心理的オーナーシップ
心理的オーナーシップとは?
「心理的オーナーシップ」とは、組織や仕事、あるいは特定のプロジェクトに対して「自分のものである」という強い愛着や所有感を持つ心理状態のこと。法的な所有権や株式の保有とは異なり、精神的な深いつながりを指します。この感覚が高まると、従業員は仕事に対する責任感や主体性を発揮し、組織市民行動やパフォーマンスの向上につながるとされています。人的資本経営が重視される今、単なる従業員満足度を超え、社員が自律的に価値創造を行うための重要な概念として注目を集めています。
社員が「自分事」として動くための三つの要素と副作用
「社員の当事者意識の欠如」という課題に直面している企業は少なくありません。指示されたことはそつなくこなすが、それ以上の提案や自発的な行動は見られない。こうした「指示待ち」の状態を打破し、社員が自ら課題を発見して解決に向かうための鍵が、心理的オーナーシップです。
心理的オーナーシップは、単に「責任を持ちなさい」と精神論を説くだけでは醸成されません。学術的には、この心理状態を生み出すために必要な「三つのルート(要素)」があると言われています。一つ目は「コントロール」。自分がその仕事に対して影響を与え、コントロールできているという感覚です。業務の手順や進め方をある程度自分で決められる裁量権がある場合、その仕事は「やらされているもの」ではなく「自分の意思で動かしているもの」に変わります。
二つ目は「深く知ること」。対象を熟知している状態です。たとえば、自社製品の仕様や開発背景、顧客からのフィードバックを誰よりも詳しく知っている社員は、その製品に対して強い愛着とオーナーシップを感じるようになります。逆に、会社の全体像や自分の仕事の意義がブラックボックス化している状態では、当事者意識を持つことは困難です。情報の透明性を高め、アクセスしやすくすることが重要になります。
三つ目は「自己投資」。自分の時間やエネルギー、努力を注ぎ込むことです。苦労して練った企画や、汗をかいて開拓した顧客に対しては、特別な所有感が生まれます。効率化は重要ですが、試行錯誤するプロセスそのものが、仕事への愛着を育む側面もあるのです。これらの3要素が満たされたとき、従業員は組織の成功を自分の成功と捉えるようになります。
一方で、心理的オーナーシップには「負の側面」も存在するため、注意が必要です。所有感が強すぎると、担当業務や情報を私物化し、他者の介入を拒む「縄張り意識(テリトリアル行動)」が生じることがあります。「この仕事は私のものだから口出しするな」という排他的な態度は、チームの連携を阻害し、イノベーションの妨げになりかねません。また、現状のやり方に固執し、変化に対して過剰に抵抗するケースも見られます。
人事に求められるのは、心理的オーナーシップを健全に育むための環境設計です。具体的には、ジョブ・クラフティングを導入して業務内容を自ら再設計させる、OKRなどを通じて目標設定に参加させる、経営情報をオープンにして組織の現状を「知る」機会を増やす、といった施策が挙げられます。同時に、過度な抱え込みを防ぐため、知見の共有を評価する仕組みも必要でしょう。
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