ホラクラシー
ホラクラシーとは?
「ホラクラシー」(holacracy)とは、従来の組織管理体制に代わる、新しい組織管理体制・経営手法の一つです。従来の組織形態は、主に中央集権型・階層型のヒエラルキー構造に基づいていました。小さなグループのリーダーがいて、それよりも大きなグループのリーダーがまたその上にいる……といったように、会社自体が主任、係長、課長、次長、部長の序列で構成されています。ホラクラシー構造の場合は、このようなヒエラルキー構造の組織とは異なり、意思決定やマネジメントを自律的なチームに分散します。ここではホラクラシーについて、詳しく解説していきます。
1. ホラクラシーとは?
ホラクラシーとは、「自律的なグループに決定権を分散させることで、それぞれのグループが能動的に活動できるようになる組織管理システム」のこと。情報の流れが加速していくなか、多くの企業では社員一人ひとりが情報を上手に処理し、自主性をもってイキイキと働ける状態を目指しています。「ホラクラシー」は『機械の中の幽霊』を書いた、ユダヤ人小説家のアーサー・ケストラーがつくった「ホロン」や「ホラーキー」という言葉がもとになった言葉。「割り当てられた個々の仕事に対して決定権をもつ小さなグループ(ホロン)が、それぞれ有機的に関係しあっている状態(ホラーキー)」と表現できます。通常の会社であれば、決定権をもっているのは部長や課長など、組織を率いる役職者で、メンバーには決定権がありません。しかしホラクラシー企業では、自分が所属しているグループに決定権がゆだねられます。
ホラクラシーという組織管理システムは、まずアメリカで最初に考案されました。従来の組織管理システムでは情報が加速する社会に適応できず、社員も自分の意見を仕事に反映させづらいためにやる気がそがれてしまう。そういう状況を変えるために試行錯誤した結果、作り上げられた管理システムです。
ホラクラシーを導入している企業としてよく知られているのは、靴を中心としたECサイトを運営する、ザッポスです。Amazonに高額で買収されたことでも話題になりました。ザッポスがホラクラシーを取り入れたることで目指したのは、社員に活気があり、効率的でイノベーティブな組織にすること。これまでとは異なる管理システムであるため、最初は導入に抵抗する社員もいたようですが、現在では社員にも好評で、ザッポスのホラクラシー導入の試みは、世界中の経営者の注目を集めています。ここからはホラクラシーについて、さらに詳しく見ていきましょう。
ホラクラシーが注目されてきた背景
「こうすればよいのに」と思ったことが上司に理解されず実現できなかった、という経験がある人は多いのではないでしょうか。会社には多くの人がいるので、それぞれの社員の声を上司が全て拾い上げていくことに限界があるのも無理のない話かもしれません。
従来のヒエラルキー構造に基づく組織では、社員のフィードバックを上手に生かしたいが、意見が多すぎて上司一人だけでは処理しきれない。組織の改善に反映されたのは上司が選んだ一つだけだった、ということがよくあります。この場合、会社組織の行く末が一人の決定者に握られていることになり、社員の一人ひとりが「こうした方がよい」と考えているアイデアを活用できていません。社内にひそむ問題を改善し、社内環境を整え、成長する組織にしようと思っていたのに、うまくいっていないという状況は、従来型の組織体制のデメリットといえるでしょう。
従来型のヒエラルキー構造は、現在のように社会の変化が速くない工業化時代において、メリットが大きいものでした。情報の流動性が現在ほどではない時代においては、社内の一部のブレーンによって明確なプランを一度築き上げてしまえば、それを長い間使い続けることができたからです。社員の意見を取り入れなくても、一極集中型の管理方法で安定した成長を見込めました。
しかし、現在のように情報の流動性が早く、次々と新しい技術が開発され、人々の考えも多様になってくれば、従来型のヒエラルキー構造がうまく機能しなくなってくることもあります。世代間による価値観の違いも大きいので、上司の決定が必ずしもほかの社員に受け入れられるわけでもありません。時代遅れの上司の決定や変化の遅い組織に、嫌気がさす社員もいるでしょう。ホラクラシーは、このような従来の一極集中型の管理体制がもっているひずみを解消し、社員の意見を取り入れながら進化するというモデルで、大きな注目を集めています。
ホラクラシーのメリットとデメリット
ホラクラシーのメリットとデメリットをまとめると、次のようになります。
- 組織の改善サイクルが圧倒的に早くなる
- 自分の声を反映できるため、組織風土が改善する
- 社内政治がなくなる
デメリット
- ホラクラシーという難しい概念を理解させるコスト
- 従来の権力構造からの脱却のコスト
- 従来の行動を変えるためのコスト
ホラクラシーのメリットは、社員の見識を吸収する仕組みを整えることで「進化し続ける組織」をつくることができることといえます。絶対的な決定権をもつ上司という存在がいないので、社員のそれぞれが感じた改善点に一定の賛同を得られれば、すぐに取り入れて解決することができるからです。社員が自分の声を会社組織に反映できるというホラクラシーの体制には、社員をイキイキとさせる利点もあります。また多くの場合、仕事に必要な情報が開示されているので、情報を得るために社内政治に頼る必要がなくなるでしょう。
デメリットは、導入にさまざまなコストがかかるところといえそうです。ヒエラルキー構造は現代社会のさまざまなところに入り込んでいるので、まず社員全員にホラクラシーを理解させる必要があります。その上で従来の習慣から脱し、異なる行動をとってもらわなければなりません。自分の権力を使用し続けたいという社員や経営陣の反抗にあうこともあるでしょう。ホラクラシーがなじむまでは、ある程度時間も必要です。このようなコストを想定すると、ホラクラシーを導入したくても躊躇する人は多いかもしれません。
2. ホラクラシーを理解する
ホラクラシーは必ずしも正しく理解され、議論されているわけではありません。ここでは、詳しくホラクラシーを解説していきます。
「ホラクラシー」をめぐる誤解
よくある誤解として、以下のようなものがあります。
- 「自由になんでもやっていい」
- 「管理者がいない組織」
- 「階層がない」
- 「情報がオープンで漏えいしやすい」
最近「ホラクラシー」への注目が集まっていることから、さまざまな記事がインターネット上で見られるようになりました。しかし、なかにはホラクラシーを上記のように誤解して捉えているものも多いようです。ホラクラシーは、以下で解説するように「ホラクラシー憲法」というルールに則って運営されるべきもので、自由度は高くても「なんでもやっていい」わけではありません。また、グループ内には仕事の進行を管理するファシリテーターを置くこともあるので「管理者がいない」わけでもありません。また、一つのグループは大きなグループの一部でもあるため、階層がないわけでもないのです。確かに業務に必要な限りにおいて情報はオープンになっていますが「個人情報」や「企業秘密」に関しては、従来通り厳密な管理が求められます。ホラクラシーとは、あくまで組織の運営の仕方を示したもので、一定のルールが存在するのです。
ホラクラシーの運営方法
日本ではまだホラクラシーを導入している企業が少なく、事例は多くありません。そのため、導入の際に参考となる事例は見つかりにくいでしょう。従来とは異なる組織体制なので、実際に運営してみないとわからないことも多いと思われます。自分が所属している組織をホラクラシー組織に変えたいのならば、以下の2点に注意する必要があります。
- ルール(=ホラクラシー憲法)を作る
- 「役割」から組織を考える
まずは「ホラクラシー憲法」を作成することから始めなければなりません。「ホラクラシー憲法」とは、組織内でどのように動くのかを定めたもので、一種の社内ルールです。この憲法によって意思決定のプロセスなどが規定されるので、ホラクラシーを取り入れても会社が無秩序にはなりません。また、人によって仕事のルールや方法が異なるということはないので、属人的になりにくく、新しく入ってきた社員でも、すぐにルールを覚えて会社になじみやすくなります。
ホラクラシー憲法を定める上でのポイントは、以下の通りです。
- 役割の決め方を定める
- 役割のグループ化の仕方を決める
- 運営する仕組み(会議など)を定める
- 従来の組織からホラクラシー組織に移行するための方法を定める
次に、グループでの役割を意識した組織体制に変革する必要があります。一つのグループの上には、もう一つの大きなグループがあります。ただ、このとき注意が必要なのは、一つひとつが完結したグループで、上位のグループが下位のグループの意思決定に干渉するわけではない、ということです。このような大小のグループの集まりが、会社となるのです。
また、このグループは、理念的には「人」で構成されているというよりも、「役割」で構成されていると捉えることが重要です。一般家庭を例に考えてみましょう。家庭には食品を買い出しに行く役、料理をつくる役、食器を洗う役、ゴミを捨てる役、洗濯をする役、洗濯物を干す役など、さまざまな役割があります。これがホラクラシー組織ならば、それぞれの役割にその役をこなせる人やこなしたい人が配属されます。また、料理をつくる役の人がどのような料理をつくっても、周りはフィードバックを返すだけで、その決定自体を覆す権力をもっているわけではありません。これがもっと大きなプロジェクトであれば、グループが細分化され、より複雑化していきますが、「○○をする役割をもったグループ」「その中で○○をする役割をもった人」という構造自体は変わりません。ホラクラシー組織にするためには、このように大小のグループで構成されている組織にしていく必要があります。
「ティール組織」と「ホラクラシー組織」に違いはあるのか?
「ホラクラシー」と混同されやすいものとして「ティール組織」がありますが、両者はまったく異なるものでもありません。「ティール組織」の一つの形態として「ホラクラシー組織」がある、と言えます。ティール組織を一言で表すのは大変難しいことですが、「ヒエラルキー的な意思決定構造を持たず、個々の判断でプロジェクトを推進していく組織管理システム」と表わすことができます。ティール組織を「機械」ではなく「生態系」に例える人が多いことからも、従来の組織管理システムと違うことがわかります。ティール組織の特徴は、「社長や部長、課長などの役職自体は意味をもたず、組織の目的の実現のためにメンバーが積極的に貢献できる仕組みがある」ことがあげられますが、「ホラクラシー組織」もこのような特徴を共有しています。
「ティール組織」と「ホラクラシー組織」の違いを理解するには、「ホラクラシー組織」が「ティール組織」の一つの形態であることを理解しなければなりません。これは、「ティール組織」の理念を実現するためには「ホラクラシー」的な組織構造にする必要がない、ということを意味しています。たとえば「ティール組織」のある形態では、「ホラクラシー組織」のようにグループ内で意思決定を行う必要がありません。意思決定は、仲間全員の希望を取り入れることではなく、個人の見解を専門家と話し合うことで行われます。確かに、グループ内で話すことには意義があります。しかし、それをより専門的な知識を持つ人と話すことで「効率化しよう」「個人の見解を組織に生かそう」とするわけです。自社の組織を変えようするならば、あわせて考慮する必要があるでしょう。
3. 新しい組織をつくるということ
現在の会社が有している組織構造は、だいたい1990年の初頭につくられたものだとされています。日本の、さらに古いかもしれません。しかし情報化社会の中では、さまざまな技術革新が次々と起こるため、従来のような動きの遅い組織構造を変えたいという要望が多く出ています。「ホラクラシー」は、このような要望に応える、新しい組織構造の一つです。
正直なところ、ホラクラシー組織に関しては国内に十分なデータがなく、まだまだ試行錯誤という面も大きいようです。しかし海外のデータから、ホラクラシーを導入する際の障壁となる事柄はある程度知られています。それは「上司がいまさら新人と同じ土俵で仕事をできるか」といった抵抗感や、「新しいルールになじむのが疲れる」といった社員の心理的な負担、「結局は以前の権力構造や習慣に戻ってしまう」という習慣的な問題などです。こういった障壁を超えてホラクラシー的な組織にするためには、上記の「憲法」や「グループ」の利点を全員が理解し、社員がイキイキと活動できる工夫が必要になるかもしれません。
ホラクラシーを取り入れて運営するためには、「ホラクラシー憲法」や「役割」を主軸におくグループの考えを理解しておく必要があります。実際に取り入れる際には、どのような役割があるのかを分析する必要があるでしょう。従来のものとは異なる組織構造なので、ホラクラシーの導入にコストを割くことはできない、と判断するのも無理のないことかもしれません。しかし、国際・国内の競争の中で戦っていくためには、数多くの情報を処理できるような、新しい組織体制が今後ますます重要視されるでしょう。ホラクラシーにはさまざまなメリットやデメリットがありますが、時代を反映した組織体制の一つであることは間違いありません。この機会に、自社の組織体制について考えてみてはいかがでしょうか。
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