セクハラの罰則や懲戒処分
「セクハラ」とは、セクシュアルハラスメントの略であり、性的な嫌がらせのことをいいます。セクハラに関する企業の責任は大きく、軽視できるものではありません。セクハラを起こした従業員に対し毅然とした態度をとるためにも、過去の判例や厚生労働省の資料を参考にしながら、懲戒処分の内容を就業規則などに定める必要があります。
セクハラに関する罰則
企業の法的責任
セクハラの防止義務について定めた主な法律が、男女雇用機会均等法や女性活躍推進法です。男女雇用機会均等法では、企業に対して、性的な言動を主としたセクハラ防止対策を義務付けています。また、女性活躍推進法では、女性の昇進や仕事の内容など、「女性の社会進出」に関する事柄が規定されています。
さらに、2019年5月29日にパワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)と改正女性活躍推進法が同時に可決・成立しました。これにより、女性の採用や昇進に関する情報公表を義務付ける範囲が拡大しています。また、ワーク・ライフ・バランスに関する環境の整備状況を公表するなど、新しい義務も設けられました。しかし、これらは努力義務で罰則規定は設けられていません。
一方でセクハラは、行為者が傷害、暴行、脅迫、名誉棄損、侮辱、強制わいせつ、強姦など刑事責任に問われる可能性があります。例えば、キスが刑事事件で「強制わいせつ」と裁判所に認められた場合、6ヵ月以上10年以下の懲役刑が下される可能性があります。
また、従業員が不法行為で第三者に損害を与えた場合、企業には従業員とともに損害賠償責任を負う義務があります(民法715条)。セクハラに関する企業の法的責任は大きいといえるでしょう。
セクハラ加害者の懲戒処分はどの程度にすべきか
複数の要素から総合的な判断が必要
セクハラを未然に防止し、仮に発生した場合も正しく罰則を与えるため、加害者に対する懲戒処分の内容を就業規則などに定める必要があります。
懲戒処分の基準については、以下の要素から総合的に判断してください。
- セクハラ行為の時間や場所、内容、程度
- 被害者と加害者の関係性(職位など)
- 被害者の対応や心情など
- 犯罪性の有無
- 反復性・継続性
- 加害者が反省しているかどうか
過去の判例などを参考に規定する
懲戒処分の内容を検討する際は、過去の判例などを参考に規定することも有効です。下記は、いずれもセクハラが認められ、企業から懲戒処分が下された事例です。
概要および判例 | 管理職の男性が、複数の女性従業員に対して「デートしよう」「好きだ」などのメールを送信した。さらに男性従業員に対し、「相手をしてくれる女性を紹介してくれたら、管理職にしてやる」などと発言もした。 |
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処分内容 | 通常解雇(解雇予告手当と退職金の支払いあり) |
概要および判例 | 正社員としてバス運転手を務めていた男性が、トラベルコンパニオンの女性に対して、脚部や胸などを触る、抱きつくなどのわいせつな行為を行った。 |
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処分内容 | 懲戒解雇 |
概要および判例 | 二人の男性従業員が、特定の女性従業員に対して、約1年にわたって性的暴言を繰り返していた。 |
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処分内容 | 出勤停止および降格処分 |
- 【参照】
- Y社事件|女性就業支援バックアップナビ
この判例を参考にすると、直接身体に触るなど、身の危険を伴うレベルのセクハラや、職場環境を著しく害するセクハラは、解雇に相当するといえるでしょう。一方で、性的な発言や、単発での軽い接触などは、出勤停止や減給などの懲戒処分とすることが現実的です。また、訓戒やけん責などの軽めの処分でも、従業員が十分に反省する場合もあります。
厚生労働省の「事業主の皆さん 職場のセクシュアルハラスメント対策はあなたの義務です!!」では、セクハラの処分内容が記載された就業規則の事例を公開しています。自社における懲戒処分の基準を検討する際は、こちらの事例を参考にするとよいでしょう。
「セクハラ」について深く知る記事一覧
セクハラ
セクハラ被害の実態(データ、実例、影響)
セクハラ防止対策のポイント
セクハラの罰則や懲戒処分
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