収され今はなくなっているという事例もある。
「こういう見方もあるという前提でお聞きいただきたいのですが…」
内部事情の話をする時には、こうした前置きは欠かせない。内部情報を求める転職希望者の期待には応えたいが、その影響力の大きさも十分に認識して話をしなくてはならないからだ。人材紹介コンサルタントの責任の大きさを改めてかみしめている。
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