コロナ禍を踏まえたフリーランス実態調査
働き方の柔軟性だけでなく、役割の定義やカルチャーマッチングも
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 組織人事ビジネスユニットHR第3部 シニアマネージャー 古川琢郎氏
はじめに
人生100年時代が叫ばれ、YouTuberをはじめ各種SNSで活躍する個人が増えるなど、キャリア観や働き方はますます多様化しており、パラレルキャリアや副業導入も増加している。また、すでにフリーランスを活用、あるいは活用を検討している企業は半数を超えており(※1)、企業の業務遂行において、特にIT・情報システム領域においてフリーランスは欠かせない人材になっているといえる(※2)。これらを踏まえ、フリーランスに対しても業務委託先としての位置づけを超えて、従業員同様、どのようにマネジメントし、どのように自社・自組織へのコミットを訴求するかは今後の企業課題になりうると考える。本稿では、三菱UFJリサーチ&コンサルティングにて実施した「コロナ禍を踏まえたフリーランス実態調査」の結果にも触れながら、企業におけるフリーランスのマネジメント課題・必要な取り組みについて提言したい。
1. 調査概要
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調査目的
「はじめに」も踏まえ、特に今回はITを活用するフリーランスにフォーカスし、企業・組織に求めることやスキル習得方法、またそれらへの新型コロナの影響有無を調査した。なお、集計については先端IT業務従事者(※3)(以下、「先端」)と非先端IT業務従事者(以下、「非先端」)に分けて実施している。 -
調査対象
いわゆるIT業務に携わる人材だけではなく、 ITを活用して事業創造や製品・サービスの付加価値向上、業務のQCD向上などを行う人々すべてを対象としている。 -
調査方法
インターネットによるアンケート回答
1. 調査期間
2021年3月12日(金)~3月17日(水) -
回答人数
441名(先端:162名、非先端279名)
(※1)経済産業省 平成28年度「働き方改革に関する企業の実態調査」
(※2)同上
(※3)先端ITの定義は、独立行政法人情報処理推進機構における「デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進に向けた企業とIT人材の実態調査」と同一とする。すなわち、データサイエンス、AI・人工知能、IoT、デジタルビジネス/X-Tech、アジャイル開発/DevOps、AR/VR、ブロックチェーン、自動運転/MaaS、5G、その他先端領域の各領域に関するサービスに従事する人材とする。
2. 調査結果概要
1)企業・組織に求めること
まずフリーランスが求めることは図1 の通りであった。
全体としては「働き方の柔軟性」「専門性や強みの活用」「契約の安定」「働きたい従業員や仲間」が高水準であった。「先端」/「非先端」間の選択率の差分比較においては、「非先端」の選択率が特に高い要素は「働き方の柔軟性」「専門性や強みの活用」であるのに対し(両項目とも選択率そのものは「先端」も高い)、「先端」の選択率が特に高い要素は「企業の成長性」「意思決定スピード」「最先端の仕事」であった。労働市場における引き合いが多くなっていると想定される「先端」は、必ずしも自身の専門性や強みをダイレクトに活用できずとも、最先端の技術を活用したチャレンジができるかどうかや、そのチャレンジに対する企業の意思決定スピードを求めている可能性が推察される。
2)現在のスキル習得に有益だった方法
次にフリーランスが自身の専門性やスキル習得に有益だった方法については図2 の通りであった。
「先端」「非先端」を問わず、書籍やweb検索が圧倒的に多いが、国内外のオンラインコンテンツやコミュニティ・学会などへの参加については、「先端」と「非先端」において大きな差分が確認された。前述した先端技術領域は未だ体系だって整理された教育コンテンツが多くないことや、更新も速いことから、このような結果になっているものと推察される。
3)新型コロナウイルス(以下、コロナ)による影響
そしてコロナによる影響については、図3・図4の通りであった。
図3より、企業・組織に求めることについては、「影響無し」という回答が多数であるが、「先端」と「非先端」の比較では、「先端」はより「働き方の柔軟性」や「契約の安定」の認識が高まったということがうかがえる。また図4より、コロナの影響により「先端」の方が、仕事量のみならず、要求される仕事の質も高まっており、結果さらなる新しいスキル習得の必要性の認識が高まっていることがうかがえる。コロナ禍に対応した業務プロセスのデジタル化やシステム刷新などが各社で行われた結果、より労働市場における「先端」の引き合いが増えたことや、それにより働き方の柔軟性を一層求めるようになったことなどが推察される。一方で、先端領域の技術を活用した新規事業への投資等は一旦緩やかないし凍結されたケースも多いと想定され、ゆえに契約の安定を求める「先端」も多くなったものと思料する。
3. 調査結果を踏まえた企業の課題
以上の調査結果概要を踏まえ、企業・組織側の課題について言及したい。筆者としては、「内製する機能・スキルの整理・更新」「フリーランスに期待する役割の明確化」「フリーランスと組織カルチャーやメンバーとのマッチング」の三つが優先課題であると考える。
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内製する機能・スキルの整理・更新
そもそも労働力ないし専門性の確保形態として、従業員を採用・雇用することとフリーランスを活用すること以外にも、既存の従業員を育成・開発することや、業務そのものをアウトソースする方法も考えられる。自社の戦略や業務遂行上、あるいは時間的・金銭的コストの観点から、どの機能ないしスキル・専門性を内部で保有すべきか、ということをまず整理・意思決定し、定期的にアップデートする必要がある。もちろん、それらを可視化・リアルタイムにアップデートするべく、基幹のシステムの整備や社内外の人材を管理するタレントマネジメントシステムの導入等も論点になり得る。 -
フリーランスに期待する役割の明確化
内製する機能・スキルを明確化することで、内部で保有せず、フリーランスに委託する機能・スキル・専門性が明確になる。その上で、フリーランスに期待する役割(単に業務というだけでなく、先端技術の導入などを含む)を言語化することが重要である。調査結果(図1)においても、2番目に「専門性や強みの活用」が挙がっていることを踏まえて、単に委託する業務だけでなく、期待するスキルや経験を定義することは、フリーランスの惹きつけやマネジメント上のポイントになると考える。 -
フリーランスと組織カルチャーやメンバーとのマッチング
フリーランスは自立したキャリア構築を行っているが、何も業務そのものを個人で遂行することを最優先しているわけではない。調査結果(図1)においても、「一緒に仕事をしたいと思う従業員や仲間がいること」が、「先端」で3番目、「非先端」で4番目に求められていることから、フリーランスであっても組織カルチャーやメンバーとのマッチングは重要であることがわかる。昨今、適性検査などの各種アセスメントデータを活用した従業員の採用や配属の事例が増えているが、フリーランスにおいてもどのような価値観・思考特性なのか、またそれが組織カルチャーや協業する従業員と、どの程度マッチしているのか、これらを定量的に検証することは効果的と考える。
4. おわりに
三菱UFJリサーチ&コンサルティングが関わるさまざまなクライアント企業においても、労働力不足は単に量の不足というだけでなく、質的な不足も大きな課題となっている。ゆえに、企業単位でのオープンイノベーションの興隆と同様、フリーランスを活用したチーム単位での新たな取り組みもさらに増えていくものと想定される。そうした際に、単に量的リソースとしてフリーランスを活用するのではなく、多様な人的リソースのひとつの人材タイプとして、従業員同様に個を見たマネジメントが企業側に求められることになるだろう。
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