介護休業
介護休業とは?
介護休業は、要介護状態となった家族の介護を目的として、従業員が一定期間の休みを取得できる制度です。少子高齢化が急速に進んでいる現代において、労働者にとって特に需要が高い制度の一つとなっています。介護休業は、企業ごとに制度を設ける必要があるため、自社で導入する際は関連する法律などを把握しておくことが重要です。
1. 介護休業と介護休暇の違い
介護休業と介護休暇は、どちらも育児・介護休業法によって定められている制度です。共通して要介護状態の家族を介護するために取得できる休みであり、名称も似ていることから、制度内容が混同されやすい傾向にあります。異なる制度ですから、違いを明確にしておきましょう。
【介護休業と介護休暇の比較】
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介護休業と介護休暇は、取得日数や取得単位など、さまざまな面で条件が異なります。
介護休業は、本来、労働者が継続的に就業することを目的とし、介護の長期的な方針が決まるまでの緊急対応措置として設けられた制度です。介護サービスの選定や介護方針が決まるまでに家族が直接介護をする場合など、準備期間としてまとまった休みが欲しい場合に取得するケースが多く見られます。
一方で、介護休暇は、通院や利用している介護サービスとの打ち合わせなど、短期間の休みが必要となった際に利用する制度です。介護休業よりも手続き方法が厳格ではなく、突発的な介護にも対応できます。
2. 介護休業の取得条件
介護休業は、一部を除いたすべての従業員が利用対象となりますが、取得するには条件があります。
対象家族が「要介護状態」であること
介護休業は、「要介護」の状態にある家族を介護するために取得できる制度です。
具体的に、厚生労働省では、要介護の判断基準として以下の通り定めています。
(引用:常時介護を必要とする状態に関する判断基準|厚生労働省)
※文中の「以下の表」については、引用元からご確認ください。
要介護を判断するに当たって一定の基準は設けられているものの、厚生労働省も言及しているように、労働者の介護休業取得が制限されることは望ましくありません。
例えば、厚生労働省では、本人が直接介護をするわけではなくても、入院している家族のために介護休業を取得することは問題ないとしています(下記参考資料の「よくあるお問い合わせ」より)。
介護は、家族の健康や命を守るために大切な制度です。各企業は、厚生労働省の基準を一つの判断材料としながら、従業員の状況に応じて柔軟に対応することが求められます。
●介護保険法における「要介護」の定義とは異なる
「要介護」という用語は介護保険法でも定められていますが、介護休業とは定義が異なります。例えば、介護休業では、自分の子供が骨折して自宅療養が必要となった場合も、要介護状態の取り扱いです。介護休業における「要介護」の意味合いをしっかり把握しておきましょう。
参照
よくあるお問い合わせ(事業主の方へ)|厚生労働省
育児・介護休業法のあらまし|厚生労働省
- 【参考】
- 介護保険とは|日本の人事部
介護休業の対象となる家族
介護休業では、対象となる家族の範囲についても条件があります。
【介護休業の対象となる家族】- 父母
- 祖父母
- 兄弟姉妹
- 子(法律上の親子関係がある子のみ)
- 孫
- 配偶者(婚姻の届け出をしていなくても、事実上の婚姻関係にある者を含む)
- 配偶者の父母
有期雇用労働者の取り扱い
パートやアルバイトなど、期間の定めが設けられている従業員が介護休業を取得する場合、法律では下記の条件を定めています(育児・介護休業法第11条第1項)。
【有期雇用労働者の取得条件】- 入社1年以上であること
- 取得予定日から起算して93日を経過する日から6ヵ月を経過する日までに契約期間が満了し、更新されないことが明らかでないこと
介護休業の本来の目的は、従業員が家庭と仕事を両立して継続的に働けるようにすることです。「入社後すぐに介護休業を取得して辞める」といったことが起きないよう、上記の条件が定められています。
3. 介護休業を導入する際の制度の敷き方・規定のポイント
介護休業制度は、労働基準法上の「休暇」に該当するため、制度を導入するに当たっては、就業規則に内容を明記することが義務付けられています(労働基準法第89条)。法律によって定められた内容と、企業ごとに独自で定めてよい内容を把握した上でルールを決め、就業規則内に盛り込むことが必要です。
- 【参考】
- 就業規則とは|日本の人事部
法律で義務付けられている内容
●介護休業を運用する上での最低ライン
ここまで紹介してきた介護休業の取得条件に加え、企業で必ず守らなければならない法律上のルールがあります。
申し出の拒否や不利益な取り扱い、ハラスメントの禁止
育児・介護休業法では、介護休業の運用に当たって、事業主に以下の義務を設けています。
- 事業主は、原則として労働者からの介護休業の申し出を拒むことはできない(育児・介護休業法第12条第1項)
- 事業主は、介護休業の取得を理由とした不利益な扱いをしてはならない(育児・介護休業法第16条)
- 事業主は、介護休業を理由とするハラスメントの防止措置を講じなければならない(育児・介護休業法第25条の2)
補足として、介護休業の申請を拒否できるケースは、労使協定を結ぶことで、以下いずれかの要件に該当する従業員を対象外としている場合のみです。
- 入社1年未満
- 申し出日から起算して93日以内に雇用契約が終了する
- 1週間の所定労働日数が2日以下
介護休業は従業員側が自由に取得できることを前提に自社の制度を構築してください。
参照:職場における妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント対策やセクシャルハラスメント対策は事業主の義務です!!|厚生労働省
介護休業の申請方法
従業員が介護休業を申請する際は、以下の項目について申し出ることが必須です。
【介護休業の申請に必要な項目】- 申請時の年月日
- 申請者の氏名
- 介護を要する家族の氏名および申請者との続柄
- 介護の対象家族が要介護状態にある事実
- 介護休業を取得する期間の初日と末日
- 対象家族の介護に当たって、これまで介護休業を取得した日数
(出典:育児・介護休業法施行規則第23条|e-Gov法令検索)
また、介護休業は以下の三つの方法で申請する必要があります。
【介護休業の申請方法】※ファクスおよび電子メールなどは、事業主が認める場合に限ります。
自社で決めることができる介護休業の内容
法律で定められた最低限のルールに加え、企業が自分たちで決めてよいルールがあります。
一度就業規則に盛り込むと、後からの変更は不利益変更となる場合があるため、事前の入念な検討が必要です。
対象とする従業員の範囲
法律では、労使協定を結ぶことで、一定の条件に満たない従業員を適用除外できるとしています(上述した介護休業と介護休暇の比較表を参照)。組織の実情に応じて該当者を介護休業の対象から除外することは問題ありませんが、労使で十分に話し合いながら検討する必要があります。
また、有期雇用労働者については、介護休業の適用対象とする条件が定められています。しかし、介護による離職を減らして採用時のアピールポイントとするのであれば、有期雇用者が介護休業を取得できる条件を緩和させる選択肢もあるでしょう。
法定日数以上の介護休業付与
介護休業の法定日数は最大93日となっていますが、それ以上の日数を付与するかどうかは企業側が判断できます。要介護状態が一時的なものであることは少なく、多くの場合は継続的なサポートが必要です。そのため、94日間以上の取得を可能としている企業もあります。
ただし、国からの介護休業給付金は93日分までしか支給されません。企業からの賃金支給についての検討も必要です。
●現場の協力も重要
介護休業は、従業員が「休むことで同僚に迷惑がかかるかもしれない」といったジレンマを抱える制度でもあります。安易に日数を増やすと、現場への負担が大きくなり、休業者も安心して休めなくなる可能性があるでしょう。介護休業の日数を増やすのであれば、休業者と同僚の双方に負担がかからないよう、職場環境の整備も必要です。
介護休業中の有給・無給
介護休業中の有給・無給については、法律に特別な定めがなく、企業の裁量で決めてよいこととなっています。
ただし、介護休業中に企業から一定以上の賃金が支払われると、国から給付される介護休業給付金が減額または不支給となります。そのため、有給とする場合は、介護休業給付金の制度内容も理解した上で、金額や計算方法を決めるとよいでしょう。
介護休業を有給とする場合は、計算方法や支払い方法まで就業規則に細かく定めることで、労使トラブルの防止になります。
昇給や退職金算出などにおける介護休業期間の取り扱い
介護休業期間を勤務日とするか休職日と見なすかどうかで、退職金算出や定期昇給に影響が出る場合もあります。企業側と従業員の認識のズレで後々トラブルにならないよう、各制度における介護休業期間の取り扱いについて、事前に定めておかなければなりません。また、年次有給休暇の付与日数を算定する際は、介護休業中の期間を出勤したものと見なします(労働基準法第39条第8項)。
申請方法および家族が要介護状態であることを証明する書類の提出
法令では申請方法と申請に必要な項目が定められていますが、様式や申請の流れなどは指定されていません。従業員のスムーズな申請と管理の煩雑化防止のために、あらかじめ様式を指定し、休業取得までの流れを規則に定めておくとよいでしょう。
また、事業主は、家族が要介護状態であることを証明する書類の添付を求めることもできます。休業の整合性を図るためにも、必要に応じて義務付けるようにしてください。
介護休業の構築・運用には公的情報源を利用しよう
●厚生労働省が公表している三つの情報源がおすすめ
介護休業の構築・運用に当たっては、公的情報源を参考にするとよいでしょう。
介護休業は、少子高齢化が進む現代において、特に需要が高まっている制度の一つです。従業員が安心して取得できる介護休業制度を構築し、正確に運用するためには、関連する正しい知識を取得することが不可欠です。
介護休業の構築・運用に当たって活用できる公的情報源は、主に以下の三つです。
〇「介護休業制度特設サイト」
介護休業の概要が掲載されている、厚生労働省の特設サイトです。
対象者や取得日数などの情報が簡潔にまとめられているため、制度内容を手軽に確認したい場合におすすめです。
〇「よくあるお問い合わせ」
介護休業に関する疑問や悩みに対して、厚生労働省が回答しているサイトです。
業務中に疑問が発生した際、このサイトで類似した事例を確認すれば、悩みが解決することがあるでしょう。
〇「育児・介護休業法のあらまし」
「育児・介護休業法のあらまし」には、介護休業の情報が詳しく記載されています。
制度の基本情報はもちろん、業務上の要点や申請までの手続きなども網羅されています。特に申請までの手続きについては、図解やポイント解説付きで説明されているため、すぐに自社での運用に生かせるでしょう。
企業の担当者は、介護休業を運用する上での教科書代わりに利用することがおすすめです。
用語の基本的な意味、具体的な業務に関する解説や事例などが豊富に掲載されています。掲載用語数は1,400以上、毎月新しい用語を掲載。基礎知識の習得に、課題解決のヒントに、すべてのビジネスパーソンをサポートする人事辞典です。
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出典:厚生労働省の支援シート
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000904520.xls