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【人事労務管理の視点から見る】
ネット上の誹謗中傷対策

事例2. 就業時間中の私的メール等への対応について 

就業時間中、会社が貸与したPCを使い、従業員間で会社や上司、同僚等を誹謗中傷するようなメールをしていたことが発覚した場合、例えば「●●上司と●●が不倫している」、「平成ちゃん、あいつ馬鹿だから何言っても無駄」、「1階の●●、イライラが止まらない早く辞めてくれないかな」等のやりとりが発覚した場合、会社としてはどういった対処をすればよいでしょうか。

上記のようなやりとりが社内の人物により行われている場合、企業秩序は保たれず、職場内でのいじめや円滑に仕事が回らなくなる等、悪影響を及ぼすおそれがあります。

かかる事態に陥らないように、会社として従業員に対して、事前あるいは事後的にどのような労務管理上の注意が必要でしょうか。

1. 就業時間中の私的メールについての考え方

就業時間中は従業員には、当然に職務専念義務がありますので、上記やりとりは業務とは無関係であって、当該義務違反となる可能性があります。もっとも、就業時間中であっても、世間話や噂話等、業務と直接関係のない話をすること自体は一般的に行われていることであり、業務上の円滑な人間関係の形成、維持に資する側面も否定できません。かかる点について、裁判例では、「就業規則等に特段の定めがない限り、職務遂行の支障とならず、使用者に過度の経済的負担をかけないなど社会通念上相当と認められる限度で使用者のパソコン等を利用して私用メールを送受信しても、上記職務専念義務に違反するものではないと考えられる」(東京地判平成15.9.22、グレイワールドワイド事件)としており、職務専念義務違反と言えるためには、就業規則に特段の定めがない場合、私的メールが職務に支障をきたしているか、社会通念上許容される範囲を超える程度であるかを慎重に検討する必要があります。

2. 監視(モニタリング)の可否について

次に、会社のメールアドレスを使っていることが伺われる場合に、会社が勝手にメールを見ることができるでしょうか。従業員は会社の指揮命令に従って誠実に労務を提供する義務があり、私的利用されている場合には、この義務に反することになり得ますので、かかる義務違反がないかを会社が調査することも原則的には可能と考えられます。

監視(モニタリング)の可否について

もっとも、日常生活を営むうえで必要な外部との連絡先を会社にすることは許容されるのが通常であり、一切の私的利用は禁止されるかというとそうではありません。そのため、常に監視対象に置いたり、業務上必要もないのにいたずらに調査を行ったりすることはプライバシーを侵害する可能性があります。かかる点について、裁判例では「職務上従業員の電子メールの私的使用を監視するような責任ある立場にない者が監視した場合、あるいは責任ある立場にある者でも、これを監視する職務上の合理的必要性が全くないのに専ら個人的な好奇心等から監視した場合あるいは社内の管理部署その他の社内の第三者に対して監視の事実を秘匿したまま個人の恣意に基づく手段方法により監視した場合など、監視の目的、手段及びその態様等を総合考慮し、監視される側に生じた不利益とを比較衡量の上、社会通念上相当な範囲を逸脱した監視がなされた場合に限り、プライバシー権の侵害となるのが相当である」(東京地判平成13.12.3、F社Z事業部(電子メール)事件)としています。

3. 就業規則への記載

以上からすると、就業時間中の私的メール等への事前・事後の対策として、会社が貸与したPC等の情報機器の不正利用について、就業規則で服務規律違反であることや懲戒事由に該当することを明記するとともに、かかる事態が合理的に疑われる場合には、会社がモニタリングをすることができること、また協力の要請があればこれに応じなければならない旨の規定をおき、従業員にかかる内容を周知し、運用していくことが必要です。

【規定例(服務規律)】

(情報機器の私用禁止・閲覧・監視(モニタリング))

第●条 従業員は、会社が貸与したPC、携帯電話等の情報機器(以下、単に「情報機器」という)を業務遂行に必要な範囲で使用するものとし、私的ないし業務外の目的で利用(以下、「不正利用」という)してはならない。

2 会社は、不正利用が合理的に疑われる場合に、前項の遵守状況を確認するため、従業員の情報機器に蓄積されたデータ等を閲覧・監視(以下、「モニタリング」という)することができる。

3 従業員は、前項のモニタリングについて、協力しなければならない。

4. 懲戒処分について

懲戒処分の量刑を決めるにあたっては、上司等の批判自体が直ちに会社の秩序を乱すような非違行為となるわけではないという点について注意が必要です。また、内容や頻度等にもよりますが、従前、注意指導を何もしていなかったのに急に重い懲戒処分を行うことは相当性を欠く可能性があります。そのため、まずは懲戒処分の一歩手前として書面で厳重注意を行う、あるいは軽めの懲戒処分(けん責等)を行うことが無難だと思われます。その後も繰り返し私的メールを行うような場合には少しずつ処分を重くしていくことになります。

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