テレワーク中の従業員の労災判断
従業員がテレワークを行っているとき、業務に起因するけがや病気が発生した場合は、業務災害として労災が認められることがあります。
労災認定の判断にはさまざまな要因が絡んでくるため、どのように判断すればいいのか迷うこともあるでしょう。実際に労災が認定されたケースを紹介するとともに、テレワーク時の業務災害をどのように考えればよいのかを解説します。
適用されるが、例は少ない
従業員がテレワークで勤務している場合も、現場作業、事務作業などの通常の勤務形態と同様に労災保険が適用されます。
テレワークは在宅勤務だけではなく、顧客先や出張先のホテル、交通機関の社内、サテライトオフィスなど、さまざまな場所で行われます。自宅以外で業務を行う場合は、労災が認められることをイメージしやすいでしょう。判断が難しいのは、自宅で勤務しているときに起こった業務災害です。例は少ないものの、労災が認定されるケースがあります。
実際の代表的な認定例(1)長時間労働
テレワークで長時間労働を強いられたことが原因で、横浜市のメーカーに勤務する50代の女性が精神疾患を発症し、労災認定されたケースがあります。
新型コロナウイルスの感染拡大後にテレワークを行うようになりましたが、直前2ヵ月の残業時間が1ヵ月あたり100時間を越えた結果、適応障害が発生したことが労災として認定されました。
実際の代表的な認定例(2)過労による自殺
在宅勤務中の過労自殺が労災と認められたケースもあります。東京都で勤務していた30代の男性は、新型コロナウイルスの感染拡大により勤務先で在宅勤務が導入され、仕事はメールや電話でのやりとりが中心となりました。男性は業務量の増加や配置転換があったことで気分障害を発症。過労自殺へとつながったことで、労働基準監督署は労災と認定しました。
腰痛による労災の認定は厳しい
テレワーク中の環境悪化による腰痛を訴える声はよく聞かれますが、腰痛は労災認定が厳しいと言われます。多少腰が痛くなったとしても、立ち上がったり、簡単な運動をしたりすることが可能だからです。また、労働者でなくても、腰痛に悩んでいる人は大勢います。そのため、テレワークによる在宅勤務により腰痛が発症することは十分あり得ますが、持病の要因が大きいと考えられるケースが多く、判断が難しいのが実状です。
腰だけではなく、肩や肘・膝なども同様のことが言えます。徐々に悪くなるケガや病気、目に見えないケガや病気は、業務起因性や業務遂行性の判断が難しく、労災を認定されたとしても審査に時間がかかるケースが多くあります。
厚生労働省では、業務上の腰痛のための「腰痛の認定基準」を定めています。「災害性の原因による腰痛」と「災害性の原因によらない腰痛」の2種類に区分して労災認定の要件を定めているので、参考にするとよいでしょう。
- 【参考】
- 腰痛の労使認定|厚生労働省
テレワークが原因の労災を予防するためのポイント
会社として、テレワークが原因の労災を発生させず、適切に対応するには、以下の2点を意識することが重要です。
- 長時間労働をさせない
- けがや不調を正直に報告させる
在宅勤務の場合も従業員の健康を確保する必要があり、長時間労働にならないように労働時間を管理しなければなりません。脳や心臓疾患などは、「発症前1ヵ月におおむね100時間」または「発症前2~6ヵ月間にわたって、1ヵ月あたり80時間」を超える時間外労働が認められる場合に業務と発症の関係性が強いと考えられており、これを過労死ラインと呼ぶことがあります。労災の認定基準では、実際にこのラインに達していなくても、近い時間外労働があった場合は、労働時間以外の負荷要因を考慮して労災の認定が行われます。
会社は年に一度、定期健康診断を従業員に受診させることが義務付けられており、常時50人以上の労働者を使用する事業場ではストレスチェックの実施も必要です。長時間労働が発生した際は、労働者の申し出に応じた面接指導も実施しなければなりません。
モバイルワークやサテライトオフィス勤務でも、業務災害や通勤災害が発生することが考えられます。けがや病気になった際に従業員が報告しやすい体制をつくり、職場環境を整えることが重要です。
人事のQ&Aの関連相談
在宅勤務における労災認定について
お世話になります。
在宅勤務を行っている社員から、「在宅勤務になり腰痛がかなり悪化し、今は週一で整骨院に通っています。このような場合に、通院またはサポートチェアの購入に対して、補助金は出ますでしょうか...
- びすけっとさん
- 東京都 / その他業種(従業員数 31~50人)
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