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ブックライター(ゴーストライター)

ネガティブなイメージからの脱却をはかる新たな呼称
著者に代わって言葉を紡ぐパートナー

書店に並ぶさまざまな書籍。平積みされているものの中には、カリスマ経営者やスポーツ選手、人気女優といった著名人による本も多い。それらを見て、「この人たちはただでさえ忙しいのに、一体どこに執筆する時間があるのだろう」と、疑問を抱いたことはないだろうか。なかには自筆にこだわる著者もいるが、文章を書くことが本業ではない人にとって、200ページも300ページも執筆するのは、そう簡単なことではない。実は、そこには「ブックライター」と呼ばれる代筆者の存在がある。何時間もの取材で著者が語った内容をもとに、原稿にまとめるブックライター。その仕事はどんなものなのだろうか。

一冊の本ができるまで。ブックライターの仕事プロセス

著者の代わりに文章を書く、というと「ゴーストライター」を想起する人も少なくないだろう。しかし「ゴーストライター」という言葉には、存在していないことが前提になっているようなネガティブな印象がないだろうか。これに異を唱えたのが、フリーライターの上阪徹氏。『職業、ブックライター。毎月1冊10万字書く私の方法』(講談社)を出版し、ブックライターという新たな呼び名を広く浸透させた存在だ。一昔前は、著者も出版社も「著者が執筆した」体にし、代筆者も「私が書いた」と名乗り出てはいけない暗黙のルールがあった。しかし最近では、巻末に「構成」や「編集協力」といったポジションでブックライターの名が記載されることも増えている。

イメージ画像

膨大な取材の上に、確かなライティングでヒット作を
生み出す。もはや「ゴーストライター」とは呼べない。

ブックライティングは、とても労力がかかる仕事だ。一冊の文字数はだいたい8万~12万字。一日に1万字書き進めたとしても執筆に半月ほど要し、さらに著者や編集者との調整が入るため、仕上がるまでに早くて1ヵ月はかかる。特に著者が多忙であれば、取材時間の確保や確認作業が難航し、企画から発行まで数年を要することも珍しくない。
一冊の本ができるまでの、おおまかな流れは次の通りだ。

●依頼
ブックライティングの依頼の多くは、出版社の編集担当から寄せられる。編集者は多くの書き手に関する情報を持っているので、「この著者ならこの書き手が合うだろう」とマッチするブックライターに依頼するケースが一般的だ。また、著者からの指名もよくある。すでに何冊か出版実績を持つ著者には、お抱えのライターがいる場合も多い。ライターと著者とが先につながり、出版社に企画を持ち込むケースもある。

●企画
書籍のコアとなるメッセージを決める重要なフェーズが企画である。出版社の編集者が中心になって行うが、インタビュアーや執筆を担当するブックライターがかかわることも少なくない。「誰に」「何を」語らせるかを決め、それをタイトル案や仕様、対象読者などを、企画書に落とし込んでいく。

●取材準備
ブックライターの仕事は書くことがすべてだと思われがちだが、取材の下準備は実際の執筆以上に重要な作業だ。ここでは構成案と呼ばれる、章立てと各章の内容を仮作成していく。のちに「目次」となる部分で、書籍全体の流れや盛り上がりが決まる。著者が以前に出版した書籍や、以前受けたインタビュー記事、同じジャンルの類書を読み込み、独自性を出せるような質問項目を立てる。

●取材
おおよその目安では、一冊の本を仕上げるためには10時間ほどの取材が必要と言われている。3時間ほどの取材を3回に分けて行うこともあれば、対談や鼎談、講義やシンポジウムの内容を書き起こす場合もある。

●執筆
取材が終わると、まずは著者の発言内容を文字にする「テープ起こし」と呼ばれる作業を行う。自分でテープ起こしをするブックライターもいるが、専門業者やクラウドソーシングなどに外注することも。テープ起こしをもとに、章の並び替えや小見出しをつけながら、文章を整えていく。全体の骨格とストーリーの構成がその後の売れ行きを左右するといっても過言ではないため、重要な工程だ。

●編集
できあがった初稿は編集者に提出し、編集者・著者の両者から加筆される。何度か修正を繰り返したのちに、最終稿を仕上げて校了となる。事実確認や文法的用法のチェックを行う「校閲」や、装丁デザイン、印刷所とのやりとりなどは編集者が進めるため、ブックライターの仕事は基本的にここまで。

ブックライターになるために必要な、専門性とネットワーク

昨今、WEBメディアが増加したことによる書き手需要から、ライターになるハードルはぐんと下がった。しかし、書籍の執筆となると依然ハードルは高いままである。ブックライターになるには、どうしたらよいのだろうか。

通常のライターと同様に、ブックライターにももちろん資格は必要ない。キーポイントとなるのは、「専門性」だろう。普段から特定のジャンルの記事を執筆していれば、ブックライターを選ぶ立場の編集者や著者の目にとまりやすくなり、医療関係、ITガジェット系、暮らし系などの専門性を持つことで、業界内で「書けるライター」というポジションを取りやすい。

イメージ画像

高い専門性はもちろん、実績に裏打ちされた
人脈を築くことも、成功の秘訣だ。

さらに「ネットワーク」の重要性も無視できない。編集者がブックライターを選ぶとき、全く知らないライターよりも、実績があり、信頼のおけるライターを選ぶのは当然だ。初めて執筆を依頼したライターの原稿の出来が悪かった場合、自分で書き直すか、別のブックライターを立てなければならなくなり、リスクが大きいからだ。人と人とのつながりで仕事を回し合っている側面がまだまだ大きい業界なので、ライターと編集者との交流会へ参加するなど、人脈を広げる努力も必要かもしれない。

ブックライターはもうかるのか?

「ライター業はもうかる」といったイメージを抱いている人は、そう多くはないだろう。クラウドソーシングなどで、1記事100円といった量産を目的とした発注が横行した時期があったからだろうか。では、ブックライターはどうだろう。

結論からいうと、ブックライターは「重版が決まればもうかる」ということになりそうだ。報酬は「印税型」と「買い切り型」に分かれる。著者が有名人の場合や、ホットな話題で類書がまだ出ていないような場合には、重版が見込まれるため、印税の形式で契約するのがよいだろう。

一般的には、売上の約10%が印税となると言われており、1,000円の書籍の場合100円が著者サイドに入ってくる。そのうちの何割を互いの取り分にするかは、著者とブックライターとの取り決め次第だ。初版で終わってしまった場合、ブックライターにとっては割に合わない金額となることもあるため、印税とは別で、作業代金としての「原稿料」を設けているブックライターもいる。一冊書いて数十万円、ベストセラーとなれば数百万円ともなる、なかなか夢のある仕事だ。

最近では、インフルエンサーといった「身近な話題の人」や、メディアへの顔出しを行う「タレント学者」なども増えている。著名人が必ずしも文章を書けるとは限らない。ブックライターの活躍の場は、まだまだ期待できそうだ。

この仕事のポイント

やりがい何千何万もの人に届く書籍に携わることができる。また、著者へのインタビューの中で繰り広げられる、本には書けない“オフレコ”を聞くことができるのも、楽しみの一つ。
就く方法ライターとしての専門性を磨きながら、書籍編集者や著者とのネットワークを築くこと。最近ではブックライター養成学校も増えており、本作りのノウハウを学ぶことができる。
必要な適性・能力長時間に及ぶインタビューや、膨大な資料を読む必要があるため、好奇心や情報収集力が必要になる。また、自分で立てたスケジュールを実直に遂行していくための自己規律も重要。
収入書籍の売れ行きによって収入は上下するが、一冊あたり数十万円の報酬が一般的で、当たれば数百万円になることも。売れっ子ブックライターになると、年収1000万円も珍しくない。

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

あの仕事の「ヒト」と「カネ」

あまり実情が知られていない仕事をピックアップし、やりがいや収入、その仕事に就く方法などを、エピソードとともに紹介します。

この記事ジャンル 中途採用

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