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ボランティア休暇制度
導入の手順と留意点
4.導入の手順と運用ルール
(1)導入の流れ
ボランティア休暇制度を導入する場合、図表2のような手順で検討していきます。最初に導入の目的を確認します。この導入の目的によって、対象とするボランティアの範囲や対象者、休暇日数等のルールを決めます。
例えば、会社が社員に社会貢献活動を推進する場合などは、比較的休暇日数は多めにし、対象となるボランティア活動も会社が推進したい社会貢献活動や海外協力隊の参加など比較的長期間なものや継続的に活動するものを想定してルールを策定していきます。
他方、社員が行うボランティア活動を支援する場合や社員の人生の充実や福利厚生の充実という目的で導入する場合は、手軽に活用できるよう身近なボランティア活動を対象として(対象となるボランティア活動をあまり制限しない)、付与日数もあまり多くなく、策定していきます。
次に有給休暇の取得状況やその他の休暇制度の内容や利用実態を確認したうえで制度内容を検討すると、効果的な制度になっていきます。休暇等の現状把握をせずにボランティア休暇を導入すると、他の休暇との違いが明確でないために利用されないままになってしまう場合もあります。
現状を把握する内容は、年次有給休暇の場合、取得率、取得日数、付与日数、可能であれば利用目的です。利用目的は把握できない場合も多いので、その場合はアンケートを実施して利用目的を把握したり、部署、年代、男女、役職、取得の時期、家族の有無などの情報から利用傾向を分析します。そのほか、特別休暇や時効となる未消化の有給休暇を活用する積立年休など、会社の休暇、休業、休職の制度を把握し、その利用実態を確認します。把握した現状から、他の休暇と内容が重ならずボランティア休暇の利用が促進されるルールを検討していきます。
次にルールの検討と併せて、休暇の管理方法や従業員への周知方法も検討していきます。
労働基準法上、「休暇」は、就業規則の絶対的記載事項にあたるため、就業規則に記載しなければなりません。ただし、ボランティア休暇に関するルールが多い場合は就業規則にボランティア休暇があることだけを明記したうえで、詳細は「ボランティア休暇制度規程」のような別規程を作成してもよいでしょう。制度の周知の面から考えると、別規程にしておいたほうが従業員にはわかりやすいかもしれません。
(2)検討するべき内容
ボランティア休暇制度を導入する際には、具体的に次の内容について検討していきます。
①利用対象者
ボランティア休暇の利用対象者は法定休暇ではなく任意休暇のため正社員のみを対象としている企業が多くなっています。また、東京都のボランティア休暇導入の助成金(ボランティア休暇制度整備助成金)でもボランティア休暇の対象は全従業員ではなく、正社員がいる場合は正社員全員を対象に適用することが要件になっています。
パートタイマーやアルバイトの場合は、正社員と比較して労働時間が短い場合が多く、新たにボランティア休暇を設けなくても、働いていない時間を活用してボランティア活動ができる可能性もあるので、利用対象者を正社員だけとしている企業が多いといえます。
②付与日数・利用単位・有効期間
ボランティア休暇の日数は、導入の目的や対象となるボランティア活動により1年当たり数日から2~3ヵ月に及ぶ場合が考えられます。1ヵ月以上の休暇を想定している場合は「ボランティア休職」として、休職の事由の一つとして検討したほうがよいでしょう。
また、ボランティア休暇の利用の単位は1日単位が多くなっていますが、小学校の送迎時の見守りやPTA活動等、ボランティア活動の内容によっては半日単位や時間単位の利用も可能にすると利用しやすくなります。ただし、管理は煩雑になりますので、利用面と管理面の両面から考えて決めます。
ボランティア休暇は任意休暇ですので、有効期間は管理面での負担を考え1年にしている企業が多くなっています。年次有給休暇の時効は2年ですが、任意休暇であることと管理面の負担を考えて決めます。
③賃金の支給の有無(全支給・一部支給・無給)
ボランティア休暇を利用した際の賃金の支給は、休暇日数すべてを有給とする場合のほか、付与した休暇日数のうち一部を有給とする方法もあります。例えば、年間10日をボランティア休暇として付与した場合、5日までは有給とし、5日を超えると無給とするように、有給とする休暇日数の上限を設定する方法もあります。1日分を全額有給とせず日額の一定割合を支給している企業もあります。また、休暇を利用する従業員と利用しない従業員の公平性に配慮し、休みをとる権利だけを与え給与は支給しない(無給)とする企業もあります。
いずれの方法をとるかは、よく検討してください。無給にするとボランティア休暇の利用率が上がらない可能性が高くなり、有給とすると不公平感が出やすく、年次有給休暇の取得率が低下する可能性も増えます。また、利用休暇数によっては人件費が増加することもあります。
④申請手続
申請手続として、申請の時期、申請書類、申請内容を証明する書類の添付の有無などを決めていきます。ボランティア休暇が有給の場合は、申請手続を慎重にする必要があります。申請は事前にすることはもちろんですが、例えば「原則、2週間前まで」などある程度余裕をもった期間とし、申請内容が妥当か判断する時間をとります。
申請書には、参加するボランティア活動の内容がわかる書類を添付することを求めたほうが、ボランティア活動が妥当かの判断がスムーズになります。そのほか、利用基準に適合しているのか、業務への支障がないのかなどの判断や審査をどの部署でだれが行うのか、申請書式、申請フローなどの運用ルールも決めておきます。
⑤他の休暇との関係
ボランティア休暇のほか、社内にボランティア活動で利用できる休暇がないかを確認します。具体的には年次有給休暇のように利用目的が限定されていない休暇がそれにあたります。そのほか、ボランティア活動をするための休職を認めているか、積立年休が利用できるかなどを確認します。もし、ボランティア活動で休職や積立年休を認める場合は、導入するボランティア休暇の日数を少なくしたり、対象となるボランティア活動の範囲を広げるなどの差別化を検討します。
⑥その他(報告・時季の変更・安全配慮等)
ボランティア休暇を取得した場合は報告書の提出を求めることも検討します。報告書の提出によって、従業員がどのようなボランティア活動に参加し、どのような経験・知識等を得たのかを知ることができます。会社が単に休暇を与えるだけでなく、ボランティア活動に参加する意義や意味を大事にする場合はもちろん、休暇が有給の場合は安易な利用を防ぐためにも、報告書の提出を求めることは必要かと思います。ただ、1日程度の利用の場合にも報告書の提出を求めると利用の妨げになるかもしれません。
また、ボランティア休暇を導入する問題点として、業務への支障があります。同じ時期にたくさんの人が休暇を申請することや繁忙期に休暇を申請することなどを避けるために、会社が申請した休暇の時季を変更する権利を持つように規定することも検討します。ただし、そもそも、ボランティア休暇は社員が申請し会社が認めた場合に利用できるように規定すれば、時季の変更権がなくても、繁忙期や多数の人が同時期にボランティア休暇を取得した場合は休暇の承認をしないということで対応することができます。
(3)規程化
以上の検討内容を踏まえて、規程にします。図表3の規程では、対象者、対象となるボランティア活動の範囲、休暇の日数、手続き、賃金の支給の有無に加え、遵守事項も記載しています。
なお、対象となるボランティア活動の範囲の書き方はいろいろあります。具体的に規定すればわかりやすいですが、想定していなかった活動を対象とすることができなくなります。また、大分類だけにするとそれぞれの活動がその大分類に当てはまるかを審査する必要が出てきます。図表4を参考に検討してください。
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