突然の申入れにどう対応するか?
合同労組からの団交申入れのパターン&基本的対応法
弁護士
山田 洋嗣
2. 合同労組から団体交渉を申し入れられた場合の対応
合同労組の組合活動上の問題点は、極めて多岐・多数にわたります。しかし、誌面の限られた本稿でそれらを網羅的に解説するのはおよそ不可能であるため、以下、合同労組から団体交渉の申入れがあった際に、企業担当者の方が疑問を抱かれるであろう点について解説します。
(1)問題点
合同労組との関係は、ほとんどの場合、突然の団体交渉の申入れにより始まります。
そして、この時点で企業担当者の方から相談を受けることが多い事項には、
- 団交応諾義務の有無(労働組合法上の労働者性・使用者性の問題)
- 企業内組合があることを理由に合同労組からの団交申入れを拒否できるか
- 団交申入書記載の団体交渉事項が不分明でどのように対応してよいかわからず、また、準備もできないが、どのように対処すれば良いか
- 団交申入書には、団体交渉の具体的日時・場所について記載があるが、それを受け入れる必要はあるのか
- 組合側からはどのような者が何人参加する予定か不明であるが、その点明らかにしてもらえないのか
- 回答日付がわずか数日後だが、それまでに回答をしなければならないのか
等があります。
(2)解説
1. 団交応諾義務の有無
合同労組が関与する事件には、労働組合法上の労働者性・使用者性に疑義が存する場合が多数あります。
前者(労働者性)については、例えば、請負、業務委託契約等を締結している者が、自らは労働者であるとして、合同労組に加入して、当該合同労組から団体交渉の申入れがあった場合に、その者が労働組合法上の労働者と言えるかという問題等があります。
運送業や建設業における請負、業務委託契約が実質的には雇用契約であるとして争われるなど、一定の業務をア ウトソーシングに出していたところ、そのアウトソーシング先の事業主(よくある場合としては、1人で業務に従事し、その下請等が契約上禁止されている、な いし契約上禁止はされていないものの事実上行うことが困難等で行われていない)が、契約関係の解消や事故の発生等を契機にして、その労働者性を主張してく ること等があります。
この点、労働者か否かは、契約の形式にかかわらず、仕事の依頼に対する諾否の自由、業務の内容や遂行の仕方 に対する指揮命令の有無・程度、時間的・場所的拘束性の有無・程度、業務を他者に代替させ得るか否か、業務器具の負担関係、報酬の労務対償性等の実質から 判断されます(昭60.12.19労働基準法研究会報告「労働基準法の『労働者』の判断基準について」等参照)。したがって、単に契約の形式が請負や業務 委託等となっているからといって合同労組からの団体交渉の申入れを拒否したりすると、それが不当労働行為となるという場合もあります。またこの問題につい ては、考慮すべき要素が多数あり、先の展開を見越した高度に専門的な判断を必要とする場面が多くあります。
よって、実務担当者としては、上記問題のある団交申入れがあった場合は、労働法に詳しい弁護士等の専門家に 相談等したうえで、複数の最高裁判例(労働組合法における労働者性について:CBC管弦楽団事件-最一小判昭51.5.6民集30巻4号437頁、労働基 準法における労働者性について:横浜南労基署長事件-最一小判平8.11.28労判714号14頁、藤沢労基署長事件-最一小判平19.6.28労判 940号11頁)を含む、多数の裁判例(最近のものとしてはINAXメンテナンス事件-東京高判平21.9.16労経速2055号、新国立劇場運営財団事 件-東京地判平20.7.31労経速2013号、ビクターサービスエンジニアリング事件-東京地判平21.8.6労経速2049号等)、労働委員会の命 令、決定等を踏まえた慎重な対応が必要となります。
後者(使用者性)については、例えば、子会社の労働者が加入する合同労組から親会社に対する団体交渉の申入 れがあった場合の親会社の団交応諾義務の有無、派遣契約関係を前提とした派遣先の団交応諾義務の有無等があります。ここ数年、社会問題化しているいわゆる 偽装請負のケースにおいて、注文先企業に対する、請負会社の労働者が加入する合同労組からの団体交渉申入れの場面でも上記同様の問題が生じます。
この点についても、具体的事案での判断は極めて難しい場合もありますので、実務担当者としては労働法に詳し い弁護士等の専門家に相談等したうえで、「雇用主以外の事業主であっても、雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させ、その労働者の基本的な労 働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、…使用者に当たる」旨判示 した著名な最高裁判例(朝日放送事件-最三小判平7.2.28労判668号11頁)を中心とした多数の裁判例等を踏まえた慎重な対応が必要です。
2. 企業内組合がある場合の団交拒否の可否
残念ですが、仮に企業内組合があったとしても、それを理由に、企業内組合を脱退等した従業員が新たに加入した合同労組からの団体交渉の申入れを拒否することや、企業内組合を通じた交渉を要求することはできません。
この点、企業内組合と有効なユニオン・ショップ協定が締結されている会社において、企業内組合を脱退した労 働者が合同労組に加入した場合に、その者を協定に従って解雇することができるか、という論点は別異にありますが、判例上、ユニオン・ショップ協定は、協定 締結組合とは別の組合に加入している者、および締結組合から脱退し、または除名されたが、別の組合に加入したり、新たな組合を結成したりした者について は、無効となると判示されていますので(三井倉庫港運事件-最一小判平元.12.14民集43巻12号2051頁、日本鋼管事件-最一小判平 元.12.21労判553号6頁)、合同労組に加入した労働者をユニオン・ショップ協定に従って解雇するという対応も困難です。
3. 団体交渉事項が不分明
合同労組からの団交申入書には、そもそも団交事項の記載がない場合や、「組合員の労働問題に関わる諸問題」等それが抽象的等で不分明な場合が多々存します(実務的には、合同労組からの初回の団交申入書に個別具体的な団交事項が記載されているケースは滅多にない)。
団体交渉の申入れが会社にとって応諾義務のある範囲でなされたか否かを確認するため、また、団体交渉を実りあるものにするために、団体交渉事項の具体的明示を事前に求めることは当然可能ですので、上記の場合には、それを具体的に明示するよう求めることになります。
具体的には、書面により、その趣旨(実りある団体交渉の実現等)を明確にして、団交事項を明確にするよう合同労組へ申し入れるといった対応をされると良いでしょう。
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