JTが実践する、個に応じた次世代リーダー成長支援
候補者に寄り添う選抜プログラム「NLP」とは
新島 優一さん(日本たばこ産業株式会社 人事部 課長代理)
佐々木 美穂さん(日本たばこ産業株式会社 人事部 課長代理)

企業の持続的成長をけん引する次世代リーダーの育成は、多くの人事担当者が直面する最重要課題の一つです。日本たばこ産業株式会社(JT)は、将来の経営陣を輩出することを目的に、2013年から次世代リーダー選抜プログラム「JT-Next Leaders Program(NLP)」を運用しています。一人ひとりの個性や成長課題を踏まえたタフアサインメントを通じ、経営人財候補の視座をいかに引き上げるか。同社人事部の新島優一さんと佐々木美穂さんに、制度の全容や直面する課題など、NLPの現在地を聞きました。

- 新島 優一さん
- 日本たばこ産業株式会社 人事部 課長代理
にいじま・ゆういち/2010年、日本たばこ産業株式会社入社。たばこ事業のセールスを経験後、事業企画室にて新卒採用業務を担当。その後、人事部に異動し、人事異動や制度運用などの業務に携わる。現在はタレントマネジメント領域を担当し、次世代リーダーの選抜・育成に取り組んでいる。

- 佐々木 美穂さん
- 日本たばこ産業株式会社 人事部 課長代理
ささき・みほ/2017年、日本たばこ産業株式会社へ転職し入社。入社後はたばこ事業のセールス・営業企画等を経て人事部へ異動。全社研修やマネジメント層の育成施策等を担当。現在はタレントマネジメント領域に携わり、NLPやエグゼクティブ層を含む次世代リーダーの育成を中心に取り組んでいる。
入れ替え制の選抜、主体性を重んじる手挙げの文化
次世代の経営を担うリーダー育成に向けた「JT-Next Leaders Program(NLP)」の概要をお聞かせください。
佐々木:NLPは、若手・中堅社員の中から将来の経営を担うポテンシャルを持った次世代リーダーを選抜・育成するプログラムです。「グローバルに活躍し得る40代前半の執行役員候補」および「新規事業をけん引する事業部門長候補」を継続的に輩出することを目的としています。
本プログラムの設置の背景には、グローバル経済環境の激しい変化や法規制の高度化・複雑化に代表される、いわゆる”VUCA”の時代があります。環境が変化してもJTグループが持続的な成長を実現していくため、経営層の強いコミットメントのもと2013年に開始しました。JTでは以前から、早期選抜や階層別育成、早期昇格などを通じた次世代リーダー育成を、形を変えながら継続してきましたが、従来の育成施策をあらためて進化させたのが現在のNLPです。
新島:NLPは「ジュニア」「ミドル」「シニア」の3階層に分かれており、それぞれ年齢やグレードといった要件を満たせば誰でも応募できます。ジュニア層は30歳以下、ミドル層は35歳以下、シニア層は40歳以下が対象で、シニア層はすでにマネジメント職に就いていることも要件の一つとなっています。制度の主軸はJT本体に置きながら、グループ全体での将来的な経営人財の育成を見据え、JTグループ各社の社員も応募対象としています。
また、各階層に求められる役割を設定しており、階層が上がるにつれて、担う役割の難易度や影響範囲、対象となる組織は段階的に広がっていく設計となっています。
ジュニア層では、担当業務で着実に成果を上げることに加え、周囲を巻き込みながら組織全体のパフォーマンス向上に貢献できるリーダーシップの獲得を目指します。ミドル層には、中長期的な視点で事業や組織の課題を捉え、解決に向けた道筋を描きつつ組織全体をけん引していくリーダーとしての視座と推進力を期待しています。そしてシニア層には、JTグループ全体の企業価値向上を見据え、全社的な経営課題に向き合いながら、グループレベルで取り組みを主導し、実行に移していくリーダーシップを担うことを求めています。
NLPに認定されると、いずれの階層においても5年間、成長段階に応じたさまざまな支援を受けることができます。一方で、次の階層へ進むためには、あらためて選考を受け、基準を満たす必要があります。そのため、ジュニア層の認定期間を終えても、次のミドル層に認定されないケースがある一方、これまでジュニアやミドルといった階層を経験していなかった社員が、その時点での経験や発揮している能力、将来の成長可能性を評価された結果としてシニア層の選抜に合格し、認定を受けるケースもあります。
継続して成長を遂げて上の層にステップアップしていくことが理想ですが、これまでの認定歴に縛られることなく、その時点での実力とポテンシャルをフラットに評価する柔軟な仕組みです。

次世代の経営を担う人財を見極めるため、どのような評価基準を設けているのでしょうか。具体的な選考のステップについてもお聞かせください。
新島:ベースとなる評価軸は「考える力」「実行する力」「人を巻き込む力」の三つです。候補者がこれら三つの力をどの程度備えているか、あるいは今後の成長ポテンシャルがどれくらいあるのかを重点的に見極めて選抜しています。
具体的な選考ステップは、毎年同じ形式に固定しているわけではなく、時代や状況に応じて柔軟に設計しています。おおむね、ジュニアおよびミドルではWebテストと複数回の面接を通じて選考を行い、候補者の思考力や行動特性、将来の成長可能性を多面的に見極めています。一方、シニア層では複数回にわたる面接を実施し、最終段階には社長をはじめとする経営層も加わるなど、より慎重なプロセスで合否を判断しています。
選考プロセスには外部の目線も積極的に取り入れています。当社の面接官と外部専門機関の面接官がペアとなり、多角的な視点から評価を行います。外部の視点を取り入れることで、社内だけでは得られない気づきや示唆を加え、将来の競争環境を見据えた人財選抜につなげています。
毎年、各層でどのくらいの人数を選抜されていますか。また、応募状況はいかがでしょうか。
新島: 各階層とも、認定される人数は限られており、決して容易ではありません。年によっては、認定者ゼロとなる階層が発生したこともありました。
一方で、NLPは条件を満たしていれば、何度でも挑戦できる仕組みとしています。一度選考に通らなかった場合でも、その後の経験や成長を踏まえ、翌年以降に改めて挑戦する社員も少なくありません。こうした挑戦の積み重ね自体を、成長プロセスの一部として位置づけています。
経営層や人事部が次世代リーダー候補を指名する方式をとる企業も少なくありません。手挙げを徹底している背景をお聞かせください。
佐々木:NLPで手挙げ方式を採用している理由は、「次世代リーダーを目指す」という本人の強い意志と主体性を重んじているからです。
上司が「応募してみてはどうか」と背中を押すケースもあると考えられますが、人事部から個別に受験を促すよう働きかけることはありません。「自らのキャリアを自ら切り開く」という気概を持つ人財こそが、厳しいプログラムを乗り越え、将来の経営を担うにふさわしいと考えています。当社には手挙げの文化が根付いており、社員もごく自然なものとして受け入れています。NLPはあくまで「将来の経営を担うポテンシャルを持った次世代リーダーを育成する」プログラムなので、NLPに認定されないと昇格・任用されないということではありません。
人事部が主導するタフアサインメント
NLPの認定を受けた社員に対して、具体的にどのような成長支援を行っているのでしょうか。
佐々木:成長支援の根幹は、コンフォートゾーンを突破させるタフアサインメントです。これまで経験したことのない業務領域や、より難易度の高い役割に挑戦する機会を設け、本人の成長を促すストレッチ経験を提供しています。
例えばミドル層以上では、海外赴任や早期のマネジメント職への登用などを積極的に行っています。ジュニア層は、本人のキャリア志向や上司から見た育成状況などを踏まえ、それぞれの成長段階に応じて視野が高まり、広がるようなアサインメントを志向しています。
タフアサインメントと並行して、知識やスキルを補完するための各種研修プログラムも整備しています。経営の基礎となる会計ファイナンス研修を、主にジュニア層・ミドル層を対象に実施しています。また、個人のレベルに合わせてパーソナライズされた英語学習プログラムや、外部の専門家によるコーチング支援も取り入れています。

認定者のキャリア志向や適性をどのように把握し、具体的な配置へと結びつけているのでしょうか。
佐々木:NLPは対象者全員に対して一律の成長パスを用意しているわけではありません。一人ひとりの経験や強み、今後のキャリア志向は大きく異なるため、個別最適な成長支援の設計が不可欠です。そのため、人事部が主体となり、半年に一度の定期面談を通じて、本人が描くキャリアプランや現在直面している課題、将来どのような領域で貢献したいかといった意向をすり合わせています。また、認定者の直属の上司とも面談し、認定者の強みや成長課題を客観的に把握するよう努めています。
本人の意向や周囲の声、会社からの期待を総合的に判断し、どのような経験を積ませるべきか、どの部署でのアサインメントが最も成長につながるかを、経営層も巻き込みながら、人事部で検討します。本人の意向を最大限に尊重する姿勢は持ちつつ、将来の経営層として不足している経験があれば、本人の希望とは異なる厳しい環境に配置するという決断を下すこともあります。一人ひとりと丁寧に向き合いながら、より良いキャリア設計を支援できるよう、試行錯誤を重ねています。
新島:NLPの認定期間中、認定者のキャリアパスは原則として人事部が責任を持って預かります。実際の異動や配置にあたっては現在の所属部門や受け入れ先の部門と綿密な調整と協議を行いますが、将来の経営人財を育成するという全社的な観点から、人事部が長期的な視野に立ってアサインメントを計画しています。この仕組みにより、部門の垣根を越えた大胆な異動や、本人の成長に不可欠な経験を意図的に積ませることが可能となるのです。
現場と人事部とのコミュニケーションが不可欠
人事部がキャリアを主導することで、受け入れ先の現場部門と摩擦が生じることはないのでしょうか。
佐々木:認定者を受け入れる組織にとって、未経験者を一から指導して育成することは、少なからず負担となるでしょう。また、NLPの認定期間中は数年単位で異動を繰り返すことが多いため、「すぐに別の部署へ異動してしまうのだろう」と、長期的なコミットメントを懸念する声があったことも事実です。
こうした現場の懸念を払拭し、協力を得るためには、人事部が丁寧なコミュニケーションを継続するしか道はありません。受け入れ先の組織長に対しては、NLPという制度の目的や、なぜその部門に配置するのか、どのような成長を期待しているのかを事前にしっかりと説明し、理解を求めます。
認定者の着任時には、本人と上司、人事部の三者で面談を行い、期待と役割についてすり合わせます。組織全体で成長を支援する体制づくりに努めているのです。簡単な作業ではありませんが、各部門がNLPの目的に共感し、重要なプロジェクトを任せて認定者を鍛えようとしてくれています。
NLPの認定者は社内に公開されているとうかがいました。選抜された人財をクローズドに育成する企業もある中で、あえて社内に公開している狙いはどこにあるのでしょうか。
新島:認定者の社内への公開は、透明性の確保と本人のコミットメントの強化、そして周囲の支援を引き出すという三つの狙いがあります。
どのような人財が次世代リーダー候補として選抜されているのかをオープンにすることで、選考プロセスの公平性や納得感を高めることができます。また、認定者本人に対しては、選抜されたという自覚と責任感を促し、より高い次元での成長に向けた自己研さんを期待しています。認定者がタフアサインメントに挑戦中だと周知することで、周囲の社員からの指導やサポートを得やすくなるという利点もあると考えています。
一方、社内公開に伴う副作用として、プレッシャーを感じる認定者がいることも事実です。特にジュニア層の若手社員は、「周囲から『NLPに選ばれたのだから、これくらいの成果は出せるだろう』と思われている」という重荷やストレスにつながることが懸念されます。しかし、経営を担う立場になれば、常に厳しい目線にさらされ、重圧の中で結果を出し続けることが求められます。周囲からのプレッシャーを跳ねのけ、期待を上回る成果で応える経験自体が、将来に向けた重要なタフアサインメントの一つだと捉えています。

選抜から漏れた社員や、そもそも応募しない社員に対しては、どのようなキャリア支援策を展開されているのでしょうか。
佐々木:全社員を対象としたキャリア・成長支援の取り組みにも力を入れています。例えば、JTでは全社ラーニングプログラム「LIGHT UP」を展開しており、選択型研修や集合研修、eラーニングなどを通じて、社員一人ひとりが学び、挑戦する機会を提供しています。
また、年に1回のキャリア面談や、他組織の業務に挑戦できる社内インターンシップといった、自らのキャリアプランをブラッシュアップする機会も整えています。キャリアプランの実現に向けては、希望する組織に異動を応募できる「キャリアチャレンジ」、具体的な業務内容や職位が明示されたポジションに応募可能な「Job Matching/Job Posting」といった制度もあります。これらの制度は、全社員が自律的にキャリアを構築するための基盤として機能しています。
試行錯誤しアップデートし続ける
NLPは長年にわたり運用され、確かな実績を積み重ねてきた制度ですが、現在直面している課題はありますか。また、今後のアップデートに向けた展望をお聞かせください。
佐々木:NLPを継続的に運用する中で、制度の目的と、応募にあたっての動機との間に、ギャップが生まれてきていると感じる場面がありました。例えば海外経験や役割拡大、昇格といった成長機会に魅力を感じて応募してくれる方が増えている一方で、「将来、経営を担う存在になる」というプログラム本来の目的が、十分に意識されにくくなっているケースも見受けられます。
成長のきっかけとして制度を活用すること自体は、決して否定されるものではありません。ただ、私たちがNLPを通じて目指しているのは、単一の経験やポジションではなく、JTグループという企業全体を俯瞰し、長期的な視点で意思決定を行える経営人財を育てていくことです。その意味で、プログラムの狙いや価値を改めて共有し、経営人財としてのマインドセットをいかに育んでいくかは、継続的なテーマだと考えています。
今後は、経営陣との対話や接点の機会をこれまで以上に意図的に設けていくなど、認定者がトップマネジメントの視座や判断軸に触れる場を増やしていきたいと考えています。実際の経営の意思決定に触れることで、「将来の経営を担う」という役割をより自分事として捉え、次の成長につなげてもらえるような仕組みへと進化させていきたいですね。
新島:経営に求められる変化にも対応しなくてはなりません。
例えば、グローバルで戦える人財要件の再定義です。語学力の向上だけでなく、異なる文化や価値観を持つ現地法人のメンバーと対等に渡り合い、タフな交渉をまとめ上げる力。いかなる環境下でもリーダーシップを発揮し、事業を推進する力。そうしたグローバルな突破力を持つ人財をどう見いだし、鍛え上げるかについても議論を進めています。
最後に、次世代リーダーの育成や選抜制度の設計に日々奮闘している全国の人事担当者に向けて、メッセージをお願いいたします。
新島:NLPの運用を続けてきて痛感しているのは、次世代リーダーの育成という領域に「絶対的な正解」は存在しない、ということです。社会情勢や事業環境が目まぐるしく変化する中で、求められるリーダー像も常に変化を続けます。完璧な制度を一度作って終わりではなく、常に目の前の課題と誠実に向き合い、思考錯誤を繰り返しながらアップデートを続けていかなければなりません。
佐々木:重要なのは、結果を急がないこと。「今年は選抜合格者が多かった」といった短期的な成果に目を向けがちですが、経営人財の育成には長期的な視点が必要です。現場との摩擦が生じたり、期待した成長曲線を描けなかったりといった困難に直面することも多々あります。それでも会社全体で強い覚悟を持ち、社員を信じて投資を続けるしかありません。
当社のNLPも、まだまだ数多くの課題を抱える発展途上の段階にあります。同じ志を持つ全国の人事担当者の皆さまと知見を共有しながら、これからも自社の未来をけん引する人財の育成に向けて挑戦を続けていきたいです。

(取材:2026年4月6日)
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