公認サンタクロース
すべての子どもにサンタクロースを。
グリーンランドを本拠地に、世界中の子どもに希望を届ける仕事
「サンタさんは本当にいるの?」――クリスマスの朝、プレゼントの包装紙を無邪気に開いていた子どもたちは、年齢を重ねるにつれてこう思うようになる。毎年、枕元にプレゼントを置いてくれていたのは、実はサンタクロースではないかもしれないと。子どもたちがサンタクロースの存在を疑うようになったら、自信を持って「サンタさんは本当にいるんだよ」と言ってあげてほしい。職業「サンタクロース」は、本当に存在しているのだから。
アジアで唯一の公認サンタクロースは、日本人だった!
まず、サンタクロースの歴史をたどってみよう。クリスマスはイエス・キリストの降誕を祝う祭で、その起源は4世紀にまでさかのぼる。当時、現在のトルコが位置するミュラという古代都市の司祭であった聖ニコラスの行いがサンタクロースの始まりとされている。ニコラスは、娘を売らなければならないほど困窮している家庭をみて、その家の煙突から金貨を投げ入れる。その金貨がちょうど暖炉のそばに干してあった靴下の中に入り、売られそうになっていた娘を救うことができたのだという。クリスマスに靴下を下げておくと、煙突からやってくるサンタクロースが贈り物を入れてくれるという習慣はここから生まれ、赤い服装もキリスト教の司祭に由来している。聖ニコラスの伝説が語り継がれるのは、もっと後の18世紀のことだが、彼の伝説を北米に伝えたオランダ人が聖ニコラスをオランダ語で「シンタクラース」と呼んでいたことから、それがなまって「サンタクロース」になったといわれている。
12月になると、父親や店員などさまざまな人たちがサンタクロースの衣装を身にまとい、クリスマスムードを盛り上げるのに一役かっている。しかし、世界には120人ほどの「本物のサンタクロース」が存在するのを知る人は多くないだろう。サンタクロースを職業にしている人たちは「公認サンタクロース」と呼ばれ、北欧のそばにある大きな島・グリーンランドにある「グリーンランド国際サンタクロース協会」で認定された人のみ、“本物の”サンタクロースを名乗ることが許されている。現在会員は北欧のデンマーク、スウェーデン、ノルウェーを中心に、ヨーロッパ、北米などから集まった約120人。オーストラリアを含むアジア地域には、たった一人しか公認サンタクロースがいないが、それが日本人公認サンタクロースのパラダイス山元さんだ。山元さんは、今から約20年前の1998年に当時史上最年少の35歳で公認サンタクロース試験に合格。公認サンタクロースの座を維持するためには、毎年デンマークの首都コペンハーゲンで開催される「世界サンタクロース会議」に出席しなければならないが、山元さんは毎年これに出席しライセンスを更新し続けているという。
親のいない子どもたちにもクリスマスを味わってほしい
公認サンタクロースは、クリスマス・イブの夜に子どもたちにプレゼントを届ける以外の364日は何をして過ごしているのだろうか。まず、前述の通り毎年7月に開催されるコペンハーゲンでの会議への出席だ。そこでは、良い子・悪い子の審査や時代に合わせたプレゼントの内容などについて話し合われる。そして冬になると、家族と一緒にクリスマスを過ごすことができない福祉施設の子どもや長期入院している子どもたちを順に訪ねる。また、クリスマスの過ごし方などをテーマに、講演活動を行うこともある。クリスマスの文化を世界的に広めるための伝道師としての役割も担っているのだ。
公認サンタクロースのやりがいは、子どもに夢を届けられること。グリーンランド国際サンタクロース協会は「すべての子どもたちにサンタクロースを」を理念に掲げ、事情があって親とクリスマスを過ごせない子どもたちを対象に活動している。パラダイス山元さんはインタビューで、余命が短かったり辛い思いを抱えていたりする子どもに会うことも多く、複雑な気持ちになることもあるが、毎年サンタクロースを楽しみにしている子どもに希望を与えられることがやっていてよかったと思う瞬間だと語っている。公認サンタクロースは慈善事業的な要素の大きい仕事でもあるのだ。
ハードな試験を経て認定されても、公認サンタクロースとしての報酬はゼロ
では、どうしたら公認サンタクロースになれるのだろうか。そのためには、7月の世界サンタクロース会議と同じタイミングで行われる認定試験に合格する必要がある。試験の内容はとてもユニークだが、同時にかなりハードでもある。また、試験を受けるためにはいくつかの条件もある。まずは、結婚していて子どもがいること、これまでサンタクロースとして活動した経験があること、そしてサンタクロースにふさわしい体型、つまり衣装や装備を含めて体重120kg以上であることが求められるそうだ。なかには女性の公認サンタクロースもいるが、三つ目の体型面に関しては、女性は満たさなくてもよいことになっている。また、現在は、事情によっては一部条件が緩和されている。
これらの条件を満たすことができたら、実際の認定試験が始まる。一つ目は、体力測定。プレゼントの入った袋を持って50メートル走、そのままはしごで高さ約3メートル、直径120cmの煙突に上り、暖炉から這い出なければならない。そして、子どもたちが用意してくれているクッキー6枚と牛乳を完食し元の場所に戻るという、ある種の障害物リレーだ。レースの選考基準時間は2分。120kgの体躯を持つ人には簡単ではないだろう。このレースに勝ち進んだ候補者は、英語かデンマーク語での面接や身だしなみチェックを経て、公認サンタクロースに認定される。新たに認定を受けたサンタクロースは、古株の前で宣誓文を読み上げる。「ホゥホゥホゥ」というサンタクロース言葉で読み上げなければならず、古株の公認サンタクロースがOKを出すまで続けなければならないのだそうだ。
これらの厳しい試験を見事にパスすることができたら、晴れて公認サンタクロースだ。しかし、子どもたちの人気の的であるこの職は驚くほど志願者が少ないのだという。その理由は、報酬にあった。公認サンタクロースの報酬は、実は0円。公認サンタクロースとしての活動の他に収入源がないと、成り立たない職業なのだ。また、子どもの夢を壊さぬよう行動に制限も多く、道中でサンタクロースの衣装に着替えることも許されない。そのためパラダイス山元さんは、7月の世界サンタクロース会議に参加する際、日本の自宅からサンタクロースの衣装を着用し、飛行機内でもそのままの服装なのだそうだ。公認サンタクロースは、名誉職。すべては子どもの「ありがとう」のため、世界あちこちを自費で駆けまわる公認サンタクロースたちに敬意を表したい。
この仕事のポイント
やりがい | クリスマスを親と過ごせない子どもたちに訪問したときに、彼らが見せる笑顔や「ありがとう」の言葉が公認サンタクロースの原動力。子どもたちの心に寄り添う活動は、与える側の心も温かくする。 |
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就く方法 | グリーンランド国際サンタクロース協会が年に一度開催する認定試験で合格しなければならない。その前に、結婚していること、子どもがいること、サンタクロースとしての活動経験があること、(男性であれば)120kg近い体重があることが受験のための基本条件だが、現在は、事情によっては一部条件が緩和されている。 |
必要な適性・能力 | 子どもたちのために、家から一歩外に出たらサンタクロースになりきる倫理観や、体重を維持し続けるための自己管理能力が必要。また、重い荷物を運んだり、真夏にも長袖長ズボンの衣装を着用したりしなければならないため、一定の体力も必要になるだろう。 |
収入 | 公認サンタクロースとしての収入は、残念ながら0円だ。不労所得や経済的な基盤のある人でないと、この仕事は務まらないのが実情だ。 |
あまり実情が知られていない仕事をピックアップし、やりがいや収入、その仕事に就く方法などを、エピソードとともに紹介します。