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チーム作りに必要な“現場で役立つ哲学”とは
組織の力を最大限に伸ばす「原理」について考える(前編)

早稲田大学大学院 客員准教授、本質行動学アカデメイア代表

西條 剛央さん

西條剛央さん 早稲田大学大学院 客員准教授、本質行動学アカデメイア代表 Photo

実践的なチーム作りについてまとめた書籍『チームの力――構造構成主義による“新”組織論』が、注目を集めています。さまざまなメディアで大きく取り上げられたほか、ビジネス・経済書関連の各種売上ランキングでも、軒並み上位を獲得。著者は、早稲田大学大学院 客員准教授の西條剛央さんです。西條さんは心理学、哲学を専門とし、独自のメタ理論「構造構成主義」を創唱。東日本大震災が起きた際には「ふんばろう東日本支援プロジェクト」を立ち上げ、日本最大級の総合支援プロジェクトに育て上げました。それら専門の理論やプロジェクトの経験をベースに、チームの力を最大限に引き出す原理と方法を提示した本書。これまでの組織論にはない切り口は、企業の人事担当者の方々にとっても、大いに参考になるに違いありません。西條さんに、チームを作っていく上で必要な“現場で役立つ哲学”について詳しいお話を伺いました。

Profile

さいじょう・たけお● 1974年宮城県仙台市生まれ。早稲田大学人間科学部卒。同大学院で博士号(人間科学)取得。早稲田大学大学院MBA専任講師を経て、現在、同客員准教授。本質行動学アカデメイア代表、いいチームを作りましょうプロジェクト代表、スマートサイバープロジェクト代表を兼務。「構造構成主義」という独自のメタ理論を提唱。この理論を用い、東日本大震災後の2011年4月、「ふんばろう東日本支援プロジェクト」を立ち上げ、ボランティア未経験ながら日本最大級の総合支援プロジェクトへと成長させる。同プロジェクトは2014年、世界で最も権威あるデジタル・メディア・アートのコンペティション、「アルス・エレクトロニカ」のコミュニティ部門において、最優秀賞にあたる「ゴールデン・ニカ」を日本人として初受賞。同年、「ベストチーム・オブ・ザ・イヤー2014」も受賞。『構造構成主義とは何か』(北大路書房)、『人を助けるすんごい仕組み』(ダイヤモンド社)、絵本『ぼくもだっこ』(講談社)、『チームの力――構造構成主義による“新”組織論』(筑摩書房)など、著書・共著書多数。

未曾有のチーム「ふんばろう東日本支援プロジェクト」はどのようにできたのか

 西條さんは、東日本大震災のボランティア組織「ふんばろう東日本支援プロジェクト」を立ち上げ、日本最大級の総合支援プロジェクトまで成長させました。どのようにして、そのような大規模な組織を作ることができたのでしょうか。

2011年3月の東日本大震災で、私の故郷である仙台は、圧倒的な被害を受けました。3月下旬に車に支援物資を積んで現地に入ったのですが、そこで目にしたのは打ち砕かれた防波堤や折り曲げられた電柱など、圧倒的な破壊の姿。避難所を見ると、拠点となるところには物資が届いていても、その先の小さなところまでは届いていない状況でした。それなのに、物資が余っているという情報が流れている。多くの人たちが困っているのに、不合理なこと、理不尽なことが起こっていたんです。それなら自分がやるしかない、と考えました。

現地の行政は壊滅的な打撃を受け、国も含めて情報を統制してコントロールできるような状態ではなかったので、「タテ組織で統率する」という発想は捨てました。それぞれが自律的に動き、結果として効果的な支援が成立する仕組みが必要だと考えたんです。現地に入った翌日にはホームページを立ち上げ、避難所で聞いてきた必要な物資を掲載。ツイッタ―にリンクして拡散しました。必要な物資が送られたら、ホームページ上からは消す。そうすれば、必要以上の物資が送られてくることもありません。ツイッタ―の拡散力、ホームページの制御力、宅配便という既存のインフラを活用して、必要な物資を必要な分、必要としている人に直送する仕組みを作ったんです。

この仕組みは、SNSを使って被災地への支援を呼びかける後方支援と、前線で活動するボランティアを有機的に連動させることによって作り出される総合支援プロジェクトへと発展。3000ヵ所以上の避難所や仮設住宅を支援する「物資支援プロジェクト」や、日本赤十字社の支援を受けられない個人避難宅25000世帯以上に家電を支援する「家電プロジェクト」など、50以上のプロジェクトやチームを作り上げました。最終的に「ふんばろう東日本支援プロジェクト」は3000人ものスタッフが運営するプロジェクトに成長しましたが、SNSでの情報を拡散や応援してくれた方々も含めれば、10万人以上の人が関わった、まさに未曾有のチームでした。

 それほど大規模な組織を、どのように運営されていたのですか。

この組織のユニークなところの一つは、チーム名簿がないことです。組織の中心はあっても、組織の内外という“境界”はなく、誰でも参加できるようにしました。“小さな力を集めて大きな力に”を戦略的指標として、それを実現するための仕組みを次々と考案していったんです。

その際にもっとも機能したのが“方法の原理”です。方法の有効性は“状況”と“目標”によって変わるというものです。現地で状況を見て、目標を達成するための有効な方法をその都度考えるという考え方を指針として共有しました。

西條剛央さん Photo

数十ものプロジェクトを同時進行で運営していく上で役に立ったのは、フェイスブックのグループ機能です。プロジェクトや支部チームごとにグループを作り、それぞれの中でリーダーや会計担当、Web担当など、できるだけ細分化して役職を引き受けてもらいました。具体的な役割を与えられたほうが、それぞれが責任をもって進めやすくなるからです。最初こそ私がけん引したプロジェクトは多かったのですが、軌道に乗りさえすれば、あとは良いリーダーがいるとどんどん進むので、できるだけ任せるようにしました。

また、極めて重要なこととして「縦割りの弊害」が起きないよう、メンバーにはできるだけ、複数のグループに入ってもらうようにしました。いろいろなグループに入っていれば、帰属意識が分散します。「自分のプロジェクトさえうまくいけばいい」といった視野の偏狭化に陥ることなく、全体としてうまくいくようにする、全体最適の視点を保てるようになるからです。

 SNSなど、ネットを効果的に活用されていましたね。

各チームには、ネット上でやるとりする際、必ず肯定してから意見を述べるように働きかけました。「すべての人間は肯定されたいと願っている」という“人間の原理”に基づくものです。前線で物資を配る人から後方支援の人までいる中で、一番良くないのはお互いが「自分の方がえらい」と張り合うこと。「みんながいて、私もこれだけの仕事ができている」ということを認め合い、感謝し合うことが大事です。理想の状態は、お互いに感謝の気持ちを伝えることで「肯定の循環」が起こり、それをエネルギーにチームが駆動していくことなんです。

キーパーソンが語る“人と組織”

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