テレワークを緊急で導入する際の就業規則について
緊急時における事業継続の対策として、在宅勤務やサテライトオフィス勤務などテレワークの導入を検討している企業が増えています。導入する際に注意したいのは、労働時間などの条件について規定として明文化しなければならない点です。
1. テレワークを導入する際に気を付けたい就業規則
テレワークを導入する際、場合によっては就業規則の変更が必要になります。就業規則の変更は、正しい手順と方法で進めないと、無効になったり、罰則の対象になったりすることがあるため注意が必要です。
では、どのようなケースで就業規則の変更が必要になるのでしょうか。テレワークを導入する際に就業規則の変更が必要になるケースと、定めるべき規定について見ていきます。
通常勤務と差異がない場合、変更は不要
テレワークの導入において、労働時間などの労働条件が従来と変わらない場合は、就業規則を変更する必要はありません。しかし、従業員に通信費用を負担させるケースなど、通常勤務で生じなかった事項がある場合は、就業規則の変更が必要になります。
また、テレワークの導入に当たって新たにフレックスタイム制を採用するなど、今までの就業規則に記載されていない内容を盛り込むときは、原則として、就業規則の変更が必要です。
テレワークを導入する際に定めるべき規定
テレワークを導入する場合は、就業規則に以下のような内容を入れる必要があります。
- テレワーク勤務の定義(在宅勤務・サテライトオフィス勤務・モバイル勤務など)
- テレワーク勤務の対象者
- テレワーク勤務時の服務規律・セキュリティーなど
- テレワーク勤務時の労働時間
- テレワーク勤務時の休憩・所定休日・時間外労働など
- テレワーク勤務時の出退勤管理
- テレワーク勤務時の賃金
- テレワーク勤務時の費用負担・機器の貸与など
就業規則例を参照したい場合は、厚生労働省が提供する作成の手引きをチェックするとよいでしょう。
本人の希望を尊重することが大切
規定には、テレワークの対象者も記載する必要があります。全従業員に許可するのか、特定のポジションや雇用形態の従業員にのみ許可するのかを明記しましょう。また、テレワークの導入・実施においては、従業員一人ひとりの意思を尊重する必要があります。
当然のことながら、オフィス以外の場所でも十分に就業できる環境があることが条件となるため、自宅の執務環境やセキュリティー環境について基準を設けるのも良い方法です。
何をもってテレワークとするのかを明記する必要がある
一般的にテレワークには、在宅勤務、サテライトオフィス勤務、モバイル勤務といった三つの就業パターンがあります。例えば在宅勤務の場合、就業場所は従業員の自宅のみとするのか、実家も含まれるのかどうかを記載する必要があります。
また、移動中の電車内やカフェ、コワーキングスペースなど、自宅やサテライトオフィス以外の場所での勤務も許可する場合は、モバイル勤務についての定義も規定に盛り込む必要があります。
2. 緊急時の就業規則変更の注意点
「テレワークを今すぐ導入したい」と思っていても、就業規則を変更する場合は慎重に進めていく必要があります。ここでは、緊急時に就業規則を変更する際の注意点を説明します。
就業規則の変更には時間を要するため注意が必要
緊急時とはいえ、就業規則の変更が必要な場合は正しい手順を踏む必要があります。従業員から意見を聞いたり、労働基準監督署へ提出したりといくつかの対応が必要になるため、計画的に進めることが大切です。
具体的には、就業規則の変更案を作成した後、代表取締役などの決裁者から決裁を得ます。従業員の代表から意見書を受け取り、変更後の就業規則と就業規則変更届、意見書をセットにして管轄の労働基準監督署へ提出する、という流れです。手続きにかかる期間を踏まえて進めていきましょう。
従業員への周知や届け出をしない場合は罰則の対象になることも
就業規則を変更した後、届け出をしなかったり従業員への周知を怠ったりした場合、罰則を受けることもあるため注意が必要です。就業規則は事業場単位での適用となるため、事業場ごとの従業員が常時10人以上在籍している場合は、就業規則の作成および届け出が必要になります。なお、常時10人以上にはアルバイト・パートも含まれます。
新たにテレワーク勤務規定を作成する方法も可能
就業規則そのものは変更せずに、テレワーク勤務規定を別途作成するという方法もあります。この場合、テレワーク勤務規定は就業規則の一部という位置づけになります。テレワーク勤務に関する決まり事を就業規則の中に明記するのか、新たにテレワーク勤務規定を作成するのかは企業側に一任されています。
わかりやすさの観点でいうと、テレワーク勤務に関わる決まり事を集約できるという点で、新たにテレワーク勤務規定を作成したほうがよいといえるでしょう。
- 【参考】
- テレワーク規程例|日本の人事部
3. テレワーク導入に伴う就業規則の変更手続き手順
テレワーク導入に伴い、就業規則の変更が必要な場合の手続き手順について見ていきます。
(1)変更案の作成
まずは変更案を作成します。完成した変更案は、代表取締役社長や取締役会などの決裁者からの決裁が必要です。
(2)従業員の代表から意見書をもらう
次に、決裁を受けた就業規則変更案を従業員に見てもらう必要があります。同時に、従業員の代表から意見書をもらいます。労働組合がある場合は、過半数の労働者が加入する労働組合から意見を聞きましょう。労働組合がない場合は、労働者の過半数を代表する従業員からの意見を聞きます。
ここで押さえておきたいのは、労働条件の不利益変更がない限り、同意まで得る必要はないということです。意見の内容については、意見書を作成して記載してもらいます。
(3)変更による不利益がある場合は従業員一人ひとりから同意を得る
従業員にとって不利益にならない内容であれば、過半数の労働者が加入する労働組合の意見を聞くだけで構いません。ただし、就業規則の変更が従業員にとって不利益となる場合、原則として、各従業員の個別の同意が必要になります。
従業員一人ひとりから同意を得たことがわかるよう、できる限り従業員全員分の同意書を回収したほうがよいでしょう。会社側が強制して同意を得たり、同意書を回収したりしても無効になるため注意が必要です。
ただし、不利益の程度や変更の内容・程度、従業員側との交渉の程度などから、就業規則の変更により従業員側に不利益がある場合でも、個別の同意を得る必要がない場合もあります。
(4)意見書・変更届と併せて労働基準監督署へ提出
従業員の代表に提出してもらった意見書と就業規則変更届を添えて、就業規則を管轄の労働基準監督署へ提出します。会社側の控え用に、意見書・変更届・就業規則はそれぞれコピーし、2部用意しておくことをお勧めします。
緊急で導入する際は柔軟な対応も必要
労働条件が従来と変わらない場合は、就業規則を変更せずにテレワークを導入することができますが、就業規則の変更が必要になる場合は、就業規則を変更した後でなければテレワークを導入することができません。
どうしても至急テレワークを導入したい場合は、最低限でもテレワークの対象となる従業員に個別の同意を取りましょう。従業員の安全を守るための措置であれば、合理性が認められる可能性が高くなります。
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