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社会人教育市場で培った「学び合い」という手段を軸に
今の延長線上ではない新しい社会づくりに挑戦する

株式会社Schoo 代表取締役社長 CEO

森 健志郎さん

写真:森 健志郎さん(株式会社Schoo 代表取締役社長 CEO)

自律的に学ぶ風土の醸成やリスキリングに注力する企業にとって、いつでもどこでも学べるオンライン学習サービスは、もはや経営インフラの一つといっていいでしょう。その中でも充実したコンテンツと受講者同士が一緒に学んでいく「学び合い」の仕組みによって、学習効果の高さが評価されているのが、株式会社Schoo(スクー)が運営する「Schoo for personal」(法人向けは「Schoo for Business」)です。同社は、2024年10月に東京証券取引所グロース市場に上場しました。24歳で創業し、独自のサービスをゼロから立ち上げた同社代表取締役社長CEOの森健志郎さんに、起業に至るまでの経歴やビジネスのヒントになった出来事、Schooならではの強み、現在の日本企業の学びや人材開発の現状と課題、同社の今後の展開などについてうかがいました。

プロフィール
森 健志郎さん
株式会社Schoo 代表取締役社長 CEO

もり・けんしろう/1986年大阪生まれ。2009年近畿大学経営学部卒業。2009年4月、株式会社リクルートメディアコミュニケーションズで、SUUMOを中心とした住宅領域の広告企画制作に従事。2011年10月、自身24歳時に同社を設立し代表取締役に就任。

濃密な経験ができたリクルート時代

24歳のときに貴社を創業されています。学生時代から起業志向をお持ちだったのですか。

漠然と「世の中を変えたい」と思っていました。その背景には小学生のころの原体験があります。当時、家庭の問題で近隣に何度も助けを求めたのですが、まともに受け止めてくれる人が誰もいなかったという経験です。幼いながら、社会から拒絶された気持ちになりました。それ以来、「このままの世の中ではだめだ」という思いをずっと持ち続けていました。ただ、学生時代から世の中を変える方向性まで見えていたわけではありません。起業も特に意識はしてはいませんでした。とにかく社会に変化を起こせる人になりたいという意気込みだけだったと思います。

大学卒業後はクリエイティブ職としてリクルートに入社されています。

就職活動では、若いうちから大きな仕事を任せてもらえそうな会社を探しました。最初は総合商社に狙いを絞っていたのですが、採用されるには英語力が足りないことに気づきました。そこで英語を使わなくても大きな仕事ができる会社として選んだのがリクルート。クリエイティブ職を希望したのは、企画や言葉、デザインの力で世の中にメッセージを打ち出し、社会を変えるチャンスがあると感じたからです。正式にはリクルートメディアコミュニケーションズ(当時)所属の広告プランナー兼コピーライターとして採用されました。

リクルートでは、どのようなお仕事をされましたか。

私が入社した2009年はリーマンショックの翌年。リクルートも業績が落ち込み、クリエイティブ部門から私を含めた新卒4人が営業部門の応援に行くことになりました。いきなり4月の入社直後から千葉の西船橋支社で営業職として勤務することになったんです。半年間という約束だったのですが、さすがに驚きましたね。

仕事の内容は地元の不動産会社への飛び込み営業。これまでリクルートと取引実績のない新規顧客に、リクルートの不動産情報サイト「SUUMO」への情報掲載を提案するというものです。最初の2ヵ月はまったく売れませんでしたね。私の担当は特にリクルートを嫌っている不動産会社が多かった地域。営業のマネジャーからは「リクルートは好きじゃないけど森君のことは好きだから発注すると言わせてこい」と言われていました。

そこで、やみくもに飛び込むのをやめて、事前に訪問する不動産会社のホームページを読み込んで、自分と波長の合いそうな社長がいる会社に絞って営業をすることにしました。すると、この方法が驚くほど効果を発揮しました。わずか1ヵ月で17社もの新規顧客を獲得できたのです。優れた業績を上げて、営業部のMVPも受賞することができました。4ヵ月目からは東京本社の営業部に異動。そこでも目標をクリアして、秋から本来の職場であるクリエイティブ部門に戻ることになりました。

入社時の希望とは違う営業職での大きな成功体験は、「自分なら何でもできる」という自信につながりましたね。あのとき売れないままだったら、おそらく起業もしていなかったと思います。

クリエイティブ部門ではどのような経験を積まれたのでしょうか。

担当したのは不動産、主にマンションの広告です。配属先は、リクルートの中でも優秀と言われていたリーダーがいるチーム。退職するまでの2年間、その仕事ぶりを間近で見られたことは私にとって大きな財産です。多くの広告プランナー、コピーライターはクライアントが設定した枠の中で企画を考えるものですが、その人はスタートラインから違っていました。

たとえば「売価1億円のマンションだから広告予算は●●円まで」と言われても、「2億円で売れば、さらに広告予算が増やせますよね」と売価自体を大きく伸ばす企画を立て、実際にそれを通してしまうのです。とにかく発想が大きくて、今の制約に縛られない。それこそがプランニングであり、クリエイティブであると学びました。

写真:森 健志郎さん(株式会社Schoo 代表取締役社長 CEO)

SNSを駆使して1万人のユーザーを3日で集める

貴社を起業されたきっかけは何だったのでしょうか。

会社から管理職研修の一環として、eラーニングのプログラムを受講するよう指示されたんです。初めての管理職研修に期待を抱いて画面を開くと、講師がカメラ目線で一方的に話しているだけでした。まったく興味がわかず、仕方なくレポートだけ提出しました。私自身は学びたかったし、学んだことを生かして大きい仕事をしたいという意欲もあったのに、結果的に学べなかった。そのとき、自分ならもっと楽しい学習コンテンツやシステムをつくれる、という思いがひらめきました。その翌日にはもう退職願を提出していましたね。

アクションを起こすスピードが速いですね。

直接のきっかけはeラーニングの受講でしたが、その少し前から自分が担うべき仕事についても考えるようになっていました。当時、湾岸エリアの大型プロジェクトを担当していたのですが、2011年3月の東日本大震災でその一帯に大規模な液状化現象が発生したため、案件はすべてストップ。一気に仕事が減ったことで、自分の現状を振り返る余裕が生まれました。

社会に影響を与えられる大きい仕事がしたい、と思って選んだクリエイティブ職。しかし、マンションのプロモーションの仕事がそれに当たるのか、自分はこれで良かったのかという疑問が浮かんできたのです。入社以来、忙しすぎて目の前の仕事に向き合うのに必死だったのですが、時間ができたことで我に返りました。管理職研修を受けたのはちょうどそのタイミングです。だから、すぐに行動に移せたという側面はありました。

創業時はどのような状況だったのでしょうか。

退職願は出したものの、すぐには辞められません。関わっていたすべての仕事に道筋をつけて、実際に独立・起業したのは半年後の2011年10月でした。退職金30万円を資本金としてたった一人での始動です。最初はすべてが手探りでしたね。アイデア一つだけでスタートしたので、計画性も何もありません。なんとかするしかない、と思いついたことはすべて実行しました。とにかく行動力でカバーしたんです。

サービスを立ち上げたのは翌年1月。実質的に3ヵ月で準備しました。コンセプトは「すべてのユーザーが脱落しないで学び続けられる、ライブ配信を活用した双方向型学習コミュニティの提供」というもの。自分は従来型のeラーニングにつまらなさを感じましたが、それを仲間と一緒に学ぶことで楽しくできたら、きっと多くの人に喜んでもらえるはずだと考えたのです。幸いにも周囲の友人たちが手伝ってくれたり、サービスのコンセプトに共鳴してくれた著名人の方が講師を引き受けてくれたりと、いろんな人に助けてもらえたことで実現にこぎつけることができました。

具体的にはどんなサービスだったのでしょうか。

「起業」をテーマにした週1回の生放送です。当時の私がいちばん必要としていたものでもあったので、きちんと学べて実際に役立つのかどうかを検証することもできるだろうと考えました。講師陣は、古川健介さん、家入一真さん、ビズリーチ(現ビジョナル)の南壮一郎さん、ヤフー(現LINEヤフー)の川邊健太郎さんなど、日本を代表する起業家の方々。その人たちが生の声で語り、視聴者の質問にもリアルタイムで答えてくれる。今考えるとシンプルですが、当時はまだライブ配信そのものが希少でしたし、登録さえすれば無料で見られるため、最初から話題になりました。有識者の話を直接聞こうと思ったらセミナーなどに足を運ぶしかない時代でもあり、特に地方在住の人が興味を持ってくれました。プロモーションはSNSでの告知のみでしたが3日間で1万人以上のユーザーが登録してくれました。

順調な滑り出しに思えますが、苦労されたことはありましたか。

資金面です。配信機材だけで50~60万円かかったので、用意した退職金ではとうてい足りません。個人のカードの上限まで借りてなんとかしました。ベンチャーキャピタルや金融機関には、私が実現しようとしているサービスが十分理解してもらえず、実務経験が短いことを疑問視されるなどして、結局お金は貸してもらえない状況がしばらく続きました。最初の1年間ほどは、経営者としての報酬はほぼゼロでした。振り返ると、食べ物がなく、常に空腹を感じていたことを思い出します。SNSに「何も食べていません」と書くと、心配したユーザーが食べ物を送ってくれて、それでしのいでいた時期もありました。

当初の個人向け無料サービスから、どのようにマネタイズしていったのでしょうか。

続けているうちに、「見逃した過去回を見たい」「もう一度見返したい」という声を多数もらうようになりました。そういった特別なサービスに対して月額課金する形で有料化していきました。また、最初は個人向けのみの提供でしたが、「内容が良いので会社として利用できるプランはないのか」という問い合わせも増えていきました。そうしたニーズに応えてつくったのが法人向けの「Schoo for Business」です。これは最初から有料で、現在ビジネスとしては法人向けのほうが大きくなっています。

ミッションは「世の中から卒業をなくす」

「世の中から卒業をなくす」というミッションに込められた思いについてお聞かせください。

当社の原点は、私自身がeラーニングで最後まで学べなかった体験です。ただ、社会全体で見ると、お金がない、時間がない、近くに場所がないといったさまざまな要因で学べない人が多くいるのも事実です。Schooが提供するサービスによってすべての人が社会人になっても学び続けられる世の中をつくるという、当社の提供価値を一言で表現するために、このミッションを掲げました。ちなみに社名の「Schoo」も、卒業という終わりのない学びのイメージで、スクール(School)から最後の1文字をとったもの。リクルートでコピーライターとして過ごした2年間の集大成として創業時に考えました。

主力事業としては個人向けの「Schoo for Personal」、法人向けの「Schoo for Business」を展開されています。それぞれの強みを教えてください。

共通しているのは「コンテンツの幅の広さ」と「みんなで学ぶ双方向の学習体験」です。コンテンツは、ビジネススキルをはじめ、ライフリテラシーからリベラルアーツまで、社会人学習のあらゆるニーズに応えるプログラムをそろえています。過去10年間以上のデータがあるので、どんな講座にニーズがあるのかは、高い精度でつかめます。同時にマーケットの今後を予測して新しい企画を積極的に投入しています。

双方向性と相性がいいのは、100人いれば100通りの意見が出るような、多様な解が存在する分野です。たとえば今の社会課題の多くがそれに当てはまるでしょう。いろいろな意見を聞くだけでも勉強になります。講師が一方的に話をする従来型の研修では実現できません。

写真:森 健志郎さん(株式会社Schoo 代表取締役社長 CEO)

個人向けと法人向けでコンテンツに違いはあるのですか。

基本は、個人が学んで満足してもらえるコンテンツの提供です。法人向けは、それを企業が利用しやすいプランにし、さらに組織内の学びの支援などを組み合わせて提供しています。個人向けがバリューエンジン、法人向けがマネタイズエンジンと考えています。もちろん、コンプライアンス研修用など法人ニーズならではの講座は法人向けに別途用意しています。

みんなで考えるという意味では、生放送にリアルタイムで参加できることが貴社サービスの魅力でしょうか。

「生放送」の位置づけは創業当初とは少し変わってきています。当時は技術環境や社会状況から、双方向性を打ち出すためには生放送が最も適していたので、それを看板にしていました。ただ、私たちのサービスが最終的に実現したいのは、一人で学ぶのではなく、コミュニティの仲間とやりとりして切磋琢磨(せっさたくま)することで学習のモチベーションを上げること。それによって継続性や学習効果を高める「学び合い」です。

現在も生放送はほぼ毎日実施していますが、その多くはアーカイブに保存され、いつでもどこでも視聴できます。生放送時のチャットのログなどもすべて残るので、後からでもリアルタイムで視聴しているときと遜色ない体験ができるはずです。さらに集合学習機能を使えば、指定した日時に動画が再生され、そのとき試聴している人同士でやりとりしながら学ぶことも簡単にできます。つまり、現在は生放送でなくとも「学び合い」の環境をつくれる段階に入ってきているわけです。

近年は高等教育機関や社会人教育事業者に向けたプラットフォーム事業、地方創生などの新規ビジネスにも積極的に取り組まれています。本業とのシナジーやその意義などについてお教えください。

当社の祖業である社会人教育分野は今後も高い成長性が期待できる市場ですが、我々が目指したい影響力の規模はその分野だけでは収まりません。ここまで蓄積してきたノウハウを生かし、さらにより良い社会をつくるというテーマ性も担保できる新しいビジネスを模索するのは当然のことと考えています。そうした意識で現在、研究を進めているのが大学のトランスフォーメーション、地域社会への貢献といった新規事業分野です。

大学とはオンライン教育という接点があります。少子高齢化が進む中でもオンラインを活用して海外の留学生や社会人にも対象を広げていくことで大学も生き残れます。そこに当社のノウハウを生かしてもらう一方で、私たちも大学教育との連携ができるというシナジーが見込めます。また、当社のサービスは立ち上げ時から地方在住の方々に高く評価してもらえたように、地方の企業・個人との相性が良いという特性があります。地方では教育面でも機会や選択肢が限られるためです。その延長線上で、地域で活動している企業や人材に新しい価値を届けていくことで、地方創生やスマートシティ推進といったこれからの社会づくりに貢献したいと考えています。

「学ぶことは楽しい」という意識をつくる

日本における「学び」「人材育成」などについて、その現状や課題をどう捉えていますか。

近年、政府を中心にリスキリングが推進されていますが、その中身は学びの費用を無償にするといった政策が中心で、あくまでも「自分で学びきれる人」が対象でしかないという印象です。しかし異業種への転職を考えるような、本当にリスキリングが必要な人の多くは、おそらく学ぶことに自信がなかったり、良い学習体験を持っていなかったりするのではないでしょうか。そういう人たちに「学んでキャリアアップできたら無料にしますよ」と言っても、なかなか最初の一歩が踏み出せないと思います。結局、学びきれるエリートだけが政策のメリットを享受でき、さらに格差が広がるのではないでしょうか。そこが大きな懸念点ですね。

企業人事の皆さんの中には、そのことに気づいている人が多いですね。企業の中でも自分で学びきれる人は政府の補助金などを使って自律的にスキルアップできるので、課題は自分からは積極的に動けない中間層の支援です。そこをいかにボトムアップして戦力化していくか。当社のサービスは、その課題の解決に役立つことを特に意識して設計しています。

自律的に学ぶ組織をつくることに多くの企業が腐心されていますが、そのために必要なことは何でしょうか。

「学びは楽しい」という意識づけをいかにできるかではないでしょうか。日本社会の特徴は、学校での学びに良い思い出がない、テストや受験で失敗した、そういうネガティブな意識の人が多いこと。そこを変えるには、まずは学んだことで「できる仕事が増える」「同僚と学んだ内容について語り合う」といった、小さな成功体験の積み重ねが重要です。

私たちは13年間事業を展開してきて、エンドユーザーである個人が、どういう体験なら喜んで自律的に取り組んでくれるかを把握しています。企業が「学ばせたい内容」をオーダーして作る一般的な研修プログラムとは異なり、当社のコンテンツは「個人が学びたい内容」を提供しているという違いがあります。そこは業界内でも大きな優位性であると自負しています。

これから注力していく新サービスがあればお聞かせください。

企業向けでは、学ぶカルチャーの醸成を中心に取り組んできましたが、今後はさらに体系的な学びを提供してレベルアップを支援する、たとえば営業職からデジタル人材になれるような教育プログラムを強化していきます。それを形にしたのがアウトプット実践型オンライントレーニングサービス「ゼミ」です。

当社がこれまで培ってきた双方向性や学び合いの技術をふんだんに投入し、何十時間かのプログラムを仲間と一緒に大学のゼミのような形で受講できます。すでに試験的な提供もはじまっており、ユーザーの声を反映しながらさらにブラッシュアップしていく予定です。

人材サービス、HRソリューションなどの業界で働く若手人材の皆さんに、成功するために早い時期から取り組んでおいたほうがいいこと、ご自身が続けてこられたことなどのアドバイスをお願いします。

「自分がやりたいことをやる」ことが大事です。成功や失敗は相対的なものであり、年収なども他人との比較でしかありません。仮に周囲から失敗と思われたとしても、自分のやりたいことがやれていれば、気にする必要はないでしょう。それよりも、自分が本当にやりたいことは何なのか、どんなことで頑張りたいのか、誰と一緒に働きたいのかなどを考えたほうがいい。その上で自分に正直になって選択していくほうが幸福度は高いはずです。私も創業当初、「このビジネスは絶対うまくいく」と確信していたので、一切心が折れずに続けられました。食べるものがなかったときも苦ではありませんでしたね。自分がやりたいことができていればそれで成功だと思います。

写真:森 健志郎さん(株式会社Schoo 代表取締役社長 CEO)

(取材:2024年8月20日)

社名株式会社Schoo(スクー)
本社所在地東京都渋谷区鶯谷町2-7 エクセルビル 4階
事業内容インターネットでの学びや教育を起点とした社会変革
設立2011年10月3日

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

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