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さまざまなサービスをつなぎ、常に顧客に寄り添うこと
100年企業をめざす「新生クレオ」の考え方

株式会社クレオ 代表取締役社長

柿﨑淳一さん

柿﨑淳一さん(株式会社クレオ 代表取締役社長)

DX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性を多くの企業が認識し、ITを活用した業務や働き方、風土の変革に取り組んでいる今日。そのための製品やサービスが数多く提供されていますが、それらをどう使いこなすかが新たな課題となってきています。そこで注目されているのが、さまざまなサービスを連携させ、顧客に最適なソリューションとして提案できる、いわば「ITコンシェルジュ」のような存在。その筆頭にあげられるのが、エンタープライズ系システム開発、ソリューション分野で高い技術力、実績を持つ株式会社クレオです。同社をけん引する代表取締役社長・柿﨑淳一さんに、1980年代からシステムインテグレーションの最前線を見つめてきたそのキャリアと同社サービスの特色、さらには日本社会でのDXの進展状況やHRテクノロジーの未来、今後のクレオの方向性などについて詳しくうかがいました。

Profile
柿﨑淳一さん
株式会社クレオ 代表取締役社長

かきざき・じゅんいち/1987年専修大商学部卒、クレオ入社。2013年取締役、2016年常務に就任。2017年より現職。

受託開発部門の責任者を経て関連会社の社長や役員へ

柿﨑さんは新卒でクレオに入社され、以来一貫してIT業界で活躍してこられました。貴社とはどのようにして出合われたのでしょうか。

私が入社したのは1987年です。当時はバブル景気で、就職活動も売り手市場でした。商学部だったので周りは金融や商社を志望する人が多数派。でも私は、漠然と「大企業で歯車にはなりたくない、できれば自分の意思で仕事ができて、自らの価値を高められるようになりたい」と思っていました。IT業界を意識するようになったのは、ゼミの教授に言われた「君はコンピューター業界に向いているかもよ」という一言から。何社か会社訪問をした中の一社がクレオでした。

当時の当社は、まだ「東海クリエイト」という社名で、設立13年目の独立系SIer。従業員数は200人前後でした。説明会に行くと、創業者が「これからはソフトウエアの時代だ。われわれももうすぐ自社ビルを建てる。仕事は週に3日でいい。あとの4日は、ブラジルに牧場を買うからみんなでそこに行って楽しもう」といった夢のある話をしていました。

真に受けたわけではありませんが、可能性があっておもしろそうな会社だなと思いました。少なくともこれからの社会の中でコンピューターが重要な存在になっていくのは間違いないだろう、そう感じて就職を決めました。本音をいえば、早めに就活を終えて残りの学生生活をエンジョイしたかったのもあったのですが。

入社後はどんな仕事からキャリアをスタートされたのでしょうか。

入社前はプログラムを書いたことはなく、技術のことはわからなかったので、人事志望でした。学生時代に50人規模のテニスサークルでリーダーをやっていて、人と接することには適性があると思っていたからです。ところが、現場のことがわからなければ人事はできない、と言われ、最初はエンジニアとしての勉強をするという条件で入社することになりました。そのため、技術研修は苦痛でしたね。

研修後に配属されたのは、受託開発の事業部。汎用機を使った大規模システムを10人前後のチームで開発する部署です。当時、仕事はいくらでもあって、人材は慢性的に不足していました。最初はプログラマーでしたが、3年ほどやってある程度技術がわかったところで、プロジェクトリーダーを任されるようになりました。顧客と話をしてシステムの要件をまとめたり、協力会社のシステムエンジニア(SE)を束ねたりする仕事です。その意味では、プロジェクトリーダーやプロジェクトマネジャーは、当初希望した人事の仕事と違ってはいましたが、自分のめざすところでした。

さまざまな現場を経験しましたが、もっとも印象に残っているのは、企業向けの基幹系業務システム「ZeeM」の製品化プロジェクトです。当時のトップから「2年でやってくれ」と言われて取りかかったのですが、実際にはそれ以上の時間がかかりました。関わったメンバーも非常に多く、何か問題が起こるたびに彼らのモチベーションが上がるように声をかけ続けて、なんとかリリースにこぎつけました。

当時、私は「クレオ史上もっとも製品開発費を使った男」と言われたものです。完成した「ZeeM」は、現在でもクレオを代表する製品・サービスのブランドとなっています。

その後、受託開発部門の責任者を経て、2010年代からは関連会社の社長や役員を歴任されます。

現場をまとめる立場から、さらに事業運営全体をみていく立場になっていきました。2010年代は、クレオが持株会社(ホールディングス)となり、その下に分社化した事業会社が連なる体制になっていった時期です。私が責任者だった受託開発部門も「株式会社クレオソリューション」となり、事業担当役員、その後社長としてその運営を任されることになりました。

受託開発事業では、もともとコンピューターメーカーの案件を主力にしていましたが、分社以前からエンドユーザーと直接かかわる仕事をもっと増やしていくべきだ、という流れになっていました。新規顧客を開拓するためには、より付加価値の高いシステム構築、ソリューション提供が求められます。また、メーカー経由の仕事以上に顧客からの要求も多いし、トラブルが発生した場合はすべて自分たちで対応しなければなりません。はじめての市場をつくっていくわけですからかなり苦労もしましたが、リスク管理や人材を育てることなど、その後に生きるノウハウが培われていきました。

また、それまでは事業利益だけを追っていればよかったのですが、分社化するとキャッシュフローや人材育成、自社ブランドの構築なども考える必要が出てきます。経営者目線での経験ができたことも、今の自分にとって大きな糧になっていると思います。

後に再統合した新生クレオを率いる際にも、その経験が役に立ったということでしょうか。

その通りです。この頃ずっと考えていたのが、システムの受託開発とソリューションサービスの提供という二つの事業をどう連携させていくか、ということでした。受託開発部門の責任者ではありましたが、同時にかつて手がけた「ZeeM」の事業や一緒にやった元部下たちのことが常に頭にあって、お互いに相乗効果を出さなければこれからの時代には置いていかれる、と思っていたからです。そのため、再統合後はもちろんですが、それ以前にもサービスの連携は事業の中に積極的に位置づけて取り組んでいました。

分社化を経て再統合した「新生クレオ」

2017年に代表取締役社長に就任されますが、どんな経緯だったのでしょうか。

先ほど、事業部門を分社化した持株会社制の時代があったことはお話ししました。2011年からの約6年間です。事業部ごとに利益をシビアに見つめて自立することで、それまでのやや保守的な企業風土を払しょくすることが狙いでした。私も含めてみんなが真剣に取り組んだ結果、その目標はかなりのところまで達成できたと思っています。

ただ、変化するマーケットの中でさらに成長して生き残っていくために、事業部ごとに分かれているビジネスをつなぎあわせて、ひとつの大きな力にしなければならない局面に来ていることも感じていました。当時のホールディングスのトップも交えて議論を進める中で、やはり部分最適ではいけない、クレオの持っている経営資源を再度結集して、一緒にやっていくべきだろう、という方向性が固まったわけです。その流れで、持株会社から事業会社になる以上、事業をいちばんわかっている人が社長をやるべきだ、という理由で声をかけてもらいました。

関連会社の社長は経験されていたわけですが、グループ全体を任されることについてはいかがでしたか。

私はクレオの主な事業分野をほとんど経験させてもらいました。現場を誰よりも理解していましたし、自社のマインドや社風の良いところは変えずに引き継いでいきたい、という思いもありました。そのため、不安はありましたが迷いはなかったですね。

再統合の話が出たときには、社員の声も賛否が分かれていましたが、クレオのプロパーである自分が社長をやることで、そういう社内の壁を取り払いたい、という気持ちもありました。

柿﨑淳一さん(株式会社クレオ 代表取締役社長)

あらためて貴社のサービスの特徴や強みを教えていただけますか。

事業ポートフォリオとしては、まず「ソリューションサービス事業」があります。基幹システムと呼ばれる、顧客の経営資源(ヒト・モノ・カネ)を管理する業務パッケージの開発・販売、サービスの提供を行っています。代表的な製品・サービスのブランドとして「ZeeM」があります。「受託開発事業」では、大手メーカー・SIerをパートナーとした基幹システム・Webシステムの開発・保守・運用を行っています。当社のベースともなっている技術力を背景とした事業です。

この両輪に加えて、システムの運用・サポート、コールセンターでのテクニカルサポートなどを提供するグループ会社もあり、システムインテグレーションのあらゆるサービスをワンストップで展開しています。この規模で製品開発からサポート、コールセンターまでの幅広いサービスを提供できるところはそうない、と自負しています。これらのサービスをつなげることで顧客のDXに寄与することが、当社のビジョンです。

サービスを「つなげる」「連携していく」というキーワードが何度か出てきました。グループを再統合して「新生クレオ」となった背景でもあると思いますが、より具体的にお聞かせください。

これから当社のような独立系SIerがさらに成長していくには、いかに顧客に近いところでソリューションサービスを提供できるかが非常に大切になってきます。顧客の求めるものをリサーチし、企画、営業、導入、サポートまでトータルで提供する必要があるのです。

しかし、持株会社制だった時期に「ZeeM」などの自社サービスを扱っていたソリューション部門には、開発ができる、技術に強いメンバーがあまりいませんでした。逆に、私が担当していた受託開発部門は、ハードメーカーや大手プラットフォーマーと組んでシステム開発や運用を行っていたため、技術力はありましたが、エンドユーザーからダイレクトにフィードバックを受けたり、何が求められているのかをマーケティングしたりすることができるメンバーはいなかったのです。

そこで、システム開発を得意とする部隊と、企画やマーケティングができてソリューション提案を得意とする部隊を連携させ、相互に補完していくために再統合に踏み切りました。最初は水と油のような関係で抵抗もあったと思います。しかし、以前はなかなか利益の出せなかったソリューション事業が現在では収益部門の筆頭になるなど、良い結果につながっています。それは働いている人たちのモチベーションにもなっていると思いますし、統合してよかったと感じてもらえているのではないでしょうか。

顧客ニーズを取り込んでサービスをつくる

貴社では経営ビジョンとして「共創」「顧客価値創造型ビジネス」「100年企業」などを掲げていらっしゃいます。それぞれの考え方についてお聞かせください。

クレオという社名自体が「創造」をモチーフとしています。創業当初から「時代の先を行き過ぎているのでは?」というくらい、さまざまな先進的な製品を世の中に送り出してきました。初期のBtoC製品では、ワープロソフト「ユーカラ」や今のOfficeに相当する「ビジコンポ」、ベストセラーとなった「筆まめ」などがあります。BtoB製品では、中堅企業向け人事会計ソフト「CBMS」がヒットしました。70年代、80年代からイノベーションを大切にしてきた社風は今も受け継がれています。

これらはすべて、「その時代に求められているものをつくる」という発想から生まれました。顧客ニーズを取り込んで開発されたものばかりです。当社はこれらを「共創」「顧客価値創造型ビジネス」と呼んでいます。特にBtoB製品は、企業にヒアリングして業務ノウハウを吸収し、それをベースに開発していることが高く評価されました。たとえば「CBMS」は、人事と給与のデータベースを一元管理しているのですが、当時はそのこと自体が画期的だったのです。

今後は、ITと違うものをかけあわせることでイノベーションが起こるはずです。働き方や雇用形態が変化し、会社や仕事に対する価値観も変わっていくでしょう。そういう新しい働き方を支援し、システムで支えるサービスを提供していきたい、と考えています。顧客に価値を提供しながら、社会にも貢献する。それがわれわれのビジョンです。

当社はまもなく50周年を迎えますが、単に長く存続することが目的ではなく、理想は私たちの子孫にも誇りに思ってもらえるような企業になることです。「100年企業」への道は、そうしたチャレンジを続けていくことでひらけてくると考えています。

柿﨑淳一さん(株式会社クレオ 代表取締役社長)

日本企業のDXやHRテクノロジー導入などの現状については、どのように捉えていらっしゃいますか。

ビジネスにおけるDXとは、これまでの業務効率化のためのデジタル化ではなく、新しい企業価値を創造するための改革的IT活用を指します。

つまり、「何を使うか」ではなく、「どう使うのか、なぜそれを使うのか」といった、テクノロジーを活用する「ヒト」の意識改革が伴うデジタル化なのです。しかし、当社が主に顧客としているエンタープライズ企業でも、まだ言葉が先行している印象です。

とはいえ、すでに新しい働き方の時代が始まっており、リモートワークはもとより、ギグワーカーや副業人材、ダイバーシティを背景とした、個々の違いを力に変えるマネジメントなどの観点をふまえ、多様なキャリア、雇用形態、パーソナリティを生かせる組織に会社は変わらなくてはなりません。

そして、その変化をしっかりと支える仕組みにデジタルテクノロジーが不可欠で、DXは変化を前提とした人材戦略から既に始まっている、と感じています。

現在、当社が取り組んでいるのは、まさにその一助になれるようなサービスの開発と普及です。当然のことながら、働きやすさという価値観、企業風土、コミュニケーションからエンゲージメントのあり方までもが大きく変わっていくわけなので、変化を前提とした人材戦略をDXによって実現することが、これからの企業にとって、とても重要になってきます。また、それができなければ日本は世界に置いていかれてしまいます。

サービスを提供する側にも大きなビジネスチャンスが広がる時代だと思いますが、同業他社も含めてHRソリューション業界の動向については、どのようにご覧になっていますか。

依然として強いのは大手コンピューターメーカー系のサービスですが、同時にGAFAなどのプラットフォームをベースにさまざまな製品を組み合わせて、クラウドでサービスを提供するビジネスが伸びてきており、この流れは今後も加速していくでしょう。

一方、エンタープライズ市場では大規模かつ、レガシーなシステム環境の企業が多く、サービスを組み合わせることはもとより、クラウドシフトさえ容易ではない、という状況にあります。これは、人事部門のシステム環境も例外ではありませんので、ここを支援していくことが、ひとつの大きな商機になるのは間違いありません。

当社は、そういった「変革の壁にぶつかっている」企業のための「ITコンシェルジュ」でありたいと考えています。顧客それぞれの事情に配慮した、クラウドサービスを中心に的確な提案をしていく。ブランドの垣根を越えて便利なサービスを組み合わせる。いわば「街の電気屋さん」のような存在です。

エンタープライズのための「つながるデジタル業務基盤・ジームクラウド」

今後はどのような分野、製品に注力される予定でしょうか。

現在はコロナ禍の影響もあって、社会の急速な変化がDXの必要性を高めています。そういった環境下で当社が注力していくべき分野は、クラウドを中心とした「つながるデジタル業務基盤を実現するサービス」だと考えています。

具体的には「ジームクラウド」という、管理部門向けクラウドサービスを提供しています。ジームクラウドの特徴は、大手企業が使えるクラウドサービスだということ。現在、人事領域の「HR」、会計領域の「AC」をリリースしており、人事部門と経理部門のクラウドシフトを実現すると共に、大手企業が求める、高度で複雑な業務要件にも対応します。

また、先にも触れましたが、ジームクラウドはブランドの垣根を越えて、他のクラウドサービスとつながることも可能にしています。これからの時代、ベンダーやメーカーの制約で顧客が思い通りに変革できない、といったことがあってはなりません。

DXの本質となる「ITの恩恵を享受し続ける」環境、これがジームクラウドのベネフィットです。顧客に寄り添い、進化するテクノロジーをつないで、時代にあった課題解決策を提供していきたいと考えています。

最後に、HRソリューション、法人向けITサービス業界などで働く若い読者の皆さんに、自身のキャリアのために今やっておいた方がいいことなど、成功に向けてのヒントをいただけますか。

「何のために働いているのか」「自分の価値は何なのか」。これを常に自らに問いかけながら働くことでしょう。生活のために働くのは大前提ですが、それだけではおもしろくありません。時代背景をしっかりと見つめ、それに対して自分がどんなチャレンジをしていくべきかを考え、キャリアパスを設計していく。そうすると自分と会社、自分と仕事の関係も見えてきます。今、社会には多くの課題があります。それを解決したい、そして社会に貢献したい、という気持ちがいちばん価値を生みやすいと思います。挑戦に失敗はつきものですが、それを恐れていては何もできません。ぜひチャレンジしてください。

柿﨑淳一さん(株式会社クレオ 代表取締役社長)

(取材:2021年5月28日)

社名株式会社クレオ
本社所在地東京都品川区東品川四丁目10番27号
事業内容情報処理システムの開発およびこれらに関するサービスの提供
設立昭和49年(1974年)3月22日

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

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