<特別企画>人事オピニオンリーダー座談会
人事が変われば、会社も変わる。
人生100年時代に求められる「チェンジドライバー」としての人事とは
「自分で意思決定をして責任を取る」人材を育てたいなら
人事の意識転換も必要
八木:そう考えると、人事がいちばん大切にするべきスタンスは「邪魔をしない」ということではないでしょうか。日本の人事では「自律してキャリアを積みたい」「社長になりたい」と考える人を徹底的に邪魔しているケースもある。「28歳での課長昇進は前例がないからできない」とか「慣例として同じポジションでの滞留年数は3年必要」とか。
有沢:結局、仕組みが邪魔をしている、ということですよね。これまでのキャリア開発といえば上から与えられるもので、それはつまり、会社が勝手に決めたものでした。しかし本来、キャリア開発の手段とは自分で決めるべきもののはず。人事は会社の資産をフレキシブルに使えるように環境整備を進めて、社員に自律してもらうように促すことが必要だと思います。
八木:キャリアを決めるのはあくまでも本人とは言え、誰かが説得したり示唆したりする必要もあるでしょう。「ずっと営業をやりたいと言っているけど、将来を考えて別の仕事もやってみたら?」といったように。上司であれ人事であれ、一定の経験を積んでいる先輩が気づきを与えてあげることは大切だと思います。
有沢:確かにそうですね。これまでのように「見えざる神の手」が決めていたような状況はよくないと思いますが、一定の示唆や助言は必要です。
八木:自分自身のキャリアに責任を持ってもらう、ということだと思います。何が正しいかが分からない世界にどんどん入っていくわけですから、「自分が意思決定をして責任を取る」という人材を育てなければいけません。
藤間:日本的な人材育成を続けていると、「責任を取る」ことに苦手意識を持つ人ばかりが増えるような気もしますね。しかしそれでは、会社の指示を待つ人ばかりになってしまう。
八木:私がかつて勤めていた会社は規律を大切にしていて、上から何か言われれば「イエス・サー」と答えるのが当たり前でした。しかし考えてみると、初めからそんな人材ばかりを採用しているわけではないんです。ところが入社して2〜3年が経つと、いかにも「その会社っぽい人材」ばかりになってしまう。2年もあれば、人間は影響を受けて変わってしまうんですね。
藤間:日本では「部下の育成はマネジャーの仕事だ」とずっと言ってきましたが、当社では欧米式のマネジメントに変わっていく中で、「キャリアプランは自分自身で作る。上司はそれをサポートする」というスタンスが明確になってきています。そんな意識転換も必要でしょうね。
どこでも仕事ができ、企業に帰属する意味が見えづらい時代
若者に選んでもらえる会社を作るには
これからの時代は、「働き方」も大きく変化しそうですね。
有賀:現在は、会社が社員に「より多様になっていてほしい」と望み、個人も多様な価値観を持つようになっている時代ですよね。そんな集団の中で幸せに働き、主体的にキャリア開発を進めていける人材を増やすには、よりフレキシブルな働き方を実現することが不可欠だと思います。
谷本:そうですね。生きている時間が長くなることで変わることがあるとすれば、世の中の変化に伴ってオペレーションなどの仕事がなくなっていくことだと思います。そんな環境変化に自分を適応させていくには、フレキシブルな働き方を通じて、何かしらの専門性を持たなければいけないでしょう。自分の人生のテーマを考え、追求していけば、いろいろな会社に行ったり、副業や兼業をしたりして専門性を開花させることもできるのではないでしょうか。忙しい日々に溺れて目の前のことしかできなくなると、どうしても視野が狭まり、時代に立ち遅れてしまいます。外の世界に触れることで刺激を受け、時代の変化を感じられる。社員にはそんな観点から副業・兼業のメリットを話しています。
杉原:楽天は、「時代がどのように変化しても、みんなが集って楽しく働く場所でありたい」というコンセンサスのもとに活動しています。働き方が多様化していくのは当然の流れですが、その中でも我々としては「個人を軸として多様化していく」ことを実現したいと考えています。そうしなければ、インターネットサービス事業の会社に人が根付かなくなってしまうのではないか、という懸念もあるんです。今は個人で、資金がなくても成功できる時代ですから。こうした観点からも副業・兼業や在宅ワークなどへアプローチしています。
谷本:100年キャリアは、数社を渡り歩くことが前提ですよね。GEでも、若者にとって選択肢がたくさんある中で「それでもGEで働きたい」と思ってもらえるようなデザインを人事が考えなければいけないと考えています。たとえば、選抜方式で有名なクロトンビルの研修も、昨年から自主的に受講できるメニューやリモート研修を始めました。意欲高い社員が必要なときに必要なスキルを得られる。こうした体験の向上が人をひきつけるカルチャーになれば、と。
落合:アメリカでは現在、約40パーセントのワーカーが企業に帰属せずに働いていますね。インディペンデントワーカーやフリーランスとして活躍する人が増え続けている。この流れは今後の日本でも加速していくでしょう。一方で、本当にクリエイティブな価値を発揮する人の80パーセント以上が「人と人との、強いつながり」を求めている、というデータもあります。これを人事としてどう解決していくのか。どこでも仕事ができる時代には、あえて会社に帰属する意味が見えづらくなります。そんな中でも機能する有機体をどう作っていくかが、大きなテーマだと思います。
杉原:方向性の一つとして、「場所が引力を持つ」ようにしつらえていくべきだと考えています。日頃はネット上でバーチャルな活動をしているがゆえに、集まって共創できる場を求めている人も多い。楽天ではサンフランシスコ空港の南側、101と92がクロスするサンマテオのエリアに2棟のオフィスビルを購入し、シリコンバレーに足掛かりを作りたいと考えている多くのベンチャー企業に対してオープンにする、クリエイティブワークプレイスを新たに作りました。
有沢:「場所が引力を持つ」というのはまさにその通りで、人を引きつける場所には、人が育つ空気が充満しています。どうすれば人が集まる場を作ることができるのかを考えることが重要です。
八木:そういえばグーグルでは、さまざまな形でリモートワークを実践してきた結果として「会社に出社して働こう」と言い始めていますよね。実際に脳科学では、人間は五感を刺激し合ったほうがクリエイティビティを発揮できる、という研究結果もあります。画面越しではなく、会って話をするほうが共感性は生まれると。その観点からすると、リアルの場をいかに構築し生かしていくのか、というテーマも重要ですね。