潜水士
映画「海猿」で有名になった水の中の何でも屋
チームワークを軸に安全で確実な業務を目指す
海や河川、湖といった水の中に長時間潜り、さまざまな仕事をする潜水士。映画「海猿」では海上保安庁の潜水士が海難者の救助を行い、そのドラマチックな活躍が人気を集めた。しかし、現実の潜水士の業務は土木建築からサルベージ、水産物の採取など地道な作業が多い。そして、水の中という危険も伴う空間で重要になるのは人のチームワークだ。その知られざる仕事内容とはどんなものなのだろうか。
土木建築、サルベージ、水産物の採取など地道な作業が主
時に危険を伴う潜水士の仕事。先の震災後の捜索での活躍は記憶に新しい。
潜水士とは、国家資格である潜水士免許を取得し、海や河川、湖などに潜って、さまざまな作業を行う仕事だ。
映画「海猿」では、主人公は海上保安庁の職員として海難者の救助活動を行うが、潜水士の仕事は港湾土木や海洋調査、サルベージ、水産物の収穫など多岐にわたる。代表的なのは以下のようなものだ。
・土木建築に関わる作業 海洋に構造物を設置したり、護岸工事、港湾工事、ケーソン工事などを行うために、測量や施工、水中での溶接などさまざまな土木建築 作業を行う。作業内容としては溶接や切断、削孔、型枠設置、塗装、非破壊検査などがある。
・レスキュー(水難救助) 船舶の事故や自然災害により、水難事故に巻き込まれた人たちに対し、人命救助活動を行う。主に海上保安庁や海上自衛隊が業務にあたる。
・ダイビングのインストラクター 観光のダイビングの引率指導や、ダイビングのライセンスを取得したい人への指導を行う。主にダイビングショップなどに所属している。
・サルベージ(引き上げ作業) 沈没した船や海中に沈んだものの引き上げを行う。
・水産物の採取 漁業の一環として、海中に潜って魚介類を捕る。
・海洋調査 大学や研究機関に所属し、海や海洋動物、海洋生物などの調査を行う。
・水中撮影 カメラで水中での様子を写真や動画の形で撮影し、状況を伝える。ほとんどの業務で必要となる作業だ。
水中での作業は誰でもできる仕事ではなく、専門的な資格や知識、経験も必要となるため需要が高く、これからもなくなることはないだろう。特に近年は調査により、日本近海でメタンハイドレートや天然ガスといった海洋エネルギーや、レアアースなどの鉱物資源が豊富に存在する可能性が指摘されており、今後の開発が注目されている。また、洋上風力発電といったエネルギー開発や、世界的な需要の高まりから魚類を含めた水産資源の開発といった需要もあり、今後、潜水士の活躍の場は広がることが予想されている。
港湾整備に従事する潜水士は減少中。今後の育成が急がれる
朝日新聞デジタルの2017年5月25日付け記事によれば、日本潜水協会の発表では港湾整備に従事している潜水士は、全盛期の1995年の約5000人から、現在は約3300人にまで減っている。現在の潜水士の平均年齢は44歳であり、20年後にはさらに2600人にまで減ると同協会は推計している。
2011年の東日本大震災で、津波で海底に沈んだがれきの撤去やその後の港湾工事に潜水士が活躍したが、実は各現場で潜水士が足りないことが復興の遅れの一因になったともいわれる。そこでこの5月、国や業界団体は南部もぐりで知られる岩手県の洋野町県立種市高校を支援する連携協定を結び、担い手の確保、育成に乗り出している。潜水士に関連して産官学が手を結ぶのはこれが初めてのことだ。
ではどうすれば潜水士になれるのだろうか。仕事で必要となるのは労働安全衛生法の規定に基づき、潜水作業に従事する労働者に発行される国家資格、潜水士免許だ。これはダイビングスクールで発行されるダイビングライセンスとはまったく別のもの。PADIのCカードといったダイビングライセンスはあくまでも民間団体が発行するダイビングの認定証であり、このライセンスで潜水作業をすることはできない。
世界中に活躍の場が広がるが、潜水士の数は減少の一途を辿っており、早期の育成が必須である。
潜水士資格の認定団体は厚生労働省であり、受験資格はなく、誰でも受験することが可能だ(ただし免許交付は18歳以上が対象)。試験に実技はなく学科のみで、「潜水業務」「送気、潜降及び浮上」「高気圧障害」「関係法令」の四つの科目から出題され、合格率は70%~80%程度と高い。
ちなみに映画「海猿」で有名になった海上保安庁の潜水士になるためには、海上保安学校に入校し、船舶運航システム過程(航海・機関・主計コース)を選択する必要がある。その後、現場に配属されてからは広島の呉の海上保安大学校での研修を希望し、希望が通れば約2ヵ月間の研修に参加できる。合格者は巡視船や各管区航空基地の機動救難士などに配属される。
仕事に求められる「体力と協調性と冷静沈着さ」
ではどのような人が潜水士に向いているのか。適性を考えると、水の中にいることが苦にならないこと、そして体力があることが最低限の条件と言える。水の中に長時間潜ることに加えて、水の中で依頼された作業を正確に時間内で行う必要があり、それら作業をこなせるだけの体力が求められる。地道に体力維持のためのトレーニングを行うなど、常に業務に備えることが必要だ。また、技術面でも技術力の維持や向上のために、定期的な訓練や練習、新たな技術ができれば講習などへの参加も求められる。
もう一つ、大切なのは協調性だ。水の中で業務を行うためには、共に現場で業務にあたる仲間や海上にいるスタッフとのチームワークが重視される。水にかかわる業務は安全性を確保することが最優先であり、そのためにはチームワークが欠かせない。もし何らかの非常事態が起きたときには、メンバー一人ひとりが的確な行動を取らなければならない。特に水中にいる潜水士は、そのときその場面ごとに状況を把握し、情報を集めて、次に何をすべきかを冷静に判断する必要がある。水中と水上で連絡を密に取りながら、効率よく業務を進める必要があり、常に相手のことを考えた仕事運びが要求される。
また、潜水には減圧症や窒素酔いといった危険もあり、相応のリスクを負うことになる。人は潜水によって、水圧や水温の影響、潮の流れの影響、視界・視程の影響、高圧空気を呼吸することによる影響を受ける。特に高圧空気を吸うことで生じる減圧症や窒素酔いは、潜水を行ううえで最大のリスクとなる。場合によっては生命を落とすこともあり、こうした危険性を十分に理解し、適切な予防策を講じられる人物でなければ務まらない。
最後に給与をみると、潜水士は危険が伴う業務に就くことから、一般と比較してやや高めと言われている。平均年収は600万円~700万円程度で、高度な仕事をこなせるベテランクラスとなれば1000万円を超える人もいる。また、中には潜水業務の需要の高まりから独自の人脈を活かして独立して働く人もいる。特殊な業務だけに、その専門性を高めていければ、収入を上げていくことも可能だ。
この仕事のポイント
やりがい | 水中での困難な仕事に立ち向かうプロフェッショナルであること。 |
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就く方法 | 潜水士免許(国家資格)の取得が必要。受験資格は特にないが、免許の交付は18歳以上が対象となる。 |
必要な適性・能力 | 水の中に長時間いても苦にならない・体力があることに加え、チームワークを大切にしつつ、常に冷静な判断ができる危機管理能力が求められる。 |
収入 | 平均年収は600万円~700万円程度。専門性を高めれば、1000万円以上も可能である。 |
あまり実情が知られていない仕事をピックアップし、やりがいや収入、その仕事に就く方法などを、エピソードとともに紹介します。