有賀 誠のHRシャウト! 人事部長は“Rock & Roll”【第48回】
人事ケーススタディ(その5)
すべては社員の幸せのために!
株式会社日本M&Aセンターホールディングス CHRO/株式会社日本M&Aセンター 取締役 常務執行役員 人材本部長 人材ファースト管掌
有賀 誠さん
人事部長の悩みは尽きません。経営陣からの無理難題、多様化する労務トラブル、バラバラに進んでしまったグループの人事制度……。障壁(Rock)にぶち当たり、揺さぶられる(Roll)日々を生きているのです。しかし、人事部長が悩んでいるようでは、人事部さらには会社全体が元気をなくしてしまいます。常に明るく元気に突き進んでいくにはどうすればいいのか? さまざまな企業で人事の要職を務めてきた有賀誠氏が、日本の人事部長に立ちはだかる悩みを克服し、前進していくためのヒントを投げかけます。
みんなで前を向いて進もう! 人事部長の毎日はRock & Roll だぜ!――有賀 誠
今年度初頭、日本M&Aセンター社長の三宅が掲げた年間計画の筆頭項目は、お客さまでも売上でも利益でも戦略でもなく、「楽しい会社にする!」でした。2年前に不祥事を起こしてしまい、そこからの反省と再起の中、ようやく明るい光が見えてきたということもあります。
社員の士気高揚のためにいろいろなイベントが企画され、100の課外活動も立ち上げました。「フットサル部」「駅伝部」「筋トレ部」などの運動系、県人会や同窓会などのネットワーキング系、「ワイン部」などのパーティー系、その他にも「ヨガ部」「サウナ部」「脱出ゲーム部」など、多数の活動が行われています。役員も皆、複数の活動に参加しており、私も「軽音楽部」と「アメリカン・フットボール部(観るだけですが)」に、積極的に参加しています。
ほかにも、成績優秀者をご家族・パートナーとともにホテルへ招待して表彰したり、社員の配偶者の誕生日に社長名でプレゼントを贈ったり……日本M&Aセンターはこのように楽しく、また、社員の幸せを願う会社なのです。
社員の幸せを考えるための3KM
これまでもお伝えしてきたとおり、M&A仲介は日本M&Aセンターが創出したビジネス・モデルです。そのため、社外に即戦力は存在せず、潜在能力の高い(しかし、M&Aについては素人である)人材を採用し、愛情を注いで鍛え育てることによってのみ、ビジネスを成長させてきました。
私たちは工場も設備も商品も持たず、財産と呼べるものは人材とノウハウしかありません。それゆえ、社員を非常に大切にしています。根底にある思想は、社員がキャリア面だけではなく、人生全般においてハッピーでなければ、日本M&Aセンターという企業組織の長期的な成功は実現しない、というものです。
日本M&Aセンターでは、「ワークライフバランス」という概念をよしとしていません。人生における複数の大切な構成要素を、トレードオフの関係にすべきではないと考えているからです。特に、会社・家庭・個人の三つは重要です。「会社(Kaisha)」「 家庭(Katei)」「 個人(Kojin)」のビジョンを明確化し、それら「すべてを達成して実りある人生を送る(Management)」ことを、日本M&Aセンターでは「3KM」と呼んでいます。3KMは単なる掛け声ではなく、経営思想・組織文化の根幹になっています。
ライフ断面図とキャリア・プラン
下記の「ライフ断面図」は、現時点における私の関心事や優先事項をイメージしたものです。「家族」はもちろん大事ですし、「ワーク」の締める面積も小さくはありません。他にも、趣味嗜好を含め、大切なものが多数存在します。
ただし、これはあくまでも現時点での各要素の共存状態であり、時間軸とともにその内容も優先度も変化していくはずです。その推移をイメージしたものが「ライフ・プラン」です。その中では、いろいろなライフ・イベント(留学、結婚、出産、育児、転職、企業、介護など)を意識しなければなりません。
そしてそこから「ワーク」だけを取り出してつないだものが「キャリア・プラン」です。当然のことですが、キャリアのステップは、その他のライフ・イベントから影響を受けます。時間やリソースは有限だからです。従って、「キャリア・プラン」を単独で考えることは現実性を欠くでしょう。それは、あくまでも「ライフ・プラン」の一部なのですから。
3KMとライフ・プラン
3KMの思想は日本M&Aセンターに昔から存在したのですが、昨今の価値観の多様性を反映し、最近では「家庭/個人/会社」を「プライベート/セルフ/キャリア」と拡大解釈することもあります。「家庭を持つかどうか」「会社組織で働くかどうか」はそれぞれの自由であり、尊重すべき個の価値観であるからです。
大事なことは、「プライベート/セルフ/キャリア」の三つの軸を、ばらばらではなく、同時に考えることです。育児や介護のニーズ、留学や趣味といったウォント、そしてビジネス・キャリアにおける計画、それらすべてを24時間×365日の中にうまく収める必要があるからです。
3KMを考える中では、まず「何年後にこうなっていたい」という個人の夢(ビジョン)を妄想します。そして、そこから逆引きする形で、「いつまでにこれを実現しよう」というステップを、時間軸とともに考えます。それは、ここまでに述べてきた3KMとライフ・プラン(キャリア・プランを含む)の両者を掛け合わせて考えてみるということでもあります。
家や車の購入、そのための資金計画も、忘れてはならない現実的な要素となりえるでしょう。以下は、ここに例示するために簡素化した3KM 統合の図です。
日本M&Aセンターでは、上司と部下の面談の中で、3KMすべてに触れることになっています。単に業務や目標設定の議論ではなく、「人として最高に幸せになるためには」という視点が大事だからです。個人として、また家庭でも幸せな社員があってこそ、会社としての長期的な成長が可能になります。もちろん、その逆も真です。つまり三つのK は、同時に、かつ総合的に追及すべきものだと言えるでしょう。
有賀誠の“Rock & Roll”な一言
仕事も家族も遊びもBe Happy!
3KMすべてを同時に追求してみようぜ!
- 有賀 誠
- 株式会社日本M&Aセンターホールディングス CHRO/株式会社日本M&Aセンター 取締役 常務執行役員 人材本部長 人材ファースト管掌
(ありが・まこと)81年 日本鋼管入社。97年 日本GM入社。部品部門デルファイの取締役副社長兼AP人事本部長。03年 三菱自動車常務執行役員人事本部長。ユニクロ執行役員を経て06年 エディー・バウアー・ジャパン代表取締役社長。その後、日本IBM理事、日本HP取締役人事統括本部長、ミスミ統括執行役員人材開発センター長。23年4月より現職。ミシガン大学MBA。
HR領域のオピニオンリーダーによる金言・名言。人事部に立ちはだかる悩みや課題を克服し、前進していくためのヒントを投げかけます。