フレックスタイム制で年次有給休暇を取得した場合の残業時間計算、給与計算
フレックスタイム制は、従業員が自身の始業・終業の時刻を決めて労働時間を調整できる制度です。従業員自身が日々の労働時間を決めるため、給与計算を行う際の残業時間の算出に関する取り扱いが通常の働き方とは異なります。ここでは、フレックスタイム制で年次有給休暇を取得した場合の残業時間の計算や、給与計算の方法を解説します。
フレックスタイム制で残業をした場合の残業時間のカウント方法
フレックスタイム制では、従業員が日ごとに始業・終業の時刻を決めるため、残業時間のカウント方法が通常の働き方とは異なることに注意しなければなりません。清算期間を単位として時間外労働をカウントするため、残業時間をカウントする際は、清算期間内の総労働時間数が「法定労働時間の総枠」を超えた場合に、その超えた時間数を時間外労働としてカウントします。そのため、労働基準監督署へ届け出る36協定においても、「1日」の延長時間の記載は不要となり、「1ヵ月」「1年」などの延長時間のみ協定します。
フレックスタイム制の時間外労働のカウント方法の原則
1.清算期間が1ヵ月の場合の時間外労働のカウント方法
通常の働き方では、法定労働時間である1日8時間・週40時間を超えて働いた時間数が時間外労働の時間数となります。一方フレックスタイム制では、清算期間の総労働時間から「法定労働時間の総枠」を差し引いて、時間外労働の時間数を計算します。
清算期間を1ヵ月とした場合、その清算期間内の総労働時間は、以下の表にある「法定労働時間の総枠」の範囲内で設定する必要があります。
清算期間が1ヵ月の場合 | |
---|---|
清算期間の暦日数 | 法定労働時間の総枠 |
31日 | 177.1時間 |
30日 | 171.4時間 |
29日 | 165.7時間 |
28日 | 160.0時間 |
フレックスタイム制で有給休暇を取得した場合の給与計算方法
給与を計算する際、年次有給休暇は実際には働いていないため、実労働時間としてカウントする必要はありません。
フレックスタイム制を導入する際に必要な労使協定では、年次有給休暇を取得したときに支払う賃金を計算するため、「標準となる1日の労働時間」を定めます。「標準となる1日の労働時間」は、清算期間の総労働時間をその期間内の所定労働日数で割った時間を基準にして決定します。
従業員が年次有給休暇を1日取得した場合、「標準となる1日の労働時間」を労働時間に加えて給与を計算します。しかし、年次有給休暇の時間数は実労働時間にカウントしないので、割増賃金の対象外です。そのため、清算期間における総労働時間が「法定労働時間の総枠」を超えるケースが発生することがあり、残業代の計算が複雑になります。
フレックスタイム制で年次有給休暇を取得した場合の計算例
具体例でのケースで年次有給休暇を1日取得した場合の具体的な計算方法を解説します。
清算期間の総労働時間:160時間
標準となる1日の労働時間:8時間
基本給24万円
実労働時間180時間
◎計算方法
- 基本給から1時間あたりの賃金を計算する 1時間当たりの賃金=240,000円÷160時間=1,500円
- 清算期間の暦日数が30日のため、171.4時間が「法定労働時間の総枠」。年次有給休暇8時間分は実労働時間に含まれないため、179.4時間分、割増のない賃金支払いが必要 法定労働時間の総枠171.4時間+年次有給休暇分8時間=179.4時間(割増賃金が不要)
- 割増賃金が必要な時間は、実労働時間と法定労働時間の総枠を引いて計算する 実働180時間-法定労働時間の総枠171.4時間=8.6時間(割増賃金が必要)
- 割増が不要な労働時間と、割増が必要な労働時間で分けて賃金を計算し、合計を出す 1時間当たりの賃金1,500円×179.4時間(割増賃金が不要)=269,100円(1)
1時間当たりの賃金1,500円×8.6時間×時間外労働の割増率1.25=16,125円(2)
(1)+(2)=285,225円
清算期間の暦日数が30日の場合の法定労働時間の総枠は171.4時間となりますが、年次有給休暇の時間数(「標準となる1日の労働時間」)は割増賃金が不要となるため、179.4時間分は割増賃金が発生しません。つまり、割増賃金は、実労働時間180時間から「法定労働時間の総枠」となる171.4時間を差し引いた、8.6時間分に対して支払えばよいことになります。
割増賃金不要の法定内残業と割増賃金が必要となる法定外残業の2種類に分けて残業代を計算し、基本給に足す計算方法は下記の通りです。
- 法定内残業時間を計算するときには、年次有給休暇の時間も含める 法定労働時間の総枠171.4時間-清算時間160時間=11.4時間(年次有給休暇を取得しない場合の法定内残業)
- 法定外残業時間を計算するときは、実労働時間を元に計算する 実働180時間-法定労働時間の総枠171.4時間=(2)8.6時間(法定外残業時間)
- 基本給に法定内残業時間の賃金と法定外残業時間の賃金を足し合わせる 240,000円+1,500×(1)19.4時間+1,500円×(2)8.6時間×1.25
11.4時間+年次有給休暇8時間=(1)19.4時間(年次有給休暇を取得した場合の法定内残業時間)
=240,000円+29,100円+16,125円
=285,225円
半休制度を導入している場合
年次有給休暇の半日取得が可能な場合は、半日となる時間数を法定内残業に加えて計算します。実労働時間としてはカウントしません。これは半日ではない場合と同様です。
午前中とは0時から12時、午後は12時から24時を指すので、半日取得する際は午前中に取得した場合も午後に取得した場合もそれぞれ0.5日とカウントします。ただし、午前中と午後で就労時間が異なるため、所定労働時間の半分を0.5日としてカウントするルールを就業規則や労使協定などで設けることも可能です。したがって、年次有給休暇の半日取得には二つのケースが考えられます。
- 午前中と午後の取得を0.5日の取得でカウントする場合(午前中は3時間・午後は5時間などと計算)
- 1日の所定労働時間の2で割った時間を0.5日の取得でカウントする場合(半日取得を4時間などと計算)
給与を計算する際は、「標準となる1日の労働時間」を二つのケースの半日分の労働時間で計算します。時間外労働の割増賃金が必要なのは、時間が法定労働時間を超えて、実際に働いた時間です。
時間単位の取得を認めている場合
給与を計算する際の考え方は、1日や半日取得した場合と同様です。時間外労働の割増賃金は実労働時間が法定労働時間を超えた場合に発生するため、取得した時間数を法定内残業の時間に加えて計算します。実労働時間としてはカウントしません。
時間単位の年次有給休暇の取得には労使協定が必要ですが、労使協定には「時間単位年休1日の時間数」を定めなければなりません。1日の所定労働時間数が7時間30分などと1時間未満の端数が発生する場合は、端数を時間単位に切り上げて「時間単位年休の時間数」を定める必要があります。たとえば所定労働時間が7.5時間の企業の場合、「時間単位年休1日の時間数」は8時間となります。
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