仕事への原動力は一貫して「好奇心」
今は日本の医療に人材という観点から向きあう
エムスリーキャリア株式会社 代表取締役
羽生 崇一郎さん
医療提供体制の変化をよりスムーズに進めるために
日本の医療の現状についてはどのように捉えていらっしゃいますか。
まず高齢化によって、求められる医療の量と内容が急速に変化しています。例えば、一人当たりの年間医療費を見ると70代は30代の約7倍です。また複数疾患、慢性疾患の割合も増えます。当然、求められる医療の内容や医療従事者が身につけるスキルや働き方も変えていかなくてはいけません。
しかし、日本はその変化に対応するための財政的な基盤で大きな問題を抱えています。公的な医療を支える社会保障費の内訳を見ると、国民から集めた社会保険料だけでは足りず、約4割が税金や公債です。今は健康保険証さえあれば全国どの医療機関でも3割以下の自己負担で医療を受けられ、また高額な医療費については補償されるなど、国民が低価格で安心して医療を受けられる環境ですが、それを維持できるのかという懸念が高まっています。
そうした中、人口構成の変化に対応した医療提供体制づくりが、急ピッチで進められています。日本には中小規模の民間医療機関が圧倒的に多く、それを限られた医療従事者でカバーしているのが現状です。分散・偏在している医療機関の機能を変えながら、分業や統合を進めています。
こうした現状のなかで圧倒的に重要なのが、人材です。医療は有資格者でないとサービスを提供できません。また、病院のコストの50%は人件費。よい人材を集められるか、よいチームワークを発揮できるかで医療サービスの質が大きく左右されます。人材を通して、医療提供体制の変化をよりスムーズに進めるお手伝いをするのが、当社のような民間医療人材サービス会社の役割です。
医療はこれまで、民間の人材ビジネスがあまり参入していなかった分野です。特に医師については、主に大学医局が人材の配置で大きな役割を担ってきました。しかし、2004年に臨床研修制度が新しくなったことが一つのきっかけとなり、医師の働き方や転職の自由化が進み、民間の人材サービスも活発になっていったという経緯があります。
医療人材サービス業界のなかでの貴社の立ち位置について教えてください。
個人のネットワークで紹介されているようなものも含めると、医師の人材紹介だけでも同業は全国で100社以上あると思います。組織的にサービスを提供している大手・中堅となると20社前後。推計にはなりますが、そのなかで当社は医師・薬剤師・病院事務職向けの人材サービスでは最も大きな企業の一つかと思います。
ただし、応えきれていないニーズがたくさんあることも感じています。例えば、医師の人材サービスだけ見ても、ニーズは多岐にわたります。医師の診療科目、役職レベル、スキルといった専門性もさまざまなら、働き方も常勤、非常勤、一日だけのスポット勤務など実に多彩です。当然、それに応えるためのビジネスモデルや、サービス・料金体系も変わってきます。逆にいえば、そうした選択肢の組み合わせでまだまだ新しいサービス、ビジネスを創出できる大きな可能性がある業界でもあるのです。
日本を代表するHRソリューション業界の経営者に、企業理念、現在の取り組みや業界で働く後輩へのメッセージについてインタビューしました。