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ダチョウ牧場

飛べない鳥に “飛躍” のチャンス到来。
第4の食肉を目指して“全力疾走”

世界最大の鳥類である、「ダチョウ」。約10年前にBSE(牛海綿状脳症)問題が発生した際には、牛肉の代替品として関心を集めたこともある。しかし、最近ではメディアなどで取り上げられる機会も減少。未だ一般に浸透しているとは言い難い。だが、その一方で、ここ数年国内での飼育数は右肩上がりの状況。全国には、「ダチョウ牧場」も続々と誕生している。人々は、ダチョウのどこに新たなビジネスチャンスを見出しているのだろうか…。

「ヘルシー」「エコロジー」で時代に適応

昔から、日本でもダチョウの皮はバッグやベルトなどの皮革製品に使用されてきた。しかし、「食肉」としてのダチョウの歴史は浅い。国内で本格的な生産が始まったのは平成に入ってから。現在、日本では年間約450トンが消費されているが、そのうち約400トンは南アフリカなどからの輸入物で、国産は約50トン。牛肉の消費量が年間約130万トンであることと比較すると、小さなマーケットであることは否めない。。

ダチョウ肉の見た目、食感、味は牛肉の赤身に近い。クセが少なく、和・洋・中のさまざまな料理に使用することができる。特に注目されるのは、そのヘルシーさだ。牛肉と比較すると、たんぱく質や鉄分は約2倍。一方で、カロリーは約40%、脂肪は約10%という健康食材。ここ数年の健康ブームもあり、今後の消費量拡大を期待する声も多い。最近では、ネット通販や百貨店など、販売ルートも増えつつある。牛、豚、鶏に続く「第4の食肉」として期待する向きも多い。

食肉としての利用だけではなく、羽根は寝具、脂は石けん、卵の殻は美術品などに加工され、捨てるところがほとんどないことも大きな特徴。将来的な可能性を見出し、さまざまな企業や人が、新規事業としてダチョウの飼育を始めている。

町おこしや新規事業の“一翼”を担って…

イメージ

ダチョウは、体長2~2.5メートル、体重は150キロ前後。最高時速約100キロで走ることができる。その巨体とは裏腹に、おとなしくて人なつこい性格だ。

現在、ダチョウの飼育場は北海道から沖縄の全ての都道府県に存在。400ヵ所以上で、約1万羽が飼育されている。ダチョウといえば、もともとアフリカで生息していたため、暑い国の鳥というイメージが強いが、実際は環境適応能力が高く、非常に飼育しやすい。「畜舎などの大掛かりな施設は必要がありません。広くて平坦な農場と柵があれば十分。飼料代も安価で、飼育コストは他の家畜と比較するとかなり低く抑えられます」(ダチョウ牧場経営者)。その他にも「鳴かない」「臭わない」「発育が早い」「繁殖能力が強い」など、飼育には好条件が揃っている。

特に最近は、地方での飼育が目立つ。使われなくなった農場などを有効活用し、ダチョウを飼育するケースが多いようだ。地方自治体が町おこしの目的で民間に飼育を委託しているケースも散見される。「特に過疎が進んだエリアでは、雇用促進への期待が大きいようです。新たな特産品が誕生することは、地元経済の活性化にもつながります」(業界筋)

例えば、山形県村山総合支庁では、平成14年度から「ダチョウ新興プログラム」として、飼育費用を補助するなど、飼育農家の拡大を目指してきた。最近では、スーパーの店頭などにもダチョウ肉が置かれるまでに浸透。「一般のスーパーにダチョウ肉が置かれているのは、全国でも山形県くらいです」(地元筋)

事業確立までの長い道のり

増加するダチョウ牧場だが、その大半は数羽しか扱わない小規模経営。脱サラしてダチョウの飼育を始めた人や、農家が自宅の敷地内に飼育場を設置してスタートしたケースなどが多い。「安定した生産が可能で、採算が取れているところは2割にも達しないでしょう」(事情通)。安易な参入はリスクを伴う。当面は、ダチョウの認知度の向上に合わせて、着実にステップを踏んでいく慎重な姿勢が求められそうだ。「雛からダチョウの飼育を始めた場合、生産基盤が確立されるまでには、5年以上かかります」(業界筋)との声もある。

ダチョウ飼育は歴史が浅いこともあり、リスクを孕んでいるが、安定した生産さえ確立できれば、大きな収益も期待できそう。「ダチョウの寿命は約50年ですが、そのうち40年間くらいは卵を産みます。1年間に50~100個の卵を産むので、生産と販売さえ軌道に乗れば、事業としては大いに期待できます」(業界筋)

最近では、ダチョウの「オーナー制度」も登場。生産者はオーナーから徴収した金を、雛鳥や飼料代に当てる。食肉を販売した結果、得られた収入は配当としてオーナーに分配するという仕組みだ。まだ日の浅いダチョウ飼育。生産者はさまざまな手段を講じ、事業の確立を目指している。

生産・流通体制の整備が最重要課題

1000羽以上を飼育し、一般に開放している大型牧場もある。食肉や石けんなどのダチョウを原料にした商品を販売するほか、ダチョウ肉料理も提供。実際にダチョウと触れ合うこともできるなど、そのサービスは幅広い。小学生の遠足や、家族連れでの利用が多いことからもわかるように、特に小さな子供に人気が高いようだ。だが、先述の通り、牧場は地方に立地しているケースが多く、どうしても客数は限られてくる。「牧場を開いても、連日のように“閑古鳥が鳴いている” ところも多いようです」(業界筋)。現在のところ、ダチョウ牧場単体で利益を生むことは困難といわざるを得ない。

ダチョウ肉が一般化するためには、値段の低価格化も課題となるだろう。現在のダチョウ肉の市販価格は1キロ4000~5000円で、高級牛肉にも匹敵する。まずは、流通システムの確立や安定した供給の実現が求められそうだ。「ダチョウは家畜として認められておらず、専用の処理場も国内では数ヵ所のみ。今後は、飼育から処理、各種加工品の生産、流通までの体制を整備していく必要があります」(事情通)

期待ほどの成果を残すことができず、ダチョウ飼育からの撤退を余儀なくされた事例が多いのも事実。「ある大手企業では、新規事業として大規模なダチョウ牧場をオープンし、肉や関連商品の販売に注力していましたが、約4年で完全撤退。飼育していたダチョウが病気にかかり、生産がストップ。しかし、商品の供給をストップするわけにもいかず、輸入品に依存していたところ、赤字が大きく膨らんでいったようです」(業界筋)。事業から撤退はしたが、取引先などに対して大きな迷惑をかけることになり、「立つ鳥跡を濁さず」という訳にはいかなかったようだ。

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

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