ビジネスライクな関係を求める転職者とのつき合い方
忙しい現役ビジネスパーソンに多い? 信頼関係を築けない転職支援
人材紹介は、キャリアアドバイザーという「人」が介在することが大きな特色だ。転職希望者と対面して相談を受け、信頼関係を築いた上で求人情報を紹介するのが一般的なやり方だが、忙しい現役ビジネスパーソンの中には、「自分で探す時間がない」という理由で人材紹介を利用する人も少なくない。「信頼関係はどうでもいいから、とにかく良い求人を紹介して欲しい」と事務的に進めていくことを希望する人もいる。基本的には転職希望者の意向が最優先だが、私たちも少々とまどってしまうこともある。
一度も会わずに企業を紹介することも
「まずは求人票を送ってください。検討した上で応募をしたいと思った場合は、こちらから連絡します」
Kさんからのメールは相変わらずシンプルなものだった。人材紹介会社では、転職希望者の登録があるとまずはキャリアアドバイザーが相談を受ける。来社してもらい対面で行うのが普通だ。そこで転職動機や今後の希望などを詳しくヒアリングし、こちらも細やかな心配りとともに転職をお手伝いすることを伝える。大切な個人情報を扱うこともあるので、まずは信頼関係を築くことが重要なのだ。
ところが、Kさんは「仕事が忙しいので」と転職相談を断ってきた。そのかわり、自分にふさわしい求人があったら教えて欲しいと、職務経歴書と希望条件を書いた資料をメールで送ってきたのである。実はこのような転職者は時々いる。在職中でなかなか時間がとれないか、多数の人材紹介会社に登録していて、どこでもそう違わない転職相談を受けることにうんざりしているような人だ。
Kさんとはなかなか会えなかったが、しばらくするとA社から、Kさんにぴったりの求人案件が届いた。私は「この機会を利用してKさんに会える」と思ったのだが、そう甘くなかった。「求人をご紹介したいので、お目にかかれませんか」という私のメールに冒頭のような返信をしてきたのである。
求人票を送ると、Kさんからは「興味があるので企業に推薦してください」という返答があった。A社にKさんを紹介すると、書類選考を通過したとの連絡がきた。Kさんの経歴はA社の募集条件にぴったりだったので、予想通りである。面接の日程などを決めるため、私はKさんの携帯電話にかけてみた。
「面接の前にA社の情報をいろいろお伝えしたいと思います。一度ご挨拶もしておきたいですし」
さすがに企業での面接の前には、一度会っておいた方がいいと思った。面接の前後に、A社の人事担当者から「どんな方ですか?」と印象を聞かれるかもしれないからだ。職務経歴書などでキャリアを知ることはできても、キャラクターなどは実際に会わないとわからない。キャリアに関係なく非常に個性的な人はいる。その場合、あらかじめ情報を伝えておいた方が話はスムーズに進むものだ。
しかし、Kさんはあくまでもビジネスライクだった。
「仕事が忙しいので、面接当日まで時間がとれません。A社のことも大体はわかっていますから別にいいですよ」
「では、せめて面接当日にご挨拶だけでも……。A社の近くに喫茶店がありますので」
「いえいえ、当日はたぶんギリギリに着くと思うんです。お会いしている時間はないかと。無理に来てもらわなくても大丈夫です」
これ以上しつこくすると嫌がられるかもしれないと思い、結局、Kさんとは一度も会うことなくA社の面接当日を迎えたのだった。