人事マネジメント「解体新書」第70回
新・女性活用時代―― いま改めて注目される「女性活躍推進」について考える(後編)
『前編』は政府の成長戦略の中、改めて「女性活用」が求められている背景と、企業が取り組むべき課題について述べてきた。『後編』では、迫りくる労働力不足の下、どのように「女性活用」に取り組んでいけばいいのか、その考え方と事例を紹介していく。
女性活用のための基本的な考え方
◆先入観にとらわれず、個人差に応じた役割の明確化を
2007年の人事マネジメント「解体新書」第5回『「女性」を活かせる会社でなければ生き残れない!』(https://jinjibu.jp/article/detl/manage/192/)の中でも記したが、社会人としての能力やレベル、スキルに「個人差」はあっても、「男女差」はないと考えている。女性活用においては、まず、この考え方を人事管理の中心に置き、職場風土として根付かせていくことが肝心である。しかし、依然として「女性だから」という理由(良い意味でも悪い意味でも)で、女性を活用することに躊躇する企業が少なくない。
女性の戦力化をどこまで推進できるかが、今後の企業経営に大きな影響を与えることは『前編』でも述べた通りである。労働力の減少が急速に進んでいく状況下、従来通りの「男性・正社員・フルタイム労働」の働き型に依存する体制を維持していくのは、もはや困難。それなのに男女の違いにこだわり、女性を活用、戦力化しようとしないのは、「人材」という経営資源の観点からみても、大いなる無駄遣いである。
そうした中、女性比率の高いサービス業界などでは早くから女性の戦力化を推進し、女性に活躍の場を与え、女性が働きやすい環境づくりのための制度・インフラ整備を進めている。その結果、女性の生産性が向上しているケースをよく見かける。また、女性の戦力化は社内にも好影響を与え、全社的な生産性にも大きく貢献している。このような女性活用の基盤ができているかどうかが、これからの企業業績に決定的な影響を与える時代となってきたのだ。
一方で、女性をしかるべきポジション・職務に置いたものの、周囲の理解、サポートが得られずに、期待したほどの成果が上がらない(むしろ手間暇がかかる分、負担が大きい)ため、女性活用に消極的になり、「男性・正社員・フルタイム労働」のパターンへと戻ってしまったケースも少なくない。このような企業の多くは、男性中心(男性前提)の仕組みを変えることなく、結果ばかりを求めてきたのではないだろうか。そもそも女性を活用しようという組織風土(合意形成)ができていないのだから、成果が上がらないのも当然のことである。
男性も女性も、一人ひとりは違う。肝心なのは性差をではなく、一人ひとりの個性・特徴に着目することである。そのためには、各人における「役割(求める成果)の明確化」といった人材活用のソフト部分に目を向け、一人ひとりのスキル・能力を活かせるようなマネジメントと環境づくりを考えていくことである。言うまでもなく、役割の明確化においては、「男性だから」「女性だから」という決め方ではなく、個人の持つスキルや能力、意欲、適性などに応じた形で実施していくことが重要になる。先入観にとらわれず、個人差に応じて役割を明確にすることがポイントだ。
◆女性活用の成否を握るのは現場の管理職
その際に鍵を握っているのが、現場の管理職(上司)である。管理職の理解と現場の指導の方向性によって、特に女子活用の場合、その成否が決まってくると言えよう。さまざまな女性活用に関する調査や専門誌のインタビュー記事などを見ても分かるように、最大のネックとなるのは女性活用に理解を示さない(態度・行動を変えようとしない)管理職の存在で、このような管理職の啓発に腐心している企業が少なくない。
特に、旧来型の大手企業に代表される男社会のシステムの中で育ってきた男性管理職は、女性の活用に慣れていない(うまく対応できない)。加えて、失敗しないことが昇進の条件という企業風土が一部に根強いこともあって、不慣れな女性の活用に難色を示す管理職が少なくないのが実情のようだ。そうした意識(偏見)を持っている管理職の下に、意欲やスキル・能力の高い女性をいきなり配属しても、うまくいかない可能性が高い。だからこそまず行うべきなのは、研修などを通して管理職の意識を改革していくことである。
研修では、経営トップの強い女性活用の方針を明確に示し、女性活用が企業の生き残りのために不可欠な道であるという女性活用の“必然性”をまず理解してもらう。そして、能力や資質の差は男女差によるものではなく個人差に過ぎず、実際に戦力化を図れば男性と変わらない(あるいは男性以上の能力や成果を発揮できる)ことを周知徹底する。そのためには、これまでの男性中心社会でのビジネスの進め方、マネジメントの仕方で問題となる(悪い)部分を排除し、男女差ではなく個人差、一人ひとりの個性・特徴に配慮した部門・部署経営を行う必要があることを気づかせていくことである。
何より、女性戦力化を図ることが管理職としての大きな役割であり、それが生産性を高め、企業の業績向上につながっていく。こうした点に対する管理職への意識改革が欠かせないと思う。
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