HRの未来をリードする 人事リーダーらが8テーマで議論
日本の人事部「HRラウンドテーブル2025-冬-」開催報告
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経営の要となる、人と組織。日本企業がさらに成長するために、人事パーソンはどのようなアプローチで人・組織を強化すべきか。人材採用・育成・組織開発のナレッジコミュニティ『日本の人事部』は2025年1月、日本を代表する企業の人事責任者、各分野の有識者、HRソリューションのプロフェッショナルが集まり、HRの主要テーマで議論を深め発信する「HRラウンドテーブル」を開催した。
テーマ1:キャリア
日系企業が真に取り組むべきキャリア開発
~キャリアオーナーシップ実現へ、全社員のやる気を呼び覚ます~
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「キャリア」をテーマとしたセッションでは、田中研之輔氏(法政大学 キャリアデザイン学部 教授)と大櫛愛也氏(アビームコンサルティング株式会社 人的資本経営戦略ユニット マネージャー)が登壇した。
田中氏が人的資本経営のキーワードとして挙げたのは、「開示」(Human Capital Disclosure)と「開発」(Career Development)。このうち開発については、「組織内キャリア型からいかに脱却するか」が重要で、自律的なキャリア形成を応援する発信や、そういったキャリア価値観を社内で共有することが必要だと説いた。続いて大櫛氏が、働きがいを語り合う「Willの高解像度化にフォーカスしたアプローチ」とゲーム感覚で「従業員が楽しく、簡単に気持ちを動かすためのアプローチ」を紹介。
参加者によるグループディスカッションのパートでは、「従業員がWillを描く」上で各社が抱える現状課題を整理・共有し、対策について議論した。
テーマ2:ピープルマネジメント
人材データ活用の前提が変わる?
「見えていなかったもの」が見えた時、ピープルマネジメントをどう考えるか
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「ピープルマネジメント」のセッションには守島基博氏(学習院大学経済学部 経営学科 教授/一橋大学 名誉教授)と阿須間麗氏(EAGLYS株式会社プロダクトVP)が登壇した。
守島氏は働き手の属性や価値観の多様化といった大きな変化が起きている中、全員戦力化に向けて、従業員の「ココロ」を把握し、個々の違いを人材マネジメントに反映する必要があると強調。新たな人事のニーズに応えるデータ活用法やツールが求められていると問題提起した。阿須間氏は秘密計算という新たなテクノロジーを用いて、社内チャットや業務中のPCカメラ映像、業務PCの操作ログなどを組み合わせることで、個人の強みや課題を可視化できると述べ、従来よりも「深い・動的な」ピープルデータを安全に活用することで、個人と組織を解像度高く理解することが可能になると展望を語った。
参加者は各社が抱える課題を共有し、人事としての意思決定のため、従業員のどのような情報を、どこまで深く知りたいかなどについて意見交換した。
テーマ3:人材開発
今までの枠組みを抜け出し、企業の持続的成長を促進する人材開発
~人事トップが考えるべき、社員が学ぶ仕掛け~
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「人材開発」のテーマで坂爪洋美氏(法政大学 キャリアデザイン学部 教授)と小山幸乃氏(コクヨ株式会社イノベーションセンター複業マッチング&伴走サービス『pandoor』事業責任者)が登壇した。
坂爪氏が「社員の成長に必要な学びの形成」と題し、OFF-JT/自己啓発が、仕事への積極的な貢献など、従業員の主体性獲得に向けて大きな可能性があると説明。個人が学習への主体性を獲得する必要があるとともに、企業がOFF-JTの可能性を模索し、学習させたい能力・スキルを再検討するべきだとした。小山氏は「事業と人材の同時成長」を掲げる自社の人材マネジメント基本方針を紹介し、従業員が主体的にキャリアを描き、実現するため、業務時間の20%で社外業務に携わる「パラレルワーク」という働き方を提案した。
参加者同士で議論しながら、既存の枠組みから脱却する際の阻害要因を整理し、既存の枠組みにとらわれない人材開発の具体的な施策を検討した。
テーマ4:管理職
重責を担う「ミドルマネジメント」
その力を引き出し輝かせる支援の在り方を探る
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「管理職」をテーマとしたセッションでは、松尾睦氏(青山学院大学 経営学部 教授)と冨樫智昭氏(株式会社リンクアンドモチベーション企画室エグゼクティブディレクター)が登壇した。
冨樫氏は、管理職を取り巻く環境が変化したため、従来の「管理・統制型マネジメント」ではなく「支援・共創型マネジメント」が求められていると説明。知識やスキルを付与する管理職“教育”より、具体的な課題解決を促進する“実践支援”が必要だと訴えた。松尾氏による講演は「ミドルマネジャーのアンラーニング」。過去の成功体験に固執するのではなく、アンラーニングを通して経験学習サイクルを回すことが重要で、ミドルマネジャー同士でマネジメントスタイルを内省し合うコミュニティの有用性などを紹介した。
参加者はそれぞれが取り組む管理職支援施策と、各社が抱えるボトルネックを共有。好事例を深掘りし、意見交換しながら、管理職を輝かせるための施策を探った。
テーマ5:サクセッションプラン
持続的成長を実現するサクセッションプラン
~優れた経営人材を輩出し続けるために人事トップがすべきこと~
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「サクセッションプラン」をテーマとしたセッションでは、石川淳氏(立教大学 経営学部 教授)と辰口健介氏(株式会社マネジメントサービスセンター グローバルサービス部 チーフコンサルタント)が登壇した。
石川氏は、過去の成功体験が通用せず、正解がわからない時代には、必要に応じて全員がリーダーシップを発揮する「シェアド・リーダーシップ」が求められると説明。経験と振り返りを繰り返す学習機会を提供し、計画的にリーダーシップを育成する必要があると述べた。辰口氏は、効果的にサクセッションマネジメントを機能させるため、ビジネスの優先事項、目標に向けて乗り越えるべきリーダーシップの課題(ビジネス・ドライバー)、求める知識やコンピテンシーなど(サクセス・プロフィール)を明確にするアプローチを紹介。
参加者は「次世代リーダーを育成するために人事トップが解決すべき最重要課題」など、グループごとにテーマを決めてディスカッションを行った。
テーマ6:HRBP
いま、求められるHRBPとは?
-自社に最適なHRBPを育成する実践的なアプローチ-
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「HRBP」のテーマで島貫智行氏(中央大学大学院 戦略経営研究科 教授)と大矢雄亮氏(株式会社グロービス グロービス・コーポレート・エデュケーションディレクター)が登壇した。
島貫氏はHRBPに期待される役割として、経営戦略と人事戦略を連動させ、人材マネジメントの観点から事業戦略や事業目標の達成に貢献することを挙げた。その上で、戦略的な役割を果たすためには、事業部門のラインマネジャーや本社人事部との関係のバランスに留意しなければならないと述べた。大矢氏は、HRBPには知識や能力といったハード面に加え、ソフト面であるリーダーシップも必要になると解説。経営/事業サイドと人事サイド双方の経験を積ませるためのローテーションやOff-JTを通して知識や考え方を獲得する機会提供の重要性も説いた。
参加者はディスカッションを通し、HRBPに必要なスキル・マインドや、育成施策の事例を共有した。
テーマ7:組織開発
学習コミュニティによる組織開発の可能性
学び合いによる“働きがい”の創出
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「組織開発」をテーマとしたセッションには、松本雄一氏(関西学院大学 商学部 教授)と加藤雄基氏(株式会社Schoo 法人アカウントプランニング部門)が登壇した。
最初に加藤氏が、組織開発の目的や手法から、共通理念や組織文化など、組織の内面にある課題を対話で解決していく「対話型組織開発」を説明し、対話によって「関係性の変化」をねらったアプローチ事例を解説。続いて松本氏が、学びのコミュニティ(実践共同体)は「組織が学ばせたいこと」と「個人が学びたいこと」のミスマッチを解消する「第3の場所」として、参加者による相互作用と学びの促進など10のメリットを挙げた。実践共同体を構築する上での7原則を示し、主体性を引きだすためには「早急に成果を求めない、楽しさは立派な成果」であると語った。
再び加藤氏が登壇し、学習コミュニティの企業事例を紹介。参加者は自社の組織開発施策と課題をシェアした上で、学習コミュニティの可能性についてディスカッションした。
テーマ8:人的資本経営
人事・組織のリーダーは、
人的資本経営のストーリーをどう描くべきか
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「人的資本経営」のセッションには一守靖氏(事業創造大学院大学事業創造研究科 教授)と山本崇博氏(株式会社ヤプリ 取締役執行役員)が登壇した。
一守氏は、「人的資本経営モデルとは、経営戦略と連動した人事戦略をベースに人材マネジメント施策を展開し、人と組織の強化を、その企業らしく推進するモデルだ」と解説。「企業の存在意義をベースに、あるべき企業文化を醸成する」「従業員一人ひとりの個を強くし、それをつないで組織力向上を図る」など四つのポイントを紹介した。参加者は自社の存在意義や企業文化、取り巻く環境、経営戦略などを整理する「人的資本経営キャンバス」の作成に取り組み、社内に人的資本経営を浸透させるためのアイデアを交わした。
山本氏は、企業が変化し、成長する中で、どのように従業員と向き合うかが重要だと強調。自社の文化や価値観を浸透させるためにテクノロジーを活用して取り組んでいる企業が増えている点に言及し、セッションを締めくくった。
「HRラウンドテーブル」公式サイトはこちら
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