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【ヨミ】デザインシコウ

デザイン思考

デザイン思考とは?

デザイン思考とは、デザイナーが業務で用いる思考プロセスを用いることで、世の中の問題に対して解決策を見出したり、イノベーションを推進したりする思考法のことです。日本では2010年代後半から注目されはじめました。顧客・ユーザーのニーズや要求を第一に考えて寄り添いながら課題を解決するために、短期間で実行・改善を繰り返す「人間中心設計」という価値観が特徴です。

更新日:2023/10/31

1.デザイン思考とは

デザイン思考(Design Thinking)とは、ユーザーが抱えるニーズを起点に、アイデアやプロダクト制作、効果検証などを行いながら課題解決に取り組む思考様式・プロセスを指します。ヒューマン・センタード・アプローチとも言われ、ユーザーの感情や意見を大事にする手法です。デザイナーやクリエイター以外の職種においても、デザイナーの思考法や作業プロセスを取り入れることで、ユーザー視点から本質的な課題を抽出し、解決を目指します。

日本では、2017年に策定された「デジタル・ガバメント推進方針」以降、デザイン思考を行政サービス改革の基本思想として位置づけてきました。2018年3月に内閣官房によって「サービスデザイン実践ガイドブック」がまとめられ、同年5月には経済産業省と特許庁が共同で「『デザイン経営』宣言」発表しており、政府の注目度がうかがえます。

「デザイン経営」宣言の中には、イノベーションにおけるデザインの重要性が述べられています。例えば、歯磨き粉のチューブにはデザインの力が大きく発揮されています。以前は細長いチューブの先に刻みのついたキャップが付いていましたが、これでは歯磨き粉を最後まで使い切ることができません。そこで、逆さに立てる自立型のデザインが生まれました。逆さに立てることで、歯磨き粉が出口側に集まり、中身が減ってきても簡単に出すことができます。歯磨き粉の自立型チューブの開発は、デザインが市場自体に革命を起こした事例と言えるでしょう。

それぞれの思考との違い

アート思考との違い

デザイン思考と類似するものとして、アート思考(Art Thinking)が挙げられます。デザイン思考がユーザーや世間の課題、要望から起点するのに対して、アート思考は、既成概念や固定概念を取り払って、自らの感情や思いから新たな課題やニーズを掘り下げていく思考法のことです。アーティストの芸術活動のプロセスと近しいものと言えます。デザイン思考が客観的視点で考えるのに対して、アート思考は主観的視点で考える点が大きく違います。

論理的思考(ロジカル・シンキング)との違い

論理的思考(ロジカル・シンキング)も、問題解決のための思考法としてビジネスでよく取り入れられます。論理的思考とは、情報・事実を筋道立てて整理・分析し、解決へと導いていく思考法のことです。フレームワークを活用しながら、存在する要素を体系的に分解し整えていく方法であり、ユーザーを起点とするデザイン思考とは異なります。

コラム:デザイン思考の歴史
デザイン思考の始まりは、アメリカ合衆国の認知心理学者で、ノーベル経済学賞も受賞したハーバート・A・サイモン氏が1969 年の著書『The Sciences of the Artificial(システムの科学)』の中で、デザイン思考について言及したことだとされています。この中で、「既存の環境を改善して、最適化するプロセス」こそ、デザインであると定義しています。さらに、1987年にアメリカの建築家であるピーター・G・ロウ氏が自身の著書『Design Thinking(デザイン・シンキング)』を発表し、「デザイン思考」という言葉を考案しました。

デザイン思考をビジネスに昇華させたのが、シリコンバレーにあるデザインコンサルティングファームのIDEO(アイディオ)であるとされています。創業者の一人であるデイビッド・M・ケリー氏は、スタンフォード大学内にd-school(d.スクール、正式名称:The Hasso Plattner Institute of Design at Stanford)を創設。2008年にIDEOの当時CEOのティム・ブラウン氏がハーバードビジネスレビューに「IDEOデザイン・シンキング」を発表したことも受け、デザイン思考というイノベーション方法論が世界に普及しました。その結果、表面的なデザインだけに留まらず、システム構築や体験価値の設計などへデザインの概念を広げることになったのです。

2. デザイン思考がビジネスにおいて重要視されている理由

VUCA時代の到来

現代では、テクノロジーの進化や流行の移り変わりと合わせて、「モノ消費」から「コト消費」へと変化しています。これまで商品やサービスを提供する際は、マーケットニーズを調査し、仮説を立てて開発を行う「仮説検証型」が一般的でした。しかし、予測不能なVUCAの時代が到来したことによって、今までの仮説が通用しない状況を迎えています。これまでの常識が覆され、人々の価値観が多様化している現在、ユーザーニーズを見つめ直し、再定義する必要があるのです。

DX推進で重要視される

デジタルトランスフォーメーション(DX)の文脈でも、デザイン思考は重要視されています。経済産業省が出した『DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~(P.47)」では、今後ベンダー企業に求められる人材として、“ユーザー起点でデザイン思考を活用し、UXを設計し、要求としてまとめあげる人材”を挙げています。

また、2021年にIPAが公表した「DX白書2021 / 第2部:DX戦略の策定と推進」では、“DXの推進においては、企業が市場に対して提案する価値を見出すためのデザイン思考などの方法論と、その価値提案を現実のシステムへ実装する技術者の役割が重要である”としています。

いくらデジタル化が促進したとしても、選択して活用するのは人間です。そのため、技術だけで勝負するのではなく、ユーザー体験を最大限に考慮していく必要があり、DXとデザインは切り離せない関係になると考えられているのです。

3. デザイン思考を実践するための5段階プロセス

SAPの共同創業者であり、ハーバード大学デザイン研究所に所属するハッソ・プラットナー教授は、「デザイン思考 5 つのステップ」を作成しています。このプロセスに沿えば、デザイン思考を実践することができます。必ずしも順番通りに進む必要はなく、時にはプロセスをさかのぼったり、同じ部分で立ち止まったりすることが重要です。

共感(Empathize)

デザイン思考は、ユーザー起点で考えることが何よりも重要で軸になる部分です。ユーザーの課題や要求、ニーズを探っていくための第一のステップとして、ユーザーをじっくりと観察し、理解していきます。共感するための方法として、アンケートやモニタリング、インタビューなどを実施することも効果的です。ユーザーから情報を取得した後は、思い込みを捨ててユーザーと向き合い、同じ視点で物事を捉えることを目指します。

問題定義(Define)

ユーザーの取り巻く環境や時代背景なども踏まえつつ、ユーザーへの共感を通じて浮き彫りになった課題やニーズから、何に注力して解決すべきなのかを定義していきます。ここで重要なのは、目に見えているユーザーの意見だけをうのみにするのではなく、潜在化されている課題やニーズに向き合うことです。今はユーザーがその必要性を感じていなくても、「あれば便利だ」「本当は必要だ」といった隠れた要望があるかもしれません。ユーザーが回答した意図を検証し、解像度を上げて本音を明らかにする必要があります。

創造・着想(Ideate)

明確になった課題を解決していくため、具体的にアイデアや意見を出し合っていくフェーズです。具体的には、フレームワークを用いたり、ブレインストーミングを実施したりするなど、さまざまな角度から発想していきます。このプロセスで重要なのは、アイデアに対して細かく批判したり意見を述べたりするのではなく、できるだけ自由な発想で量を出していくことです。

試作(Prototype)

次に、決定したアイデアや手法を検証していくために、試作を行います。実際に手にとって操作し、作業してみることで、強みや弱みが明確に見えてきます。このタイミングでは完璧にプロトタイプを開発しなくても構いません。まずは作ってみることが大事です。不完全な状態でも可視化することで、新たな改善点が判明し、さらなる深い議論につながります。試作段階でうまくいかなければ、またアイデアを出すとよいでしょう。

テスト(Test)

試作品が完成したら、実際にユーザーに使ってもらい、フィードバックしてもらいます。「ユーザーが感じていた課題やニーズは解決できそうか」「足りていない部分はないか」「新たな課題はないか」など、確認していくプロセスです。プロトタイプを見てもらうことで、「問題提起」や「想像・着想」が正しいのかを判断します。最初の「共感」のフェーズで見えてこなかった、ユーザーの本音や潜在的意識を発見できる可能性もあります。テストをした後は必ずチームで確認・検証を行い、何度も改善を繰り返しながら、ユーザーが満足する完成形を目指していくことが大事です。

4. 企業がデザイン思考を促進するメリット

デザイン思考の最大のメリットは、既存のものをベースにイノベーションを実現、もしくは加速させられることです。イノベーションの本来の意味は、発明そのものではなく、発明を実用化し、その結果として社会を変えることです。イノベーションの概念を生み出したヨーゼフ・シュンペーターは、イノベーションを「既存知の新結合」と定義しています。デザイン思考はユーザー視点を組み合わせて、世の中から必要とされるイノベーションを創出するものと言えます。

5.企業がデザイン思考を促進するデメリット・注意点

デザイン思考は問題解決やイノベーションのプロセスにおいて非常に価値のあるアプローチですが、一方で過信しすぎないことも大切です。

デザイン思考は、共感、アイデアの発想、プロトタイピング、テストなど、複数のステップから成り立っています。そのため、これらのステップを実行するための時間とリソースの確保が必要であり、急ぎのプロジェクトや制約が厳しい場合は適していないこともあります。また、ユーザーの体験や感情から新たなアイデアを創出するというプロセスのため、市場にまったく出ていないものをゼロから創出するのには不向きといえます。

6. デザイン思考をビジネスで活用するために

デザイン思考を企業に根付かせようとしても、なかなかうまくいかないこともあります。「デザイン」は高貴でとっつきにくそう、難しそう、といったイメージが拭えないことも要因のようです。概念だけを浸透させようとしてもうまくいかないため、研修やワークショップ、フレームワークの導入などにより、積極的に実践させることが重要です。いきなり本格的に取り入れようとしても難しいため、特許庁による「中小企業のためのデザイン経営ハンドブック」の他社事例なども参考にしながら、少しずつ導入するとよいでしょう。

デザイン思考を実践するためのフレームワーク

共感マップ(エンパシーマップ)

共感マップとはエンパシーマップとも言われており、対象となるユーザーの価値観や環境、行動を可視化、把握するためのフレームワークです。六つの要素を埋めていくことで、ユーザーのニーズを浮き彫りにしていきます。XPLAIN社が開発したツールです。

<基本要素>
  • 見えていること(SEE)
  • 言っていること・行動していること(SAY AND DO)
  • 考えていること・感じていること(THINK AND FEEL)
  • 聞こえていること(HEAR)
  • 痛み・ストレスに感じていること(PAIN)
  • 得られるもの・欲しいもの(GAIN)

SWOT分析

SWOT分析とは、自社の置かれている現状を整理するためのツールで、事業戦略を立てる際に活用されます。自社の強みや弱みは外部環境に大きく影響も受けることもありますが、一方でそれが新たなビジネスチャンスにつながるとも考えられるので、競合状況や法律、経済状況なども踏まえて広い視点で検討することが大事です。

  • Strength(強み):自社の強み、優位
  • Weakness(弱み):自社の弱み、課題
  • Opportunities(機会):市場変化によるプラス要因
  • Threats(脅威):市場変化によるマイナス要因

ビジネスモデルキャンバス(BMC)

ビジネスモデルキャンバスとは、アレックス・オスターワルダーによって開発された、九つの項目からビジネス構造を整理するフレームワークです。自社のビジネスモデルの優位性や弱点、環境を洗い出すことで、自社の立ち位置といったビジネス全体を理解することができるため、次の打ち手と優先順位が見えてきます。

<基本要素>
  • 顧客セグメント:誰が対象なのか?
  • 価値や提案:どのような価値を届けるのか、顧客への課題解決策は何か?
  • チャネル(販路):どのような販路で届けるのか?
  • 顧客との関係:どのように関係性を築くのか?
  • 収益の流れ:どのような仕組みで利益を生むのか?
  • 主なリソース(資源):必要なリソースはどういうもので、どのぐらい必要か?
  • 主なパートナー:サプライヤー、協業者は誰か?
  • 活動内容:どのような行動・アクションが必要か?
  • コスト:どのぐらいのコストが発生するのか?

企画・編集:『日本の人事部』編集部

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