パートの時給、3割は最低賃金?
岸川 宏(きしかわ ひろし)
パートタイマー白書や学生を対象にした就職活動に関する意識調査など、当研究所が独自で行っている調査から見えてくることを考察します。
『販売スタッフ募集! 時給869円~』
『急募!清掃員 時給868円』
『コンビニスタッフ募集!時給819円 夜10時からは1024円!』
最近、募集時の時給がやけに中途半端な求人広告が目につくと思ったことはありませんか?実はこの時給額、それぞれ869円→東京都、868円→神奈川県、819円→大阪府の最低賃金額(平成25年度)なのです。
株式会社アイデム発行の『しごと情報アイデム』の紙面調査によると、平成26年現在、東京、大阪、神奈川など、大都市をもつ都府県では、パート・アルバイト募集時における時給の約2~3割が最低賃金額とほぼ同額となっているのです。大阪府、神奈川県においては、最頻値(最も多く出現する数値)が最低賃金とほぼ同額となっているという,
オドロキの結果です。
およそ10年前、東京、神奈川、大阪の地域別最低賃金はそれぞれ、708円、706円、703円でした。求人広告上、募集時の時給として提示される時給額は、東京も神奈川も、そして大阪も800~809円台が最も多くなっていました。最低賃金とは100円程の開きがあり、募集時の時給を決定するときに、最低賃金を気にされる企業も労働者も、あまり多くはなかったのではないでしょうか。
当時、『時給800円』というバンドもあったくらい、「アルバイトは時給800円」という感覚はポピュラーだったのです。
それが、平成19年の「成長力底上げ戦略推進円卓会議」や翌年の最低賃金法改正により、「生活保護に係る施策との整合性に配慮する」つまり、生活保護との逆転現象を解消することが求められるようになり、平成19年度の改定から大幅に引き上げられることが多くなりました。東京都・神奈川県・大阪府では、今や、平成15年当時とくらべ100円以上、率にして15%以上の上昇となっています。
その結果ここ数年、最低賃金が改定されるたびに、改定額を下回ることになる賃金データの量が20%、30%を超える地域が出てくるようになりました。そのような地域では、最低賃金が改定されるたびに、改定額スレスレで賃金を見直す傾向が強くなります。大阪府を例に見てみましょう。
大阪府最低賃金は、平成25年10月に800円から819円に改定されました。改定前3ヵ月間(平成25年7月~9月)の募集時時給で、最も多い賃金階級は800円~809円台で33%となっています。この33%の賃金データは改定後すべて平成25年度の最低賃金に抵触することとなりますが、一体、いくら位の賃金に再設定されるのでしょうか。
改定後3ヵ月間(平成25年11月~平成26年1月)の募集時時給の分布をみてみると、810円~819円台が8%、820円~829円台が23.5%という結果(23.5%は最多階級)。改定後の募集時賃金の設定は、改定額に合わせ1円単位での調整が図られています。
地域によっては、「アルバイトは時給800円位が普通で、前後50円単位で時給を決めていた」というのは過去の話で、10円、1円単位で賃金設定をせざるを得ない、厳しい状況にあるようです。
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●文/岸川 宏(きしかわ ひろし)
2007年、株式会社アイデム入社。求人広告の営業職として、人事・採用担当者に採用活動の提案を行う。2008年、同社人と仕事研究所に異動し、毎年パートタイマー白書の企画・調査・発行をトータルで手がける。2012年、新卒採用・就職活動に関する調査等のプロジェクトを立ち上げ、年間約15本の調査の企画・進行管理を行う。2015年出産に伴い休職、2016年復職。引き続き、雇用の現状や今後の課題について調査を進める一方、Webサイトの記事・コンテンツ制作、顧客向け販促資料などの編集業務も行っている。
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