転職する前に知りたい「企業の本当の姿」
人材紹介会社の持つ情報はどこまでが真実か?
貴重な情報ではあるけれど… 転職者が語る社内事情は信頼できるのか
転職する前に誰でも知りたいと思うのが「その会社の本当の姿」。表面からはなかなか分からない社内の実態や社風といった情報の提供を、第三者である人材紹介会社に期待している転職希望者はかなり多い。人材紹介会社は企業の採用窓口(人事部)と接するのと同時に、多くの企業の在職者や退職者と転職相談の場で顔をあわせている。確かに、非公式な内部事情などをその場で耳にすることは多い。ただし、それらの情報はあくまでも非公式な上に、特定の人の視点による偏った情報であることを考慮しておく必要がある。
これ以上このビジネスは伸びない?
「この会社にはとても関心があります。何か“裏情報”などがあれば、教えていただけないでしょうか」
転職相談に乗っていると、こう言われることがよくある。ネットの企業情報を見ても、あるいは実際に面接に行っても、分かるのは表面的な「公式の情報」だけだ。転職後に「こんなはずではなかった」と思うことのないように、その会社の本当の姿を知りたい――そんな気持ちは誰もが持っているだろう。
「インターネット掲示板の情報も本当かどうか判断がつきません。やはり多くの転職者に接している人材会社のコンサルタントの方にお聞きするのが一番いいと思ったんですよ」
たしかにネットの巨大掲示板には、さまざまな情報が乱れ飛んでいる。しかし、鵜呑みにしてはいけない情報がほとんどだ。
こんな時、私にはいつも思い出す経験がある。もう10年くらい前の話だ。ある外資系ネット企業に勤務している方の転職相談に乗っていた。勤務先は、その業界のパイオニア的な企業だったが、当時、日本では思うように事業が伸びていない状況だった。
「アメリカ本社の業績推移の内部資料なども見ることができるのですが、このビジネスモデルはよくて収支トントンだとはっきりしてきています。日本での認知度も上がっていませんし、退職する同僚も増えています。そこで私も次の転職先を探しておきたいと思いまして…」
その方の話には非常にリアリティーがあった。ネット企業が知名度を上げても、それをどう収益に結びつけるかが難しいと盛んに指摘されていた時代だ。それ以降、私はその外資系ネット企業を転職先候補の一つにしている転職希望者には、「黒字化が難しそうだという話を聞きましたよ」といった情報提供をしていたのだった。その中の一人にAさんがいた。
Aさんは、その外資系ネット企業と日本の大手関連企業の2社から内定をもらっていた。私は外資系ネット企業について知っている話をした。在職者から直接聞いた話なので、説得力があったのかもしれない。Aさんはとても素早い決断力の持ち主だった。