有賀 誠のHRシャウト!人事部長は“Rock & Roll”【第24回】
キャリアについての考察(その3)
株式会社日本M&Aセンター 常務執行役員 人材ファースト統括
有賀 誠さん
人事部長の悩みは尽きません。経営陣からの無理難題、多様化する労務トラブル、バラバラに進んでしまったグループの人事制度……。障壁(Rock)にぶち当たり、揺さぶられる(Roll)日々を生きているのです。しかし、人事部長が悩んでいるようでは、人事部さらには会社全体が元気をなくしてしまいます。常に明るく元気に突き進んでいくにはどうすればいいのか? さまざまな企業で人事の要職を務めてきた有賀誠氏が、日本の人事部長に立ちはだかる悩みを克服し、前進していくためのヒントを投げかけます。
みんなで前を向いて進もう! 人事部長の毎日はRock & Roll だぜ!――有賀 誠
これまで、キャリアとは「何になりたいか」ではなく、「何をやりたいか」を考え抜くことであり、またそれは人生設計の一部であるべきことを述べてきました。将来像の展望を描き、そこから逆算をして、学ぶべきこと、経験すべきこと、準備すべきことを考察するというステップです。どちらかというと、長期的な視点であったということができるでしょう。しかし、足下を見つめることも忘れてはならないと思うのです。
迷ったら、やる!
先般、前職での部下二人が結婚をしました。そろって明るく元気な性格です。じきに、奥様のお腹の中には赤ちゃんがいることもわかりました。じつにおめでたいことです。子供が生まれたら、家族でわが家に遊びに来てくれる約束をしていました。ところが……。
不慮の交通事故でご主人が亡くなってしまいました。彼は、まだ私の子供たちくらいの年齢です。悔しかったことでしょう。やりたいこともたくさんあったはずです。
ご冥福を祈り、残されたご家族にお悔やみをお伝えするとともに、いろいろなことを考えさせられました。「人の生涯シナリオは誰かが書いているものなのか」「人生における幸せは、その長さに比例するとは言えないのではないか」「今のこの瞬間は二度と戻らない。そして次の瞬間に何が起こるかは予想ができない」などです。
そして、最後に思ったのは、「その日その日を懸命に生きよう。一瞬一瞬を大切にしよう」という当たり前のことでした。例えば、「今日できることは今日のうちにやろう!」「やるかどうかを迷ったら、やる!」といった自分としての取り決めです。「欲しいものはすぐに買う」などというフレーズも考えましたが、これについては物欲からくる言い訳かもしれません(笑)。
誰にも、無為に過ごす時間というものはあるでしょう。計画的にリラックスをする時間を作ることは良いことです。ただし、何となくダラダラ過ごしてしまうことはないでしょうか。これは避けるべきだと思います。
ダラダラ防止のため、私は一日にキャッチ・フレーズを付与することを心がけています。例えば、「墓参りの日曜日」「大プレゼン資料を仕上げた月曜日」「10人の面談をした水曜日」「セミナーで語りまくった金曜日」「部屋の掃除をした土曜日」などです。これは私なりの「少なくとも今日はこれをやった(=無為には過ごさなかった)」というものを意識的に作る努力なのです。
「好き」と「得意」
キリスト教の聖書には、「飲み食べよう、明日には死ぬのだから」という言葉が出てきます。また、自己啓発本のオリジンとも称される『成功の掟:若きミリオネア物語』の中で、著者のマーク・フィッシャーは以下のように述べています。
幸福になるための秘訣は、その日その日を、人生最後の日だと思って生きること。そして、限られた時間の中で自分がすべきだと思うこと、したいと思うことを毎日精一杯やること。生きる時間が限られているということは、根本的には事実なのだから。しかしわれわれは、人生が残り少なくなってからでないとそのことに気づかない。そしてそのときはすでに遅い。そうなるまで待っていてはならない。ただちに行動にうつす勇気を持つべき。いつもこう思いながら暮らすこと。「勇気がないために、自分のしたいこともできずに死ぬのはいやだ。
時々、「やりたいことがない」という発言を耳にします。私のような年齢の人間が、いろいろと経験をした後にそれを言うのであれば、まだわからなくもありません。しかし、あらゆる可能性と時間を有している若い人の口からそのような台詞が出た際には、とても残念に思います。あるいは、無限と感じられる時間があるからこそ、「やりたいことがない」と言えるのかもしれません。人生の残り時間が限られていると感じているときの方が、計画性と行動力が高まるのでしょうから。
以下は、「やりたいことがない」と感じてしまった人への一つのヒントです。ご自身が「好きなこと」と「得意なこと」は何でしょう? この二つは別物ではありますが、重なり合う部分もあるのではないでしょうか。「好き」かつ「得意」な分野で努力をすれば、成功する確率は高くなります。そして、周囲の人から見れば、「あの人はやりたいことをやっている(=元気、はつらつ、成功、幸福、笑顔……)」と映ることでしょう。
基本的に私はやりたいことをすべてやって生きてきました。もちろん、すべてにおいて成功したわけではありません。むしろ、失敗の方が多かったかもしれません。社長業を経験しましたが、大失敗でした。長年の夢であった海辺の別宅を購入し、ライブ・ハウスのオーナーになることもできましたが、そのために多額の借金が残っています。ただ、死ぬときに「あれをやり残した!」と感じることはないと思えるのです。自分の能力の限りにおいて、すべてにチャレンジはした、と。
有賀誠の“Rock & Roll”な一言
今日一日を、目いっぱい生きようぜ!
天国に召されるその時に、悔いを残さぬように
- 有賀 誠
- 株式会社日本M&Aセンター 常務執行役員 人材ファースト統括
(ありが・まこと)1981年、日本鋼管(現JFE)入社。製鉄所生産管理、米国事業、本社経営企画管理などに携わる。1997年、日本ゼネラル・モーターズに人事部マネージャーとして入社。部品部門であったデルファイの日本法人を立ち上げ、その後、日本デルファイ取締役副社長兼デルファイ/アジア・パシフィック人事本部長。2003年、ダイムラークライスラー傘下の三菱自動車にて常務執行役員人事本部長。グローバル人事制度の構築および次世代リーダー育成プログラムを手がける。2005年、ユニクロ執行役員(生産およびデザイン担当)を経て、2006年、エディー・バウアー・ジャパン代表取締役社長に就任。その後、人事分野の業務に戻ることを決意し、2009年より日本IBM人事部門理事、2010年より日本ヒューレット・パッカード取締役執行役員人事統括本部長、2016年よりミスミグループ本社統括執行役員人材開発センター長。会社の急成長の裏で遅れていた組織作り、特に社員の健康管理・勤怠管理体制を構築。2018年度には国内800人、グローバル3000人規模の採用を実現した。2019年、ライブハウスを経営する株式会社Doppoの会長に就任。2020年4月から現職。1981年、北海道大学法学部卒。1993年、ミシガン大学経営大学院(MBA)卒。
HR領域のオピニオンリーダーによる金言・名言。人事部に立ちはだかる悩みや課題を克服し、前進していくためのヒントを投げかけます。