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どういう生き方をするのか、そもそもなぜ働くのか――。
人生そのものを考えさせる教育が社員の仕事への意欲を高める

株式会社さくら住宅 代表取締役

二宮生憲さん

株式会社さくら住宅 代表取締役 二宮生憲さん

長時間労働の削減が叫ばれる現在、仕事を選んで効率的に利益を上げたい、と考える企業も多いのではないでしょうか。そんな中、小さな工事でも断らず、顧客の信頼を得ることで大きく成長したリフォーム会社があります。神奈川県横浜市にあるさくら住宅です。受託した仕事の約半数は3万円以下の小工事ですが、売上高は10億円を超えるといいます。同社ではどのようにして顧客の信頼を築き、売上を伸ばしていったのでしょうか。代表取締役野の二宮生憲さんに話をうかがいました。
(聞き手:株式会社natural rights代表取締役 小酒部さやか)

プロフィール
二宮生憲さん
二宮生憲さん
株式会社さくら住宅 代表取締役

にのみや・たかのり/1947年愛媛県生まれ。法政大学卒業後ミサワホームに入社し、2年後に注文住宅の会社を4人で設立。細田工務店の取締役を経て、1997年にさくら住宅を設立。

小工事の利益はほぼなし。それでも社会奉仕として取り組む

貴社は小さな工事も断らずに対応されているそうですが、そのような企業姿勢を持つようになった背景をお聞かせください。

私たちの企業理念は「リフォームを通じて、社会のお役に立つ会社になる」です。お客さまが困っていれば工事の大きさに関係なく、迅速に駆けつけることを信条としています。例えば、トイレが詰まっているのなら待ったなしですから、すぐに駆けつけます。網戸を1枚交換してほしい、というご要望にお応えすることもあります。

他のリフォーム会社には小さな工事を行わないところもあるのですが、お客さまが本当に困っているのは先ほど申し上げたように小さなことが多いのです。工事の大きさにかかわらず、すべて同じように対応します。まず営業が現地調査をして見積を出し、続いて現場監督が商品を発注して職人に指示し、工事を進めます。工事が完了したら現場を確認して集金がありますから、最低3回は現場にうかがうことになります。小さな工事の場合、人件費を考えると利益はほぼありません。それでも困っている人がいたら見過ごせませんから、社会奉仕と考えて対応しています。

当社の受注件数のうち、3万円以下の小工事は47%を占めますが、売上に占める割合は2.2%に過ぎません。しかし、どんなに小さな工事でも対応していることが、後々、大きな工事をご依頼いただくことにつながっています。顧客のリピート率はほぼ100%ですが、弊社からの売り込みは一切行っていません。ただ困っているお客さまがいらっしゃったら、それをお手伝いする。それだけでこの規模になりました。

貴社は書籍『日本でいちばん大切にしたい会社』でも紹介されています。社員を大切にされているとお聞きしましたが、貴社の経営方針を教えてください。

多くの会社は顧客第一主義だと思いますが、私たちは社員第一主義です。売上をつくってくれる社員が一番大切ですし、社員がニコニコと働けていれば、お客さまにも良い応対をしてくれる。結果として、顧客第一主義にもつながっているのです。私は普段から、会社に関わるすべての人を幸せにする「五方良しの経営」を唱えています。そこには順番があって、第一が「社員とその家族」、二番目が「仕入先、協力業者とその家族」、三番目が「顧客(現在顧客・未来顧客)」、四番目が「地域住民」、そして最後が「株主、出資者」です。

五者すべてが幸せになる経営の条件は「利益があり安定した経営であること」、そして「社会に必要とされる会社であること」。赤字の会社はその地域に必要とされていないと考えており、地域に貢献したいと思っています。

会社は社会の公器と考え、経営情報もオープンにされているそうですね。

株式会社さくら住宅 代表取締役 二宮生憲さん

会社は社会の公器ですから、社員や株主は会社の状況を把握する必要があります。そこで毎月、月次決算を社員に配布し、決算内容を伝えています。社員に対して常に隠しごとがなく、恥ずかしくないようにしたい。当社の経営姿勢は「税金と社員の給料は1円でも多く払う」ことです。20期連続で黒字経営を達成できたのは社員一人ひとりが会社の状況を把握し、行動しているからです。頑張ってくれた社員にお返ししたいという思いは、ボーナスや給与に反映させています。地域の方に貢献するために、1円でも多く納税したいと考えています。

また、当社は開かれた会社を目指しており、会社を応援し監視してもらうことを目的に、お客さま株主制度を実施しています。株主の内訳は、お客さまが62.7%。株主総会では毎回「会社の改善すべきところだけを指摘してほしい」とお伝えしています。また、社員も株主になっており、シェアはお客様に次いで2番目の16.8%です。関わる人たちみんなで経営に参加してもらっています。

社員の待遇面ではどのような制度がありますか。

体が資本ですから、社員の健康診断はオプションまで会社負担です。家族の助けがなければ仕事はできないので、配偶者分も会社で負担しています。また、少子化対策に貢献したいと考え、勤続3年以上の社員には、3人目の子どもが生まれたら出産祝い金100万円を出すようにしました。残念ながらまだ該当者はいませんが、将来出てくることを期待しています。育児中の社員には、都合に合わせて活用できるよう、時間単位で有給を取得できる制度も設けています。

研修後も読書後も手書きレポートをまとめさせ学びを深める

社員教育についてお聞きします。新人向けにはどのような研修を行われているのでしょうか。

新入社員は全員、4月~5月に計170時間の研修を受けます。インテリアやリフォームに関する専門知識だけでなく、マナーやソーシャルスキルも学びます。私が特に重視しているのはマナーです。お客さまの家では脱いだ靴を揃える、きちんと挨拶する、時間を守る。笑顔の練習も行っています。技術面では新人向けに図面教室を開いており、月2回で各3時間、1年間にわたって専門的な知識を身につけてもらっています。

また、毎週の営業会議後に、工事に関して顧客から寄せられた声を共有し、勉強会を行っています。他にも同業4社での研修や、取引先であるTOTOの施設で研修を行っています。

外部の研修のあとは必ず、どんなことを学んだのかについてレポートを提出してもらっています。最低でも、A4で1枚分の手書きレポートで、私がすべて読んで気付きを書き込み、本人に戻しています。

仕事だけでなく、個々の生き方についても支援する教育を行われているとお聞きしました。どのような内容でしょうか。

週に1回、経営者の考えや会社のあり方などについて話しをする経営ゼミを開いています。社員が四人ずつ参加し、ランチを食べながら仕事だけでなくプライベートの話もします。他にも、ソニー生命の社員の方を招いて人生設計の立て方を学んだり、鎌倉投信から投資の専門家に来ていただいて投資対象となる会社について学んだりしています。

また、顧客サービスの一環として、顧客の皆さまを海外旅行に案内する「さくらくらぶ」という海外ツアーを年1回行っています。お客さまは高齢の方が多いのですが、社員が同行してしっかりフォローし、安心快適に旅を楽しんでいただきます。また、そのときの対応は仕事への姿勢につながりますので、お客さまとの距離を近づける良い機会にもなっています。

貴社が行われている人材育成において、目指されている人材像を教えてください。

社員には最終的にどんな生き方をするのか、社会に出たらリフォームの知識だけではやっていけませんから、人生において必要な知識をいろいろ教えたいと思っています。

私が普段から、社員にたくさん本を読むように言っています。気に入った本があれば社員に渡し、読んだらレポートを書くようにも言っています。また、人とのつながりは大切ですから、お客さまを始め、研修先や取引先の方など、出会った全ての人にハガキを出すようにも言っています。これからも社員には、日々の細かな学びの積み重ねの大切さを伝えていきたいですね。そして、社会の役に立てる人になって欲しい。

お話をうかがって、良い仕事をするには学びが大事なのだと痛感しました。本日は大変参考になるお話をありがとうございました。

株式会社さくら住宅 代表取締役 二宮生憲さん、株式会社natural rights代表取締役 小酒部さやかさん
小酒部さやか(株式会社natural rights 代表取締役)

取材:小酒部さやか(株式会社natural rights 代表取締役)

2014年7月自身の経験からマタハラ問題に取り組むためNPO法人マタハラNetを設立し、マタハラ防止の義務化を牽引。2015年3月女性の地位向上への貢献をたたえるアメリカ国務省「国際勇気ある女性賞」を日本人で初受賞し、ミシェル・オバマ大統領夫人と対談。2015年6月「ACCJウィメン・イン・ビジネス・サミット」にて安倍首相・ケネディ大使とともに登壇。2016年1月筑摩書房より『マタハラ問題』、11月花伝社より『ずっと働ける会社~マタハラなんて起きない先進企業はここがちがう!~』を出版。現在、株式会社natural rights代表取締役。仕事と生活の両立がnatural rights(自然な権利)となるよう講演・企業研修などの活動を行っており、Yahooニュースにも情報を配信している。

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

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