政省令・告示等を踏まえた
「改正労働者派遣法」求められる実務対応
弁護士
藤田 進太郎(弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士)
7. 労働契約申込みみなし制度
(1)概要
労働契約申込みみなし制度とは、派遣先等が法所定の違法行為を行った場合に、派遣先等が善意無過失の場合を除いて、派遣元における派遣労働者の労働条件と同じ労働条件で労働契約の申込みをしたものとみなす制度をいいます。みなされた労働契約の申込みに対し、派遣労働者が承諾した時点で、派遣先等との間に労働契約が成立します。
労働契約申込みみなし制度の対象となる違法行為の類型としては、以下のようなものがあります。
[1]派遣労働者を禁止業務に従事させること
[2]無許可事業主から労働者派遣の役務の提供を受けること
[3]事業所単位の期間制限に違反して労働者派遣の役務の提供を受けること
[4]個人単位の期間制限に違反して労働者派遣の役務の提供を受けること
[5]いわゆる偽装請負等
(2)申込みの内容となる労働条件
申込みの内容となる労働条件は、派遣元事業主等と派遣労働者との間の労働契約上の労働条件と同一の労働条件です。労働契約上の労働条件でない事項はこれに含まれません。例えば、契約更新の基準(労基法施行規則5条1項1号の2参照)として労働契約書や就業規則に明記されているものであれば申込みの内容となる労働条件に含まれる可能性がありますが、有期労働契約更新に対する事実上の期待(労働契約法19条2号参照)のようなものは、申込みの内容となる労働条件には含まれません。
「立法趣旨に鑑み、申し込みをしたものとみなされる労働条件の内容は、使用者が変わった場合にも承継されることが社会通念上相当であるものであること。」とするのが行政解釈(職発0930第13号平成27年9月30日「労働契約申込みみなし制度について」)です。
労働契約期間や労働契約の終期も、引き継ぐとするのが行政解釈です。この考え方に従えば、派遣元との間で10月1日~12月31日の3カ月の労働契約を締結して派遣先に派遣されていた有期雇用派遣労働者が12月20日に派遣先に対し承諾の意思表示をした場合、派遣先との間で直接成立する有期労働契約の終期は12月31日のままとなります。派遣先は、労働契約申込みみなし制度の適用により直接雇用することになった元派遣労働者との間の労働契約を継続することを望まないのであれば、契約期間満了日である12月31日までで雇止めすることで対応することができます。派遣労働者が雇止めの効力を争った場合は、労働契約法19条の要件を満たすかどうかが争点となります。
派遣先は、法所定の違法行為が終了した日から1年を経過するまでの日は申込みを撤回することができないこともあり、派遣労働者による承諾の意思表示は、派遣元との間の有期労働契約が終了した後になることもあり得ます。派遣元との間の有期労働契約が問題なく終了している事案の場合、労働契約の終期も引き継ぐとする行政解釈に従えば、すでに契約期間が終了している有期労働契約の申込みに対して承諾の意思表示をしたことになりますから、当該有期労働契約は原始的不能で無効となるか、「契約期間が終了した労働契約」が成立するものと考えられます。いずれにしても、承諾の意思表示をした時点で派遣元との間の有期労働契約が存続していたことを派遣労働者が主張立証しない限り、派遣労働者による派遣先に対する地位確認請求等は認められないことになるでしょう。
(3)派遣先の就業規則
労働契約申込みみなし制度が適用された結果、派遣先との間で直接の労働契約が成立した場合において、申込みをしたものとみなされた労働条件が、派遣先の就業規則で定める基準に達しない場合、労働契約法12条により労働条件が派遣先の就業規則で定める基準まで引き上げられるかは、当該労働者が派遣先の当該就業規則の適用対象となっているかどうかの解釈により決まるのが一般的と思われます。
(4)偽装請負等
労働者派遣法40条の6第1項5号は、偽装請負等の目的で請負その他労働者派遣以外の名目で契約を締結し、法所定の事項を定めずに労働者派遣の役務の提供を受けることを要件としていますので、偽装請負等の目的は請負契約等を締結した時点で必要であり、契約締結後に偽装請負等の目的を持つようになったとしても、5号の要件は満たさないと考えます。
行政解釈は、請負契約等を締結した時点では派遣先等に偽装請負等の目的がなく、その後、派遣先等が受けている役務の提供が偽装請負等に該当するとの認識が派遣先等に生じた場合についても、偽装請負等の目的で契約を締結し役務の提供を受けたのと同視し得る状態だと考えられ、この時点で労働契約の申込みをしたものとみなされるとの見解をとっていますが、労働契約申込みみなし制度が使用者の採用の自由という重要な権利を大幅に制約するものである以上、かかる拡張解釈を行うべきではないと考えます。
偽装請負は、契約の形式は請負契約等であっても、実態が「労働者派遣」の場合を指します。したがって、偽装請負がなされた場合は、労働者派遣法40条の6第1項1号~4号に該当しないかについても検討が必要となるものと考えられます。5号とは異なり、1号~4号では偽装請負の目的という主観的要件が要求されていないことに留意する必要があります。
請負人等が雇用する労働者が、無期契約労働者であることもあり得ます。無期契約労働者について、偽装請負と評価されて労働契約申込みみなし制度が適用された場合、注文主等との間で成立する労働契約も無期労働契約となります。無期労働契約を労働者の同意を得ずに解消するためには、解雇の要件を満たす必要がありますので、労働契約の解消が比較的困難となることが予想されます。
8. まとめ
改正労働者派遣法では、派遣元事業主には、雇用安定措置、キャリアアップ措置等の義務が課せられ、雇用主としての責任が加重されています。今後は、派遣元事業主としての義務に耐えられる派遣元事業主が生き残っていくものと考えられます。
また、無期雇用派遣労働者には派遣期間制限がかからなくなったのも、今回の改正の大きな特徴です。派遣元・派遣先事業主が、無期雇用派遣とどのようにかかわっていくかが、今後の大きなテーマとなっていくことが予想されます。
派遣先事業主が有期雇用派遣労働者を受け入れようとした場合、事業所全体の有期雇用派遣労働者の受入状況を把握したり、派遣可能期間を延長する際に過半数代表者から意見を聴取したりする必要が出てくるため、労働者派遣とのかかわり方、労働者代表との関係などについて、変化が生じることが予想されます。
請負業者との関係では、偽装請負等を理由とした労働契約申込みみなし制度適用のリスクについての対応が重要となってきます。特に、従来は特定労働者派遣事業を営んでいたものの、労働者派遣事業の許可が受けられないため請負等の形態で事業を営むことになった事業主に関しては、十分なリスク管理が必要となってくるものと思われます。
【執筆者略歴】 藤田 進太郎(ふじた しんたろう)●東京大学法学部卒業。弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士。日本弁護士連合会労働法制委員会事務局員・労働審判PTメンバー・最高裁判所行政局との協議会メンバー。東京三会労働訴訟等協議会メンバー。第一東京弁護士会労働法制委員会労働契約法制部会副部会長。経営法曹会議会員。日本労働法学会会員。
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