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あの仕事の「ヒト」と「カネ」

芸者(芸妓)

伝統芸能を体現する日本の宝
一人前になるまでの長く険しい道のり

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年々増える外国人観光客に、和服が人気だ。レンタル着物に身を包んで、観光地を闊歩する外国人の姿もすっかりおなじみになった。外国人が「キモノ」と聞いてまずイメージするのは、「ゲイシャ」の姿だろう。しかし日本人でも、「芸者」に接する機会がほとんどない、という人は多い。日本美と芸の結晶ともいえる「芸者(芸妓)」の仕事とは――。

宴席のできる料亭が減り、芸者市場は縮小。後継者不足が業界全体の課題に

「芸者」という呼び名は、実は関東圏のみのもの。地域によって異なっていて、さらに一人前と見習いでも名称は変わってくる。東京を中心とする関東圏では一人前を「芸者」と呼び、見習いは「半玉(はんぎょく)」や「雛妓(おしゃく)」などと呼ばれる。一方、京都・山形・石川では一人前を「芸妓(げいぎ)」、見習いを「舞妓(まいこ)」と呼ぶ。

芸者・芸妓の始まりは、今から約300年前。江戸時代の京都・東山周辺で、八坂神社へ参詣する人々にお茶をふるまい、歌や舞を見せるようになったことだという。そこにいつしか酒や料理が加わり、踊りや三味線、お囃子などの芸が欠かせないものとなっていった。

宴席で踊りを担当する者は「立方(たちかた)」、演奏を担当するのは「地方(じかた)」と呼ばれ、それぞれ分かれて芸能を披露する。地方になるには、長唄や清元といった唄から、三味線・太鼓・笛といった演奏まで習得しなければならないため、厳しい修業が必要となる。そのため通常は、立方を卒業した姉芸妓が地方となって、芸を磨いていくことが多いようだ。いずれも、師匠について常に芸を鍛錬していくことが求められる厳しい世界。日本を代表する花街にはそれぞれ独自の風習や芸があり、その伝統を引き継ぐ当地の芸者や芸妓の矜持と誇りは並大抵ではない。

通常、芸者・芸妓は、芸能界でいう事務所にあたる「置屋」に所属しており、置屋を取り仕切る「見番(けんばん)」の取次で宴席に入る。宴席の規模や目的に応じて派遣される芸者が選ばれ、各置屋に派遣依頼が入る、という流れだ。なじみの客からの指名があれば、その宴席に優先的に派遣されることになり、一つの置屋で芸者を派遣しきらない場合には、複数の置屋の芸者たちと一緒に宴席に赴くこともある。しかし、花街の衰退とともに見番が姿を消した場所も多く、例えば置屋が三軒のみという東京・大井町では、料亭や客から直接置屋に連絡が来る。京都や東京の六花街(新橋・赤坂・神楽坂・芳町・向島・浅草)では見番が今でも健在だが、時代の流れとともに伝統的なシステムも変わりつつある。

置屋や料亭は次々と姿を消し、古き良き花街の面影は失われつつある

最盛期には数千人単位でいた芸者・芸妓だが、現在は全国に500名程度。宴席を行うことができる料亭も減少の一途をたどっていることから、志す女子の数も減ってきているという。後継者の確保が業界全体の課題となっており、最近ではHPで募集をしたり、ハローワークに求人を出したりするケースもみられるようになった。また、かつては親の許しを得た未成年の少女しか見習いの門を叩けなかったが、年齢制限を緩和する置屋も現れはじめており、芸の道に身を置きたいという夢を持った30代の入門も増えている。芸者の宴席市場は今後も縮小していく可能性が高いが、日本の伝統芸能の担い手として、外国人を対象にした余興という形で活躍の場が広がっていくことも予想される。

芸者を志すなら、まずは置屋への入門から

入り口は多様化しているとはいえ、一人前の芸者・芸妓への道のりは険しく長い。半玉や舞妓といった見習いは、芸者・芸妓になる前の未成年の女子(15歳から20歳くらいまで)のことを指し、舞妓として約5年間修業をするのがならわしになっている。入門時の年齢が高いときは、研修中の芸者という扱いになることも。見習いとされる半玉・舞妓だが、実はそこに至る以前にもステップがある。「仕込み」と呼ばれる15歳前後の女子で、置屋で先輩たちと共同生活をしながら、舞や行儀作法、着付けといった修業を経験する。約1年間の仕込み生活を終えると、ようやく半玉や舞妓としてデビューすることができるのだ。歴史ある京都の置屋などでは、今も伝統的な厳しい修行生活を送る少女たちがいる。

芸者・芸妓への道はまず、募集を出している置屋へ面接に行くことから始まる。年齢制限は緩和されてきているものの、一般的には15歳前後での入門がのぞましいとされてきた。15歳というと、高校進学の時期でもある。若いうちから人生を左右する決断をしなければならないため、入門へのハードルが高い業界だと言えるだろう。特別な学歴は必要ないが、見習いとしての入門は未成年にあたるため、保護者との面談は必ず行われる。保護者からのバックアップがなければ、入門は困難なのだ。

入門後は前述の通り修業を重ねて、半玉から芸者へ、舞妓から芸妓へと昇格していく。キャリアが特徴的なのは京都だ。京都では芸妓になると、通常の「芸妓」と「自前芸妓」との二種類に分かれる。自前芸妓とは置屋から独立したフリーの芸妓のこと。通常、置屋は舞妓が芸妓になるまでに着物や生活費、稽古ごとの月謝にいたるまでかなりの金額を投資している。そのため独立するには、それらを返済する「年季」という5~6年の期間を経なければならない。約5年間の年季が明け自前芸妓になると、住み込みをしていた置屋から離れて、一人で生活ができるようになる。独立すれば生活費から着物、髪結い費まで自己負担になるが、自前芸妓は今までもらえなかった花代(寸志)を受け取れるようになるため、売れっ子の芸妓であれば独立した方が稼ぎは良くなるだろう。

芸者特有の所作を身に付け、芸事をマスターするために「努力家」であることがマスト

先述のとおり、芸者・芸妓になるためには長い道のりを経験しなければならない。芸者・芸妓に必要な着付けや化粧、言葉遣いに所作などは、現代の日常生活では使わないものばかり。また、舞踊・唄・楽器を人前で披露できるレベルにするのは並大抵のことではなく、一人前になってからもスキルを維持・向上させるため、日々の稽古が欠かせない。よほどの努力家でなければ、とても務まらないだろう。実際、見習い時代にこの道を離れる人も少なくないという。また「想像力」も、芸者が備えておきたいスキルだ。例えば接客中に客がふと漏らした一言から心中を察してさりげない心遣いができる、機知に富んだ会話ができるなど、細やかな思いやりや気配りが客から支持される秘訣だ。

入門希望者は若干増えている傾向もあるが、憧れだけでは続かない厳しい世界だ

収入は、地域によって特徴がある。京都では自前芸妓になるまで、置屋からはお小遣い、客からはご祝儀がもらえるが、花代としての給料は出ない。その代わりに、生活に必要な衣食住は置屋が世話をしてくれる。それ以外の地域では、歩合制をとっている置屋もある。つまり、宴席に出た分だけ給料が発生する、というシステムだ。半玉の場合は給料が発生しない代わりに、衣食住や諸経費はすべて置屋が負担することが一般的だが、芸者になると、1回の宴席で客が支払う金額は一人5万円ほど。そこから置屋が「看板料」として仲介手数料を差し引くと、芸者が実際に手にするのは時給にして2000~3000円程度となる。宴席での拘束時間は約2時間なので、1回あたりの出勤手当は約5000円ということになる。指名を獲得し、多くの宴席に出れば月収20万~30万円ほどとなるという。ときには宴席で客から直接チップを受け取ることもあり、芸者にとっては大きな収入源となっている。

厳しい芸事の稽古や、長年にわたる住み込み生活を考えると、割に合わない仕事だと思うかもしれない。しかしそれ以上に「日本の宝」として伝統芸能を担い、次世代に受け継いでいく立場として「誇り」が得られることが、芸者のやりがいと言えるだろう。

この仕事のポイント

やりがい伝統芸能に携われること。極めた芸事で客をもてなし、人の喜ぶ顔が見られること。長くつらい修業があっても、余興が盛り上がることが次のステージへのモチベーションとなる。
就く方法置屋に見習いとして入門することから始まる。「仕込み」を1年、「半玉(舞妓)」を5年程度経験すると、一人前の「芸者(芸妓)」として認められる。かつては未成年しか入門できなかった世界だが、最近では年齢制限のハードルは低くなっている。
必要な適性・能力行儀作法を身に着け、踊りや演奏をプロレベルまで上達する必要があるため「努力家」であることがマスト。また、客から言われなくても気付くことができる「想像力」も大切な素養だ。
収入見習いのうちは給料が出ない代わりに、生活費から稽古代に至るまで、置屋に面倒を見てもらえる。芸者になると、宴席あたり時給2000~3000円ほどで、多くの宴席に入れば月収は20万~30万円ほど。そのほか、客から直接チップをもらえることがある。

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