業務効率化
業務効率化とは?
業務効率化とは、コストを抑えて早く業務を進めるために、これまでの業務を見直すことを指します。業務プロセス上のムリ・ムダ・ムラを見つけて省き、効率的に業務が進むように改善を図ります。
1. 業務効率化を図るポイント
業務効率化を図るポイントは、ムリ・ムダ・ムラを減らすことです。トヨタ自動車株式会社の創業者・豊田喜一郎元社長が提唱した、トヨタ生産方式の主要な考え方「ジャスト・イン・タイム」が、ムリ・ムダ・ムラの削減のルーツとされています。
トヨタ自動車のものづくり
トヨタ自動車では、生産活動の合理性を追求しようと、生産現場のムリ・ムダ・ムラの排除に努めました。特に在庫、作業、不良など複数の要素が組み合わされたものが「ムダ」であり、積み重なるとやがては企業経営に行き詰まるとして、次のように作業、ライン、工程のムダを徹底的に排除しました。
- お客様からクルマの注文を受けたら、なるべく早く自動車生産ラインの先頭に生産指示を出す。
- 組立ラインは、どんな注文がきても造れるように、全ての種類の部品を少しずつ取りそろえておく。
- 組立ラインは、使用した部品を使用した分だけ、その部品を造る工程(前工程)に引き取りに行く。
- 前工程では、全ての種類の部品を少しずつ取りそろえておき、後工程に引取られた分だけ生産する。
- 【引用】
- ジャスト・イン・タイム|TOYOTA
「トヨタのモノづくりの精神」はTOYOTA WAYと称され、国内の自動車産業だけではなく、業界や国境を越え、あらゆる企業に浸透しています。業務プロセスに潜むムリ・ムダ・ムラに気付き、生産性の高い仕事ができるような仕組みを作ることで、チーム・組織としての業務効率化が図られ、生産性向上を実現しています。
- 【参考】
- トヨタ生産方式|TOYOTA
業務効率化と生産性向上の違い
生産性向上とは、投入資源(インプット)を少なくして、成果物(アウトプット)を維持または増大させることです。対して業務効率化は、コストを抑えて素早く業務を進めるために、これまでの業務プロセスを見直すことを指します。
つまり、業務効率化は生産性向上に向けた一つの手段です。業務効率化以外にも、新規事業の立ち上げや人事異動など生産性向上が見込める手法はあるため、コストや自社の経営方針から、生産性向上の手段を選ぶことが大切です。
- 【関連記事】
- 生産性向上とは|日本の人事部
2. 業務効率化のステップ
チームで取り組む業務効率化の三つのステップ
業務効率化は、日々の業務において従業員それぞれが取り組むものであると同時に、チーム全体で取り組むことでもあります。仕事において個別の従業員が業務効率化を図ることも重要ですが、会社において業務効率化を図る上では、個人ばかりに焦点を当てるのではなく、チーム・組織としてのムリ・ムダ・ムラを見極め、改善策を議論することが重要です。
業務効率化のステップを大まかに分けると次のようになります。
- 業務効率化の目標を定める
- 業務を可視化する
- 業務効率化の方法を決める
- 社内の人材で行う
- 社外の人材で行う
- 自動化・電子化する
業務効率化の目標を定める
目の前の業務を効率化するだけであれば、少し発想を変えるだけで済みますが、チーム・組織全体の業務効率化を図るには、明確な目標を定めることが重要です。漠然としたイメージを目標に据えるのではなく、「何を」「いつまでに」「どれくらい」などと数値や期間で示します。
事例:大幅な残業削減を目指したSCSK株式会社
業務効率化の目標の代表例として、「残業削減」があります。残業削減を目標として、業務効率化などに徹底的に取り組んだ事例を紹介します。
大手システムインテグレーターとして国内11事業所を抱えるSCSK株式会社は、以前は深夜残業・休日出勤が常態化していました。2009年に中井戸信英氏が会長兼社長に就任すると「仕事の質を高める働き方の改革」をテーマに、組織としての大規模な業務改善に着手することを決断しました。中には「残業を減らすと収入が減る」と懸念する社員もいたことから、削減した残業代分の原資をすべてインセンティブとして社員に還元すると発表しました。
同社は12年4月にフレックスタイム制を敷き、同年に3ヵ月限定で「残業半減運動」に着手しました。当初は「2割、3割減からスタートしては」という声もありましたが、困難な目標にチャレンジしなければ、具体的な行動変革にはつながらないと、前四半期と比べて半減させる目標を設定しました。結果として、残業半減運動の対象となった32部署のうち約半数で目標がほぼ達成されました。
残業半減運動の一定の成果を受けて、13年4月には「スマートワーク・チャレンジ20(通称:スマチャレ20)」として、全社・全部署を対象に「平均残業時間20時間以内」「有給取得日数20日」という目標を求めました。エントリーは事業部門ごとに行い、目標を達成した部門のメンバー全員に対し、夏季給与に特別加算する形でインセンティブも設けました。部門の平均残業時間を目標とすることで、個人だけでは達成できない目標としています。
こうした取り組みを経て、08年度は全社の残業時間が月間平均で35.3時間であったのに対し、スマチャレ1年目の13年度は22.0時間、2年目の14年度は18.1時間と、目標の20時間をクリアするまでに至りました。本事例からは、チーム単位かつストレッチな目標を設定することの重要性を学ぶことができます。
- 【参考】
- やるだけでなく、やりきる仕組み “働き方改革”でIT業界の常識を覆す。 SCSKの「スマートワーク・チャレンジ」とは|日本の人事部
- 夢ある未来の創り方 自分たちから変わる、変える。SCSKの働き方改革|SCSK株式会社
業務を可視化する
明確な目標を決めたら、次に業務を可視化します。全体の業務内容を洗い出し、どの業務にどれだけの時間や労力がかかっているのかを見える状態にします。業務を可視化した後に、なぜ時間がかかっているのか担当者にヒアリングを行い、業務に潜む問題点を理解します。
業務の可視化は、改善すると業務効率化のインパクトが大きくなるところから着手することが大切です。着手のしやすさ、しづらさではなく、大きな業務改善につながる部分を優先して着手します。
- 【参考】
- 見える化・可視化とは|日本の人事部
業務効率化の方法を決める
業務全体を可視化した後に、業務効率化の方法を次の三つから決めます。
- 社内で行う
- アウトソーシングする
- 自動化・電子化する
(1)社内で行う
社内で取り組む場合は、プロジェクトの概要と責任者を決めます。プロジェクトを立ち上げてからは、業務改善のプライオリティ(優先順位)を決め、具体的にどのように改善させるかワークフロー(仕事の体制)を整えます。
進捗の確認方法としては、定例ミーティングを開くことが挙げられます。実施した結果の把握・分析、うまくいったこと、うまくいかなかった要因の検証、改善案の策定、次回定例ミーティングまでのゴール設定をします。PDCAを意識し、改善のサイクルを正しく回すことが大切です。
- 【関連記事】
- プライオリティとは|日本の人事部
- PDCAとは|日本の人事部
(2)アウトソーシングする
専門家により外部の知見を取り込む
社内にリソースが不足している場合は、外部の専門会社に特定業務をアウトソーシング(委託)します。業務効率化のノウハウや同業他社の事例を豊富に持っているならば持ち、自社の課題に合った戦略的な提案も期待できます。
外注費用がかかるため、選定・外注内容・目標設定・定例ミーティングの実施タイミングなどをあらかじめ計画した上で相談します。また、機密情報を外部の人間に伝えることになるため、機密保持契約を締結し、セキュリティー対策を施す必要があります。
- 【参考】
- アウトソーシングとは|日本の人事部
(3)自動化・電子化する
IT化に伴い、業務の自動化を実現するサービスが増えています。例えば、コロナ禍でテレワークが推し進められた際に、多くの企業がオンラインビデオツールのZoomを導入しました。例えば営業部門では移動時間が削減され、その分商談件数を増やしたケースがあります。
ほかにも、社内の電子決裁化を進めることで、プロセス全体における決裁スピードの向上が見込めます。テレワークを導入している場合は、押印のために出社をする必要がなくなります。
●プログラミングをより普及させる「ノーコード・ローコード開発」
Excelの入力業務をプログラミングで自動処理することで、それまでは丸1日かけていた入力業務をわずか数分で自動化できたという例は数多くあります。現在では、プログラミングの知識を持たない非エンジニア人材でも業務システムを開発できる「ノーコード・ローコードツール」も登場しています。活用することで、プログラミングコードを使わずに業務アプリを誰でも作ることができるようになります。
3. 企業の事例を知る
組織で業務改善を推し進める上で、ほかの企業の取り組みを知ることは重要です。企業の事例の参考材料として知られるのが、経済産業省が運営するポータルサイト「ミラサポplus」です。ミラサポplusは、中小企業向けの補助金申請や経営に役立つヒントを紹介し、業務改善に取り組んだ企業の事例も豊富に扱っています。
キミセ醤油株式会社の取り組み
企業の一例としてキミセ醤油株式会社を挙げます。同社はRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入して定型業務を自動化し、残業時間短縮を実現しました。岡山県の老舗調味料メーカーである同社は、中国・四国地方の顧客を35人ほどの営業担当者が月1回のペースで直接訪問する「御用聞き営業」が売り上げの源泉でした。一方で、顧客管理が属人化し顧客管理業務に膨大な時間がかかり、長時間勤務が常態化していました。
そこで営業活動の見直しを図るべくRPAシステムの導入を決めました。経営者、ITリテラシーが高い若手社員、営業経験豊富なベテラン社員が議論を交わし、営業支援ツールの開発に着手しました。結果、営業訪問リストの自動作成や、電話をかけるべき顧客を自動抽出する機能などの仕組みの構築に成功したのです。
事例集・助成金を有効に活用する
このほか、「ミラサポplus」ではITツールの導入や設備投資が必要な場合に向けた補助金の活用事例が掲載されています。また、補助金を自社の課題に合わせて検索し、その場で電子申請ができるシステムを持っています。組織で業務効率化を行うには、事例に基づいた十分な検討、コストの低減が重要です。これらを参考に、「業務改善助成金」やITツール導入を促す「IT導入補助金」といった制度を有効に活用しながら、対策を講じていくことが求められます。
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