企業にとって最も大切なものは理念とビジョン
経営者として「キャリア開発があたりまえの世の中」を実現する
アデコ株式会社 代表取締役社長
川崎健一郎さん
ビジョンは「キャリア開発があたりまえの世の中をつくる」
アデコ日本法人のトップに就任されて、最も力を入れていることは何ですか。
2015年に一年かけて、中期事業計画を策定しました。その中で、2020年に向けて掲げたのが「キャリア開発があたりまえの世の中をつくる。」というビジョンです。アデコグループは、世界共通の目標として“better work, better life”を掲げているのですが、日本において私たちが何をなしとげていくべきかを具体化した言葉にしたものです。アデコのリーダーたちとも何度も話し合いを重ねて決めたビジョンであり、これを本当に実現することが今の私の最大の使命と考えています。
「キャリア開発」という言葉は、日本では「キャリアアップ」と同一視されるケースが多いように思います。昇進する、給与が上がる、新たなスキルが身につく、といったイメージですね。しかし、私たちはもっと広い概念でキャリア開発を捉えています。前述の意味のキャリアアップももちろん含まれますが、一方でずっと同じ仕事を続けたい、給与は同じであっても60歳まで、あるいは65歳まで元気に働きたい、そう考える人のためにしっかり支援を行っていく。これもキャリア開発の重要な側面だと思うのです。もちろん正社員・非正社員などの雇用形態は関係ありません。誰もが自分の希望する仕事に就け、自分が希望する働き方を実現できる。それがあたりまえにできる世の中をつくりたいのです。
日本には豊富な天然資源はありません。あるのは人的資源だけでしょう。生産性を高め、世界での競争力を高めていくことはとても重要です。そのためにも、キャリア開発は不可欠です。そこで、まずは私たちがその中核となって世の中を支えていきたい。そんな思いで掲げているビジョンです。
具体的にはどのような取り組みをされているのでしょうか。
やはりトレーニングですね。いわゆるクラスルームのトレーニングではなく、注力しているのは、人材のキャリア開発を「1対1」の関係で考えることです。従来は少数のマネジャーや研修担当者が大勢を相手にするのが一般的でした。その場合、「1対n」の関係で、何人かをひとくくりにしたメッセージを発していくことになります。しかし、一人ひとりの事情も希望も性格も違うのに、画一的な対応をしていては、モチベーションも上がらず、成長もないでしょう。重要なのは一人ひとりにきちんと向き合って、最適なキャリアプランとトレーニングを提案できるかどうか。アデコでは今年から「キャリアコーチ」という、専任担当者を置き、マンツーマンのきめ細かい対応を徹底するようにしています。
2015年9月に施行された改正派遣法にも「キャリア形成支援制度を有すること」という責務が派遣事業主に追加されたので、希望者に対してキャリアカウンセリングを行っている人材サービス会社は多いと思います。しかし、アデコではそこからもう一歩踏み込み、一人ひとりに向き合うことを重視しています。キャリアコーチが中心になって、アデコにかかわる全ての方にカウンセリングを行い、将来の希望やライフスタイル、希望する仕事にスキルが足りないならどうやって補えばいいのかについて話をして、具体的なキャリアプランの提示などきめ細かくサポートしていきます。
カウンセリングについても、従来は「何がやりたいのか」「どんな形態で働きたいのか」など、ニーズを確認してできるだけそれに応えるやり方が中心でした。でも、考えてみると自分のことを正確に把握して、やりたいことが明確に描けている人はむしろ少数派ではないでしょうか。私自身、誰かに背中を押してもらってはじめてその気になった経験は何度もあります。そこでアデコのキャリアコーチは、ニーズを聞いてその通りの選択肢を用意するだけでなく、「的確な道だが、そこに一歩踏み出す勇気がない」場合には背中を押してあげる、逆に「客観的に見たらこちらの道のほうがいいかもしれないですよ」と違う選択肢を提案することもあります。それは、コンサルティングに近い形だといえます。
そうした選択肢の一つとして今年から、無期雇用型で事務職を中心とした人材派遣を行う「キャリアシード」というサービスもスタートさせました。企業だけでなくアデコにかかわる人材の方々にとっても、新たな選択肢になると思っています。
日本を代表するHRソリューション業界の経営者に、企業理念、現在の取り組みや業界で働く後輩へのメッセージについてインタビューしました。