働き方改革関連法の施行やワーク・ライフ・バランスの推進、コロナ禍などの要因によって、テレワークや週3日勤務、副業・兼業解禁など、私たちの「働き方」は大きく変化している。
働き方の選択肢が増えると、企業にとっても働く個人にとっても、さまざまな課題が生じる。高度経済成長期の働き方を象徴する「モーレツワーク」から労働法を順守した「ホワイトワーク」、そして多様な働き方を推進する「ダイバーシティワーク」へ。少子高齢化に伴う労働人口減少が加速する日本社会にとって、未来の働き方の多様性が増すことは間違いない。これからの企業と個人は、どんな関係性を築くべきなのか。個人の多様な働き方を支えるために、企業が取り組むべきこととは――。
8月2日に開催された日本の人事部「HRカンファレンス2024-夏-」での議論と合わせて、働き方の変化と課題、企業の取り組みと今後について解説する。
働き方とは
日本人の「働き方」は経済の発展や情報化など、社会情勢の変化を背景に変容してきた。
昨今では「少子高齢化による労働人口の減少」「長時間労働の社会問題化」などを背景に、2018年に「働き方改革関連法」が成立。長時間労働の法的抑制や年次有給休暇の取得促進など、ワーク・ライフ・バランスの実現に向けて法整備を行った。
この働き方改革関連法の施行をきっかけに、企業は働く人たちのワーク・ライフ・バランスを重視するようになった。個人のライフスタイルに応じて、働く場所や時間に縛られない働き方が可能になりつつある。
その選択肢の一つがテレワークだ。テレワークなら時間や場所を選ばず働くことができ、通勤によるストレス軽減や移動時間の削減も期待できる。新型コロナウイルス感染症の流行によって急速に浸透したが、コロナ禍が明けた現在もテレワークとオフィスワークを併用する「ハイブリッドワーク」を含めて多くの企業で定着している。
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働き方の背景と課題
「法改正やデジタル化によって、仕事に時間や場所を拘束されていた点は劇的に改善されています。そして、女性の年齢別の労働率が30歳代で落ち込んでいたいわゆる“M字カーブ”の形が変わってきているように、女性の労働参加が当たり前になりました。日本企業のいいところは、みんながやり始めると変えていこうとするパワーが大きく、一気に実行に移せるところ。この10年ほどで働く個人はかなり働きやすい時代になりました」
こう話すのは、パーソルワークスイッチコンサルティング株式会社でゼネラルマネージャーを務める成瀬岳人氏だ。
しかし、働き方改革が時間や場所の柔軟性を高めることにフォーカスされたことで、新たな課題も生じてきている。
課題1:働く「志向」の変化
「人材流動性が高まっている昨今において、例えば『テレワークができないなら働けません』など、社員が権利を主張することが原因で、社内トラブルとなるケースがあります」
こういったことが起こる背景には、若者を中心とした働く志向の変化があるという。成瀬氏は話す。
「『働きやすさ』があるのは当たり前で、さらに『働きがい』や『自己成長』を求める志向が強まっています。個人の働き方のベースが変わっていく中で、企業は働きがいや自己成長を感じられる環境整備に取り組まなければならないでしょう」
課題2:多様な働き方の人材マネジメント
コロナ禍でテレワークの導入が加速したが、2023年5月に新型コロナウイルス感染症が「5類感染症」へと移行されたことを受け、出社ベースに回帰した企業も少なくない。コロナ禍やそれ以前と異なるのは、出社かテレワークか、どちらかを選べるようになったことだ。
「プロジェクトやチームによって、テレワークと出社をどのように使い分けるか、それを誰がどのようにジャッジするかという点で、現場のマネジメントは難しくなっています。また、週3日勤務、副業・兼業、定年再雇用といった勤務日数や雇用形態についても働き方の多様性が増しています。マネジメントのあり方を根本的に見直す必要があるでしょう」
マネジメントを担う管理職には、チームをまとめて個々人のパフォーマンスを最大限に引き出すことが求められる。しかし個々の働き方が多様になると、チームマネジメントは難しくなり、成果を創出する難易度も上がっている。
課題3:働く個人は「選ばれる」立場になる
働き方の選択肢が増えることは、働く個人にとっても厳しい競争環境にさらされることを意味する。なぜなら、成果を出せなければ企業から「選ばれる」立場ではなくなるからだ。
「社員だから大丈夫、ということが今後は通じなくなります。新たな働き方を選択した個人は、目に見える成果に加えて、スキルを更新し続けることが求められるでしょう。現在、『リスキリング』や『学び直し』といったものが求められる背景には、そういった社会の流れもあると考えています」
多様な働き方を前提とした企業は、マネジメントをどう変えていかなければならないのか。多様な働き方を選択する個人は、どう成長していかなければならないのか。企業と個人の関係性は、どのような形になるのか。その「解」はまだ出ていないと成瀬氏は語る。
「これから起こるのは、働き方改革というより『働き方革新』です。当社の社名になぞらえると“ワークスイッチ”。つまり、働き方を転換していく世界になると考えています」
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パーソルワークスイッチコンサルティングの働き方のソリューション
「働き方というと、週3日勤務、テレワーク、副業制度などの環境整備の話になりがちですが、何よりも重要なのは『目の前の仕事で成果を出す、貢献する』こと。つまり、働き方を制度の枠組みでとらえないことが大切です。個人が目の前の仕事に対して価値を発揮し、どのような成果を出すのかにしっかりと目を向けるべきだと考えています」
取り組み1:業務に特化する
パーソルワークスイッチコンサルティングでは仕事の成果を重要視しており、テクノロジーツールを「実務で活用できる人を増やす」という目的で、デジタルツールの選定から業務プロセス変革、人材育成まで幅広い支援を行っている。
「我々のコンサルティングのポイントは、“業務”に着目していることです。働き方の制度ではなく、現場の仕事のやり方を変えていきます。そのために人事や経理、営業といった“業務領域”に着目し、それぞれに特化したコンサルティングを行っています。
例えば、インボイス制度などの法整備があると、経理部の仕事内容が変わります。そこで新たなツールを導入するだけでなく、それを活用できる人材をクライアントとともに育てていきます。テクノロジーははたらく人が持てる“武器”。その武器を用意して終わりではなく、どう活用したら自分たちの働き方がより良くなるのか、それを実行できる人を育てるところまで踏み込んでいるのが、我々の強みです」
取り組み2:個人のウェルビーイング実感値を見える化
具体的に仕事のやり方が変わると、工数削減や生産性向上だけでなく、個人のはたらく意識が変わっていく。パーソルグループでははたらくことを通してその人自身が感じる幸せや満足感のことを“はたらくWell-being”と名付け、“はたらくWell-being”の向上を目的としてコンサルティングに取り組んでいる。
「そもそもウェルビーイングとは、社会的にも心身ともに満たされている状態のこと。しかし我々が掲げるウェルビーイングは、単純に『幸せ』ということではなく、個人が社会で価値を発揮できている実感がある状態を意味します。一人ひとりが、自ら決めたはたらき方で人や社会の役に立っているという充実感、すなわち“はたらくWell-being”を実感できるかが重要です。効率化や生産性向上だけでなく、そこではたらく人たちがどう変化したのか。ポジティブに変わる人が増えるほど、企業や事業が健全に成長できると考えています」
パーソルワークスイッチコンサルティングでは、個人の“はたらくWell-being”の実感値を測定する「Work Switch Score Survey(ワークスコアスイッチサーベイ)」の提供をスタートした。
「コンサルティングサービスの実施後、クライアント企業ではたらく社員の方を対象に四つの『Work Switch Score(ワーク・エンゲイジメント・ワークライフバランス・成長実感・ワクワク実感)』の変化を定量的に測定します。それぞれの値が高いほど“はたらくWell-being”も高くなる相関関係が当社のデータで証明されているため、漠然とウェルビーイングを高めるのではなく、四つのスコアを高めることを念頭にサポートしていきます。
従来のエンゲージメントサーベイが組織や業務との関係性を測定するのに対して、本サーベイは個人を対象とした「仕事観」「ワークライフバランス」「成長」「ワクワク」などの実感値を測定しています。また、定期的な測定ではなく、施策の前後に測定することで、個人の変化を細かくとらえることが可能です。
パーソルワークスイッチコンサルティングの支援事例
実際、パーソルワークスイッチコンサルティングの支援によって、個人の働き方が変化した事例を紹介する。
三菱地所ハウスネット株式会社の支援事例
「三菱地所ハウスネット株式会社の取り組みでは、当初RPA(Robotic Process Automation=ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入し、業務を効率化することが目的でした。導入によって大幅に業務時間が削減できましたが、それ以上に『膨大な単純作業の繰り返しから解放されて気持ちが楽になった』という現場の声が多く聞かれ、ご満足いただけました。
さらに導入後、現場の方のお客さまとの向き合い方が変わったり、より良いサービスを提供したりする変化があったことは着目すべき点です。テクノロジーによって、クライアント企業ではたらく方を楽にするだけでなく、その先にいるお客さままでポジティブな影響を及ぼす、そういった変化が我々のサポートの先に生まれています」
働き方に関する人事責任者の取り組み
日本企業の人事リーダーたちは、従業員の働き方に関してどのような考えを持ち、具体的な取り組みを行っているのだろうか。
2024年8月2日に行われた日本の人事部「HRカンファレンス2024-夏-」では、働き方をテーマとしたセッション「『はたらく』の在り方 未来構想」が行われた。セッションではまず、法政大学キャリアデザイン学部教授の坂爪洋美氏が、2000年以降に生じた働き方の変化と課題を解説。それを踏まえ、参加者16名が4グループに分かれて語り合った。
最初のディスカッションテーマは、「2030年の働き方はどうなっているか」。グループ発表では「働く人同士で多様な働き方を認め合えるか」「仕事に打ち込みたい人とワーク・ライフ・バランスを重視したい人の二極化が起こるのではないか」「米国では、専門性が求められる現場にスポットでプロフェッショナルが参画する形が増えている。日本でも取り入れられるだろう」など、さまざまな意見が出てきた。
続けて「はたらく×雇用・職場の多様性」「はたらく×個人と組織の関係性」「はたらく×経営・人事の役割」の三つのテーマでグループディスカッションが展開された。
「はたらく×雇用・職場の多様性」については、人手不足を背景に「シニア層が活躍できる環境を人事は準備するべき」など、主にシニア層中心の話題で賑わった。
「はたらく×個人と組織の関係性」では、「外国籍の従業員が増える中で、環境をどのように整えるか」といったダイバーシティな観点から、「リモートワークにおける個人と組織の結節点はマネージャーが重要」など、マネジメントに関わる幅広い意見が交換された。
最後の「はたらく×経営・人事の役割」では、未来に向けた人事の役割についての議論が交わされた。「個人のキャリア自律をどう支援するか」「個人の希望を実現するために、人事リーダーはどのように向き合うべきか」といった疑問が投げかけられた。
グループディスカッションの詳細は、以下のレポートにまとめている。
人事リーダーの視点からさらに学ぶ
働き方の多様化が進む今、人事に求められる役割・必要な視点とは――
働き方の今後
成瀬氏は、これから働き方に関連する取り組みは次のステージに入っていくと予測している。そのポイントは三つだ。
ポイント1:テクノロジーの活用と良質な体験のデザイン
今後の働き方において、生成AIなどのテクノロジーの活用は不可避である。しかし働き方を改善すると同時に、その先にあるお客さまやユーザーの存在を忘れてはいけないと成瀬氏は語る。
「新しいテクノロジーを導入・活用して働き方を改善することはもちろん、その先のユーザーの良質な体験を生み出すデザインまで行うことが大切です。そのためには誰でも自然に使えるか、という視点が欠かせません。
例えば、最近のスーパーマーケットではセルフレジが増えていますが、高齢者の方の中には『なんでこんなにわかりにくくなったの?』『昔はよかったのに……』と抵抗感を持つ方がいるかもしれません。これは良質な体験ではないので、より使いやすいデザイン設計が必要です。テクノロジーによって働き方が自由になっても、ユーザーの体験がより良くなるようにデザイン設計がされていなければ本末転倒です。企業にはテクノロジーを取り入れながら、同時により良い体験をデザインしていくことが求められます」
ポイント2:時間・場所・所属の制約からの解放
さらに、働き方を取り巻く雇用のあり方について、企業では「所属の制約」からの解放が始まると成瀬氏は語る。
「働き方改革によって、『時間の制約』解放、長時間労働は当たり前という風潮が変わってきました。次にテクノロジーの進化とコロナ禍の影響を受けて、『場所の制約』が解かれました。そしてこれから迎える3段階目は、『所属の制約解放』ではないでしょうか。
もともと人類は国や村、宗教など何かしらに所属して生活してきました。現代では多くの人が企業に所属しています。しかし一人が1社に所属する制約条件はどんどん緩和され、企業を含めたさまざまなコミュニティに所属する人が増えています。私自身、パーソルワークスイッチコンサルティングでの勤務を週3日に減らして、自分が経営する会社を含めて四つの組織に所属しています。言い換えれば四つの組織で価値を発揮できる働き方に変えているのです。
フリーランスや副業をする人にとってはすでに当たり前のことかもしれませんが、全体で見るとまだまだ少ない。しかし、今後2025年を起点に労働人口の減少が加速することから、日本全体がそうなっていかざるを得ません。企業にはフリーランスや副業人材など、所属に制約を受けない人材を積極的に活用し、成果を出すための知見を高めていくことが求められます」
ポイント3:ダイバーシティワークへの転換
また、2030年代に向けて働き方を取り巻く変化についても語った。
「この10年から20年で、『モーレツワーク』から『ホワイトワーク』への転換が起こりました。そしてこれからの10年は『ダイバーシティワーク』への転換が求められます。ここでいうダイバーシティとは、女性やシニア、外国人、障がい者だけでなく、多様な雇用のあり方、週3日勤務、副業・兼業、定年再雇用なども含まれます。
すなわち、組織と個人の関係性のあり方も多様性が増していくのです。これらの転換に伴って、企業はより柔軟性を高めていく必要があり、それらを機能させるマネジメントに変えていかなければなりません。
これまでは終身雇用が前提で、一つの会社に入ったらそこでずっと年齢を重ねていくのが当たり前でした。先に入った人が上司で、あとから入った人が部下になる。そこには上司と部下という構図がありましたが、今後はそれが機能しなくなるでしょう。マネジメントの変化は先進企業ではすでに起こり始めていますし、どの企業もいち早く取り組むべき課題と言えます」
組織は多様な個人を生かし、個人はさまざまな組織に選ばれる。こういった働き方はジョブ型雇用が進んでいる欧米的な社会に見えるが、成瀬氏は日本が新たな形を作っていくべきではないかと言う。
「欧米的なやり方を目指すのではなく、日本独自で企業と個人の関係を新たに作ることが重要になるでしょう。課題先進国である日本が、世界のフロントランナーとして新しく働き方の慣習を生み出していく。今、日本はそのスタートラインに立っているのではないでしょうか」
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働き方は経営陣や人事自らが変えるべき
今後、ますます働き方が多様化していく中、組織と個人はどういう関係を構築していくべきなのか。そして、組織が多様な働き方の効果を引き出すにはどう変革すべきなのか。それを見つけるために、経営陣や人事は自ら学び、変化に対応していかなければならないと成瀬氏は語る。
「私自身、複数の組織に所属しているのは二つの理由があります。一つは、自ら実践することで自身の働き方や人生にどういう変化が起こるか知るため。結局、実際にやってみなければわかりません。そこで私自身、自分が四つの組織ではたらいたら、どんな経験が得られるのか、それを知ることが大事だと思い実践しています。
もう一つは、私自身の「在り方」を変えるためです。組織と個人の関係性が変わると言いました。私も一人のプロとして組織に関わるときに、給料ではなくフィー(報酬)をもらうだけの価値のある仕事ができているのかどうか。そういった考え方に転換したいと思ったのです」
実際、その身になって体験するからこそ、不便な部分や改善点が見えてくる。そこから現実を変える視点も得られると成瀬氏は語る。
「自ら実践し、体験することで、周囲に対して『自発的に学んで、一緒に変革に取り組みませんか』というメッセージを発信していきたいと考えています」
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